異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

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25.国王代理フィオリーノの歪んだ野望(父side)

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 金を握らせ味方につけた宰相――昔フィオリーノの能力を見出し後見となった宰相の息子だ――に、合法的にリラジェンマから王太女の称号を剥奪する方法はないかと相談すれば、『国王宣誓書』の次代者の欄にベリンダ王女の名を書けばいいと助言された。
 これは旧帝国時代から使われている魔法の書で、これがある限りウナグロッサ王国は安泰だし、他の元老院の人間も逆らえないだろうと宰相は言った。
 そんな物の存在を知らなかったフィオリーノは、さっそく『国王宣誓書』を探させたがそれはどこにも見つからなかった。



 いつのまにか月日は経ち、リラジェンマも19歳になってしまった。
 多忙のため本人も忘れているようだが、婚約者との結婚を言い出す前にリラジェンマを薬で弱らせ自ら王位継承権を返上させればいいのでは? と考え始めたころ、隣国グランデヌエベの王太子から書状が届いた。
 交通と流通の要の街は既にグランデヌエベ国の占領下であるとした宣戦布告のその書状には、リラジェンマを寄越すなら矛を収めると書き添えられていた。
 フィオリーノは一も二もなくその書状に乗った。
 目障りではあったが血を分けた我が子を苦しませたかった訳ではない。隣国でどのような目にあうのかは知らないが、ウナグロッサ王国は戦禍から逃れられる。しかもこの国の王位を継ぐ人間はベリンダだけになるのだ。良いことづくめだ。


 リラジェンマを隣国へ送り出し安心したところへ、突然フィオリーノの執務室の机上に『国王宣誓書』が出現した。
 驚愕はしたが、さすが魔法の書だ。
 丁度いいとばかりに愛娘であるベリンダ・ウーナの名を署名しようとした。

 だが、すでにその欄には女王の筆跡でリラジェンマの名が記されていた。

 ならば書き直せばいい。
 だが、リラジェンマ王太女の署名を削除しようとも、それが出来なかった。

 塗りつぶしても、塗りつぶしたインクがいつの間にか消える。
 署名された部分を削り取っても、いつの間にか復活する。
 連名のようにベリンダの名を書いてもあっという間に消えてしまう。そこに残るのは相変わらず「リラジェンマ・ウーナ」という名のみ。
 いっそ、宣誓書ごと燃やしてしまえと火にくべても、いつの間にか執務室の机に移動している。無傷のままで。



「これはいったい、どういうことなのだ⁈」

 怒り心頭に発したフィオリーノは宰相を問い詰めた。彼の家は代々王家に仕えた元老院の重鎮で、フィオリーノも知らない宮廷での歴史に明るかった。

「我が国は建国以来、始祖霊の加護のもと成り立ってきました。その始祖霊が拒否しているのでしょう」

 青い顔をした宰相が答えるが、フィオリーノにとってそんなことを聞いているのではない。

「始祖霊などいない! そんなものは迷信に過ぎんっ!」

「始祖霊は正当な跡継ぎであらせられる王太女リラジェンマ第一王女殿下でないと納得しないのです」

 魔法の書と始祖霊が連動するなど初耳である。
 いったいどういう理屈でこうなるのか。
 先々代の国王に仕えていた者たちなら理屈が解ったかもしれないが、その彼らはとうに職を辞し王宮から去っている。


「国王宣誓書など、始めからなかったものとして次の王太女はベリンダだと告知し、御披露目の宴を催そう!」

 フィオリーノの案に宰相は首を横に振り重々しく答えた。

「陛下……それは精霊たちに祟られますぞ?」

「……なに?」

「私が亡き父から聞いておりますのは『国王宣誓書がある限り国は続く』という話です。リラジェンマ殿下がこの国を離れたとたん出現した国王宣誓書は、私たちに問うているのですよ。正しい後継者を出せと。それが叶わなければ恐らくこの宣誓書は消えるのではないでしょうか。そしてこの国も滅ぶのです……」

 蒼白な顔で語る宰相にはその場でくびを言い渡した。こんな迷信深い男だったとは思わなかった。
 彼はあなたには付き合いきれないと言い残して宮殿を去った。



「最初に定められた王太子以外が王位を継いだ例はないのか?」

 フィオリーノはイライラしながら過去の事例を調べさせた。

「ウナグロッサ五百年の歴史の中で二度、当時の王太子ではない人物が王位を継承した記録があります。王太子として指名された者が夭折ようせつしたのです。そのどちらも当時の国王陛下の手により、新たな王太子が指名されております。記録によれば、国王自ら大神殿に赴き、始祖霊たちに祈りを捧げ先の王太子を廃太子にする旨ご報告して、はじめて新たな王太子を立てることが叶うのだとか」

 王宮蔵書室に勤務する古参の役人は蔵書室の主とも呼ばれる老人で、彼は目の下に隈を作り疲れ切った顔で答えた。

「では余が神殿に行き祈りを捧げればいいのか」

 勢い込んだフィオリーノの問いに老人は首を傾げる。

「それは……どうでしょう。この国王宣誓書に王配殿下は署名していませんから、始祖霊たちから『国王』だと認められるかわかりません」

「なんだと?」

 いまさらフィオリーノを『王配殿下』などと呼ぶ輩がいるとは思わず、気色ばむ。

「それに、可能であったとしてもこの雨の中、大神殿まで行くのは危険です。せめて、この雨が止まねば……」

 ウナグロッサの大神殿は国内随一の高さを誇る霊山の頂上にある。降り続く雨の中、登山など自殺行為だ。
 フィオリーノは窓の外を眺め、悔しそうな唸り声を溢した。



 雨は第一王女が国を離れた翌日から降り続いている。


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