異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

あとさん♪

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60.謎は解けた!

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 何をしていても何を見ていても。
 思考の片隅に、心のどこかに。
 リラジェンマはあの黄水晶シトリンの瞳が自分を見てとろりと蕩けるように光る瞬間を思い出してしまう。

(わたくし……いつの間に、こんなにもウィルのことを……)

「やはり本物の姫は良いのぅ」

 国王陛下がしみじみといった調子で不思議な言い回しをする。
 リラジェンマが疑問に思い尋ねてみれば、ヌエベ家のしきたりを教えて貰った。

 なんでも、王子殿下は生まれてすぐには王女のような恰好――フリル過多のワンピースタイプの衣装――を着させるのだとか。

「だいたい三歳か五歳くらいまでは、スカート姿で過ごさせる。古来より、幼き頃は女子の生存率が高いことにあやかってそのような仕儀に相成ったと聞いておる。勿論、ウィルフレードやベネディクトもそうさせたし、孫のルイもそうだ。もちろん余もそうだったらしい。生憎あいにく、記憶には残っておらんがの」

 そこで何かを思い出したかのように笑い声をあげた国王陛下に、リラジェンマは首を傾げる。

「幼き頃など、外見に男女の性差などそうは現れぬと思っていたのだが、これがどうしてどうして。ウィルフレードは三歳を過ぎてから急激に似合わなくなった。やはり男の子だと思っていたら、逆にベネディクトはいつまでたっても女装が似合っていたのぅ」

「え゛?」

 ベネディクト第二王子が、女装の似合う少年だった、……と?

 現在の第二王子のニヒルで野性味溢れる姿形を知っているリラジェンマにとっては、怪現象に近い情報である。
 怪訝な顔をしてしまったリラジェンマに、国王陛下は鷹揚に笑った。

「そのような、珍妙なモノを見る目で余を見るな。……くっくっ……そうさのぉ……今のアレだけを思えば不思議な話であるな」

 忍び笑いをしつつ国王陛下が語った過去。
 ベネディクト第二王子は誕生以来、病弱でいつまで経っても細く小さく、身に着けたフリルに埋もれてしまうくらい儚げで愛らしい美少女然とした幼少期を過ごしたらしい。性格も内向的で外に出るより自室で大人しく本を読みそれで満足するタイプ。乳母か兄・ウィルフレード以外の話し相手はすべて拒否するような人見知りをする少年だったらしい。
 王子宮どころか寝室から一歩も出ないような生活を送っていた第二王子が、ある日突然『けっこんしたいれいじょうがいます』と言い出したから驚いた。
 同年代の子どもと会ったこともない王子が何を言い出したのかと聞き流していたら、第一王子であるウィルフレードが国王に助言した。

『ベニィの望みを叶えた方が今後の彼のためになると、おじいさまが仰っています』

 その時ウィルフレード十歳。彼のいう『おじいさま』は既にこの世の者ではなかった。
 つまりウィルフレードの特殊能力――佑霊の声を聴く――を初めて国王陛下に認知された出来事であったのだ。

「その時、余はウィルフレードを王太子にしようと決めた。我がヌエベ王家は佑霊の声を聴く者を何人も輩出させているが、そのすべてが名君となってグランデヌエベを発展させたのだよ。
 しかし、王太子擁立の手続きに追われている間にベネディクトは随分積極的な王子になってのぅ……後宮庭園大捜索作戦名が『キツネ狩り』になったのはその頃のことよ」

 若干遠い目をしつつ、けれどとても嬉しそうに過去の話を語ってくれた国王陛下。彼はふたりの王子をとても愛しているのだなとリラジェンマは思った。

(陛下のお話のお陰で、ウィルの奇怪な言葉の意味がわかったような気がするわ)

 現在のベネディクト第二王子の姿と彼の本質を知るリラジェンマにとって、どうしても『ベネディクトによく似た可愛い女の子』というウィルフレードが言った言葉の意味を正確に把握できなかった。

『ベネディクト殿下』と『可愛い』が等号で結ばれなかったからだ。

(ただただ、本当に『可愛かった』ということなのね!)

 考えてみればウィルフレードはブラコンぎみだし、彼にとってベネディクト殿下はたったひとりの弟だ。『可愛い』と思っていてもなんら可笑おかしなことではない。
 さらに、実際に可愛かったという過去を覚えていればあの発言にもなるだろう。

(言葉の意味に慎重になり過ぎて、真意を見失っていたのだわ……)

 あんなにも疑問に持ち続けていたことが、あっさりと解決してしまった。あまりにも簡単に解決したせいで、拍子抜けするほどだ。

 答えは案外単純なのだ。

 思い悩まず第三者――王妃殿下やハンナ――に相談すれば、もっと早くに解決したかもしれない。

 どうにも自分は慎重派で、行動を起こす前にあれこれ考えすぎるきらいがある。うじうじと思い悩み、問題を先送りにし争いごとから遠ざかろうとする。
 それでは前進しない。
 そして長い間、誰かに相談するという行為そのものをしてこなかった。

 ただ唯一、祭祀のことはウィルフレードに相談した。あのときはあれこれ思い悩むまえにウィルフレードを頼った。

 つまり。
 リラジェンマにとってはそれだけウィルフレードのことが……。

「やはり陛下は偉大ですね」

「うむ。そうであろう」

 リラジェンマのお追従を当然のことのように受け流した国王陛下は、それでもまんざらでもない顔で笑った。




-----------------------------
(こぼれ話)

いまさら語るまでもないかもしれませんが、この60話に出てくるベネディクト王子幼少時の様子は拙作『四苦八苦王子(省略形)』で王子視点で語られています。

ホント、いまさらですみません。
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