異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

あとさん♪

文字の大きさ
63 / 66

63.第一神殿にて内緒話

しおりを挟む
 
 リラジェンマは自分の右手でウィルフレードの左手を握ったまま、ずんずん進む。
 今日は迎賓館の庭園を最初から目指したため、歩きやすい編み上げのブーツを履いている。靴擦れなどにならず長時間歩くことができる。

「リラ。どこに向かっているのか聞いてもいい?」

 少し後ろからウィルフレードの笑い混じりの声がする。

「内緒の話をしたいから第一神殿がいいわ」

 このときリラジェンマは、あくまでも真面目に話をしたいからウィルフレードに提案したのだが。

「内緒話で第一神殿? いいね! あの夜を思い出すよ! あぁ、リラが可愛らしく僕に縋り付いて泣いてくれたあの素晴らしい夜のことを‼」

 ウィルフレードがうっとりとした声を出すから余計な記憶が呼び覚まされた。

 第一神殿から母国ウナグロッサへ向けて祭祀を行った晩。リラジェンマは母だった精霊と出会い、彼女の真意に触れ号泣した。

 ウィルフレードの胸に縋って。

 いつの間にか向きを変え、ウィルフレードの胸に縋り付いていると気がついたとき、リラジェンマは混乱状態の極みに至った。

 神殿の芝生に座り、ウィルフレードの膝の上!
 しかも自分から縋り付いて抱き着いて!
 ウィルフレードの体温をしっかりと感じる距離、というか密着して!
 彼も自分をしっかりと抱きしめているではないか‼
 星空の下、なんという破廉恥な‼ 自分は決して恥知らずな人間ではないというのに‼‼

 思い出すだけで頭を抱え込んでうずくまりたくなる記憶。
 それを後からあれやこれやと(しかもウィルフレード本人に!)言及されるのは業腹なのだ。

「ウィル! それは思い出したらいけない記憶だわ‼」

「えー? どうしてー?」

「どうしてもよ!」

 頬を真っ赤に染めプリプリと怒りながらずんずん進むリラジェンマ。
 くすくすと笑いながらその後に続くウィルフレード。
 ふたり、しっかりと手を繋ぎながら。

 王太子夫妻のこの様子、外宮の中庭で繰り広げられていたので、誰の目にも止まっている。声は届かずとも真っ赤な顔の王太子妃と、上機嫌にこにこ笑顔の王太子の様子はそれなりの憶測とともに皆の(リラジェンマに付き従いすぐ後ろに控えていた侍女やウィルフレードの専属護衛ヘルマン・ゴンサーレス、通りすがりの官吏や王城勤めの使用人まで)記憶に残る。
 ちなみに、見守る彼らの目はとても温かい。

「ところでリラ。本当に第一神殿に行きたいのならそっちの方角じゃないよ?」

 くすくすと笑いながらウィルフレードが言う。
 こればかりは仕方がない。リラジェンマにとって『大神殿』は城の外にあったのだ。“神殿”に向かおうとすれば城外に出ようとしてしまうのだ。
 だがグランデヌエベの『第一神殿』は内宮の一番奥まった一般人の入り込まない場所にある。
 リラジェンマは反対方向に歩いてしまっていた。

「勘違いは誰にもあることだわ」

 自分は決して方向音痴なわけではない。そう言いたいリラジェンマである。

「そうだね。……あぁ、助かる。じゃあ、すぐ向かうよ」

 ウィルフレードはリラジェンマにではない、他の誰かに向かって“あぁ、助かる”と言った。そしてすぐにリラジェンマの腰を抱き抱えて――
 一陣の風が彼らの周りをぐるりと取り囲んだ。

「――はい、到着」

 リラジェンマが自分の周りに突如吹き上がった風に驚き瞬きをした瞬間、場所が変わっていた。
 彼女は第一神殿の芝生の上に立っていた。
 周囲はぐるりと立ち並ぶ石柱。
 正面には黒々とそびえ立つ八角の鉄柱。

「――はぁ?」

「また長い時間歩いて靴擦れにでもなったら、僕が耐えられないからね」

 すぐ側に立つウィルフレードは得意満面に説明する。

「……もしかして、これが『瞬間移動』?」

「そうだよ。随分短い距離だけどね。おじいさまが『第一神殿ならすぐ運べるぞ』って言ってくれたから、お願いしちゃった」

「――はあ?」

(お願いしちゃった、ですって?)

「移動場所が第一神殿だったし、僕らの力は手つかずにしてくれたみたいだ。精霊たちの力しか使ってないって」

 確かに、眩暈も気力が奪われるという事態にもなっていない。
 ウィルフレードがどんな風に『精霊の加護をふんだんに』受けていたのかも分かった。
 しかし。

「おじいさまって、十五代国王陛下のウィルのおじいさま? 佑霊になられたおじいさま? いくら能力が使えるからって、そんなホイホイ使ったら駄目じゃない!」

「え」

 突然怒りだしたリラジェンマにウィルフレードは面食らう。

「ウィル! そんなに精霊の力を簡単に使ったら駄目だわ! わたくしたちが目の前から突然消えたから、きっと護衛のゴンサーレスたちは心配しているわ! 今頃みんな大騒ぎしているわよ! どうする気⁈」

 腰に手を当て下から睨みつけるリラジェンマに、ウィルフレードは一歩後ずさる。はっきり言って迫力負けしている。

「あー。だっておじいさまが」

 ウィルフレードが一歩退いた分、リラジェンマが前に詰める。

「おじいさまのせいにしちゃダメ! 孫可愛がりしたいだけなんだから、貴方がきっぱり断らなければダメでしょ! ちゃんとした大人なのよ!」

 リラジェンマの迫力に押され、一歩また一歩と後ずさる。

「あー。うん、そうだね」

 まさか、こんなに怒られるとは思っていなかったウィルフレードは戸惑うばかりだ。

「おじいさまもっ! そこらにいらっしゃるのでしょう⁈ 孫が可愛いからって甘やかすとろくな人間になりませんわよ⁉ 自重なさいませっ!」

 リラジェンマの追求の矛先はウィルフレードだけではなく、佑霊にまで及んだ。宙に向かいはっきりと言ってのける彼女は、びっくりするほど逞しい。

「ウィル! 佑霊や精霊たちはなんと言ってますの⁈ 本当のことを教えて下さいな。わたくしに嘘は通じませんよ?」

 両手を腰に当てたまま、にっこりと微笑むリラジェンマ。
 そんな彼女に思わず見惚れてしまったウィルフレードの耳に佑霊が囁いた。

「……え? ちょ、待ってください⁉」

「ウィル? 佑霊は、おじいさまはなんとおっしゃっているの?」

 リラジェンマの翠の瞳がキラキラとうつくしく輝き、それは有無を言わせない謎の圧力を秘めていた。

「あー。……リラの言うことはもっともだから……自重するって」

 ウィルフレードの渋々といった答えに、リラジェンマはとてもよい笑顔を見せた。

「ご理解いただき嬉しく思いますわ。精霊の力は非常事態で使うものだとわたくしは思います。なんてことのない日常生活の中で使うモノではありません」

 ただでさえ、自身に特殊能力があるのだ。これ以上精霊の力など使うのはよろしくない。

「あー。……リラは無意識に必要以上の力を使わないようにって言いたいんだね。……君の愚妹にかけた宣言のように」





-----------------------------
(こぼれ話)

リラ曰く「それは思い出したらいけない記憶だわ‼」の件。
実は、お付きの人間が一番やきもきした事件です。
深夜に第一神殿で王太子夫妻が芝生の上でイチャイチャしているように見えて(リラ大号泣中)、お互い力の交換をしていたので、疲労困憊で身動きがとれませんでした。
芝生の周りで見ていた護衛たちは「殿下たちはいつまであのままでいらっしゃるのか……」とやきもきしつつ見守ります。
王太子夫妻が何を話しているのか(結界があるせいで)聞こえません。でも姿は見える。
ウィルも疲労困憊していたので彼女をお姫様抱っこして運ぶ余裕がなく。
つまり、「早くそこから出てきてください」な侍従と「うん、ごめん今動けない」のウィルが目と目で会話してまして。
星空の下、だいぶ長い時間いちゃいちゃしてました。
王太子夫妻付きの侍従、侍女、護衛たちが鈴なりになって芝生広場の周りをぐるりと待機していました。

リラにとっては忘れてしまいたい事件だったので本編ではスルーしました。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」

まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。 私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。  私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。 私は妹にはめられたのだ。 牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。 「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」 そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ ※他のサイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

【完結】王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした

まほりろ
恋愛
【完結済み】 公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。 壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。 アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。 家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。 修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。 しかし仔猫の正体は聖獣で……。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 ・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。 ・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。 2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます! 誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!! アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。

妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。  アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。 ※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日 ※長編版と差し替えました。2025年7月2日 ※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

処理中です...