5 / 24
5.ルチアの悩み②
しおりを挟む健全なお付き合いしかしたことのないルチアにとって、『結婚式』は最大のチャンスだったのかもしれない。だって絶対『初夜』がある。周囲がそういう風にお膳立てする。
初夜らしい初夜がなかったのは、ルチアがすぐに働き始めたせいだと今ならわかる。
慣れない王宮での仕事でへとへとになって、夜はすぐに寝てしまった。新婚であるはずの夫を放置して。
(思い返すにつれ……わたしって鬼嫁だわ……)
念願の第二王子宮に勤めることが叶い、浮かれてもいた。
そこに勤められたのも、夫グスタフのお陰だというのに。
進路に悩んでいた在りし日のルチアに、グスタフは提案したのだ。
『確実に第二王子宮に就職先が決まる方法があるのだが……』
『確実に?』
『あぁ。王宮勤めには採用試験を受けて入る方法と、縁故採用という方法がある』
『縁故』
思ってもいなかった裏技に自分の目が輝いたことを自覚した。
『採用数は少ないが、殿下直属の配下になる方法だ……俺がベネディクト殿下に直接推薦すれば』
『殿下に直接』
『俺は、自分で言うのも憚られるが……殿下の信任厚いと思う、ぞ。その信任厚い騎士の妻、となれば……王宮経由ではなく、直接第二王子殿下の配下になれると、思う……ただ、それには……身内でないと……つまり、その』
ルチアはグスタフの言わんとしていることを理解した。
自分の妻になれば、信任厚い騎士の妻として家族ぐるみで殿下に(ルチア的には殿下の奥方に)仕えることが可能になると。
なんという素晴らしい提案だろう!
ルチアの就職先の問題も解消されるうえに、大好きなグスタフと結婚できるのだ!
その話、全力で乗った! とばかりに光の速さで食い気味にした返事が、自分たちのプロポーズのことばになってしまった。
『結婚してくださいっ! グスタフさまっ! いますぐにでもっ!』
こうして婚姻届けを提出。ルチアは『ルチア・アラルコン』になった。
グスタフは約束どおりベネディクト王子に自分の妻の第二王子宮勤めを推薦してくれた。一応、形だけとはいえ採用試験を受けた。採用水準に達する試験結果に、王子はルチアの採用を許可し現在に至る――のだが。
すぐにでもセレーネ妃に仕えたかったルチアの意思が尊重され、結局自分たちの結婚披露宴は行わなかった。学園卒業式の当日夜から勤務についた。
気がつけば、白い結婚のまま。
今晩はふたりでゆっくり過ごせるかな、なんて思って待っていてもグスタフは思わぬ夜勤に入っていたり。
お互い、なかなか休みを合わせられなかったり。
いまさら、誘い方も迫り方も分からない。
小さな擦れ違いが続いて、あげくにどうしていいか分からなくなって、ついついグスタフに不満をぶちまけた。
『わたしと仕事、どっちがだいじなの⁈』
自分の態度を棚に上げて言っていい言葉ではなかった。職場目当てで逆プロポーズするような自分なのに。
むしろ絶対言ってはいけない一言だった。
(ちゃんとした披露宴って意味があったんだなぁ……)
偶然街で出会った友の言葉を思い出す。
なし崩し的に妻に収まり一般的な披露宴を行わなかったせいで、ルチアは周囲から『新婚』だと認識されていなかった。なんなら結婚しているとも思われていなかったらしい。子どもっぽいルチアの容姿も要因かもしれない。
勤務形態を配慮してくれたのは結婚してから一年以上過ぎてからだったし、その頃にはなんだか夫とぎくしゃくし始めていた。
(お互い、相手の出方を気にし過ぎて身動きとれなくなってるかんじ?)
お互いが気にし過ぎているだけなら、まだいいと思う。
(もしかして……わたしにたいして“そういう気にならない”とかだったら、どうしたらいいの?)
そもそもルチアに対して、彼はそういう情動を持てないのかもしれない。
好きだと告白されて付き合ったのは確かだ。
けれどあれは、小さなこどもに対する庇護欲とか保護者意識が働いたのだとしたら。
だから付き合ってくれていて。
そういうわけだから、深い関係にならなくて。
そこへ勢いで逆プロポーズされて、今に至るのだとしたら。
妻という立場すら、怪しいのではなかろうか。
(こんな根本的な問題に二年も経って気がつくなんて……!)
大きくて温かくて優しいグスタフ。
いつも険しい表情の多い彼が、ふいに見せてくれるやわらかい瞳と温和な空気。
大きな手で背中をぽんぽんと撫でられて落ち着いて。
逞しい胸に顔をつけてうっとりして。
(わたしの方はこんなにも大好きなのにっ)
結婚して同僚になったのだからと、彼のことは『グスタフ』と名前を呼び捨てにするようになった。
でも彼を『グスタフさま』と呼び憧れていた学園生のころのルチアも、心の奥にはちゃんと存在している。
わりと口が回るルチアでも、軽々しく言葉にできないこともある。
(はっきりと抱いて下さいって言えばよかったの? あぁ、でもはっきり言って拒絶されたらどうしようっ⁈ もしくは顔を逸らされたりしたら? グスタフさまに迷惑がられたら? 困らせたら? ただでさえこんな鬼嫁なのにっ⁈)
悩めば悩むほど答えは出ない。ひとりでぐるぐると同じ場所を堂々巡りする迷宮にはまり込んでいる心地になる。
(先輩方の言ってた“ゆっくり話して、らぶらぶに持ち込む”って、具体的にはどうやればいいのーーー⁈)
結婚できたからといって、そこはゴールではない。
悩みごとも日々様変わりして尽きることなどないのだ。
14
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
白のグリモワールの後継者~婚約者と親友が恋仲になりましたので身を引きます。今さら復縁を望まれても困ります!
ユウ
恋愛
辺境地に住まう伯爵令嬢のメアリ。
婚約者は幼馴染で聖騎士、親友は魔術師で優れた能力を持つていた。
対するメアリは魔力が低く治癒師だったが二人が大好きだったが、戦場から帰還したある日婚約者に別れを告げられる。
相手は幼少期から慕っていた親友だった。
彼は優しくて誠実な人で親友も優しく思いやりのある人。
だから婚約解消を受け入れようと思ったが、学園内では愛する二人を苦しめる悪女のように噂を流され別れた後も悪役令嬢としての噂を流されてしまう
学園にも居場所がなくなった後、悲しみに暮れる中。
一人の少年に手を差し伸べられる。
その人物は光の魔力を持つ剣帝だった。
一方、学園で真実の愛を貫き何もかも捨てた二人だったが、綻びが生じ始める。
聖騎士のスキルを失う元婚約者と、魔力が渇望し始めた親友が窮地にたたされるのだが…
タイトル変更しました。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる