10 / 68
レオニーナ・フォン・シャルトッテ1(クラスメイト視点)
しおりを挟む私は入学式で、学年一の美少女を見た。
キチンと結い上げられた輝く金髪。
アイスブルーの瞳。
すっとした鼻筋と白磁の肌。
うっすらと笑みの形を作る唇は小振りで愛らしい。
『あ、淑女の見本』直感でそう思った。
これは最上級階層にいるご令嬢に違いない、と。
同性だというのに見惚れるほど美しい彼女は颯爽とした足取りで私の前を通り過ぎた。
彼女は制服を着ていた。
どうやらこの学園では、制服を着ているのは経済的に苦しいお家の子だと見做されるらしい。
女子寮に入寮した時、案内してくれた上級生からそう聞いた。
私、レオニーナ・フォン・シャルトッテも制服を着ている。
我がシャルトッテ家は経済的に困窮していない。
大貴族さまと比べれば細やかな子爵領だが、経営は順調だ。
特筆すべきは、我が家は超が付くケチだということだ。
先祖代々非常にケチだ。ドケチだ。無駄な出費を許さない。シーズン毎にドレスを買い替えたりしない。
前庭は綺麗に剪定されているが、裏庭は畑だ。
整然と整備され、きちんと食べられる野菜がたわわに実っている。
鶏や豚、牛も飼っている。世話は私たち子どもの役目だ。使用人にやらせるなど、無駄な出費はしない。
金は使うものではなく貯める物だ、というのは先祖代々守られてきた家訓である。
だが、その信念には理由がある。
使うべきところで、出し惜しみしてはいけない。これも家訓。
これでもかっと使う。
私の記憶にある中では、記録的な冷害が起きた年。
領民を飢えから守る為に、我が家は倉を開放した。貯め込んだ貯蓄は今使うのよっとばかりに使った。新しく冷害に強い品種の野菜の種を購入し、領民に育てさせた。
冷害で得られなかった収入は補填し、その年の税は免除した。
結果、領民を飢えさせることはなかった。
だから、我が家の家訓は正しいのだと思う。
そんなドケチが身についてる両親が、送られてきた私の制服を見て揃って言うには、
『こんな上質な生地で子どもの制服を作ってくださるなんて、王家の太っ腹は素晴らしい!』
だった。
『三年間、みっちり勉強するのよっ!』
とも。食費等、生活費も寮にいれば国から出る。我が家では諸手を上げて送り出された。
我が領地は王都から遠く、ケチな我が家にタウンハウスは存在しないのだ。
そして、入寮して。
入学式で見た美少女は寮生ではなかった。
つまり、王都にタウンハウスがあるご令嬢…となる。
社交界シーズンしか使わない屋敷を維持するだけの財力を持ちながら、なおかつ制服を着用するとは、どのような信念をお持ちなのだろうか。
俄然、興味が湧いた。
気になって話しかけてみた。
あまりの美少女っぷりに周りが躊躇して誰も声を掛けられなかったが、隙を見て話しかけた私は、後に同じクラスメイトから絶賛される。
『あの時、声を掛けて我々にもきっかけを与えてくれてありがとう』と。
誰もが彼女とお近づきになりたかったが、躊躇っていたのだ。
牛の餌にもならない躊躇いなんて無駄なものは、とっとと捨てるべきだ。
私がそう言ったら、みなポツポツ話しかけるようになった。
初めは朝の挨拶から。
美少女はとてもいい笑顔で挨拶を返してくれる。そうすると一日が気分よく素敵に始まる。
美少女とは世の宝なのだな、と思った。
仲良くなり、一緒にお昼を取るようになった頃。彼女が制服を着ている理由が判明した。
彼女は、開発者側の人間だったから。つまり王家の人間だった。
それを知ったのは、私の両親が学園の制服について王家を絶賛している、王家は素晴らしい、そこまで我らにお金をかけてくれる王家の期待に応えて、私は一生懸命勉強するつもりだ、と熱く語った後だった。
なんだか恥ずかしくていたたまれなかった。
アンネローゼ王女殿下は、『殿下』と呼ばれるのを嫌がる。同じ年の同級生なのだから、同じように生活したいのだと仰った。
同じ制服を着る、同級生。
なんだか自分が着ている制服が特別なモノのような気がして嬉しかった。
この学園では元々、教師は生徒を名前で呼ぶ。
教師に『レオニーナ君』などと呼ばれる。
女性教師には『レオニーナ様』と呼ぶ方もいらっしゃる。その方は、全ての生徒を『様付け』で呼ぶ。恐らく、ご自分の矜持として『君呼び』ができないのだろう。マナーの講義を受け持つ方だった。
家名で呼ぶと、教える側と教わる側の家格の違いが弊害や柵や軋轢やらを生み、学園運営が危ぶまれる事態になる。
それを避ける為に生徒を『名前+君』付けで呼ぶことに決めたそうだ。
なるほど。
王家の人間が生徒側に立つことも想定済みの措置だったのか。殿下の……いや、ローゼから聞く学園創立の裏話はなかなか興味深く面白い。
ローゼは私より多くの科目を選択し、毎日忙しそうだ。
そして彼女は優秀なうえに更なる向上心がある。
彼女の口癖は『なにができるのか考えねば』『もっと精進せねば』『わたくしもまだまだね』だ。
彼女はどこまでの高みを目指しているのだろう。
私はたかが子爵家の人間ではあるが、王女殿下の名前を、それも愛称を呼ぶ許可を得る機会に恵まれた。
彼女の愛称を呼び、彼女と並び授業を受け、講義内容について議論を交わせる。
たとえこれが学園に通っている間だけの出来事であっても、こんな幸運は早々ない。
私は恵まれている。
こんな機会を与えてくれた王家にも感謝し、毎日を大切に生きようと、改めて強く思った。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
長くなったので分けます
93
あなたにおすすめの小説
『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様
恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。
不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、
伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。
感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、
ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。
「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」
足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。
「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」
一度凍りついた心は、二度と溶けない。
後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、
終わりのない贖罪の記録。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました
音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。
____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。
だから私は決めている。
この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。
……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
※後日談を更新中です。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる