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レオニーナ・フォン・シャルトッテ 2 (クラスメイト視点)
しおりを挟むある日、とある男子学生——ネクタイの色が緑だったから、2年生だ――から手紙を預かった。彼はローゼ様に渡して欲しい、と言って去った。
男子学生は、ピンクブロンドの髪に赤い瞳。可愛い顔をしていた。
クラスメイトに囲まれ、彼は誰? その手紙はなに? となったが、ローゼ宛ての手紙だと知ると、皆納得していた。
手紙はローゼの専属メイドが音もなく現れ回収していった。
あれ? 彼女は今までそこにいただろうか?
ローゼの専属メイドはいつも突然現れる。
突然現れ、ローゼの影のように行動を共にしている。
私も同じ授業を取っているが、あのメイドは存在感が希薄だ。だから突然現れて、いつもびっくりする。
……実は隠密では? と推測している。なんせローゼは王女様だし。極秘に護衛が付いていても可笑しくない身分なのだから。
その専属メイド、キャサリンさんと話す機会があった。
「レオニーナ様、申し訳ありません、ローゼお嬢様の行方をご存じではありませんか? 恥ずかしながら、捲かれてしまいました」
いつも冷静沈着なキャサリンさんが、その時は少々慌てていた。
「いつもお役目ご苦労様です。ローゼは別館のお手洗いを使ってみたい、と言ってましたので、もしかしたら……」
私の言葉の途中でキャサリンさんはあっという間に移動していた。
こだまが返ってくるように遅れて『ありがとうご ざ い ま し た ぁ ぁ ぁ 』と声が聞こえてきた。
侍女兼、護衛兼、お目付け役……といったところだろうか。
たまにキャサリンさんにお説教されてるローゼを見かけることがある。
王族なのに、部下にお説教されても怒ったり切れたりしないのだなと、彼女たちの関係が微笑ましく思えた。
我儘三昧な貴族のお嬢様が、使用人のちょっとした粗相(水を溢したとか)で腕を切り落としたとか。
甘やかされたボンボン跡継ぎが、耳に痛い諫言に機嫌を損ねその従僕の首を撥ねた(物理)とか。
貴族が貴族足りえる本懐を忘れ愚か者に成り下がった話もある中で、この王女と侍女の関係性は、私にはとても嬉しい出来事だ。
こんな王女を育てた国王陛下を支持するのは正しいのだと、そして彼女が敬愛する兄君、王太子殿下の御代になっても、我が国はますますの繁栄と安泰の一途を辿るであろうと確信するのだ。
ところで、ローゼが王女であるという事実は、意外なことに知らない人が多い。
これだけの美少女っぷりと、『アンネローゼ』という名前を貴族名鑑で調べる者がいないのだろうか?
まだ正式にお披露目をしていないので貴族名鑑に絵姿は載っていない。
だが、国王の子女としてちゃんと名前が載っているのだ。『第一王女アンネローゼ』と。
生年月日もきっちり載っている。
賢い者なら自分と同学年に王女殿下がいると分かりそうな物なのだ。
ボンクラが勢揃いか? 嘆かわしい。
なぜかというと、ドレス組が煩いのだ。
私がいる専科クラスの女子は、ほぼ制服組なのだが、隣の『淑女科クラス』はドレス組が大半を占める。
男子学生が居ない分、淑女科クラスの総人数は少ないのだが、ドレスのスカートで嵩増しした分、圧倒的に場所を取る。邪魔だ。
それが通りすがりに『あら、ごめん遊ばせ』とか言いながらぶつかってこようとする。
スカートを武器にして振り回すなと言いたい。
というか、スカートの中のクリノリンを武器にしているに違いない。当たると地味に痛いのだぞ。
ドレス組は資産を誇るが如く、日々違うドレスを着て登校してくるが、つまりそれは、自分の家はそれなりの家門なんだぞと宣伝しているに他ならない。
自分はお前ら制服組より高位貴族だ。より王家に近しいのだ。
そう自慢しているにも関わらず、ローゼに敵意を向けている。
馬鹿じゃなかろうか。
制服を着ていても発揮される優雅な所作とその美少女っぷりで、彼女は男子学生の憧れの的だ。淑女科クラスのドレス組はそれが許せないらしい。
阿呆らしい。
専科、騎士科、淑女科の合同で行われるダンスの授業で、嫌がらせがあった。
踊りながらわざとローゼたちの進路を阻むのだ。
たまたま、その時のローゼのパートナーがダンス初心者の男爵家の次男坊だったのも災いした。
行き場をなくしうろうろした挙句、パートナーの足を踏んづけるという失態を犯した次男坊は、涙目でローゼに謝罪した。
恐らくドレス組が狙ったのは、失態を犯したパートナーを𠮟りつけ、怒り狂うローゼに“ご自分の技量が足りないのをパートナーのせいにしてはいけませんわ”などと嫌みを言うつもりだったのだろう。
自分がパートナーに足を踏まれたら、たぶん、怒るだろうから。
だが、ローゼはそんなことで怒らなかった。
『わたくしは大丈夫よ。こんなこともあろうかと、靴のつま先には鉄鋼を仕込んでますの!
どんなに踏まれてもドンと来いっですわ』
誇らしげに語ったローゼの笑顔はとても可愛かったし、ダンスに慣れない男子学生がより一層ローゼ信奉者になったのは言うまでもない。
そのうえローゼは我々女子学生に、足を踏まれないコツを伝授してくれたり、希望者には鉄鋼を仕込んだ靴を貸し出すとまで約束してくれた。
専科クラスの結束はさらに固くなり、騎士科の学生には羨ましがられる結果となった。
(騎士科の1年生に女子学生はいない。3年生にはいるらしいが、私は会ったことがない)
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