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その夜の男子寮では
今回、少々キモチワルイ表現が出てきます。
申し訳ありません。
え? 前回もキモチワルかったですか?
重ね重ね、申し訳ありません
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
一方の男子寮だが。
女子寮が華やかに話題提供しあっていたのに比べ、緊急招集会議が開かれた男子寮の食堂では……。
まるで葬儀で黙祷を捧げているような状態だった。
それもそのはず、男子寮生の中でも派手な2年の二人組が反省室行きになったまま、帰って来ないのだ。
そして寮監役の教師と騎士団第一騎士隊隊長のクルト・シュバルツバルトが重苦しい表情で寮生全員を睥睨している。
「誰も、ノア・フォン・リュメルの奇行を止める者はいなかったのか」
---沈黙が重かった。
「事情を知らない1年生はいいとして、2年生や3年生で、奴の異常を知ってた者はいないのか?」
---沈黙が答えだった。
「隊長。知っていたとしても、それは彼の親友であるケビン・フォン・クスナーだったと思われます。
それに、1年時にはそんな奴だったとは、誰も思っていなくて……」
寮監は頭を抱える。
ノア・フォン・リュメルはいつも明るく溌溂とした少年だった。
誰とでも朗らかに接し、前向きで優秀な学生だった。
それがまさか、王女殿下付き纏いのうえに不遜で不敬な振る舞いをしでかすとは……。
隊長にしても同じ思いだ。
たびたび自分が来園して指導した学生2名。2人とも将来有望だと目をかけていた。
……自分の目が節穴だったというわけなのだが。
「今回は王女殿下が身分を隠して登園していたことが加味されるから、最悪の処分にはならないと思うが……」
「最悪、とは?」
「王女殿下に対し奉り、数々の無礼、非礼、不敬、不遜。処刑されなければ御の字だ」
どうやら王女殿下ご自身は『学園内のこと』として片付けようとしていた形跡がある。
だというのに、騎士団の隊長が見守るうえでの決闘をし、その第三者立ち会いの元、王女殿下に対し求婚の姿勢を取った。
殿下に犯罪予告の手紙を数通出しておきながら。
この、事を派手にした奴らの思考に開いた口が塞がらない。
王女殿下のご慈悲に縋ることができればいいのだが。
「発言の許可を」
重苦しい空気の中、挙手したのはテュルク国からの留学生カシム・チェレビ・マクブルである。
「許可する」
「ありがとうございます。
私はノア・フォン・リュメルについては、去年の剣術試合の三位決定戦で当たった相手、としか認識していませんが……。
彼は具体的に、どんな罪を犯したのですか?
王女殿下に手紙を渡すのは、この国では禁止されたことなのでしょうか?」
「あぁ、君は留学生か。
そうだな。諸君に詳細を伝えた方がいいかもな……。恐らく、リュメルたちはこの学園に居続けることはできないだろうし……」
クルト・シュバルツバルト隊長は、一つ、大きなため息を漏らした。
「奴らは……2人、セットでやらかしてくれたよ。2人まとめて不敬罪適用だ。
カシム君のさきほどの質問。王女殿下への手紙は禁止されているのか、という問いだが……。
別に、禁止されてはいない。
検閲が入り、殿下の目に触れてもいいのかどうか第三者に判断されるだけだ。
不適切だと判断されれば、その手紙は処分される。適切なら内容だけ知らされるか、手紙そのものが殿下の手に渡るかのどちらかだ。
だが、今回のノアは、それを検閲が入ることを知らなかったらしくて、他者が見るなんてマナー違反だと文句を言った。
手紙の内容も、殿下を誘い出そうとする内容で、しかも、常軌を逸した内容で理解不能だし、これだけでも不敬なんだが……」
言いづらいのか、クルト隊長は苦虫を噛み潰したような苦悶の表情になった。
「常軌を逸した内容、とは? 詳細を教えてください」
冷静なカシムの声に、クルト隊長はしばし躊躇ったあとで顔を上げた。
そこになにがしかの決意を見て取った寮生たちは、固唾を飲んだ。
「手紙一通につき便箋10枚だ。
そのすべてに恐ろしく細かい字でみっちりと余白なく書き込まれた王女殿下を称える語句が敷き詰められた便箋、おまえ、読んでみるか?
気持ち悪いぞ?
まず文字が小さすぎて逆に恐怖だぞ?
それが途中から恨みつらみを書き綴り、呪い、殺害予告に近い文言に変容しているんだぞ?
しかも、それだけじゃなく……。
俺も今回聞いて驚いたんだが·····。
あぁ、言いづらいなぁ……。
あ、全部の手紙に、ではないぞ?
だが、その、一部の手紙に……切った自分の爪とか、自分の陰毛を同封していたり……使用済みのハンカチを同封したり、したそうだ……」
男子学生寮の食堂は一瞬静まりかえった。
そんな中でカシムが疑問を呈する。
「……使用済み、とは、もしかして……」
「もしかする。ソレだ。ソレがべっとりついたままの自分の名前入りハンカチを同封しやがった」
うわあ……。
誰もが声を上げた。心の中で。
「諸君! これははっきり言って変態行為だ!
意中の女性に対してすることじゃあない!
決してない!
諸君は絶対道を踏み外したりしないでくれ!!」
悲鳴に近いような声をあげたクルト隊長に、寮生は同情した。
お役目とはいえ、そんな手紙、読みたくも触りたくもない。
この場にいた1年専科クラスの男子学生の1人が遠い目をしながら思い出す。
そう言えば、ローゼ様の護衛のキャサリンさん、いつからか白手袋着用していたなぁ……と。
クルト隊長が髪を掻きむしりながら呟いた。
「こう言っちゃあなんだが、今回王女殿下がターゲットだったから奴の異常性が早期に発見されたんであって、一般女性相手にこれをやられたらと思うと、俺は恐ろしいよ。やはり殿下が幸運の女神の愛し子だからかもしれない」
「幸運の女神の愛し子とは?」
「あぁ、これも知らないのか……。
アンネローゼ王女殿下は、王太子殿下と10歳年が離れてお生まれになった王女殿下でな。
殿下がお生まれになるまで、王宮内は側室を陛下に勧める声で大混乱だったらしい。
それを鎮めたのが殿下のご生誕だ。
それ以後、王太子殿下の発見した魔石のエネルギー化に成功したり、第二王子殿下がお生まれになったりと、慶事尽くしだ。
すべては王女殿下が幸運の女神に愛されているおかげだと、我が国では評判なんだよ」
男子寮で続いていた緊急招集会議は、学園長の登場で終わりを告げる。
学園長自らが寮内の掲示板に貼りだしたのは、ノア・フォン・リュメルとケビン・フォン・クスナー両名の、『退学』より重い処罰『放校処分』の報だった。
申し訳ありません。
え? 前回もキモチワルかったですか?
重ね重ね、申し訳ありません
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
一方の男子寮だが。
女子寮が華やかに話題提供しあっていたのに比べ、緊急招集会議が開かれた男子寮の食堂では……。
まるで葬儀で黙祷を捧げているような状態だった。
それもそのはず、男子寮生の中でも派手な2年の二人組が反省室行きになったまま、帰って来ないのだ。
そして寮監役の教師と騎士団第一騎士隊隊長のクルト・シュバルツバルトが重苦しい表情で寮生全員を睥睨している。
「誰も、ノア・フォン・リュメルの奇行を止める者はいなかったのか」
---沈黙が重かった。
「事情を知らない1年生はいいとして、2年生や3年生で、奴の異常を知ってた者はいないのか?」
---沈黙が答えだった。
「隊長。知っていたとしても、それは彼の親友であるケビン・フォン・クスナーだったと思われます。
それに、1年時にはそんな奴だったとは、誰も思っていなくて……」
寮監は頭を抱える。
ノア・フォン・リュメルはいつも明るく溌溂とした少年だった。
誰とでも朗らかに接し、前向きで優秀な学生だった。
それがまさか、王女殿下付き纏いのうえに不遜で不敬な振る舞いをしでかすとは……。
隊長にしても同じ思いだ。
たびたび自分が来園して指導した学生2名。2人とも将来有望だと目をかけていた。
……自分の目が節穴だったというわけなのだが。
「今回は王女殿下が身分を隠して登園していたことが加味されるから、最悪の処分にはならないと思うが……」
「最悪、とは?」
「王女殿下に対し奉り、数々の無礼、非礼、不敬、不遜。処刑されなければ御の字だ」
どうやら王女殿下ご自身は『学園内のこと』として片付けようとしていた形跡がある。
だというのに、騎士団の隊長が見守るうえでの決闘をし、その第三者立ち会いの元、王女殿下に対し求婚の姿勢を取った。
殿下に犯罪予告の手紙を数通出しておきながら。
この、事を派手にした奴らの思考に開いた口が塞がらない。
王女殿下のご慈悲に縋ることができればいいのだが。
「発言の許可を」
重苦しい空気の中、挙手したのはテュルク国からの留学生カシム・チェレビ・マクブルである。
「許可する」
「ありがとうございます。
私はノア・フォン・リュメルについては、去年の剣術試合の三位決定戦で当たった相手、としか認識していませんが……。
彼は具体的に、どんな罪を犯したのですか?
王女殿下に手紙を渡すのは、この国では禁止されたことなのでしょうか?」
「あぁ、君は留学生か。
そうだな。諸君に詳細を伝えた方がいいかもな……。恐らく、リュメルたちはこの学園に居続けることはできないだろうし……」
クルト・シュバルツバルト隊長は、一つ、大きなため息を漏らした。
「奴らは……2人、セットでやらかしてくれたよ。2人まとめて不敬罪適用だ。
カシム君のさきほどの質問。王女殿下への手紙は禁止されているのか、という問いだが……。
別に、禁止されてはいない。
検閲が入り、殿下の目に触れてもいいのかどうか第三者に判断されるだけだ。
不適切だと判断されれば、その手紙は処分される。適切なら内容だけ知らされるか、手紙そのものが殿下の手に渡るかのどちらかだ。
だが、今回のノアは、それを検閲が入ることを知らなかったらしくて、他者が見るなんてマナー違反だと文句を言った。
手紙の内容も、殿下を誘い出そうとする内容で、しかも、常軌を逸した内容で理解不能だし、これだけでも不敬なんだが……」
言いづらいのか、クルト隊長は苦虫を噛み潰したような苦悶の表情になった。
「常軌を逸した内容、とは? 詳細を教えてください」
冷静なカシムの声に、クルト隊長はしばし躊躇ったあとで顔を上げた。
そこになにがしかの決意を見て取った寮生たちは、固唾を飲んだ。
「手紙一通につき便箋10枚だ。
そのすべてに恐ろしく細かい字でみっちりと余白なく書き込まれた王女殿下を称える語句が敷き詰められた便箋、おまえ、読んでみるか?
気持ち悪いぞ?
まず文字が小さすぎて逆に恐怖だぞ?
それが途中から恨みつらみを書き綴り、呪い、殺害予告に近い文言に変容しているんだぞ?
しかも、それだけじゃなく……。
俺も今回聞いて驚いたんだが·····。
あぁ、言いづらいなぁ……。
あ、全部の手紙に、ではないぞ?
だが、その、一部の手紙に……切った自分の爪とか、自分の陰毛を同封していたり……使用済みのハンカチを同封したり、したそうだ……」
男子学生寮の食堂は一瞬静まりかえった。
そんな中でカシムが疑問を呈する。
「……使用済み、とは、もしかして……」
「もしかする。ソレだ。ソレがべっとりついたままの自分の名前入りハンカチを同封しやがった」
うわあ……。
誰もが声を上げた。心の中で。
「諸君! これははっきり言って変態行為だ!
意中の女性に対してすることじゃあない!
決してない!
諸君は絶対道を踏み外したりしないでくれ!!」
悲鳴に近いような声をあげたクルト隊長に、寮生は同情した。
お役目とはいえ、そんな手紙、読みたくも触りたくもない。
この場にいた1年専科クラスの男子学生の1人が遠い目をしながら思い出す。
そう言えば、ローゼ様の護衛のキャサリンさん、いつからか白手袋着用していたなぁ……と。
クルト隊長が髪を掻きむしりながら呟いた。
「こう言っちゃあなんだが、今回王女殿下がターゲットだったから奴の異常性が早期に発見されたんであって、一般女性相手にこれをやられたらと思うと、俺は恐ろしいよ。やはり殿下が幸運の女神の愛し子だからかもしれない」
「幸運の女神の愛し子とは?」
「あぁ、これも知らないのか……。
アンネローゼ王女殿下は、王太子殿下と10歳年が離れてお生まれになった王女殿下でな。
殿下がお生まれになるまで、王宮内は側室を陛下に勧める声で大混乱だったらしい。
それを鎮めたのが殿下のご生誕だ。
それ以後、王太子殿下の発見した魔石のエネルギー化に成功したり、第二王子殿下がお生まれになったりと、慶事尽くしだ。
すべては王女殿下が幸運の女神に愛されているおかげだと、我が国では評判なんだよ」
男子寮で続いていた緊急招集会議は、学園長の登場で終わりを告げる。
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