王女殿下のモラトリアム

あとさん♪

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王女宮にて1


アンネローゼ視点に戻ります。

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 思えば今日は色々な出来事があったわ。
 朝から講義がびっちり組み込まれている中で、お昼には赤毛にいわれのない糾弾を受けて、それをお咎めなく無難に収めようと思った矢先の、決闘騒ぎ。
 審判もちゃんと立って、立会人として第一騎士隊の隊長が見守ってなされたそれは、公式記録として残るのでしょうね。
 その勝者がなにを思ったのか、わたくしに求婚紛いの態度にでた。

 このわたくしに、よ?

 信じられる?
 我がシャティエル国の王女に正式求婚……なんてことになったら議会に取り上げられる案件に発展するじゃない。
 普通は男爵家の人間がそんなことしないわよ?
 そんな記録、過去にないもの。

 もっとも今までの常識からいうと、王女は王宮にいるもので、男爵家の人間が会うことなどほとんどない。
 年に一度あるデビュタント用の王宮舞踏会とか、社交シーズン開始の合図になる王妃主催の園遊会とかなら会えるかも?
 それも呼ばれなければ会えない訳で。

 そもそも『王女』が王宮にいた記録って、わたくしの大伯母さまが、前ベッケンバウワー公爵に嫁ぐまで遡らないと無いのよね。
 ざっと50年前の記録でも、王女が誰と会った、なにをした、なにがあったか、克明に記録されているの。
 でも男爵家の人間と会った、なんて記録はないのよねぇ。

 今回こんな事件が起きたのは学園などというものがあるからだ、という議論が生まれたのも致し方ないわね。

 わたくしに付き纏う害虫の存在(それは王女付きの護衛から齎された信頼の置ける報告)を知ったお父様、国王オスカー・マクシミリアン・フォン・ローリンゲンは、その報を聞いた直後、ピンクブロンドのリュメル家を取り潰そうと画策し始めたそうよ。
 お父様はわたくしを溺愛しているから当然と言えば当然なんだけど、恐ろしいわよね。
 その暴走を止めたのが息子であり、わたくしのお兄様でもある王太子のヘルムバート・フォン・ローリンゲン。
 なぜ止めるのかと問うお父様に、お兄様はこう答えたそうよ。

 こいつはただの犯罪者という以前に、犯罪級のバカだから。バカを裁く法律は我が国には存在しないのですよ、と。

 平民への教育を施したおかげで、ここ数年で国民全体の識字率が上がった。
 その弊害かどうかわからないけれど、今回のような手紙を使った嫌がらせが横行するようになったとか。
 ポツポツと警邏部に寄せられるようになった被害届は「誰か解らない人から、気持ちの悪い手紙が届く」「無記名の輩から、謂れのない誹謗中傷のビラが捲かれた」等、大抵は差出人、あるいは首謀者が謎のまま届けられ、それらの捜査に手間取るのが一般的なのだそう。

 ところが、今回王女殿下わたくしについた害虫はどうだろう。
 堂々と、フルネームを記名した手紙を出している。
 名前を公表したうえで、嫌がらせ紛いの手紙を送っている。
 最初は呼び出しの手紙だったけれど、その内容は恨みつらみにエスカレートし『貴女を恋するあまりこの手で殺めてしまいそうだ』とか、『貴女を自分だけしか知らない場所に閉じ込めてしまいたい』などと猟奇的かつ犯罪予告めいた内容に変化していったとか。

 再度言うわ。
 名前を記したうえでの犯行予告。それを王女宛てに送るって。

 馬鹿以外の、なに?

 我がシャティエル国は、法治国家である。
 犯罪を犯した者は法律によって裁かれる。けれど、ただのバカを裁く法律は存在しない。変態も然り。
 国王の機嫌ひとつで、男爵家といえ一貴族を取り潰すわけにはいかない。

 お兄様はそう言ってお父様を説得し、一時的にとはいえリュメル家を庇ったそうよ。

 本人に犯罪を犯している自覚が一切無いからこそできる、超絶アホらしい犯罪者ノア・フォン・リュメル。
 そして、無自覚だからこそ厄介。
 学生の身でもあるし、彼にはまずなにが悪いのか理解させることから始めねば、と思っていたところへ、今日の騒ぎよ。
 王太子お兄様も、王女わたくしも、せっかく庇ったのに。与えた恩情、そのすべてが水の泡になったわ。

 王立騎士団の第一騎士隊隊長の目の前で行われた王女への不敬。
 これが5歳の子どもがしたことなら『微笑ましい出来事』だと見逃すことも可能でしょう。
 けれど、彼はすでに17歳。
 この国では成人と見做される。
 もう見逃すことはできなくなった。
 そして同じ場で王家に連なるベッケンバウワー公爵子息への無礼な発言の数々。
 そんな愚か者を王立の、つまり王家の資本で建てた学園に通わせるわけにはいかない。
 創立以来、初めての強制放校処分者となった。


……わたくしが、普通の娘のように生活したい、なんて我儘を通したせいもあったから。
 だから、処刑にせよという声もあった中で、彼に与えられた罰は放校処分を受けたことと、身体に二度と消えない焼き印を押されたこと。
 腕に大陸公用語で『犯罪者』と書かれた焼き印。
 彼らは焼き印の意味、解っているのかしら。ちゃんと読めたのかしら。それと共に今後生きなければならない意味も。


 それにしてもあのピンク、空気の読めない子だったわ。
 周りの騎士科の子たちはきちんと跪いてたわよ?
 ただ事じゃないって勘づいていたわよ?
 きっと、あの場にいたルークお兄様が誰なのか、解らない子もいたはず。
 でもお兄様の着ていた服の生地とか、その腕に刺繍された紋様の意味とか、高位貴族のそれだって、察するじゃない、普通は!
 それを子どものように、これはなに? あれは誰? って。
 まったく少しは自分で思考しなさいって言うのよ! 人間、思考を止めると老いるのが早くなるってお義姉様が仰っていたわ。



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