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王女宮にて2
それにしても。
「遂に、とうとうこの日が来てしまったかっ! 可愛いローゼに求婚者が現れてしまった……くぅぅっ……」
「あなた、そう悲観することはありませんよ。幸いアンネローゼは賢い娘です。言質を取られることなく躱したではありませんか」
お父様、お母様。
なぜ、こんな遅い時刻にわたくしの王女宮にいるのですか?
「さすが、私たちのローゼですね! 下手な返事をしていたらその場で連れ去られていた可能性もあったというのに!」
「連れ去るだと? そんなこと誰が許すものかっ! そうなったら開戦だっ。問答無用で全戦力投入してテュルクなど地図から消し去ってやるっ!」
お義姉様、お兄様。
あなた方も……以下略。
特にお兄様。物騒このうえない発言は、ここだけにしてくださいね。本当にお願いしますよ!
どういうわけかここ王女宮に、国王陛下と王妃陛下、王太子殿下とその妃殿下が集まっています。
カオスです。
わたくし、今日は気力も体力も尽きて、早々に寝たいというのに。
彼らは、今日、たまたま居合わせたルークお兄様(たまたま、よ。わたくしが呼び寄せたわけではなくてよっ)から、昼間あった出来事をつぶさに聞いているとかで。
あの不敬を働いたピンクと赤毛の処分を決定、施行させた後、わたくしの王女宮に集ったのです。
「ところでお兄様。昼間の赤毛とピンクブロンド両名は、もう……」
顔を真っ赤にして怒っているお兄様の注意を引こうと話しかければ、瞬時にして為政者の顔になりました。この変わり身の早さはさすがです。
「リュメル、だったか? お前のいうピンクは。
彼は、アンネローゼが王女だと明かされた後も、自分のなにが悪かったのか無自覚だったらしいぞ。
奴の実家に事の顛末を知らせたが、リュメル男爵家もクスナー男爵家も息子を排斥処分にすると届け出た。
焼き印も既に押されたはずだ。
……放校され、実家からも見放され平民になった2人は、今後どうなるのか解らない。
だが、それが彼らに与えられた罰なのだ」
「これは…もしや、乙女ゲームではなく、BLゲームだった、ということかしら。ピンクブロンドのヒロイン(♂)を巡るBLゲーム! あぁ、そうに違いないわっ」
お義姉さま?
なにをブツブツと仰ってますの?
「攻略対象者は同級生の赤毛、留学生の先輩、剣術指南の騎士、大学部の公爵子息、これに飛び級で入学してくるショタ枠にヨハン君が登場したら完璧な布陣だわっ!!
今回、ヒロイン(♂)は攻略失敗、バッドエンドを迎えたってわけね!」
……たまぁに、お義姉さまはお義姉様だけの思考の海に没入なさって、わたくしの声など届かなくなってしまうのよねぇ。
「ということは、つまり! 悪役令嬢ローゼちゃんの勝利! 完全勝利ね!!
長年の懸念が去ったわっ! 大勝利よっ!」
晴れ晴れとした笑顔で勝鬨を上げるお義姉様。
お兄様は元より、お父様もお母様も、こんな状態のお義姉様には慣れきっていて、スルーしているわ。呑気にお茶をいただいている始末。
「お兄様、あの……」
「大丈夫だよ、可愛いローゼ。
サラがあぁなったら暫く帰ってこないのは君も知っているだろう?
それに、あぁなった後のサラから齎される言葉は『神の啓示』だ。我々は大人しくそれを待つのみだ」
そうなのよね。
お義姉様はいつも、その直感的なお言葉でお兄様を導いていらっしゃる。
わたくしは生まれて以来『幸運の女神の愛し子』などと持て囃されているけれど、本当の幸運の女神はお義姉様なの。
サラ・フォン・ローリンゲン王太子妃殿下。
お義姉様の齎すその数々のお言葉で、お兄様はちゃんとした人間になった(と、言ったのはお兄様の侍従のミュラーだったわね)。
お兄様が“僕が発見した魔石だよ”、とお義姉様に渡した石は、お義姉様の弟君のルークお兄様が研究して魔鉱石と名を改めた。
ルークお兄様の研究で無限のエネルギーを生み出す鉱物になったのだけど、ルークお兄様曰く、“姉上の言ったことをヒントに実験していたら、偶然そうなっただけだよ。”とのこと。
全部、お義姉様が発端なの。
お義姉様が『みんなで学べる学園があったら、楽しかったでしょうねぇ』と溢した一言が契機となり、お兄様は学園都市建設計画を立ち上げ実行した。
もっともお兄様は、ご自分がそこに通ってお義姉さまときゃっきゃウフフの学園生活を送りたかったらしいの。
ご自分の年齢では建設が間に合わず、それは夢と消えた……無念……と肩を落として残念そうに仰ってたわ。
だからこそ、わたくしには、わたくしの望むどおりに生活させたいと、我儘を許してくださったの。
それもこれも、魔鉱石から多大な利益を生み出し、我がローリンゲン王家が過去に類を見ない大金持ち王家に成長したから、でもあるわ。
魔石を発見したローリンゲン王家。
研究・開発し、エネルギー化に成功したベッケンバウワー公爵家。
今や、どこの国にも引けを取らないエネルギーという強大なカードを握った我がシャティエル国は、他国からの留学生を受け入れるほどの学術的にも注目を浴びる強国となった。
つまり、他国からこの『魔鉱石』は狙われているの。
どこにあるのか、どうやって開発したのか、どのように使うのか。
誰もが興味津々だし、叶うなら自分の物にしたい。
そう考えるのは当然よね。
それを手に入れる為に、軍事力で手に入れるのか、同盟や条約を結んで合法的に手に入れるか。合法的にでもできるだけ安く手に入れることは可能なのか。
各国の思惑も千々に乱れ捲っていることでしょう。
すべての発端のお義姉様。
お義姉様は我が国の宝。本当の意味で幸運の女神です。守らなければなりません。お義姉様が幸運の女神だと、他国に知られてはなりません。
だからこその、わたくしの存在なのです。
『幸運の女神』という表看板は、わたくし。
わたくしが矢面に立って、お義姉様をお守りするのです。
それがお兄様の、王太子殿下の願い。延いては、この国の為になるのです。
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