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サラお義姉様の恋愛相談室1
しおりを挟むサラお義姉様はいたずらっ子みたいな表情でわたくしを見ます。
もうお子がお二人いるというのに、いつまでも可愛らしいったら……。
え。
こども?
「お義姉様! つわりで寝込んでいらしたのですよね! 今さらですが大丈夫なのですか?」
わたくしとしたことが!
なんてことなの!
自分のことで手一杯になって、お義姉様がどういう状況だったのかすっかり忘れて甘えてしまったわ!
「うふふ。そうね、今さらね。
だけどそれだけ貴女に余裕が無かった証拠ね。
今は少しだけ余裕が出てきたってことかしら?
おかげ様で私は大丈夫よ?
こうして話している方が気が紛れていいの。気を使わないで」
お義姉様がわたくしの髪を撫でてくださいます。
お茶でも淹れる方がいいのかしら。
でも、今は熱いお湯も用意していないの。
あぁ、本当にダメね、わたくしは。
「ねぇ、ローゼちゃん。ちゃんと考えてね?
セルジュークさま以外の殿方とふたりきりになったなら、警戒した?」
「いえ、そもそも彼以外とふたりきりになど、なりませんわ」
さすがのわたくしも、貞操観念くらいあります。
好きでもない異性とふたりきりになんてなりません!
絶対侍女か護衛かお友だちの同伴を願うわ。
「そこまでは分かっているのにねぇ。
貴女はちょーーっと頭でっかち、というか、恋愛面でアンバランスなのよねぇ。
自分が恋愛をしていると考えていない、でしょ?」
え?
「れんあい」
「そう。貴女、今、恋愛真っ最中なのよ?」
「レンアイ」
頭が真っ白になるかと思うほど、意外な単語を聞きました。
わたくし、恋愛、をしているのです、か……。
そう……。そうなのですね。
「そうよ? セルジュークさまのこと、好きだって自分でも認めていたじゃない?
恋愛をしているからこその、貴女の体調不良でしょう?
……まぁ、だいぶ派手だとは思うけれど」
え?
「あの、恋愛と、この体調不良と関係があるのですか?」
「恋する乙女が食欲不振になるなんて、大定番のはずだけど……。
ローゼちゃん。貴女もしかして、恋愛小説の類は読んだことないでしょう?」
「あ……はい。未読です。
他に読まなければならない本は沢山あるので……」
「ん、もう!
地政学の難しい本とかブ厚い歴史書ばかり読んでるのも問題よねぇ……。
貴女、どうせ速読ができるのだから、一冊か二冊くらい読んでみれば?
恋する乙女が好きな相手を前にして赤面してしまうとか、ごはんが食べられなくなるとか、当たり前に出てくるわよ?」
「コイスルオトメ」
「そうよローゼちゃん。
はっきり言って貴女の今の状態は『恋煩い』そのものよ!」
「コイワズライ」
今まで知識としてあった単語が、違う意味を纏ってわたくしの脳内を駆け巡っているわ。
「わたくしが、こい……」
恋煩い。意味は、恋するあまりの悩みや気のふさぎ。恋のやまい。
「あんなにハッキリとした不整脈だったのに?!
手汗も派手に!
それに胸の奥に確かな痛みもありましたわ!
お食事も、本当に喉に詰まって、飲み込めなくて……。
それが全部、恋煩い、のせいだと言うのですか?
……なんて、恐ろしいの……」
昔、目から鱗が落ちる、という言い回しをお義姉様から習いました。
なんらかのきっかけで急に物事が分かるようになること、なのだと。
それが! いま! まさに! 起こりましたわ。
「人というものは、ここまで愚かになるのですか。
心の持ちようがここまで体調不良となって表れるのですか。
なんと……わたくしも、人の子なのですね……」
お義姉様はなんとも微妙な表情——残念な子ねぇと思っていらっしゃる——でわたくしを見つめています。
「わたくしは、あんなに嫌がっていた『女神の愛し子』という呼び名に影響されていたのかもしれません。
自分は人とは違うのだと、傲慢にも思い上がっておりました。恥ずべきことです……」
なんでしょう。
ホッとするというか、気が抜けるというか。
反省点が明確になったから、でしょうか。
安堵した、ということかも知れません。
恋愛モノの小説も、必要ないと思わず読んでみないといけませんね。
同じ年頃の令嬢が嗜むモノを把握しないと、ますます浮世離れしてしまうわ!
「貴女は王女としての自覚が幼い頃からちゃんとあっただけ。
それでもローゼちゃん。貴女は年頃の少女なのよ。紛れもなく、ね」
年頃の、少女……。
そうです。お義姉様の仰るとおりです。
「わたくし……自分が恥ずかしいです」
「そうねぇ。
無防備に異性に身体を預けたり、キスを強請るように目をつぶったり?
淑女教育でそんな項目あったかしら?」
「や、やめてくださいっ。
もう、言わないで!
忘れてくださいっ。うそですっわたくしのしたことではありませんっ」
「つい先ほど、貴女の口から聞~き~ま~し~た~♪」
「あぁああぁーーあぁぁぁぁぁーーーあぁぁーーーーーー!」
聞こえません、耳を塞いで声を上げれば、お義姉様のお声も聞こえませんったら聞こえませんっ!
恥ずかしさの極致ですっ。
「だからこそ、自分のしたことが恥ずかしくなってセルジューク様を前にすると逃げてしまった、ということなのかしらね?」
え?
「あのねぇローゼちゃん?
貴女、顔見て逃げ出すってかなり失礼なことしてたわよ」
は?
「例えば、よ?
宮殿の回廊の端と端で、貴女と私が出会ったとしましょう?
その時、私が貴女と目が合った途端に、来た道を引き返して貴女を無視したら、どう思う?」
想像して——。
血の気が引きました。
「絶望しか、感じません……」
お義姉様に無視される?
逃げられる?
なんてこと!
嫌われたと感じるじゃありませんか!!
……はっ!
わたくしはそれをアスラーンにしてしまいましたわ!
「お義姉様」
「気が付いた?」
「はい。失礼な、というか……好きな人に対してする態度じゃありませんよね?
なんてこと!
わたくしはなんてことをしていたの?
自分の気持ちに手一杯で相手の気持ちを慮ることもしないなんて!
なんて傲慢な女なのでしょうかわたくしは!
え? まさかこれで嫌われてしまうなんてことになったらわたくしどうしたらいいのですか?」
「落ち着いて、ローゼちゃん」
混乱を極めているわたくしに、お義姉様は優しく語りかけます。
「ひとつ、確認するわよ? セルジューク様は、今、三年生でしょう?」
そうですね。そのとおりなので黙って頷きます。
「春が来たら、卒業してしまうのではなくて?」
あ。
そうです。
アスラーンは卒業してしまう。
メルツェ様やカシム様も三年生……。
もう卒業してしまうのね。卒業したら、今までみたいに学園で会うことはないのね。
留学生なのだから、祖国へ帰ってしまうのだわ。
時間がない。
「登園拒否なんてしていたら、彼と会う時間がどんどん減るのではなくて?」
畳みかける様に問いかけるお義姉様。
わたくしは呆然としてしまう。
まったくもって、お義姉様のおっしゃるとおり。
なぜ、こんな簡単なことに気が付かなかったのでしょうか。
当たり前のことなのに。
自分で卒業生の為にイベントをするって決めたくせに。
でも。
「また、彼の顔を見たら、酷く、動揺して……パニック状態になって逃げ出すかも、しれません……」
わたくしはどうしたら良いのですか? お義姉さま。
そう思いながらお義姉様のお顔を見れば、いつもどおり優しく微笑むサラお義姉様。
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