65 / 68
アスラーンとの話し合い
しおりを挟む城に戻ると、王女宮の玄関前に人影が。
「お帰り。アンネローゼ」
馬車から降りるわたくしに手を貸してくれたのは人影、改め、アスラーン。
朝は二日酔いで起きれなかったと聞いたけど、もう大丈夫なのね。
ちょっと疲れている風だけど、顔色は悪くないわ。
さきほどから玄関前でわたくしの帰りを待っていたような風情だけど?
そう思いながら彼の顔を見上げれば。
「あぁ。待たせて貰っていた」
こーれーはー。
昨日からたびたびあったことだけど、わたくしとアスラーン、心と心で会話しているわよね。
きちんと状況説明してもらわないといけないみたい。
「マチルダ。アスラーンと二人で話したいの。
場所を……そうね、ガゼボにお通しして。
お茶の用意もお願いね。
わたくしは着替えてから行くわ」
わたくしを迎える為にいた筆頭侍女に指示を出したあと、アスラーンに目線を向ければ『了解』とでも言うように頷いてくれた。
ガゼボは王女宮の庭の一角、人工池の中央にある浮島の上に作られている。
360度人目に晒されるだろうその場所は、恐らくこの王女宮の中で人に聞かれたくない話をするには最適な場所でしょう。
ガゼボへ入るには、一本しかない桟橋を渡るしかないし、人工池は人が潜めるほど深くはない。
筆頭侍女がなにも文句を言わなかったのも、男女二人きりにしても不埒な真似はできないと判断されたのだと思うわ。
◇
わたくしが着替え終えガゼボへ向かった時は、まだ陽は高く夕方というより昼間と言っていい時間。
ガゼボへ向かう桟橋の手前に立つキャシーがわたくしに語り掛ける。
「長い話し合いになりそうですか?」
キャシーはどこまで察しているのかしら。
「陽が沈むまえに終わればいいけど」
そう答えたらケロっとした顔で、
「善からぬことをされそうになったら止めます」
「……されないわよ!」
「お気をつけて」
されないわよ?
たぶんだけど?
話をするだけだし?
ちょっと動揺したけれど、ちゃんと真っ直ぐ歩いて(当たり前よね!)ガゼボに着いたら、そこに常設してあるテーブルにはお茶の用意が既に整っていた。
そこにアスラーンが長い足を組んで優雅にお茶の香りを楽しんでいたわ。
その姿は貴公子そのもの。
当然ではあるわね。王子殿下なのだし。
「すまない、先に頂いていた」
わたくしに気が付いたアスラーンが立ち上がろうとするのを押し止め、彼の前の椅子に座る。
そんな気楽な態度のわたくしに、アスラーンはニヤニヤと笑う。
「おまえは本当に体面とか気にしないんだな」
正しい淑女像としては、殿方のエスコートを待って席に着くのが望ましい姿なのでしょうけど。
「アスラーンだけだから、と思ったけど。
気に障ったかしら?」
「いや。俺には不要だからそれでいい」
そんな風に言いながら、わたくしを見つめる瞳は甘い。
そうなのよ。
ずっと甘いモノを感じるの。味覚で味わった訳でもないのに、甘いと感じるのよ。
いつから?
「それで? 二日酔いは治ったの?
朝、貴方の様子を訊いたら深酒してまだ寝てるって返事だったわよ」
だから一人で登園したのよ。
一緒にいられると思って期待したわたくしがバカみたい。
お兄様とばかり仲良くし過ぎじゃない?
まぁ、仲が良いのに越したことはないけども。
今、話したいのはソレじゃないのよ。
「率直に訊くわ。貴方、人の考えが読めるのね?
もしかして、テュルク国初代国王が魔法使いだという伝説と繋がりがある?」
わたくしの問いに、アスラーンの瞳が眇められる。
「さすが。気が付いたか」
「当たり前よ。
あれだけわたくしに“絶対おまえを嫁にする”とか“俺のアンネローゼ”とか心の声? で伝えるなんて卑怯じゃないかしら?
それになに?
あの副音声、とでも言う?
わたくしに恋焦がれるあまり留年したと言いながら、その実、白紙答案だったって告白は!」
「待て。おまえ、俺の声が聞こえたって?」
「聞こえていたわよ。昨日」
「え? いつから? ずっと? 今も?」
アスラーンの驚愕の表情。
焦っているの?
前のめりになって聞いてくるのはなぜ?
それにいつから、と聞かれても。
「今は……聞こえないわ。
昨日は……舞台の上で、貴方の受賞の一言とやらを言うまえ、わたくしを見たでしょう?
そのときに“絶対おまえを嫁にするからな”って聞こえたわ。
そうね、それが初めて脳内に直接響いて聞こえた貴方の声だったわね。
そのあと、貴方は留年のことをみんなの前で言ったじゃない?
そんな大事なこと、聞いてないわよ! ってわたくしが思ったら“言ってないからな、すまん”ってすぐ返事があったわ」
あら?
アスラーン、貴方お顔が真っ赤になっていてよ。
「うそ、だろ……? 俺の声が、届いていたって?」
「そのあとわたくしの右手をとって、みんなの前で公開求婚、したじゃない?
そのときは、もう、耳に拡声器を通して聞こえる声と、貴方の口から直接聞こえる声と、この二つは同じ音だったけど、それと前後して脳内に直接聞こえる違う言葉で、もう、なにがなんやら……よ?」
「えー? あー。まさか、そんな馬鹿な……力が強くなった? いや、そんなまさか……」
ブツブツ言いながら視線を逸らすアスラーン。彼も混乱しているの? どうして?
「お兄様から婚約の確約宣言をいただいて、場内は物凄い騒ぎになったじゃない?
貴方、あのときわたくしを抱き上げたでしょう?
でもわたくしが心の中で“下ろして”って言ったらすぐに下ろしてくれたわ。
あのときはすぐにメルツェ様の所へ行きたかったから流したけど、本当はすぐ詳しく訊きたかったのよ。
わたくし達、心の声で会話してるって分かったから」
これを言うのはキツイわね。
でも訊かずにはいられないわ。だってわたくし達のこれからが懸かってくるのだもの!
「それでね、だから考察したわ。今まであったこと、全部」
急にアスラーンから春の雰囲気を感じとったこと。
いきなり脳内に夜の大聖堂のビジョンが浮かんだこと。
……この気持ちの、こと。
「まさかとは思ったけど、貴方、魅了の力を使えるの?
その力を使われたから、わたくし、あなたを好きになったの?」
46
あなたにおすすめの小説
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように
ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』
運命の日。
ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。
(私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)
今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。
ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。
もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。
そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。
ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。
ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。
でも、帰ってきたのは護衛のみ。
その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。
《登場人物》
☆ルキナ(16) 公爵令嬢。
☆ジークレイン(24) ルキナの兄。
☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。
★ブリトニー(18) パン屋の娘。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる