王女殿下のモラトリアム

あとさん♪

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アスラーンとの話し合い

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 城に戻ると、王女宮の玄関前に人影が。

「お帰り。アンネローゼ」

 馬車から降りるわたくしに手を貸してくれたのは人影、改め、アスラーン。

 朝は二日酔いで起きれなかったと聞いたけど、もう大丈夫なのね。
 ちょっと疲れている風だけど、顔色は悪くないわ。

 さきほどから玄関前ここでわたくしの帰りを待っていたような風情だけど?
 そう思いながら彼の顔を見上げれば。

「あぁ。待たせて貰っていた」

 こーれーはー。

 昨日からたびたびあったことだけど、わたくしとアスラーン、心と心で会話しているわよね。
 きちんと状況説明してもらわないといけないみたい。

「マチルダ。アスラーンと二人で話したいの。
 場所を……そうね、ガゼボにお通しして。
 お茶の用意もお願いね。
 わたくしは着替えてから行くわ」

 わたくしを迎える為にいた筆頭侍女マチルダに指示を出したあと、アスラーンに目線を向ければ『了解』とでも言うように頷いてくれた。

 ガゼボは王女宮の庭の一角、人工池の中央にある浮島の上に作られている。
 360度人目に晒されるだろうその場所は、恐らくこの王女宮の中で人に聞かれたくない話をするには最適な場所でしょう。
 ガゼボへ入るには、一本しかない桟橋を渡るしかないし、人工池は人が潜めるほど深くはない。
 筆頭侍女マチルダがなにも文句を言わなかったのも、男女二人きりにしても不埒な真似はできないと判断されたのだと思うわ。





 わたくしが着替え終えガゼボへ向かった時は、まだ陽は高く夕方というより昼間と言っていい時間。
 ガゼボへ向かう桟橋の手前に立つキャシーがわたくしに語り掛ける。

「長い話し合いになりそうですか?」

 キャシーはどこまで察しているのかしら。

「陽が沈むまえに終わればいいけど」

 そう答えたらケロっとした顔で、

「善からぬことをされそうになったら止めます」

「……されないわよ!」

「お気をつけて」

 されないわよ?
 たぶんだけど?
 話をするだけだし?

 ちょっと動揺したけれど、ちゃんと真っ直ぐ歩いて(当たり前よね!)ガゼボに着いたら、そこに常設してあるテーブルにはお茶の用意が既に整っていた。
 そこにアスラーンが長い足を組んで優雅にお茶の香りを楽しんでいたわ。
 その姿は貴公子そのもの。
 当然ではあるわね。王子殿下なのだし。

「すまない、先に頂いていた」

 わたくしに気が付いたアスラーンが立ち上がろうとするのを押し止め、彼の前の椅子に座る。
 そんな気楽な態度のわたくしに、アスラーンはニヤニヤと笑う。

「おまえは本当に体面とか気にしないんだな」

 正しい淑女像としては、殿方のエスコートを待って席に着くのが望ましい姿なのでしょうけど。

「アスラーンだけだから、と思ったけど。
 気に障ったかしら?」

「いや。俺には不要だからそれでいい」

 そんな風に言いながら、わたくしを見つめる瞳は甘い。

 そうなのよ。
 ずっと甘いモノを感じるの。味覚で味わった訳でもないのに、のよ。
 いつから?

「それで? 二日酔いは治ったの?
 朝、貴方の様子を訊いたら深酒してまだ寝てるって返事だったわよ」

 だから一人で登園したのよ。
 一緒にいられると思って期待したわたくしがバカみたい。
 お兄様とばかり仲良くし過ぎじゃない?
 まぁ、仲が良いのに越したことはないけども。

 今、話したいのはソレじゃないのよ。

「率直に訊くわ。貴方、人の考えが読めるのね?
 もしかして、テュルク国初代国王が魔法使いだという伝説と繋がりがある?」

 わたくしの問いに、アスラーンの瞳が眇められる。

「さすが。気が付いたか」

「当たり前よ。
 あれだけわたくしに“絶対おまえを嫁にする”とか“俺のアンネローゼ”とか心の声? で伝えるなんて卑怯じゃないかしら?
 それになに?
 あの副音声、とでも言う?
 わたくしに恋焦がれるあまり留年したと言いながら、その実、白紙答案だったって告白は!」

「待て。おまえ、俺の声が聞こえたって?」

「聞こえていたわよ。昨日」

「え? いつから? ずっと? 今も?」

 アスラーンの驚愕の表情。
 焦っているの?
 前のめりになって聞いてくるのはなぜ?
 それにいつから、と聞かれても。

「今は……聞こえないわ。
 昨日は……舞台の上で、貴方の受賞の一言とやらを言うまえ、わたくしを見たでしょう?
 そのときに“絶対おまえを嫁にするからな”って聞こえたわ。
 そうね、それが初めて脳内に直接響いて聞こえた貴方の声だったわね。
 そのあと、貴方は留年のことをみんなの前で言ったじゃない?
 そんな大事なこと、聞いてないわよ! ってわたくしが思ったら“言ってないからな、すまん”ってすぐ返事があったわ」

 あら?
 アスラーン、貴方お顔が真っ赤になっていてよ。

「うそ、だろ……? 俺の声が、届いていたって?」

「そのあとわたくしの右手をとって、みんなの前で公開求婚、したじゃない?
 そのときは、もう、耳に拡声器を通して聞こえる声と、貴方の口から直接聞こえる声と、この二つは同じ音だったけど、それと前後して脳内に直接聞こえる違う言葉で、もう、なにがなんやら……よ?」

「えー? あー。まさか、そんな馬鹿な……力が強くなった? いや、そんなまさか……」

 ブツブツ言いながら視線を逸らすアスラーン。彼も混乱しているの? どうして?

「お兄様から婚約の確約宣言をいただいて、場内は物凄い騒ぎになったじゃない?
 貴方、あのときわたくしを抱き上げたでしょう?
 でもわたくしが心の中で“下ろして”って言ったらすぐに下ろしてくれたわ。
 あのときはすぐにメルツェ様の所へ行きたかったから流したけど、本当はすぐ詳しく訊きたかったのよ。
 わたくし達、心の声で会話してるって分かったから」

 これを言うのはキツイわね。
 でも訊かずにはいられないわ。だってわたくし達のこれからが懸かってくるのだもの!

「それでね、だから考察したわ。今まであったこと、全部」

 急にアスラーンから春の雰囲気を感じとったこと。
 いきなり脳内に夜の大聖堂のビジョンが浮かんだこと。
 ……この気持ちの、こと。

「まさかとは思ったけど、貴方、魅了の力を使えるの?
 その力を使われたから、わたくし、あなたを好きになったの?」



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