俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~

あとさん♪

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本編

7.拒絶の理由

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 その日の午後の講義、俺はすべて聞き逃した。
 教室にはいた。だから講義は受けた。でも俺の耳はすべての音を拾うことを拒否した。

 ブリュンヒルデ嬢に、あんなにもきっぱりと断られるとは思ってもいなかった。
 即答は出来ず思案するかな?  とは想定していた。でもきっとイザベラなりジークなりが後押ししてくれて、結局は一緒に行動することになるだろうと踏んでいた。
 だが、本人が断ってしまえばイザベラやジークの後押しは、無い。

 心ここにあらずのまま、放課後を過ごした。
 久しぶりにファンクラブの女の子たちに囲まれていた。
 一緒にお茶会をした。
 俺はちゃんと笑えていたのだろうか?

 帰宅するとイザベラが俺を待っていた。

「話しがあるわ、

 イザベラが“兄さま”ではなく、俺の名前を呼ぶときは、間違いなく彼女が怒っているときだ。きっと俺は何かをしてしまっている。そしてそれは今日の昼、ブリュンヒルデ嬢が俺の提案を拒絶したことと繋がっている。
 談話室にお茶を用意され、話しは長丁場になるな、と予想した。



「先日、初等部女子学生で、合同お茶会があったの」

 そんな出だしでイザベラが語ってくれた内容は。



 それは授業の一環として、初等部女子三学年合同であったお茶会での出来事。三年生が主催者として下級生をもてなす形での実践に近いレッスン。茶器も茶葉も一流の物を取り揃え、学生食堂の全面協力の元、完璧なアフタヌーンティー形式で恙なく終了するかと思われた矢先。ブリュンヒルデ嬢の前に一人の女生徒が訪れた。
 名まえをアーデルハイド・フォン・ローリンゲン。輝くハニーブロンドに翡翠の瞳。王妃殿下に生き写しと言われる美貌。国王陛下が目の中に入れても痛くないと豪語する、この国の第一王女殿下、二年生だ。

「初めまして。ブリュンヒルデさま、ですね? わたくし、アーデルハイドと申します。お見知りおきくださると、とても嬉しいですわ」

突然、王女殿下に話しかけられ驚くも、三年生の矜持か、席を勧めたブリュンヒルデに対して、アーデルハイドはそれを固辞。
 立ったまま、座った姿勢のブリュンヒルデに物申した。

「この学園の女子学生、大半の気持ち、受け取っては頂けませんか?」

「……どういった、お気持ちでしょうか?」

「わたくしと懇意にしているシュヴェスターのお姉さまからも、一年生からも、同様の苦情が来ておりますの。どうか、オリヴァー・フォン・ロイエンタールさまを独り占めなさらないで下さいませ。あの方は、この学園、みんなのアイドルなのでしょう? ファンクラブの会員でもない貴女が直接お話しするのも、本当は憚られることだと伺いましたわ。貴女があの方を独占するせいで、ファンクラブの会員が皆不安に、そして不満にも思っておりますわ」

「独占」

「はい。最近は、ファンクラブミーティングにも顔をお出ししてくださらないとか。それもこれも全部、ブリュンヒルデさまのせいだと、わたくしの処に苦情が参りました」

「……なるほど?」

「ハイジさま! ……いえ、アーデルハイドさま。ブリュンヒルデが兄を独占している訳ではなく、どちらかと言えば」

「イザベラお姉さま。わたくしがお話ししているのは、周囲まわりからどう見えているのか、ということです。ご本人のお気持ちの問題ではないのです」

 きっぱりと言うアーデルハイドに、イザベラは黙った。

「なるほど、心得ました。わざわざのご忠告、痛み入ります」

 緩やかに頭を下げるブリュンヒルデ。

「ありがとう。わたくし、確かにお願い致しましたからね」

 そう言って微笑み、立ち去るアーデルハイド王女殿下。
 ちょうど時限の終わりを告げる鐘が鳴り、その場はお開きになった。

「ブリュー、大丈夫?」

「ありがとうね、イザベラ。もしかして今までわたくしの盾役になってくれていたのかしら?」

 客役の下級生を見送りながら、イザベラとブリュンヒルデはこっそりと話す。

「アーデルハイドさまの仰ることも、もっともだわね。これからは休日に行動をご一緒するのは控えるわ」

 そうぽつりと呟いた友の言葉に、少なからずの寂しさが混じっているとイザベラは感じた。



「……こういうやり取りがあった後での、今日のオリヴァーの誘い。タイミングが悪いにも程があるわ。しかも! どうして食堂なんて耳目を集める場所で声をかけたりしたの? 夜、わたくしに言えば良かったのよ! わたくし経由でなら、なんの問題もなく誘えたのに!」

 もっとも過ぎて、ぐうの音も出ないとはこのことか。でも俺は、何も考えず、彼女を誘う為に初等部棟に足を運んだ。
 どんな小さなきっかけでもいい、直接会いたかったからだ。

「お前、本当にのほほんと過ごしているんだな」

「わっ」

「クラウスお兄様。聞いてらしたの?」

 談話室に現れ、俺たちの会話に加わったのは四つ上のクラウス兄上だ。

「そりゃあ、ふたりがいつまでも食堂に来ないと、侍従が心配するから……で? 話を聞いた限り、オリヴァーが考えなしに行動したせいで、ひとりの女生徒が窮地に陥っているんだな?」

「え? キュウチ?」

「だってそうだろう? 授業中とはいえ、一国の王女殿下に直接苦情を言われたんだぞ? 悪い方向に覚えめでたくなってどうする? 不名誉極まりないではないか」

!!! 愕然とした。クラウス兄上の言うとおりだ。

「それもこれも、お前がファンクラブとやらを放置して、ひとりの女生徒ばかりを贔屓したせいだって? 女の嫉妬は禍根を生むぞ?」

「カコンを生む?」

「王女殿下は“シュヴェスターのお姉さまから苦情を聞いた”、と言ってたのだろう? つまり、現高等部二年生はブリュンヒルデ嬢を敵視してるってことだ。初等部一年生からの苦情とやらも、シュヴェスターの姉から聞いた私怨だろう。高等部一年生の女生徒も敵って訳だな。六学年いるうちの、過半数以上から敵視されるなんて、ブリュンヒルデ嬢も気の毒に」

「わたくしが傍に居る以上、あの子を窮地に立たせたりしませんわ!」

「だからこそ、王女殿下が忠告したんだろう。“自分が叱責したのだから、それ以上何かするな”という、殿下なりの周りへの牽制だよ」

「あぁ……それもあるかも、だけど、私怨めいたものも、ちょっとはあったかもしれないわ……」

「シエン?」

「オリヴァー。あなたワザと言ってる? ハイジさまは……アーデルハイド殿下は、オリヴァーを昔から慕ってらしたわよ?」

「へ?」

「そうなのか?」

「あぁ……クラウス兄さまが気付かないのは仕方ないけど、オリヴァーが気が付いてないとは思わなかったわ……意外と鈍感なのね! オリヴァーがジークさまやラインハルトさまと一緒に転げ回っていた時間、わたくしはハイジさまと一緒にいたのよ? あの子、ずっとオリヴァーを憧れの眼差しで見ていたわ。でも、わたくしとジークさまの婚約が先に纏まってしまったから……」

「あぁ……、そうだね。王家と一貴族家に複数の縁組が決まる訳がないよね……なるほど、“私怨”……というより“八つ当たり”かな」

 イザベラとクラウス兄上の会話がどこか遠いところから聞こえる気がした。

 知らなかったことが多すぎる。
 いや、本来は知っていて然るべきことなのだ。
 だって、すべて俺がしでかしたことが、積もり積もった結果が、これなのだから。

 ――アーデルハイド殿下の気持ち、とやらは仕方ないにしても。だって、あの子からのアクションは無かったぞ? 何も言われていないぞ? 憧れの眼差しで見られても解る訳ないだろう!?

 ともあれ。

 ファンクラブを公認にしたのは、俺だ。
 それを放置したのも、俺だ。
 そのせいで、ファンクラブの子たちの不満がブリュンヒルデ嬢に集中してるって?
 王女殿下による、公衆での直々の忠告だって?

 なんてこった!
 そのせいで、今日の昼、俺はブリュンヒルデ嬢に拒絶されたのか!

 なんてこった……。ブリュンヒルデ嬢を窮地に立たせて置きながら、俺は俺のショックを引きずって、何もしなかった。

 なんて、こった…………。迂闊な上に、マヌケで、大馬鹿野郎だ、俺は。
 俺は……

「俺は、馬鹿だ……」

「そうね」「そうだな」

兄と妹が同時に俺をばっさりと断じた。ふたりが冷たい。でも仕方なかった。



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