多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪

文字の大きさ
3 / 32
本編

3.嫁入りの事情

しおりを挟む
 
 破瓜の血の量が半端なく多かったせいで、皆様にとても心配をかけました。
 逆に、気をつかわれ過ぎて申し訳ないくらいです。
 私自身に痛みを感じない(ハンナは優秀な治癒魔法の使い手だとかで、彼女の治癒のお陰です)ので、なんだか夢の中で起こった出来事のような気がします。
 ……なんていうと、またハンナたちに憐みまじりの視線を受けてしまうので、また気をつかうのですが……。

 やはり体格差という大きな問題が有りますよね。大きさの合わないネジを無理やりネジ穴に押し込んだら、ネジ穴が壊れるなんて、誰にでもわかる事でしょう?  物の道理という奴です。
 あぁ、でも世の中にはネジの方が壊れるって現象もありますねぇ。私の旦那さまは頑丈でしたのね。くらがりではっきりとは拝見しておりませんでしたが、なにやらご立派なイチモツでしたよ。とは言っても、私が記憶の中で比べているのは、産まれたばかりの頃の甥っ子のソレですからねぇ。

 恐らく、あの流血騒ぎのせいでしょう、初夜以来、旦那さまのお渡りが有りません。どうしましょうね。お渡りどころか、お顔も拝見していないのです。

 そもそも私は多産が見込まれて嫁いだのです。
 でなければ平々凡々の私が誉れある辺境伯家になんて嫁げません。

 私の家は私と同じく平々凡々な子爵家です。ヒト様の話題に上るのは多産エピソードくらいでしょうか。母方の家系が代々多産な上に安産が有名でして。女領主だったお祖母様は、魔物退治したその1時間後に私の母を産んだ、とか。えぇ、臨月で魔物討伐に参加していたのですよ。孫の私から見ても豪気な方です。参加していただけでなく、実際に魔物を屠っていたという事実が凄まじいわよね。63歳の今でも現役で魔物討伐隊に加わっている生きる伝説です。で、そんなタフな祖母から生まれた母は、そのタフな血筋を見込まれて父(アウラード子爵家)の元に嫁ぎまして。見事に五男三女の子宝に恵まれまして。

 つまり、何を言いたいかというと、私がこのフィーニス辺境伯家に嫁入りした訳は、そんな祖母や母のように、子ども、ぶっちゃけ跡継ぎを産むことを主目的としたものなのです。でなければ、祖母のように特別な戦闘能力も無い、姉のように美しい容姿も無い、何もかも平凡なただの子爵令嬢が、由緒ある誉れ高い辺境伯家の当主さまに嫁ぐなど無理な話だったのです。私に期待されているのは、一人でも多く子どもを産むことなのです。

 でもねぇ。

 どんなに畑が栄養豊富でも種を蒔かなければ芽は出ません。花も咲かない実もならない。
 つまり、現状での私はお役目を全う出来ないのです。どうしましょう。なんとか旦那さまであるイザークさまにその気になって貰わねば!  とは、思うのです。

 私は、ちゃんと役に立ちたいのです。私が嫁いだ使命をちゃんとまっとうしたいのです。今のままではフィーニスの方たちにご面倒をおかけするだけの足手まといの役立たずです。

 ですが、朝食の席にも顔を見せないまま、いつの間にか、魔物退治の遠征に出てしまってるとかで、どうにもこうにも。
 あの流血騒ぎの朝からかれこれ二週間、音沙汰なしです。
 せめて、お手紙を寄越すことは出来ないかしら。
 私は毎日手紙を書いているのですが、それはお手元に届いているのかしら。

 旦那さま、気が付いていらっしゃるかしら。
 私たち、まともに会話を交わしていないという事実に。

 せめて、あの時。
『俺の愛は、期待しないでくれ』と言われた時に、私が気の利いた返答をしていれば会話を交わしたと言えるのだけど。
 あの時は驚きの余り、何の返事もできませんでしたからねぇ。
 とは言っても、どう返答すれば会話になったのかしら。

  私が姉のように美しい金髪碧眼のぼん、きゅっ、ぼんなら、もっと優しく扱って貰えたのでしょうか。一度姿を消して、私が寝たのを見計らってコトに及んだということは、その気にならない小娘だったけど、この結婚の意義を思い返して引き返して来た、ということでしょう。私の顔なんか見たくない、反応なんてどうでもいい、そう思ってのあの態度だったのだと推察します。

 ……それも当然ですね。私は金髪とはとても言えない、くすんだ麦わら色の髪。よくある若草色の瞳。顔は丸くてこどもっぽくて、たぶん、私の印象は森の小動物。リスとかネズミとか。あぁ、そうか。ひとつ誇れるとすれば、小さい頃から風邪一つ引かない健康優良児だったこと、でしょうかね。
 こんな私が、あの堂々として美々しいイザークさまの隣に並ぼうというのが、そもそも烏滸おこがましい話だものねぇ。

 実は私、母方のおばあ様から、フィーニス辺境伯家、代々の歴戦の雄姿を聞き及んでおりまして。
 若くして当主となったイザークさまのお噂も伺っておりまして。
 いつしか私の憧れになっていたイザークさま。
 まさか、その憧れのイザークさまに私が嫁ぐことになるなんて!
 自分に白羽の矢が立つなんて思いも寄らなかった幸運に、胸を躍らせていた婚約期間だったのですが。

 現実はこんなものです。

 世の中ままならないモノ、と言いますものねぇ。

 旦那さまのお顔は拝見できないけれど、使用人のみなさんが手厚く遇してくれるから、余りわがままを言うのも憚られます。ただ時間ばかりが無為に過ぎ、私は焦るばかりです。


しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう

音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。 幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。 事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。 しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。 己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。 修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。

処理中です...