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本編
2.生きてますよ
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※流血注意
昨夜のあれこれは夢ではなかったようです。ですが、どういった訳なのでしょうか?
昨夜の旦那様は、私が小娘過ぎて失望し、退室なさったのだと思ったのですが。
引き返して来た訳はなんなのでしょう?
目が覚めた時に旦那様の姿はなく、というか、侍女の声で目が覚めました。
「───、若奥様っ!
よかった、若奥様がお目覚めになられました!」
昨日、私付きになったと自己紹介してくれた侍女が、涙目になって私の覚醒を確認した後、他の使用人を呼んで私を起き上がらせてくれた所でぎょっとしました。
何に?
シーツが血の海だった事に。
私の寝ていた腰辺りを中心に、えぇ、間違いなく血の海という表現が正しい状態の鮮血まみれのシーツに、途轍もなく驚きました。私自身は痛いところなんてどこにもないのに!
「若奥様、立てますか? 湯浴みをご用意致しましたが、入られますか?」
ハンナが心配そうに問い掛けてくれます。
ハンナは私のお母さまくらいの年齢の侍女で、その彼女が涙目なのって、つまり、これ……あら? 月のモノが来たの? いいえ、先週終わったばかりだから月のモノではないですよ?
…ってことは、破瓜の血? ですよね?
それって、こんなに派手派手しいもの? でもハンナのこの慌て具合は、ちょっと只事ではないっぽい…ですよ。お医者さまも呼ばれているようで。
それにしても、旦那様はどちらにおられるのでしょう? お姿が見えません。
私が湯浴みをしている間に、あのベッドは何事もなかったように綺麗な状態に戻っていました。辺境伯家の侍女さんたちってば有能ですねぇ。
とはいえ、今私は夫婦の寝室ではなく、私用にと宛がわれた自室のベッドに居ます。
お医者様に診察されて。
あれは正しく破瓜の血なんですって! あんなに出るものなんですねぇ、びっくりしました。なんせ、初めての体験ですからね。
「いいえ、若奥様。あそこまで酷いのは、私初めて見ました」
と青い顔で言ったのは、ハンナと同じく私付きになった侍女、ピアです。彼女は私のお姉さんと言っていい年頃の侍女で、既婚者だとか。自分の初夜の時にここまでの流血は見なかったと力説してくれました。
なるほど、個人差があるものなのですね。
「体格差がございますから、ある程度は仕方がないとは存じますが…」
そういって言葉を濁し、重い溜息をついたハンナ。
そうですね、私と旦那様では体格差がありますねぇ。
「旦那様は、どちらに?」
私がハンナに問うと。
ハンナは一瞬にして極悪人の表情になって。
「逃げやがりましたわ」
あんの糞坊主、どうしてくれよう…そう呪詛のようにブツブツと呟くハンナに驚きです。糞坊主って言いませんでしたか?
「恐れながら、私はかつてイザーク様の乳母でしたので」
なるほど。お小さい頃のイザーク様をご存じだからこその悪態なのですね。
そしてハンナとピアに問われるまま、昨夜あった初夜の出来事を覚えている限り話しましたところ。
二人の顔色がどんどん悪くなっていって。
「あぁん? “俺の愛を期待するな”ですってぇ?」
「てめぇが下手糞なのを棚上げする発言を先にしたから許されると思うなよあの糞坊主…」
侍女ふたりの目付きと口調がとても凶悪になってます。
「若旦那様は、たぶん、慣らさないで突っ込んだってことですよ、ねぇ?」
「こんな…、小柄な乙女に、しかもご自分の妻に対して、なんて非道なマネを…」
二人で、あの、とても、怖い、のですけど、あのっ
「せめて、気持ちよくさせてとか、配慮があってしかるべきだと思いますがねっ!」
「まったくもって同感だわピア。まさか、お前の意見に同意する日が来ようとは。閨の教育はどうなっていたの?! ギル! ギルを呼んで!」
二人で憤慨しながらそこまで言って、私の存在を思い出したらしいハンナが慌てて表情を穏やかなモノに変え、優雅に且つ素早く退出しました。
ピアが温かいハーブティーを淹れ、休息を取るよう勧めてくれたので、私は有り難くその勧めに従って休みました。勿論、ハーブティーを頂いてから。
30過ぎでも糞坊主とか言われちゃうんだぁ、とか呑気に思いながら。
昨夜のあれこれは夢ではなかったようです。ですが、どういった訳なのでしょうか?
昨夜の旦那様は、私が小娘過ぎて失望し、退室なさったのだと思ったのですが。
引き返して来た訳はなんなのでしょう?
目が覚めた時に旦那様の姿はなく、というか、侍女の声で目が覚めました。
「───、若奥様っ!
よかった、若奥様がお目覚めになられました!」
昨日、私付きになったと自己紹介してくれた侍女が、涙目になって私の覚醒を確認した後、他の使用人を呼んで私を起き上がらせてくれた所でぎょっとしました。
何に?
シーツが血の海だった事に。
私の寝ていた腰辺りを中心に、えぇ、間違いなく血の海という表現が正しい状態の鮮血まみれのシーツに、途轍もなく驚きました。私自身は痛いところなんてどこにもないのに!
「若奥様、立てますか? 湯浴みをご用意致しましたが、入られますか?」
ハンナが心配そうに問い掛けてくれます。
ハンナは私のお母さまくらいの年齢の侍女で、その彼女が涙目なのって、つまり、これ……あら? 月のモノが来たの? いいえ、先週終わったばかりだから月のモノではないですよ?
…ってことは、破瓜の血? ですよね?
それって、こんなに派手派手しいもの? でもハンナのこの慌て具合は、ちょっと只事ではないっぽい…ですよ。お医者さまも呼ばれているようで。
それにしても、旦那様はどちらにおられるのでしょう? お姿が見えません。
私が湯浴みをしている間に、あのベッドは何事もなかったように綺麗な状態に戻っていました。辺境伯家の侍女さんたちってば有能ですねぇ。
とはいえ、今私は夫婦の寝室ではなく、私用にと宛がわれた自室のベッドに居ます。
お医者様に診察されて。
あれは正しく破瓜の血なんですって! あんなに出るものなんですねぇ、びっくりしました。なんせ、初めての体験ですからね。
「いいえ、若奥様。あそこまで酷いのは、私初めて見ました」
と青い顔で言ったのは、ハンナと同じく私付きになった侍女、ピアです。彼女は私のお姉さんと言っていい年頃の侍女で、既婚者だとか。自分の初夜の時にここまでの流血は見なかったと力説してくれました。
なるほど、個人差があるものなのですね。
「体格差がございますから、ある程度は仕方がないとは存じますが…」
そういって言葉を濁し、重い溜息をついたハンナ。
そうですね、私と旦那様では体格差がありますねぇ。
「旦那様は、どちらに?」
私がハンナに問うと。
ハンナは一瞬にして極悪人の表情になって。
「逃げやがりましたわ」
あんの糞坊主、どうしてくれよう…そう呪詛のようにブツブツと呟くハンナに驚きです。糞坊主って言いませんでしたか?
「恐れながら、私はかつてイザーク様の乳母でしたので」
なるほど。お小さい頃のイザーク様をご存じだからこその悪態なのですね。
そしてハンナとピアに問われるまま、昨夜あった初夜の出来事を覚えている限り話しましたところ。
二人の顔色がどんどん悪くなっていって。
「あぁん? “俺の愛を期待するな”ですってぇ?」
「てめぇが下手糞なのを棚上げする発言を先にしたから許されると思うなよあの糞坊主…」
侍女ふたりの目付きと口調がとても凶悪になってます。
「若旦那様は、たぶん、慣らさないで突っ込んだってことですよ、ねぇ?」
「こんな…、小柄な乙女に、しかもご自分の妻に対して、なんて非道なマネを…」
二人で、あの、とても、怖い、のですけど、あのっ
「せめて、気持ちよくさせてとか、配慮があってしかるべきだと思いますがねっ!」
「まったくもって同感だわピア。まさか、お前の意見に同意する日が来ようとは。閨の教育はどうなっていたの?! ギル! ギルを呼んで!」
二人で憤慨しながらそこまで言って、私の存在を思い出したらしいハンナが慌てて表情を穏やかなモノに変え、優雅に且つ素早く退出しました。
ピアが温かいハーブティーを淹れ、休息を取るよう勧めてくれたので、私は有り難くその勧めに従って休みました。勿論、ハーブティーを頂いてから。
30過ぎでも糞坊主とか言われちゃうんだぁ、とか呑気に思いながら。
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