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第32話 看病?
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その夜、コット村のギルドは大慌て。
2階の空いている部屋に包帯でグルグル巻きのネストを運び込み、ギルド職員総出で回復術や治癒術をかけまくる。
ぶっちゃけ中身はケガもなく至って健康体なのだが、ゴールドプレートともなると貴重な人材。しかも現役の貴族だ。
絶対に助けるんだというギルド職員達の信念が、痛いほど伝わってくる。
俺とバイスはそれをヒヤヒヤしながら見ていたが、なんとかバレずに事なきを得た。
ギルドが落ち着きを取り戻すと、長い1日がようやく終わろうとしていた。
ちゃぷちゃぷと水の跳ねる音が心地よく、満点の星空の元、俺とミアとカガリは風呂で疲れを癒していたのだ。
「で、どうなったの?」
湯舟に浸かりゴツゴツとした岩に背中を預けている俺に、ミアが今日の事を聞いてくる。
本来であれば炭鉱の道案内終了後、すぐに帰って来る手はずだったので、昼過ぎには村に帰還する予定だったのだが、ダンジョンでのやり取りですぐには帰れないことはわかっていた。
なのでミアとカガリには、ある程度遅れることは説明してあったのだ。
結果、筋書き通りに事は進み、ミアとカガリには今日起こったことを全て話した。
特に脚色もせず淡々と語る俺を見ながら、ミアは楽しそうに耳を傾けていた。
「ミア。ここからは大事な話だ。誰にも話してほしくない。聞きたくなければそう言ってくれ」
急に真剣になった俺を見て、何かを察したミアは気を引き締めると力強く頷いた。
「大丈夫。誰にも言わない」
「俺な……実はカッパープレートじゃないかもしれないんだ……」
ミアを抱き寄せ耳元で小さく囁くと、ミアも同じように声を細める。
「うん。それで?」
「……」
「え? それだけ?」
「あれ? 驚かないのか?」
ミアは驚くと言うより、安堵の表情を浮かべていた。
身構えたにも関わらず、大したことない内容に拍子抜けといった様子。
「なんだぁ。そんなことかぁ……」
ミアは湯船に顔を半分ほど沈め、ぶくぶくと泡を立てる仕草はその落胆度合いが見て取れる。
「なんだ、って……。ミア、知ってたのか!?」
「薄々だけどそう思ってたよ。おにーちゃん強すぎるもん。カッパーな訳ないじゃん」
逆に驚いたのは俺の方。開いた口が塞がらなかった。
「どーして教えてくれなかったんだ!」
「え? いずれ話すから信じて待っててくれって言ったのおにーちゃんでしょ?」
確かにそう言った覚えはあるが、それはダンジョンのことである。どうやら語弊あったらしい。
ミアはおもむろに立ち上がり、星々が輝く空を見上げ一呼吸おいて振り返る。
「でも、よかった。おにーちゃんの隠し事が大したことなくて」
水に濡れたミアの身体は年相応に華奢であるものの、可憐で美しく見えた。
それは降り注ぐ月明りが水面を照らし、キラキラと光を反射させていたからなのだが、俺にはミアの安堵した表情と笑顔の方が、何よりも輝いて見えたのだ。
……ミア、すまない。本当はもっとヤバいことを隠しています――とは言えるはずもなく、コット村の夜は更けていくのだった。
次の日。ギルドから俺に割り振られた仕事は、ネストの看病である。
食事の用意やその他諸々の世話をするだけだ。実際ネストは何の怪我も負っていないので、楽なものである。
ソフィアとの会話は至って普通。俺を騙しているようには見えない。
ネストが俺のプレートから認識できたスキルは、”ロングレンジショット”と”マルチレンジショット”の2つだけ。
そこに俺が使える死霊術は1つも見当たらなかったのである。
それは、俺の物ではないことの証明。しかし、ギルドではカッパーで登録されていた。
その結果から導き出せる答え……。
――ギルド側に不正を働いた者がいる。
「食事、持ってきましたよ」
「ありがとう。九条」
食堂から運んで来たネスト用の特別メニューが乗ったトレイをテーブルへと置く。
「今日の俺の仕事はネストさんの世話だと言われたんですけど……」
「ああ、そうなのね。ギルドもそこまで気を遣う事ないのに……」
やれやれと言った表情で肩をすくめるネストは、ゆっくりと食事を頬張り始めた。
「まあ、一応は怪我人ってことになってますからね……。じゃぁ俺は隣の部屋にいるんで何かあったら呼んで下さい」
「いや、いてくれて構わないわよ。話があるからそこに座って?」
女性の食事をただ見つめているだけというのも悪い気がして、部屋を出て行こうとしたのだが、そういうのは気にしない性格のようだ。
ネストは構わず掬ったおかゆに息を吹きかけ冷ましながらも、それを口へと運んでいた。
「話ってのはあなたのプレートのこと。私は明日、治ったことにして王都へ戻るわ。あなたはそれについて来なさい。王都のギルドなら私が言えば再鑑定してもらえるはずよ。そこで本当のプレートを確認してから、どうするか決めるわ」
「すいません。王都ってどこですか?」
それを聞いたネストが驚愕する。
「あなたスタッグ城を知らないの!? ……ってそういえば記憶がないって書いてあったわね……」
名前は聞いた事がある。ただハッキリとした場所を知らないだけだ。
そんなことより、口の中の物を飲み込んでから話していただきたい。
顔に付いた無数のご飯粒を拭き取りながらも、本当に貴族なのかと疑いの目を向ける。
とは言え、それだけの衝撃を受けたということだ。
知っていて当たり前。まだまだ覚えなければいけないことが沢山あるなと、自分の無知を痛感した。
「ここからだと馬車で4日くらい。ベルモントを経由して北上すれば着くわ。夜通し走れば3日ってとこかしら……」
「ちょっと待ってください。自分はこの村の"専属"ですよ? あまり遠出はできませんが……」
「もちろん指名依頼としてあなたを雇うわ。こっちは病み上がりですもの、護衛ということで通るはずよ。もう知らない仲じゃないし、おかしいことは何もないでしょ?」
確かにそうだが、俺にはミアと離れられない訳がある。実感は薄いが、離れすぎるのは良くないはずだ。
「できれば、ミアと離れたくないのですが……」
目を丸くしたネストは、食事の手をピタリと止めた。
「九条……。あなたよくもまぁ恥ずかしげもなくそんなセリフが言えるわね……」
何か恥ずかしがるようなことを言っただろうかと首を傾げる。
「まあ、いいわ。もちろん担当同伴でも問題はない。カガリも一緒で大丈夫よ。こちらでギルドに申請を出しておくわ」
その時だ。扉がノックされると、部屋に入ってきたのはバイスである。
「おっ? 2人で密会か?」
冗談交じりに、爽やかな笑顔を向けるバイス。
こうしてみると、フルプレートを着込んで戦う屈強な戦士のようには見えない。
「九条は今日、私の奴隷なの」
言いたいことはわかるが、もう少し言い方を考えてもらいたいものである。
「違いますよ。ギルドでネストさんの看病をしろと言われただけです」
「一緒じゃないか」「一緒よね?」
ネストとバイスは顔を見合わせ同じことを言ったかと思えば、2人してケタケタと笑い合う。
「違いますよ!」
「ハハハ、すまんすまん。冗談だ。――で、話はどこまで進んでいるんだ?」
「明日には村を出て王都に向かおうって話してたとこよ。もちろん九条も連れていくわ」
「了解だ。じゃぁ九条への依頼と馬車の手配はこちらでやっておこう」
「ええ。お願いね。九条も準備しておいてね。もちろん依頼するのはこちら側だからお金の心配はいらないわ」
「それは悪いですよ。自分達の分は自分達で払いますから」
「大丈夫大丈夫。気にしないで。こんなこと言っちゃ怒られちゃうかもだけど、フィリップ達から魔法書を買い取る分がまるまる浮いたから、結構余裕あるのよ」
金貨1万枚の魔法書をギルド職員を含まない4人で山分けということは、1人当たり金貨2500枚相当な訳だ。
本来であればフィリップとシャーリーに金貨5000枚を支払う予定だった分がまるまる残っていると考えると、さすがは貴族だなと言わざるを得ない。
「はぁ。国宝指定されてなければもっと安いんだけどねぇ……」
「実際の相場だと、どれくらいなんですか?」
「そうね……。古い魔法書には違いない訳だし……。でも需要はなさそうだから金貨2000枚がいいところじゃないかしら?」
遺体のアンデッド化は禁止されているし、死霊術適性自体がめずらしいのならば確かに需要は少なそうだ。
死霊術のアンデッド作成には大きく分けて2つのパターンがある。
1つは死体や頭蓋骨を使い、アンデットを作成するタイプ。もう1つは骨を触媒に召喚するタイプだ。
死体を使うタイプは生前の強さが反映され、召喚する場合は一定の強さ。
ネストの先祖であるバルザックが執筆したという魔法書には、前者である死体を使うタイプの魔法が記されていた。
「そうだ。ベルモントの魔法書店で死霊術の魔法書を買おうとしたんですけど金貨200枚って言われたんですよ。それって適正な価格なんでしょうか?」
「店や種類にもよるけど、大体それくらいだと思うわよ?」
あのババァの店は、ぼったくりではなかったと言うことか。
「さて。じゃぁ俺は馬車の手配をしてくる。早めに言っとかないと明日に間に合わないからな。じゃぁ、また明日な。九条」
「ええ、わかりました。それでは自分もこれで失礼しますね」
「九条はダメよ?」「九条はダメだろう?」
2人同時にツッコミが入る。
流れに任せて退室しようとしたのだが、そんな小細工は通用しなかった……。
夕食が終わり、ネストからようやく解放されると自室へと戻る。
「おかえりぃ」
ミアは寝る前の恒例、カガリのブラッシングに精を出していた。
「ミア、カガリ。明日から旅行に行くぞ」
「お泊りデート!?」
ミアはブラッシングの手を止めると、またしても目を輝かせる。
「今回は、ネストさんとバイスさんも一緒だ」
「えぇーなんでぇー……」
一瞬にして曇る表情。露骨というか自分に正直と言うか……。
「明日スタッグに帰るそうだが、スタッグなら俺の再鑑定をしてもらえるみたいでな。話の流れでそうなった」
それを聞いたミアの表情はさらに険しくなった。冗談などではなく、嫌悪感がはっきりと表れていたのだ。
「私、行きたくない……」
「え?」
まさか、断られるとは思っていなかった。ベルモントのように喜んでくれると思っていたのだ。
「どうしたんだ急に?」
「行くのやめよう? 私はおにーちゃんがカッパーのままでも全然平気だし……」
さっきまでの元気はどこに行ってしまったのか……。
駄々をこねているようには見えないが、その表情はどこか不安げで、微かだが身体を震わせているようにも見えた。
「なんで行きたくないんだ?」
「……」
ミアは俯き、答えようとしなかった。
カガリは、今にも泣きだしそうなミアを慰めるかのように頬を寄せる。
シンと静まり返る室内。
その様子を見て思い出した。ミアはコット村に来る前に、王都のギルドに在籍していたことを。
死神と呼ばれ、忌み嫌われていたのだ。それがいい思い出のはずがない。
ならば、今回は諦める。本当のプレートというのは気になるが、そんなことよりもミアの悲しむ顔は見たくなかった。
「よし。じゃぁやめよう!」
「え?」
「やめようと言ったんだ」
「……」
「ちょっと待ってろ。断ってくるから」
そして俺が扉を開けた瞬間、ミアは俺を引き留めた。
「待って!」
開け放った扉はそのままに、動きを止めて振り返る。
「やっぱり行く……」
「……いいのか?」
「うん、もう大丈夫」
「無理しなくてもいいんだぞ?」
「大丈夫。おにーちゃんにカガリもいるもん」
「そうか……。気が変わったらすぐに言うんだぞ?」
過去、ミアに何があったのかは知らないが、俺の為に覚悟を決めてくれたのだろう。
ミアを抱き上げ、諭すように優しく頭を撫でた。
「心配するな。何があっても俺はミアの味方だ……」
2階の空いている部屋に包帯でグルグル巻きのネストを運び込み、ギルド職員総出で回復術や治癒術をかけまくる。
ぶっちゃけ中身はケガもなく至って健康体なのだが、ゴールドプレートともなると貴重な人材。しかも現役の貴族だ。
絶対に助けるんだというギルド職員達の信念が、痛いほど伝わってくる。
俺とバイスはそれをヒヤヒヤしながら見ていたが、なんとかバレずに事なきを得た。
ギルドが落ち着きを取り戻すと、長い1日がようやく終わろうとしていた。
ちゃぷちゃぷと水の跳ねる音が心地よく、満点の星空の元、俺とミアとカガリは風呂で疲れを癒していたのだ。
「で、どうなったの?」
湯舟に浸かりゴツゴツとした岩に背中を預けている俺に、ミアが今日の事を聞いてくる。
本来であれば炭鉱の道案内終了後、すぐに帰って来る手はずだったので、昼過ぎには村に帰還する予定だったのだが、ダンジョンでのやり取りですぐには帰れないことはわかっていた。
なのでミアとカガリには、ある程度遅れることは説明してあったのだ。
結果、筋書き通りに事は進み、ミアとカガリには今日起こったことを全て話した。
特に脚色もせず淡々と語る俺を見ながら、ミアは楽しそうに耳を傾けていた。
「ミア。ここからは大事な話だ。誰にも話してほしくない。聞きたくなければそう言ってくれ」
急に真剣になった俺を見て、何かを察したミアは気を引き締めると力強く頷いた。
「大丈夫。誰にも言わない」
「俺な……実はカッパープレートじゃないかもしれないんだ……」
ミアを抱き寄せ耳元で小さく囁くと、ミアも同じように声を細める。
「うん。それで?」
「……」
「え? それだけ?」
「あれ? 驚かないのか?」
ミアは驚くと言うより、安堵の表情を浮かべていた。
身構えたにも関わらず、大したことない内容に拍子抜けといった様子。
「なんだぁ。そんなことかぁ……」
ミアは湯船に顔を半分ほど沈め、ぶくぶくと泡を立てる仕草はその落胆度合いが見て取れる。
「なんだ、って……。ミア、知ってたのか!?」
「薄々だけどそう思ってたよ。おにーちゃん強すぎるもん。カッパーな訳ないじゃん」
逆に驚いたのは俺の方。開いた口が塞がらなかった。
「どーして教えてくれなかったんだ!」
「え? いずれ話すから信じて待っててくれって言ったのおにーちゃんでしょ?」
確かにそう言った覚えはあるが、それはダンジョンのことである。どうやら語弊あったらしい。
ミアはおもむろに立ち上がり、星々が輝く空を見上げ一呼吸おいて振り返る。
「でも、よかった。おにーちゃんの隠し事が大したことなくて」
水に濡れたミアの身体は年相応に華奢であるものの、可憐で美しく見えた。
それは降り注ぐ月明りが水面を照らし、キラキラと光を反射させていたからなのだが、俺にはミアの安堵した表情と笑顔の方が、何よりも輝いて見えたのだ。
……ミア、すまない。本当はもっとヤバいことを隠しています――とは言えるはずもなく、コット村の夜は更けていくのだった。
次の日。ギルドから俺に割り振られた仕事は、ネストの看病である。
食事の用意やその他諸々の世話をするだけだ。実際ネストは何の怪我も負っていないので、楽なものである。
ソフィアとの会話は至って普通。俺を騙しているようには見えない。
ネストが俺のプレートから認識できたスキルは、”ロングレンジショット”と”マルチレンジショット”の2つだけ。
そこに俺が使える死霊術は1つも見当たらなかったのである。
それは、俺の物ではないことの証明。しかし、ギルドではカッパーで登録されていた。
その結果から導き出せる答え……。
――ギルド側に不正を働いた者がいる。
「食事、持ってきましたよ」
「ありがとう。九条」
食堂から運んで来たネスト用の特別メニューが乗ったトレイをテーブルへと置く。
「今日の俺の仕事はネストさんの世話だと言われたんですけど……」
「ああ、そうなのね。ギルドもそこまで気を遣う事ないのに……」
やれやれと言った表情で肩をすくめるネストは、ゆっくりと食事を頬張り始めた。
「まあ、一応は怪我人ってことになってますからね……。じゃぁ俺は隣の部屋にいるんで何かあったら呼んで下さい」
「いや、いてくれて構わないわよ。話があるからそこに座って?」
女性の食事をただ見つめているだけというのも悪い気がして、部屋を出て行こうとしたのだが、そういうのは気にしない性格のようだ。
ネストは構わず掬ったおかゆに息を吹きかけ冷ましながらも、それを口へと運んでいた。
「話ってのはあなたのプレートのこと。私は明日、治ったことにして王都へ戻るわ。あなたはそれについて来なさい。王都のギルドなら私が言えば再鑑定してもらえるはずよ。そこで本当のプレートを確認してから、どうするか決めるわ」
「すいません。王都ってどこですか?」
それを聞いたネストが驚愕する。
「あなたスタッグ城を知らないの!? ……ってそういえば記憶がないって書いてあったわね……」
名前は聞いた事がある。ただハッキリとした場所を知らないだけだ。
そんなことより、口の中の物を飲み込んでから話していただきたい。
顔に付いた無数のご飯粒を拭き取りながらも、本当に貴族なのかと疑いの目を向ける。
とは言え、それだけの衝撃を受けたということだ。
知っていて当たり前。まだまだ覚えなければいけないことが沢山あるなと、自分の無知を痛感した。
「ここからだと馬車で4日くらい。ベルモントを経由して北上すれば着くわ。夜通し走れば3日ってとこかしら……」
「ちょっと待ってください。自分はこの村の"専属"ですよ? あまり遠出はできませんが……」
「もちろん指名依頼としてあなたを雇うわ。こっちは病み上がりですもの、護衛ということで通るはずよ。もう知らない仲じゃないし、おかしいことは何もないでしょ?」
確かにそうだが、俺にはミアと離れられない訳がある。実感は薄いが、離れすぎるのは良くないはずだ。
「できれば、ミアと離れたくないのですが……」
目を丸くしたネストは、食事の手をピタリと止めた。
「九条……。あなたよくもまぁ恥ずかしげもなくそんなセリフが言えるわね……」
何か恥ずかしがるようなことを言っただろうかと首を傾げる。
「まあ、いいわ。もちろん担当同伴でも問題はない。カガリも一緒で大丈夫よ。こちらでギルドに申請を出しておくわ」
その時だ。扉がノックされると、部屋に入ってきたのはバイスである。
「おっ? 2人で密会か?」
冗談交じりに、爽やかな笑顔を向けるバイス。
こうしてみると、フルプレートを着込んで戦う屈強な戦士のようには見えない。
「九条は今日、私の奴隷なの」
言いたいことはわかるが、もう少し言い方を考えてもらいたいものである。
「違いますよ。ギルドでネストさんの看病をしろと言われただけです」
「一緒じゃないか」「一緒よね?」
ネストとバイスは顔を見合わせ同じことを言ったかと思えば、2人してケタケタと笑い合う。
「違いますよ!」
「ハハハ、すまんすまん。冗談だ。――で、話はどこまで進んでいるんだ?」
「明日には村を出て王都に向かおうって話してたとこよ。もちろん九条も連れていくわ」
「了解だ。じゃぁ九条への依頼と馬車の手配はこちらでやっておこう」
「ええ。お願いね。九条も準備しておいてね。もちろん依頼するのはこちら側だからお金の心配はいらないわ」
「それは悪いですよ。自分達の分は自分達で払いますから」
「大丈夫大丈夫。気にしないで。こんなこと言っちゃ怒られちゃうかもだけど、フィリップ達から魔法書を買い取る分がまるまる浮いたから、結構余裕あるのよ」
金貨1万枚の魔法書をギルド職員を含まない4人で山分けということは、1人当たり金貨2500枚相当な訳だ。
本来であればフィリップとシャーリーに金貨5000枚を支払う予定だった分がまるまる残っていると考えると、さすがは貴族だなと言わざるを得ない。
「はぁ。国宝指定されてなければもっと安いんだけどねぇ……」
「実際の相場だと、どれくらいなんですか?」
「そうね……。古い魔法書には違いない訳だし……。でも需要はなさそうだから金貨2000枚がいいところじゃないかしら?」
遺体のアンデッド化は禁止されているし、死霊術適性自体がめずらしいのならば確かに需要は少なそうだ。
死霊術のアンデッド作成には大きく分けて2つのパターンがある。
1つは死体や頭蓋骨を使い、アンデットを作成するタイプ。もう1つは骨を触媒に召喚するタイプだ。
死体を使うタイプは生前の強さが反映され、召喚する場合は一定の強さ。
ネストの先祖であるバルザックが執筆したという魔法書には、前者である死体を使うタイプの魔法が記されていた。
「そうだ。ベルモントの魔法書店で死霊術の魔法書を買おうとしたんですけど金貨200枚って言われたんですよ。それって適正な価格なんでしょうか?」
「店や種類にもよるけど、大体それくらいだと思うわよ?」
あのババァの店は、ぼったくりではなかったと言うことか。
「さて。じゃぁ俺は馬車の手配をしてくる。早めに言っとかないと明日に間に合わないからな。じゃぁ、また明日な。九条」
「ええ、わかりました。それでは自分もこれで失礼しますね」
「九条はダメよ?」「九条はダメだろう?」
2人同時にツッコミが入る。
流れに任せて退室しようとしたのだが、そんな小細工は通用しなかった……。
夕食が終わり、ネストからようやく解放されると自室へと戻る。
「おかえりぃ」
ミアは寝る前の恒例、カガリのブラッシングに精を出していた。
「ミア、カガリ。明日から旅行に行くぞ」
「お泊りデート!?」
ミアはブラッシングの手を止めると、またしても目を輝かせる。
「今回は、ネストさんとバイスさんも一緒だ」
「えぇーなんでぇー……」
一瞬にして曇る表情。露骨というか自分に正直と言うか……。
「明日スタッグに帰るそうだが、スタッグなら俺の再鑑定をしてもらえるみたいでな。話の流れでそうなった」
それを聞いたミアの表情はさらに険しくなった。冗談などではなく、嫌悪感がはっきりと表れていたのだ。
「私、行きたくない……」
「え?」
まさか、断られるとは思っていなかった。ベルモントのように喜んでくれると思っていたのだ。
「どうしたんだ急に?」
「行くのやめよう? 私はおにーちゃんがカッパーのままでも全然平気だし……」
さっきまでの元気はどこに行ってしまったのか……。
駄々をこねているようには見えないが、その表情はどこか不安げで、微かだが身体を震わせているようにも見えた。
「なんで行きたくないんだ?」
「……」
ミアは俯き、答えようとしなかった。
カガリは、今にも泣きだしそうなミアを慰めるかのように頬を寄せる。
シンと静まり返る室内。
その様子を見て思い出した。ミアはコット村に来る前に、王都のギルドに在籍していたことを。
死神と呼ばれ、忌み嫌われていたのだ。それがいい思い出のはずがない。
ならば、今回は諦める。本当のプレートというのは気になるが、そんなことよりもミアの悲しむ顔は見たくなかった。
「よし。じゃぁやめよう!」
「え?」
「やめようと言ったんだ」
「……」
「ちょっと待ってろ。断ってくるから」
そして俺が扉を開けた瞬間、ミアは俺を引き留めた。
「待って!」
開け放った扉はそのままに、動きを止めて振り返る。
「やっぱり行く……」
「……いいのか?」
「うん、もう大丈夫」
「無理しなくてもいいんだぞ?」
「大丈夫。おにーちゃんにカガリもいるもん」
「そうか……。気が変わったらすぐに言うんだぞ?」
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すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
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Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜
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異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
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小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
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