生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
342 / 722

第342話 王女護衛計画

しおりを挟む
「あら王女様。こちらにいらしたのですね」

 突如、姿を見せたのはネスト。その後ろからぞろぞろと部屋に入って来たのはバイスとニールセン公である。
 王女を前に跪くニールセン公。挨拶も早々に済ませると、今度は俺が握手を求められその手を握り返す。

「九条。よく来てくれた。礼を言う」

「この度はおめでとうございます」

「ありがとう。これも九条のおかげだ」

 その声からは喜びの感情が滲み出ていたが、それもすぐに消え失せた。
 そして辺りを注意深く見渡したニールセン公は、小さな声で全員に席に着くようにと促したのだ。

「どうしたのですか? ニールセン公」

 不穏な空気に目を細めるリリー。

「リリー様。是非ともお耳に入れたいお話が御座います……」

 先程までの柔らかい笑みは消え失せ、ニールセン公の表情が険しさを増す。
 それだけで何かを理解したネストは部屋の戸締りを確認し、カーテンを閉めていく。
 従魔達は進んで扉の前へと移動すると、部屋の外に聞き耳を立てた。

「単刀直入に申しましょう。グリンダ様がリリー様をシルトフリューゲルに売り渡そうと企てている恐れが御座います」

 それに誰もが驚きを見せたが、突拍子もなさすぎて半信半疑であったというのが正直な感想。

「えっ……」

 一番驚いたのはリリー本人だろう。不安に駆られ、血の気を失くしていく顔。あまりの衝撃に視線は泳ぎ、喋ろうにも声は出ない。

「ニールセン公と言えど、間違いでは済まされませんよ?」

 ニールセン公を鋭く睨みつけたのはネスト。それに憤ることもなく、ニールセン公は消沈した。

「確定ではないが、用心に越したことはないだろう? 私だって大事な息子の結婚式でこんな事言いたくはない……」

「それに足る理由があると?」

「ガルフォード卿。魔法学院試験の帰り道、私がグリンダ様に不穏な動きがあると言ったのを覚えているか?」

「はい。シルトフリューゲルに使者を送っているとか……」

「そうだ。それを私の手の者に探らせたところ、グリンダ様は相手国から多額の支援を受けている」

「それは……」

「いや、もちろん大事になる前にやめるようにと言ってはいるが、グリンダ様が聞く耳を持つと思うか? 正直呆れて物も言えなかった……。その見返りとして相手側が求めているのが王族の血筋。ここまで言えばわかるだろう?」

 グリンダならやりかねない。誰もがそう思っているからこそ、ニールセン公の話はすんなりと呑み込めた。

「リリー様を、無理矢理に引き渡す可能性が高い――と?」

「恐らく……。もちろんそれはグリンダ様でもいいはずだが、自分から進んで身を捧げるとは思えん。そして、その会場となるのが息子の結婚式だ。私の知り得ぬところでグリンダ様は相手国に招待状を送っていた。それは王家の親書。断る術がないのだ……」

 自分の息子の晴れ舞台。それを体よく使われるのだ。表には出さずとも、そのやり場のない怒りは相当なものだろう。

「相手国の使者が到着するのは何時頃?」

「恐らくは明後日の婚約式当日。だが、私とてわかっていて手をこまねいているほど馬鹿ではない。非常に残念だが、リリー様の式典への出席は取りやめとし、お帰りになっていただこうと思うのだが……」

 決断をするのはリリーだ。皆の視線がリリーに集まり、その返事を待つ。

「いえ……。私が出席しなければ、ニールセンの名にキズがつきましょう。なにより私にはシルトフリューゲルに赴く用事はありません。正面からキッチリとお断りすればいい話。幸い私には優秀な護衛がおりますし、いらぬ心配です」

 皆に微笑みかけるリリー。しかしそれは気丈に振舞っているだけ。その手が小さく震えているのが何よりの証拠だ。
 それが王族の仕事。とは言え、この歳の子に背負わせるには重すぎる責任である。

「リリー様の寛大なお心遣いに深く感謝致します……」

 再度跪くニールセン公。その顔は悔恨の色に染まっていた。

「ならば、ちゃんとした護衛プランを考えねばなりませんね……」

 それを聞いた全員が、俺の顔を凝視する。その表情は、まるで信じられないとでも言わんばかり。

「え? 何か変な事いいました?」

「いえ、別に……」

 苦笑いを浮かべ視線を逸らすネスト。わかっている。どうせやる気になっている俺が珍しいとか言うんだろう。
 見くびらないでいただきたい。怠けていい時とそうでない時の見分けくらい付く。
 本人の前でめんどくせぇ……なんて言えると思うか? そう聞いたらどうせ頷くだろうから口には出さないが、今回に至っては本気である。
 相手はあの第2王女。容赦する必要もなく、むしろやる気も出るというものだ。
 ここで相手の心を折っておけば、今後リリーに対する考え方を改めるかもしれない。長い目で見れば、俺の仕事が減るのである。

「九条? わかっているとは思うけど、殺しちゃだめよ?」

「わかってますって。全身全霊を掛けて王女様を守って見せます!」

 親指をビシッと突き立てリリーに微笑みかける。それは明らかに王女を相手にした立ち振る舞いではなかった。
 ハッと気づいた時にはもう遅く、ネストにまたどやされるとも思ったのだが、ネストとバイスはそれを静観しているだけ。
 俺のやる気に免じて許されたのだろうとホッと一息つくと、リリーにしては珍しく惚けた顔で俺をジッと見上げていた。
 その頬が若干染まっていた事と、その後ミアの機嫌が悪かった事の因果関係は不明である。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

処理中です...