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第536話 コット村ゆるゆる防衛会議
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涙を溜めてまで笑うシャーリー。
正直笑い事ではないのだが、それに憤りを覚えないのは、その笑顔のおかげでもあった。
セイレーンの涙をミアに預けていなければ、今頃どうなっていたかもわからない。
一時は、本気で死を覚悟したのだ。しかし、今はそれを感じさせないほどの快活さを見せてくれている。
その姿に、救われたと言っても過言ではなく、安堵以外の感情などあろうはずがないのだ。
「……それで? 九条の価値は?」
「……生け捕りで金貨5万、死体でも3万枚。それに加えて、国王謁見の権利と爵位の授与だったか……」
「へぇ、至れり尽くせりね。……じゃぁ、依頼主は王族関係者?」
「だろうな……」
俺を殺せば、その日暮らしの冒険者から一躍貴族の仲間入り。なんとも夢のある話じゃないか。
ついでに魔剣等の戦利品も手に入る可能性を鑑みれば、人生一発逆転の宝くじだ。
それが命を懸けるに値するほどの価値だと思うのなら、是非挑んでもらいたいものである。
人に刃を向けるのだ。やり返される覚悟があっての事だろう。こちとら、魔法書を奪われカルシウム不足。新鮮な死体は大歓迎だ。
「冒険者相手だと、一筋縄ではいかないかもね……」
「まぁ、油断するつもりはないが、俺は騎士じゃない。馬鹿正直に正面から戦う必要はないだろ?」
「……どういうこと? お金で買収するとか?」
ファフナーの財宝を使えばそれも可能だろうが、そんなつもりは全くない。
「違う。あくまで、戦い方の話だよ。相手の油断を誘って、その隙に仕留めればいいだけだ」
「油断を誘うって一体どうやって……」
「九条君人形は、いくらでも出せるんだ。全員突撃させて混乱しているところをぶん殴ってもいいし、逆にワザと負けさせて俺を倒したと思わせてからぶん殴ってもいい。俺の死体をバラまくだけでも大混乱じゃないか? 冒険者の貴族が大量発生したらそれはそれで面白そうだし、騎士団をよみがえらせての同士討ちも面白そうだ……」
ワザとらしく、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて見せる。
「……」
それを聞いた皆の顔ときたら……。一様にドン引きする姿に、苦笑を禁じ得ない。
言われずともわかっている。確かにやり方は卑怯なのかもしれないが、こちらとしても命が懸かっているのだ。
当然手を抜くわけにはいかず、俺は自分の能力を有効に活用しているだけである。
「九条……あんた、魔王の才能あるよ……」
スプーンを置き、呆れ気味に言い放つアーニャだが、それは少々言い過ぎだ。
「そんなことないよなぁ、ミア?」
流石に魔王は酷い――くらいは言ってくれると思ったのだが、何故か浮かべる乾いた笑み。
「うーん。海賊さんを人質にとったり、ケシュアさんを人質にとったりしてるし……。まぁ妥当かな?」
「くっ……」
自覚はあるので、何も言い返せない。
そんな俺をよそに、フードルが思い出したかのように手を叩く。
「そうじゃ。捕虜はどうするんじゃ?」
「ん? あぁ、グラハムなら好きに使ってくれ。聞きたいことは大体聞いた」
今となっては、騎士団唯一の生き残り。
本人曰く、分隊長であるクロードの機嫌を損ねたことで、罰として縛られ宿に閉じ込められていたらしい。
そのおかげで、アンデッド化を免れていたのだ。
そんなグラハムの第一声が、騎士団の不祥事に対する謝罪であった。
勿論それで全てを許した訳ではないのだが、食堂での一件に加え、王国の内情を知る唯一の情報源でもある為、ひとまず処分は保留という形にしたのである。
現在は村で自由にさせているが、それもルールを破らなければの話。
条件は3つ。無許可で村を出ないこと。反抗の意思を見せないこと。そして外出時は、こちらが指定したプレートアーマーを着用すること……なのだが、グラハムが死んでいないという事は、それらが守られているという証でもあった。
――――――――――
陽が傾き、空が茜色に染まる頃。食堂の貸し切り時間も残り僅か。
それに伴い、快気祝いも一応の幕を閉じた。
「じゃぁね、九条。また明日!」
「ああ」
笑顔で手を振るシャーリーに、軽く手を上げ微笑んで見せる。
同様に、アーニャもフードルの手を取り帰路に就く。
カイルとミアは人材派遣組合のお手伝いがあるとのことで、そのまま階段を駆け上がり、食堂に残されたのは俺一人。
飲みかけの酒を片手に、何をするでもなくボーっとしていると、そこへ現れたのは見慣れた老婆だ。
「何を黄昏ておるんじゃ?」
「別に……」
許可をしたわけでもないのに、エルザは当たり前のように同じテーブルの席に着いた。
「何か悩み事か? シャーリーとの子作りが上手くいかなかった事なら、咎めはせんぞ?」
「はぁ。そもそも咎められる筋合いもないね。俺が、性欲如きに負けるとでも思ったのか? 何年僧侶をやってると思ってるんだ……」
それは、肌への接触よりも効率のいい魔力の供給方法。
シャーリーの覚醒を促す為にと、同じ部屋に押し込まれた時、エルザから言われていたのである。
それ以外に打つ手がないというのであれば、検討もしよう。だが、そうじゃないなら、それはシャーリーに対する裏切りでしかない。
そもそも、意識のない女性を襲うなど、倫理に反する時点で抵抗があるのは当然のことだ。
「折角のチャンスだったのにのぉ」
「それはどっちの話だ? 勿論、俺はそう思ってないからな」
間違いは誰にでもあるとか、1回なら確率は低いとか、たとえ子供が出来たとしてもネクロガルドが引き取るから心配無用だとか……。
むしろ、そっちが本命なのだろう。それを知ったうえで、その程度の誘惑に負けるほど、俺は落ちぶれてはいないのである。
正直笑い事ではないのだが、それに憤りを覚えないのは、その笑顔のおかげでもあった。
セイレーンの涙をミアに預けていなければ、今頃どうなっていたかもわからない。
一時は、本気で死を覚悟したのだ。しかし、今はそれを感じさせないほどの快活さを見せてくれている。
その姿に、救われたと言っても過言ではなく、安堵以外の感情などあろうはずがないのだ。
「……それで? 九条の価値は?」
「……生け捕りで金貨5万、死体でも3万枚。それに加えて、国王謁見の権利と爵位の授与だったか……」
「へぇ、至れり尽くせりね。……じゃぁ、依頼主は王族関係者?」
「だろうな……」
俺を殺せば、その日暮らしの冒険者から一躍貴族の仲間入り。なんとも夢のある話じゃないか。
ついでに魔剣等の戦利品も手に入る可能性を鑑みれば、人生一発逆転の宝くじだ。
それが命を懸けるに値するほどの価値だと思うのなら、是非挑んでもらいたいものである。
人に刃を向けるのだ。やり返される覚悟があっての事だろう。こちとら、魔法書を奪われカルシウム不足。新鮮な死体は大歓迎だ。
「冒険者相手だと、一筋縄ではいかないかもね……」
「まぁ、油断するつもりはないが、俺は騎士じゃない。馬鹿正直に正面から戦う必要はないだろ?」
「……どういうこと? お金で買収するとか?」
ファフナーの財宝を使えばそれも可能だろうが、そんなつもりは全くない。
「違う。あくまで、戦い方の話だよ。相手の油断を誘って、その隙に仕留めればいいだけだ」
「油断を誘うって一体どうやって……」
「九条君人形は、いくらでも出せるんだ。全員突撃させて混乱しているところをぶん殴ってもいいし、逆にワザと負けさせて俺を倒したと思わせてからぶん殴ってもいい。俺の死体をバラまくだけでも大混乱じゃないか? 冒険者の貴族が大量発生したらそれはそれで面白そうだし、騎士団をよみがえらせての同士討ちも面白そうだ……」
ワザとらしく、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて見せる。
「……」
それを聞いた皆の顔ときたら……。一様にドン引きする姿に、苦笑を禁じ得ない。
言われずともわかっている。確かにやり方は卑怯なのかもしれないが、こちらとしても命が懸かっているのだ。
当然手を抜くわけにはいかず、俺は自分の能力を有効に活用しているだけである。
「九条……あんた、魔王の才能あるよ……」
スプーンを置き、呆れ気味に言い放つアーニャだが、それは少々言い過ぎだ。
「そんなことないよなぁ、ミア?」
流石に魔王は酷い――くらいは言ってくれると思ったのだが、何故か浮かべる乾いた笑み。
「うーん。海賊さんを人質にとったり、ケシュアさんを人質にとったりしてるし……。まぁ妥当かな?」
「くっ……」
自覚はあるので、何も言い返せない。
そんな俺をよそに、フードルが思い出したかのように手を叩く。
「そうじゃ。捕虜はどうするんじゃ?」
「ん? あぁ、グラハムなら好きに使ってくれ。聞きたいことは大体聞いた」
今となっては、騎士団唯一の生き残り。
本人曰く、分隊長であるクロードの機嫌を損ねたことで、罰として縛られ宿に閉じ込められていたらしい。
そのおかげで、アンデッド化を免れていたのだ。
そんなグラハムの第一声が、騎士団の不祥事に対する謝罪であった。
勿論それで全てを許した訳ではないのだが、食堂での一件に加え、王国の内情を知る唯一の情報源でもある為、ひとまず処分は保留という形にしたのである。
現在は村で自由にさせているが、それもルールを破らなければの話。
条件は3つ。無許可で村を出ないこと。反抗の意思を見せないこと。そして外出時は、こちらが指定したプレートアーマーを着用すること……なのだが、グラハムが死んでいないという事は、それらが守られているという証でもあった。
――――――――――
陽が傾き、空が茜色に染まる頃。食堂の貸し切り時間も残り僅か。
それに伴い、快気祝いも一応の幕を閉じた。
「じゃぁね、九条。また明日!」
「ああ」
笑顔で手を振るシャーリーに、軽く手を上げ微笑んで見せる。
同様に、アーニャもフードルの手を取り帰路に就く。
カイルとミアは人材派遣組合のお手伝いがあるとのことで、そのまま階段を駆け上がり、食堂に残されたのは俺一人。
飲みかけの酒を片手に、何をするでもなくボーっとしていると、そこへ現れたのは見慣れた老婆だ。
「何を黄昏ておるんじゃ?」
「別に……」
許可をしたわけでもないのに、エルザは当たり前のように同じテーブルの席に着いた。
「何か悩み事か? シャーリーとの子作りが上手くいかなかった事なら、咎めはせんぞ?」
「はぁ。そもそも咎められる筋合いもないね。俺が、性欲如きに負けるとでも思ったのか? 何年僧侶をやってると思ってるんだ……」
それは、肌への接触よりも効率のいい魔力の供給方法。
シャーリーの覚醒を促す為にと、同じ部屋に押し込まれた時、エルザから言われていたのである。
それ以外に打つ手がないというのであれば、検討もしよう。だが、そうじゃないなら、それはシャーリーに対する裏切りでしかない。
そもそも、意識のない女性を襲うなど、倫理に反する時点で抵抗があるのは当然のことだ。
「折角のチャンスだったのにのぉ」
「それはどっちの話だ? 勿論、俺はそう思ってないからな」
間違いは誰にでもあるとか、1回なら確率は低いとか、たとえ子供が出来たとしてもネクロガルドが引き取るから心配無用だとか……。
むしろ、そっちが本命なのだろう。それを知ったうえで、その程度の誘惑に負けるほど、俺は落ちぶれてはいないのである。
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