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アベル・ハウンド侯爵
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最愛の妻アデールと結婚した日、父から爵位を受け継いだ。
母とともに、領地でのんびり暮らすのが夢だったそうだ。
学友でもあった王太子殿下が、即位の後、宰相に拝命された。
現国王は、王家特有の血筋にのみみられる紫の瞳に、黄金に輝く髪が美しい、なかなかの美丈夫、だと思う。
男の美醜はわからないので、城に仕える侍女たちの噂話からの憶測だが。
陛下は『賢王』として、国を統治し、民からも慕われている。
しかし、友として接する時は、威厳はなく、砕けた口調で話をする。
陛下は、度々執務から逃亡し、私の執務室に逃げ込み、他愛もない話をする。
「息抜きに来た」と。
今も、陛下はソファに座り、茶をすすっている。
私は、目の前に山積みにされた書類に目を通しつつ、陛下の話し相手になる。
「それで、また逃げてきたのですか?」
「まあな。お前がキッチリ仕事をしてくれるおかげで、判を押すだけの単純作業ばかりだ。息抜きに、お前の話を聞きに来た。さあ~話せ!」
「……はぁーー」
邪神復活に関する文献を読みたいと言った時、ルイーズの前世にかかわる話をせず、陛下の協力は得られないと判断し、ある程度は話したのだが、気に入ってしまったらしい……。
ルイーズに関しての話は、一部の人間だけにしか話していない。
人払いをするため、補佐官2名に目線を移す。
「ファビオ、ユーゴ。陛下と内密な話があるので、人払いを。呼ぶまで入室しないように頼む」
「「承知いたしました」」
補佐官達が退室したのを見届けた後。
「では、陛下。何からお聞きしたいですか?」
ルイーズ自慢はお手の物と、ニヤリと口角を上げる。
「うっっ、悪い顔になってるぞ」
「先日『あいすくりーむ』という、デザートを食べた話はしましたね。その後、愛娘ルイーズは肉眼では見えないはずの、マナが見える方法を思いついたのです」
「えっっ!なにーーー!」
「陛下、お静かに。(やれやれという感じで指を口元にあてる)その方法で、天使な息子のジョゼの手の件は片付きました。あっ!魔法省で、手の封印に関する魔道具作成いたしますので、許可をください」
「話の流れが、見えてるようで、見えないぞ……魔道具作成は許可する」
こんな曖昧な話でも理解する陛下は、流石です。
「そんなこんなの後……」
「イヤイヤ。そんなこんなで、有耶無耶にするな!」
「話の腰を折らないでください。お聞きになりたいのでしょう?」
「っぐ…………進めろ」
「まあ、詳しく話しますと、天使なジョゼの件が終わった後、愛娘ルイーズが『とうさまを、ぜんせちーとで、えいさいきょういくします』と提案しまして、回復魔法や、攻撃魔法、飛行魔法などを覚えました」
・
・
・
「はっ?」
まぬけ顔……いや、美丈夫だと噂の御尊顔が台無しになっている。
「回復魔法や、攻撃魔法、飛行魔法などを覚えました」
手を顎にあて、にやける口元を隠す。
「……回復魔法は苦手だったではないか」
「はい、教師がいいのでしょう。天使で、愛らしく、たどたどしくも奏でる声は鈴の音の様で……自然と耳に残るのです。ですから、覚えました」
「……娘自慢は良いが、私や家族の前以外ではひかえろよ。しかし、前世『ちーと』というのは凄いな」
確かに、魔法に関しては、学園などで学び、進む職によって、専門的な知識をもってしても、今のルイーズ以上の成果は得られないだろう。
しかも、理論に関して大した説明をせずに、成果のみをあげている。
愛娘、父様は誇らしいぞ。
「で、次は攻撃魔法の話をしろ」
「雷の魔法を教えてもらいましたが、訓練所の床に大穴をあけてしまって…………」
「苦笑いしてないで、詳しく話せ」
「はじめは、サンダーボルトかと思ったのですが、愛娘ルイーズが魔法を発動させると、雷鳴が轟き、床に小さな穴があきました。そして、サンダーボルトを披露した後、愛娘ルイーズが『とうさまも、るいーずとおなじようにしてみてください』と可愛い顔で、期待をした目で見るので、応じようと頑張りましたところ、天地が裂けるかの如く轟音と雷鳴が響き、訓練所には大穴が……結果、攻撃魔法は家では禁止となりました」
・
・
・
「ふむ、ふむ……まぁーなんだ。……ええーーい!国王に、気を使わすな!」
「気を使っていただき、恐悦至極にございます」
「まあよい、機会があれば、私にも雷魔法を見せてくれ」
「承知いたしました。では、気を取り直して話を進めます。飛行魔法ですが、もう愛娘ルイーズが『ひこうまほうは、ろまん』というだけあって、楽しかったです。愛娘ルイーズが、空を飛び、得意げに披露している姿は、天使の降臨かと見紛うばかりで、目を離す事が出来ずに打ち震えるばかりでした。がっ!父としての威厳を保つため、愛娘ルイーズの魔法を解明し、見事、飛行魔法を自在に操る事に成功したのです。…………ここで披露しましょうか?」
「…………頼む?!」
「なぜ、疑問形で返事をなさるのですか?陛下も覚えてください。楽しいし、逃亡に役立つときもあるでしょう」
「国王が、空を飛んで執務から逃亡したら、おかしいだろ!」
「執務からではありません!緊急時に、お使いください!」
「うむ、なら、良いか」
「ここの天井は、訓練所より低いので、低空飛行になりますが宜しいですか?」
愛娘に聞いた理論を陛下に伝え、魔法を発動し、執務室の中をゆっくりと飛ぶ。
魔法に関しては、陛下も『ちーと』になるだろう。
剣技はいまいちだが……。
目をぱちくりとさせ、またもや、まぬけ面……もとい美丈夫が台無しな陛下。
「いかがです?陛下でしたら出来るでしょう?」と、挑発してみる。
「よ、よし!やってみるぞ!」
陛下が魔法を発動させ、徐々に体が浮かび上がる。
ちっ!愛娘ルイーズの『とうさま、すご~い♪とうさま、ちーと♪』の賛美を死守するため、陛下も飛行魔法を会得したことは、暫く隠しておくとしよう。
「アベル!これはー楽しいなーー♪」
「そうでしょう、陛下ー」
「ハハハハ」
「ハハハハハ」
王城にある宰相の執務室では、王と宰相の笑い声が木霊し、カオスな光景が繰り広げられている。
今、この執務室に入る猛者は、いないだろう……。
母とともに、領地でのんびり暮らすのが夢だったそうだ。
学友でもあった王太子殿下が、即位の後、宰相に拝命された。
現国王は、王家特有の血筋にのみみられる紫の瞳に、黄金に輝く髪が美しい、なかなかの美丈夫、だと思う。
男の美醜はわからないので、城に仕える侍女たちの噂話からの憶測だが。
陛下は『賢王』として、国を統治し、民からも慕われている。
しかし、友として接する時は、威厳はなく、砕けた口調で話をする。
陛下は、度々執務から逃亡し、私の執務室に逃げ込み、他愛もない話をする。
「息抜きに来た」と。
今も、陛下はソファに座り、茶をすすっている。
私は、目の前に山積みにされた書類に目を通しつつ、陛下の話し相手になる。
「それで、また逃げてきたのですか?」
「まあな。お前がキッチリ仕事をしてくれるおかげで、判を押すだけの単純作業ばかりだ。息抜きに、お前の話を聞きに来た。さあ~話せ!」
「……はぁーー」
邪神復活に関する文献を読みたいと言った時、ルイーズの前世にかかわる話をせず、陛下の協力は得られないと判断し、ある程度は話したのだが、気に入ってしまったらしい……。
ルイーズに関しての話は、一部の人間だけにしか話していない。
人払いをするため、補佐官2名に目線を移す。
「ファビオ、ユーゴ。陛下と内密な話があるので、人払いを。呼ぶまで入室しないように頼む」
「「承知いたしました」」
補佐官達が退室したのを見届けた後。
「では、陛下。何からお聞きしたいですか?」
ルイーズ自慢はお手の物と、ニヤリと口角を上げる。
「うっっ、悪い顔になってるぞ」
「先日『あいすくりーむ』という、デザートを食べた話はしましたね。その後、愛娘ルイーズは肉眼では見えないはずの、マナが見える方法を思いついたのです」
「えっっ!なにーーー!」
「陛下、お静かに。(やれやれという感じで指を口元にあてる)その方法で、天使な息子のジョゼの手の件は片付きました。あっ!魔法省で、手の封印に関する魔道具作成いたしますので、許可をください」
「話の流れが、見えてるようで、見えないぞ……魔道具作成は許可する」
こんな曖昧な話でも理解する陛下は、流石です。
「そんなこんなの後……」
「イヤイヤ。そんなこんなで、有耶無耶にするな!」
「話の腰を折らないでください。お聞きになりたいのでしょう?」
「っぐ…………進めろ」
「まあ、詳しく話しますと、天使なジョゼの件が終わった後、愛娘ルイーズが『とうさまを、ぜんせちーとで、えいさいきょういくします』と提案しまして、回復魔法や、攻撃魔法、飛行魔法などを覚えました」
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「はっ?」
まぬけ顔……いや、美丈夫だと噂の御尊顔が台無しになっている。
「回復魔法や、攻撃魔法、飛行魔法などを覚えました」
手を顎にあて、にやける口元を隠す。
「……回復魔法は苦手だったではないか」
「はい、教師がいいのでしょう。天使で、愛らしく、たどたどしくも奏でる声は鈴の音の様で……自然と耳に残るのです。ですから、覚えました」
「……娘自慢は良いが、私や家族の前以外ではひかえろよ。しかし、前世『ちーと』というのは凄いな」
確かに、魔法に関しては、学園などで学び、進む職によって、専門的な知識をもってしても、今のルイーズ以上の成果は得られないだろう。
しかも、理論に関して大した説明をせずに、成果のみをあげている。
愛娘、父様は誇らしいぞ。
「で、次は攻撃魔法の話をしろ」
「雷の魔法を教えてもらいましたが、訓練所の床に大穴をあけてしまって…………」
「苦笑いしてないで、詳しく話せ」
「はじめは、サンダーボルトかと思ったのですが、愛娘ルイーズが魔法を発動させると、雷鳴が轟き、床に小さな穴があきました。そして、サンダーボルトを披露した後、愛娘ルイーズが『とうさまも、るいーずとおなじようにしてみてください』と可愛い顔で、期待をした目で見るので、応じようと頑張りましたところ、天地が裂けるかの如く轟音と雷鳴が響き、訓練所には大穴が……結果、攻撃魔法は家では禁止となりました」
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「ふむ、ふむ……まぁーなんだ。……ええーーい!国王に、気を使わすな!」
「気を使っていただき、恐悦至極にございます」
「まあよい、機会があれば、私にも雷魔法を見せてくれ」
「承知いたしました。では、気を取り直して話を進めます。飛行魔法ですが、もう愛娘ルイーズが『ひこうまほうは、ろまん』というだけあって、楽しかったです。愛娘ルイーズが、空を飛び、得意げに披露している姿は、天使の降臨かと見紛うばかりで、目を離す事が出来ずに打ち震えるばかりでした。がっ!父としての威厳を保つため、愛娘ルイーズの魔法を解明し、見事、飛行魔法を自在に操る事に成功したのです。…………ここで披露しましょうか?」
「…………頼む?!」
「なぜ、疑問形で返事をなさるのですか?陛下も覚えてください。楽しいし、逃亡に役立つときもあるでしょう」
「国王が、空を飛んで執務から逃亡したら、おかしいだろ!」
「執務からではありません!緊急時に、お使いください!」
「うむ、なら、良いか」
「ここの天井は、訓練所より低いので、低空飛行になりますが宜しいですか?」
愛娘に聞いた理論を陛下に伝え、魔法を発動し、執務室の中をゆっくりと飛ぶ。
魔法に関しては、陛下も『ちーと』になるだろう。
剣技はいまいちだが……。
目をぱちくりとさせ、またもや、まぬけ面……もとい美丈夫が台無しな陛下。
「いかがです?陛下でしたら出来るでしょう?」と、挑発してみる。
「よ、よし!やってみるぞ!」
陛下が魔法を発動させ、徐々に体が浮かび上がる。
ちっ!愛娘ルイーズの『とうさま、すご~い♪とうさま、ちーと♪』の賛美を死守するため、陛下も飛行魔法を会得したことは、暫く隠しておくとしよう。
「アベル!これはー楽しいなーー♪」
「そうでしょう、陛下ー」
「ハハハハ」
「ハハハハハ」
王城にある宰相の執務室では、王と宰相の笑い声が木霊し、カオスな光景が繰り広げられている。
今、この執務室に入る猛者は、いないだろう……。
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