楽しい転生

ぱにこ

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32話

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 カリンさんのお願いを父様に報告し、了承を得た後。
 野営地で手合わせを行うことになりました。
 ほぼ、私の強行なんだけれどね、うふ♪
 着いた早々、邪魔になりそうな石ころや木を掃除して、地面に円を書き、簡易闘技場を作って。
 手頃な丸太を並べて、観客席も用意。

 …………ただの広っぱに丸太を置いただけじゃないと思う方もいるかも知れません。
 はい、その通りです。
 でも、こういうのは気分の問題なので、ノープロブレムなのですわ。

 では、始めましょうか!

 アルノー先生に目線で合図をし、 
「第1回『ハウンド家対抗サクラ公国の使者さん達の力比べ』を行いますーーーー!!司会は私、アルノー・サルーキと」「ルイーズ・ハウンドでおおくりいたしま~~す!はい、はくしゅ!」

 ━━パチパチパチ

 観客のケンゾーとリョウブさんが頑張って拍手をしてくれています。
 うんうん、いい感じ。
 始まる前に、拍手と言ったら、頑張って拍手をするようにと伝えた甲斐があったわ。

 
「では、すわってしかいをおこないますか」
「そうですね、よっこいしょ」

 アルノー先生、よっこいしょって、お爺さんみたい……。
 ……もしかして、私が用意した台本を覚えて疲れたのかしら?
 短時間で詰め込んだものね……。
 終わったら、甘い物を用意するわね。

 ちなみに『第1回ハウンド家対抗サクラ公国の使者さん達の力比べ』にしたのは、後々私やケンゾーも手合わせをお願いしようかと思っての事です。

 それでは、選手に入場していただきましょう。

「それでは、せんしゅにゅうじょうです!」
 私の掛け声を合図に、アルノー先生が声を張り上げて、
「まずは、ヨークシャー王国の『ふううんじ』!剣の腕は王国随一!魔法の才能も『ちーと』級っ!美しい妻と可愛い子供にも恵まれた神に愛されすぎな、いけめん宰相『アベル・ハウンド』侯爵ーーー!!」

 父様が威風堂々と登場すると、ケンゾーとリョウブさんが拍手をします。

 ━━パチパチパチ 

「たいせんあいては!」
「サクラ公国の戦女神!強さは未知数ーー!美しさはおりがみ付きっ!『カリン』嬢--っ!!」

 カリンさんが登場すると、ケンゾーが拍手します。

 ━━パチパチ

 おい、リョウブさん拍手は?もう、照れてるのかしら?

 対峙する父様とカリンさん。
 父様は剣、カリンさんは戟ですわね……。
 三国志に出てくる呂布の武器に似ています。
 漆黒の柄の部分は桜の花が描かれていて、男性的な武器なのに女性らしさが窺えるわ。
 長さは1.8メートル程で、両側に斧の刃がつき、先の部分は槍の様になっていて薙ぎ払いにも突きにも特化しているものの、長さがある分、懐に入りさえすれば勝機はあるわね。


 しかし、チートな父様が早々に後れをとるはずはないのだろうけど、怪我でもされたらどうしましょう。
 華奢なカリンさんには似つかわしくない武器を目にして、不安を感じずにはいられません。
 父様、頑張ってね。
 父様を信じて精一杯、応援させていただきますわ。

「りょうしゃ、れいっ!」
 私の掛け声とともに、父様とカリンさんが礼をいたします。

 それを見届けて、アルノー先生が。
「では、始めっ!!」

 始まりの声を皮切りに駆け出したのは、カリンさんでした。
 ある程度の距離を保ったまま、一歩踏み出す形で戟を突き出します。
 剣の間合いには入らないように気を付けてるのね。
 リーチが長いと、こういう戦い方になるのか。勉強になるわ。
 父様は、一歩横に移動しただけで刃を躱します。さすがですわ。

 カリンさんがニヤリと微笑んで攻撃を続けます。
 左側から大きく振りかぶって、足元めがけて薙ぎ払い。
 かと、思ったら急に刃の向きを変えて上に一閃。
 からの、連続突き。
 その時初めて父様が剣を抜きました。

 キンッ!!

「クッ!」

 一瞬で良く見えなかった……。
 けど、抜いた鞘の方でカリンさんの刃を叩き返したようです。
 カリンさんは一瞬、悔しそうな声を発しましたが、再び笑顔を向けています。

 なんか、うん、父様、凄い!ちょっと、今の鳥肌がたったわ。

「とうさまーーっ!!かっこいいですわーーーっ!がんばってーー!!」
 ついつい、大声で声援を送ります。

「ご主人さまーっ!がんばってくださいーっ!」
 固唾をのんで見ていたケンゾーも声援を送ります。

 すると、ニヤリと笑った父様は、
「そうかっ!かっこいいかっ!父様、頑張るよっ!」
 って、父様よそ見しちゃ駄目っ!

 一瞬の隙を狙ってか、父様の死角に入り込むカリンさん。
 戟を短く持って、背後から斬りつけます。
 が、父様はまたもや鞘で叩きつけました。
 カリンさんは、初めから躱されると予測していたのか、一瞬にして後退。
 次は、戟を振り回します。

 あ、これ、アクションゲームの何とか無双で見たことがある…………。

 四方に振り回すことによって隙を生まない戦法ですか。
 挑発するような笑みを浮かべるカリンさん。
 さあ、父様、どう打って出ますか?!


「さて、アルノーせんせい。きんぱくしたたたかいがつづいていますが、とうさまはどう、うってでるとおもいますか?」
 司会をそっちのけで見入っていた私は、おもむろに話を振ります。
「えっ?!あ、ああ、そうですね…………う~ん?……ルイーズ様……剣術に疎い私に話を振らないでください……」
 アルノー先生は、しゅんと項垂れます。

「それもそうですわね。では、とうさまがかつとおもいますか?それとも、カリンさんがかつとおもいますか?」
 司会っぽい事をしようと、勝者の予想をたてることにしました。
 もちろん、私は父様が勝つと思っていますが。
「そうですね……これまで、侯爵様は躱すことはしていますが、反撃に転じていません。一見、押されているかのように見えるのですが、ルイーズ様やケンゾーくんの鍛錬の時に見せる余裕さが窺えます。……ですので、勝者は侯爵様かと」

 アルノー先生の予測に、大きく頷き同意します。
 うんうん、何気によく見ていますわね。
 確かに、父様の余裕っぷりは剣術の鍛錬で、私達を翻弄する時と同じです。
 しかも、剣を一度も振っていないのです。
 鞘ばかりが活躍していますわ。もしかして、刃毀れしないように気を使っているのかしら?

 でも、私は……大人の力量を見たいのですよ。

「とうーさまーーっ!!はんげきに、でーてーくだーさいーーっ!かっこいいすがたをーみせてーっ!」
 ぴょこぴょこ飛び跳ねながら手を振って、父様に檄を飛ばします。

 チラッとこちらを見た父様は、親ばかな時に見せるデレっとした表情を浮かべ「任せておけっ!」と、一声。
 反撃に出ました。

 父様は、鞘をカリンさんの足元へ放り投げます。

 カンっ!

 と、はじき返された鞘。けれど、一瞬の間を生んでしまいます。
 その僅かな間を父様が見過ごすはずがありません。
 走り出した父様は、流れるような早業でカリンさんの武器を奪い取り、剣の刃を首筋に押し付けました。
 カリンさんは負けた事を理解すると、力なく「参りました」と囁きます。

「勝者っ!ハウンド侯爵っ!!」
 アルノー先生の声高らかに宣言すると。

 わあー!っと、ケンゾーとリョウブさんが歓声をあげます。

「とうさまっ!すてきでしたわーっ!!」
 すぐにでも、父様に飛びつきたい気持ちを押し殺し、司会はきっちりと勤め上げねばと、マイク代わりの枝を持ちます。
「だい1かい『ハウンドけたいこうサクラこうこくのししゃさんたちのちからくらべ』は『ハウンド』けがしょうりいたしましたーっ!はい、はくしゅ!」
 と、宣言し、ケンゾーとリョウブさんに目配せします。

 ━━パチパチパチ

「両者お疲れさまでした。とても良い戦いを見ることが出来て光栄です。それでは、また次回お会いしましょう。司会は私『アルノー・サルーキ』と」「『ルイーズ・ハウンド』がおおくりいたしましたー!」
 アルノー先生と共に礼をして締めくくります。

 ━━パチパチパチ

 本当に楽しかった~♪
 2人とも怪我もなく、終わって良かった。

 私は勝者である父様を労う為に、駆け寄りました。
「とうさま~!とても、すてきでしたわ♪さすがですわ~かっこよくて、とりはだがぶわ~っとでましたわ」
「そうかそうか。かっこ良かったか」
 デレデレな笑顔を向ける父様に抱き抱えられたまま、カリンさんに話しかけます。
「カリンさんもすばらしかったです。つぎは、わたくしやケンゾーともてあわせしてくださいね」
「えっ?!ルイーズ様やケンゾーくんとですか」
「あ、もちろん、ぼっけんでのてあわせでおねがいいたしますね」
 木剣ではなく、戟を振り回されたら……魔法なしでは勝てそうにないもの。
 木剣という言葉を聞いて、ホッとするカリンさんは、勿論と了承してくださいました。

 うふふ、楽しみだわ♪



 ◇ ◇ ◇



 夕飯をいただきながら先ほどの戦いの話に花を咲かせています。
 今夜のメニューは、簡単に済ませようと焼肉です。
 BBQの方がしっくりくるかな。
 タレはお醤油に生姜、ニンニク、お砂糖と唐辛子少々で作りました。
 本当はお砂糖ではなく、果物の甘味で焼肉のタレを作りたかったのだけれど、時間が足らなかったのです。
 串に刺したお肉とお野菜を、炙りながらタレを重ね塗りして出来上がり。

「今日のご飯も美味しいわ~」
 カリンさんが、お肉を口いっぱいに詰め込んで幸せそうなお顔をしています。
「運動の後のご飯は美味しいですよね」
 リョウブさんが、同じく口にいっぱい詰め込んで言うと。
「リョウブは、運動なんてしてないじゃないっ!」
 と、カリンさんの突っ込みが入ります。
「いや、パチパチっとね、拍手を頑張ったのですよ」
「そういえば、私の紹介の時、拍手をしなかったわよねーーっ!」
 気付いてた?というような目をするリョウブさんの姿に、皆が声を出して笑います。

 こんな風に食べるご飯は本当に美味しいわ。

「しかし、なぜとうさまは、ほとんどけんをつかわなかったのですか?」
 結局、首筋にあてる時だけ剣を使った父様に、疑問に感じたことを伺いました。
「ああ、刃毀れしたら、魔物や盗賊が出た時に困るだろ」
「やはりそうでしたか」
 想像通りの答えだったわ。

「侯爵様、手合わせしていただきありがとうございます。本当に手も足も出ないとは、こういう事なんですね……対峙した瞬間から、勝てる見通しが立ちませんでしたし……」
 少し残念そうに、けれど吹っ切った様な笑みを浮かべるカリンさん。

「うむ、愛娘の為に頑張ったからな」
 父様はそう仰りながら、私の頭を撫でてくれました。
 強いのは親ばかパワーだったのですね。

「ところで、ルイーズ様。伺い事があるのですが」
 アルノー先生が2本目のお肉を育てながら、私に質問されました。
「なんでしょう?」
 アルノー先生はお肉から目線を外さず、
「『いけめん』とはなんです?あと『ちーと』と『おりがみつき』と『ふううんじ』について、教えていただけますか?」
 ああ、それね。
 台本を丸暗記して貰ったのはいいけれど、意味の説明をしていなかったものね。

「まず『イケメン』とは、かおがととのっていて、かっこいいおとこのひとのことです。つぎに『ちーと』とは、ずるいっていみなのです。とうさまにつかったのは、ずるいくらいつよいといういみですわ。『ふううんじ』はかんたんにいえば、えいゆうてきそんざいのかたにつかいますね。『おりがみつき』は、ほしょうをいみします」
「ほお。では、侯爵様はかっこ良くて、ずるいくらいに強くて、英雄的存在だという事ですね。そして、カリンさんは、皆に認められた美しさを持つと……」
 しっかり育てて美味しそうに焼けたお肉を頬張りながら、アルノー先生が日本特有の言葉の意味を理解します。

「のみこみがはやいですわ。さすが、アルノーせんせい」

「ふむ『ちーと』とは、そういう意味だったのか」
 父様がぼそっと囁くように仰いました。
「えっ、とうさま、しりませんでしたの?」
 …………確かに、チート、チートって言ったけれど、詳しい意味は説明していなかった様な?!

「ああ、なんとなく言葉の端々で理解はしていたつもりだったが、しっかりと説明を受けたのは始めてだ」
「ごめんなさい、とうさま。とうさまもしっかりと、おつかいになっていらっしゃるので、りかいされているのかと、おもっていました」
「ずるいくらいに強いか……愛娘にそこまで褒められるのは嬉しいものだな……王国に戻ったら、また陛下に自慢せねば……」
 父様っ、何をボソッと仰ってるのっ、陛下に自慢??
 また?
 私、どんな父様っ子にされるのかしら…………知るのが怖いわ。

 ニマニマする父様を横目に、ケンゾーと一緒にぴよたろうにお肉をあげます。
 生肉でもいいのだろうけど、お腹をこわすといけないので、味付けなしで加熱したものです。

「ぴよたろうもそろそろ、かりができるわね。はじめての、えものはなにになるのかしらね」
【ぴぃぴぃ】
「つぎの町『シュクル』あたりでまものがではじめるのですよね?」
「ええ、そうらしいわね。なんのまものがでるのかしらね」

 ……ぴよたろうが狩れる程度の弱い魔物だったり、小動物がいいのだけれど。

「なんにせよ、見まもるしかできないですよね……あ、もちろん、あぶなくなったら手をかしますが」
「それはもちろんよ。ぴよたろうがけがをしたら、いやだもの。あぶないときはにげるのも、てよ」
 ケンゾーと一緒にぴよたろうを撫でながら、不測の事態に備えようと、決意を固めます。
 何があろうと、守らなければ。

「おじょうさま。先ほどのたたかいを見て、おじょうさまでしたらどうたたかいますか?」
 急にケンゾーが先ほどの戦いについて質問を投げかけてきました。
「うん?とうさまとたたかうほう?それともカリンさん?」
 父様を攻略するには、もっと鍛錬を重ねなければ勝てる見込みはありません……。
「カリンさんの方です」
「う~ん……おおぶりなぶきだから、すきもうまれやすいでしょう……なぎはらいだけなら、かわすのはよういだけれど、あのつきはするどかったし、まほうをつかわないと、むりかしら。ふりまわしにたいこうするのも、やはり、まほうがひつようね……そうかんがえると、けんぎはまだまだみじゅくよね~」

 魔法ありきで戦うのは容易だけれど、剣術の腕だけでは勝てないと認めてるようなもの。
 未熟な自分が、悔しい。
 ケンゾーも同じ気持ちなのか、少し悔しそうな顔をして頷いています。

「そうなのですよね……」

「じゃあ、もっと鍛錬を重ねなきゃあな」

 突然、聞きなれているけれど、ここには居るはずのない人の声が降ってきました。

「「えっ?」」

 驚きのあまり、素っ頓狂な声を出して振り向きます。

「ししょう?」
「じっちゃん?」

「ああ、俺だ。追いかけてきた」
「じっちゃん……」

 ケンゾーは師匠の腕に飛び込み、再会の喜びを噛みしめています。

 追いかけてきた?どうして?
 疑問に思い視線を彷徨わせていると、ニヤリと笑う父様の姿が……。

 …………父様の仕業でしたのね。
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