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恋はどうやら叶わないようです
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もう少しリタと話をしていたかったが、ディアナのお茶のために泣く泣くその場をお開きになる。
「ご家族様はすべてご説明したはずですので、きっと大丈夫でございますよ」
両手に拳を作ったリタにそう励まされ、私も何だか大丈夫な気がしてきた。「ヘンリエッタ様はよくお庭を散歩されていましたよ」と教えられたので、そのまま庭の方へ降りることにした。
庭へは、階段の並びにあるバルコニーから出られるという。確かにバルコニーに出ると右手に外階段がついていて、そこから庭に繋がっていた。
心地よい気候だ。上から見ても美しかった満開のバラは、近くで見ると圧巻であった。あぁ、これぞ物語の中だと思うほど立派に咲き乱れた視界いっぱいのバラ。思わずため息が出る。
ピンクと白のマーブル色のバラに近づいて香りを嗅いでいると、垣根の向こう側からあの心地よい笑い声が聞こえてきた。
「まぁ、アレックスったら!あははは」
さっきのディアナの笑い方とは雲泥の差だ。もっと聞いていたくなるようなその声の方に歩を進めると、シャーロットのピンク色のドレスの裾が見える。てっきり庭師の老人とでも話しているのだと思って垣根を覗き込み、私は息をのんだ。
な、なんという美男子・・・・・・!
シャーロットと笑い合っていたのは、服装こそオーバーオールに麦わら帽子、軍手にスコップとジョウロを手にした「庭師」だったが、背が高く褐色の肌に彫りの深い目元に高い鼻、少しウェーブのかかった黒髪の美男子だった。
例えるならアラブの王子様だろうか、顔が美しすぎて作業服が浮いている。リタ、こんな綺麗な男性がこの屋敷にいるなら、あの時教えておいてほしかった。半分口を開けたまま、その姿に見惚れていると、その美男子とばっちり目が合ってしまった。
「よぉ!ヘティ!君もおいでよ、ここに変わったバラがひとつ咲いているんだ」
美男子はスコップを持った手を上にあげると、白い歯を光らせてそう言った。ヘンリエッタとはどういう関係なんだろうか。ヘティという愛称で呼ぶからにはそれなりに仲が良いのかもしれない。しかし、その横にはシャーロットがいる。いきなりこの2人を同時に相手するのは難易度が高い・・・・・・。
と、そんな思いと裏腹に私の足は2人の方へどんどん近づく。あっという間に招かれた方へたどり着いてしまった。
「ヘティ、ほらここ見て、すみれ色のバラだ。そんな苗は植えていないんだけど、このひとつだけ奇跡的にこの色になった、美しいよね」
確かに、そのバラは一輪だけ青みがかかった薄い紫の色味をしていた。
「私は、アメジスト色だと思いますの、お姉さまの誕生石と同じ色ですわ、そうだ、アレックス、この花をお姉さまのためにドライフラワーにしてさしあげたら?」
相変わらず私に対して全く臆した態度を見せないシャーロットのおかげで、さっき聞き逃していた彼の名前をもう一度確認できた。ついでに私が2月生まれだということも知れた。何で誕生石ですぐ分かったかって?私もかつて2月生まれだったからだ。
「うーん、でも僕は反対だな、花は儚い方が美しい」
「そう?せっかく珍しい色なのに、今しか見れないなんてもったいないわ」
そう言って唇を尖らせるシャーロットに対して、アレックスは優しい眼差しを向けた。その表情を見て、胸がちくりと痛む。そうだよな、意地の悪いわがまま令嬢より、この可愛らしいシャーロットの方が良いに決まっている。ライリーがシャーロットの方に気があるのは全く気にならなかったが、アレックスに関しては、少なからず気分が沈んでしまった。
「ヘティ?どうしたんだ?顔色が悪いぞ」
押し黙ったまま、しょんぼりしていると、アレックスが私の顔を覗き込む。美しい顔が突然間近に現れて、私は自分の顔が急激に真っ赤になるのを感じた。
「まぁお姉さま!お顔が真っ赤でございます、熱でもあるのではないですか?」
シャーロットは私の体に手を回し、支えるように横に立つと、
「アレックス、急いでリタに、お姉さまがお休みになる準備をするように伝えて」
「分かった!」
アレックスの長い足が、家の反対側に消えていく。アレックスの顔に緊張して赤面しただけだとも言い出せず、私はシャーロットに支えられながら大人しく部屋に戻るしかなかった。
「お姉さま、大丈夫でございますか?明日の私の誕生日会にはきっと元気になってくださいますわよね?」
「誕生日会?」
反射的に聞き返してしまったが、シャーロットには私が「参加したくない」という意味で言ったと伝わったらしい。少し決まりが悪そうにうつむくと、自嘲するように笑った。
「あ、もちろん、お姉さまのお気が進まなかったら、無理にとは申しません。でも、もしお姉さまも参加してくださったら、私とても嬉しいのです」
シャーロットの言葉からは、何ひとつ嫌味な部分がなかった。本当はほんの少し、ディアナが言っていたような性悪女なのかもしれない、と思っていた。そしてそれを願ってしまっていた自分もいた。何てことを願っていたんだろう。自分で自分が恥ずかしい。
アレックスや、あのライリーが彼女に好意を寄せる気持ちが良く分かる。表情豊かなその顔と抑揚のある心地よい声。それに相手に対する自然な気遣い。どれをとってもヒロインそのものだ。ついでに、意地の悪い義理の姉がいるあたりもしっかりヒロインだ。
ふとさっきのディアナの話を思い出す。ディアナはシャーロットがライリーを誘ったと言っていたが、絶対そうじゃない。ライリーが無理矢理シャーロットを誘ったんだ。「優しいから誘われたら断れない」のはシャーロットの方だ。
こうなると、シャーロットとライリーがくっついて幸せになってほしい、という希望が少し変わってくる。こんないい子が、あんな嫌な男の妻になるなんて阻止しなければいけない。それにさっきのアレックスのシャーロットを見る目。あれは恋をしている男性の目だった。どうせなら、アレックスにも幸せになってほしい。
部屋までしっかり支えてくれたシャーロットは、そっと私を椅子に座らせてくれた。さっきから何か情報を得ようとする度にこの部屋へ戻ってきてしまう。もしかして小説の中で私、つまりヘンリエッタがあまりにも端役だからだろうか。リタはまだかしら、とそわそわしているシャーロットに座るように声をかけた。
「ねぇシャーロット、あなた、あまりライリーと仲良くしないほうがいいわよ」
出来るだけ冷たく言い放つ。あんな男、見るのも嫌だけど、シャーロットとアレックスの幸せを願うのであれば、私がこのまま結婚した方がいい。奇しくもディアナの望み通りの流れになってしまったが、念の為、あとでお祖父様にもライリーに対して注意してもらおうと心に決めた。シャーロットに対しては、私からだけでいいだろう。
シャーロットはハッとして私の顔を見る。まん丸い瞳は僅かに動揺していた。
「さっきも泉の方に2人で行ったそうね」
「申し訳ございません、お姉さま!お姉さまを差し置いてライリー様と2人きりになるなんて・・・・・・」
「どこで誰が見ているのか分からないんだから。あなただってあらぬ噂を立てられたくないでしょう?」
「えぇ、それは・・・・・・」
さっきの私のようにしょんぼりしたシャーロットは、(とはいえその姿でさえも、私とは似ても似つかぬほど可愛らしかったが)気をつけます。とつぶやくように言った。
その時、ノックの音と同時にドアの向こうからアレックスの顔がのぞく。私の心拍数はまた少し早くなった。
「シャル!手伝ってくれ、リタがどこにもいないんだ、他のメイドもみんな買い物に出たって言うし、ダイラは休憩中で出かけてるし」
「ディアナのところだと思うわ」
私が言うと、アレックスは納得したように、顔を動かした。
「そういえば昨日またメイドが辞めたって言ってたな」
「私が呼んできますわ」
そう言って、シャーロットが立ち上がろうとする。いや、あの蛇女とシャーロットを関わらせたくない。私はシャーロットの腕を掴むとアレックスに言った。
「座っていたら、気分が良くなってきたわ。2人ともありがとう。リタはそのうち戻ってくるでしょうから、もう大丈夫よ」
「ヘティ、君からお礼の言葉が聞けるなんて、子どもの頃に戻ったみたいだ。じゃぁ、僕は庭に戻るよ、シャル、リタが戻るまで側にいてあげて」
「えぇ、もちろん」
アレックスは爽やかにその場を去っていった。子供の頃に戻ったみたい・・・・・・アレックスは子どもの頃からこの屋敷にいるのだろうか。ということは私とは幼馴染ということだ。ここで何不自由なく暮らしていければそれでハッピーだと思っていたのに、人間の欲望とは何て浅ましいんだろう。2人の幸せを願ったばかりなのに、アレックスが決して自分の方を見てくれない現実はやはり辛かった。
ライリーの話をしたせいか、シャーロットは私の顔色を伺いつつ、あまり話しかけてこなくなった。ボロを出したくないので、できれば私から話しかけたくはない。とはいえこの沈黙はきつい。天気の話でもしようかと窓の方を見ていたら、リタがようやく戻ってきた。
「ヘンリエッタ様、私をお呼びだと聞きました、すぐに参れず大変申し訳ございません!」
リタはそう言ってまた90度のお辞儀をしたあと、シャーロットがいることに分かりやすく驚いていた。
「これはこれはシャーロット様、何故こちらに」
「リタが戻ってくるまで、お姉さまに付き添っていたの、お姉さま体調が優れないみたいで・・・・・・出来れば休めるようにしてあげてくれる?」
「はい、承知いたしました」
「では、お姉さま、ゆっくりお休みになって。ご無理なさらないでね」
シャーロットの柔らかく、えくぼのある手がそっと私の手を包んだ。まるでマシュマロだ。思わずうっとりするその感触は一瞬で通り過ぎ、シャーロットはリタに優しく声をかけると浮いているかのような動きで部屋を出ていった。
「ご家族様はすべてご説明したはずですので、きっと大丈夫でございますよ」
両手に拳を作ったリタにそう励まされ、私も何だか大丈夫な気がしてきた。「ヘンリエッタ様はよくお庭を散歩されていましたよ」と教えられたので、そのまま庭の方へ降りることにした。
庭へは、階段の並びにあるバルコニーから出られるという。確かにバルコニーに出ると右手に外階段がついていて、そこから庭に繋がっていた。
心地よい気候だ。上から見ても美しかった満開のバラは、近くで見ると圧巻であった。あぁ、これぞ物語の中だと思うほど立派に咲き乱れた視界いっぱいのバラ。思わずため息が出る。
ピンクと白のマーブル色のバラに近づいて香りを嗅いでいると、垣根の向こう側からあの心地よい笑い声が聞こえてきた。
「まぁ、アレックスったら!あははは」
さっきのディアナの笑い方とは雲泥の差だ。もっと聞いていたくなるようなその声の方に歩を進めると、シャーロットのピンク色のドレスの裾が見える。てっきり庭師の老人とでも話しているのだと思って垣根を覗き込み、私は息をのんだ。
な、なんという美男子・・・・・・!
シャーロットと笑い合っていたのは、服装こそオーバーオールに麦わら帽子、軍手にスコップとジョウロを手にした「庭師」だったが、背が高く褐色の肌に彫りの深い目元に高い鼻、少しウェーブのかかった黒髪の美男子だった。
例えるならアラブの王子様だろうか、顔が美しすぎて作業服が浮いている。リタ、こんな綺麗な男性がこの屋敷にいるなら、あの時教えておいてほしかった。半分口を開けたまま、その姿に見惚れていると、その美男子とばっちり目が合ってしまった。
「よぉ!ヘティ!君もおいでよ、ここに変わったバラがひとつ咲いているんだ」
美男子はスコップを持った手を上にあげると、白い歯を光らせてそう言った。ヘンリエッタとはどういう関係なんだろうか。ヘティという愛称で呼ぶからにはそれなりに仲が良いのかもしれない。しかし、その横にはシャーロットがいる。いきなりこの2人を同時に相手するのは難易度が高い・・・・・・。
と、そんな思いと裏腹に私の足は2人の方へどんどん近づく。あっという間に招かれた方へたどり着いてしまった。
「ヘティ、ほらここ見て、すみれ色のバラだ。そんな苗は植えていないんだけど、このひとつだけ奇跡的にこの色になった、美しいよね」
確かに、そのバラは一輪だけ青みがかかった薄い紫の色味をしていた。
「私は、アメジスト色だと思いますの、お姉さまの誕生石と同じ色ですわ、そうだ、アレックス、この花をお姉さまのためにドライフラワーにしてさしあげたら?」
相変わらず私に対して全く臆した態度を見せないシャーロットのおかげで、さっき聞き逃していた彼の名前をもう一度確認できた。ついでに私が2月生まれだということも知れた。何で誕生石ですぐ分かったかって?私もかつて2月生まれだったからだ。
「うーん、でも僕は反対だな、花は儚い方が美しい」
「そう?せっかく珍しい色なのに、今しか見れないなんてもったいないわ」
そう言って唇を尖らせるシャーロットに対して、アレックスは優しい眼差しを向けた。その表情を見て、胸がちくりと痛む。そうだよな、意地の悪いわがまま令嬢より、この可愛らしいシャーロットの方が良いに決まっている。ライリーがシャーロットの方に気があるのは全く気にならなかったが、アレックスに関しては、少なからず気分が沈んでしまった。
「ヘティ?どうしたんだ?顔色が悪いぞ」
押し黙ったまま、しょんぼりしていると、アレックスが私の顔を覗き込む。美しい顔が突然間近に現れて、私は自分の顔が急激に真っ赤になるのを感じた。
「まぁお姉さま!お顔が真っ赤でございます、熱でもあるのではないですか?」
シャーロットは私の体に手を回し、支えるように横に立つと、
「アレックス、急いでリタに、お姉さまがお休みになる準備をするように伝えて」
「分かった!」
アレックスの長い足が、家の反対側に消えていく。アレックスの顔に緊張して赤面しただけだとも言い出せず、私はシャーロットに支えられながら大人しく部屋に戻るしかなかった。
「お姉さま、大丈夫でございますか?明日の私の誕生日会にはきっと元気になってくださいますわよね?」
「誕生日会?」
反射的に聞き返してしまったが、シャーロットには私が「参加したくない」という意味で言ったと伝わったらしい。少し決まりが悪そうにうつむくと、自嘲するように笑った。
「あ、もちろん、お姉さまのお気が進まなかったら、無理にとは申しません。でも、もしお姉さまも参加してくださったら、私とても嬉しいのです」
シャーロットの言葉からは、何ひとつ嫌味な部分がなかった。本当はほんの少し、ディアナが言っていたような性悪女なのかもしれない、と思っていた。そしてそれを願ってしまっていた自分もいた。何てことを願っていたんだろう。自分で自分が恥ずかしい。
アレックスや、あのライリーが彼女に好意を寄せる気持ちが良く分かる。表情豊かなその顔と抑揚のある心地よい声。それに相手に対する自然な気遣い。どれをとってもヒロインそのものだ。ついでに、意地の悪い義理の姉がいるあたりもしっかりヒロインだ。
ふとさっきのディアナの話を思い出す。ディアナはシャーロットがライリーを誘ったと言っていたが、絶対そうじゃない。ライリーが無理矢理シャーロットを誘ったんだ。「優しいから誘われたら断れない」のはシャーロットの方だ。
こうなると、シャーロットとライリーがくっついて幸せになってほしい、という希望が少し変わってくる。こんないい子が、あんな嫌な男の妻になるなんて阻止しなければいけない。それにさっきのアレックスのシャーロットを見る目。あれは恋をしている男性の目だった。どうせなら、アレックスにも幸せになってほしい。
部屋までしっかり支えてくれたシャーロットは、そっと私を椅子に座らせてくれた。さっきから何か情報を得ようとする度にこの部屋へ戻ってきてしまう。もしかして小説の中で私、つまりヘンリエッタがあまりにも端役だからだろうか。リタはまだかしら、とそわそわしているシャーロットに座るように声をかけた。
「ねぇシャーロット、あなた、あまりライリーと仲良くしないほうがいいわよ」
出来るだけ冷たく言い放つ。あんな男、見るのも嫌だけど、シャーロットとアレックスの幸せを願うのであれば、私がこのまま結婚した方がいい。奇しくもディアナの望み通りの流れになってしまったが、念の為、あとでお祖父様にもライリーに対して注意してもらおうと心に決めた。シャーロットに対しては、私からだけでいいだろう。
シャーロットはハッとして私の顔を見る。まん丸い瞳は僅かに動揺していた。
「さっきも泉の方に2人で行ったそうね」
「申し訳ございません、お姉さま!お姉さまを差し置いてライリー様と2人きりになるなんて・・・・・・」
「どこで誰が見ているのか分からないんだから。あなただってあらぬ噂を立てられたくないでしょう?」
「えぇ、それは・・・・・・」
さっきの私のようにしょんぼりしたシャーロットは、(とはいえその姿でさえも、私とは似ても似つかぬほど可愛らしかったが)気をつけます。とつぶやくように言った。
その時、ノックの音と同時にドアの向こうからアレックスの顔がのぞく。私の心拍数はまた少し早くなった。
「シャル!手伝ってくれ、リタがどこにもいないんだ、他のメイドもみんな買い物に出たって言うし、ダイラは休憩中で出かけてるし」
「ディアナのところだと思うわ」
私が言うと、アレックスは納得したように、顔を動かした。
「そういえば昨日またメイドが辞めたって言ってたな」
「私が呼んできますわ」
そう言って、シャーロットが立ち上がろうとする。いや、あの蛇女とシャーロットを関わらせたくない。私はシャーロットの腕を掴むとアレックスに言った。
「座っていたら、気分が良くなってきたわ。2人ともありがとう。リタはそのうち戻ってくるでしょうから、もう大丈夫よ」
「ヘティ、君からお礼の言葉が聞けるなんて、子どもの頃に戻ったみたいだ。じゃぁ、僕は庭に戻るよ、シャル、リタが戻るまで側にいてあげて」
「えぇ、もちろん」
アレックスは爽やかにその場を去っていった。子供の頃に戻ったみたい・・・・・・アレックスは子どもの頃からこの屋敷にいるのだろうか。ということは私とは幼馴染ということだ。ここで何不自由なく暮らしていければそれでハッピーだと思っていたのに、人間の欲望とは何て浅ましいんだろう。2人の幸せを願ったばかりなのに、アレックスが決して自分の方を見てくれない現実はやはり辛かった。
ライリーの話をしたせいか、シャーロットは私の顔色を伺いつつ、あまり話しかけてこなくなった。ボロを出したくないので、できれば私から話しかけたくはない。とはいえこの沈黙はきつい。天気の話でもしようかと窓の方を見ていたら、リタがようやく戻ってきた。
「ヘンリエッタ様、私をお呼びだと聞きました、すぐに参れず大変申し訳ございません!」
リタはそう言ってまた90度のお辞儀をしたあと、シャーロットがいることに分かりやすく驚いていた。
「これはこれはシャーロット様、何故こちらに」
「リタが戻ってくるまで、お姉さまに付き添っていたの、お姉さま体調が優れないみたいで・・・・・・出来れば休めるようにしてあげてくれる?」
「はい、承知いたしました」
「では、お姉さま、ゆっくりお休みになって。ご無理なさらないでね」
シャーロットの柔らかく、えくぼのある手がそっと私の手を包んだ。まるでマシュマロだ。思わずうっとりするその感触は一瞬で通り過ぎ、シャーロットはリタに優しく声をかけると浮いているかのような動きで部屋を出ていった。
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