結び契る〜異世界転生した俺は番いを得る

風煉

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第1話

番い、修羅

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一瞬、何が起こったのか分からなかった。
間を埋めるのが非常にうまいヒューイだからなのか、それとも俺が油断しすぎていただけなのか、この際些細なことなのかも知れない。
ただはっきりとしているのは、ヒューイの顔が近づいてきて、俺の唇を塞ぐようにマズルを重ねてきたのだ。
絶句、というよりは驚きと混乱で何が起こったと、爆発する勢いだったのだが、俺の心情など無視するように事は進む。
口を開き、犬科らしい太く長い舌が口腔へ侵入し、俺の舌を巻き取り絡めとった。
離れようとするも両二の腕を掴まれて引き寄せられ、逃さないとばかり深く口づけされては身動きが取れない。
爺様に助けを求めようとするも、老猫は老猫で微笑ましいものを見つめる祖父のような表情で、手助けするつもりがなかった。
唾液をドンドンと飲まされ、絡みつく舌と舌の感触に脳が蕩け、麻痺していくのだけは分かる。
気持ちがいいと、全身の力が抜けたところでヒューイの顔が離れていった。
 
「……すごい。 ダイチの魔力、こんなに濃厚なんだ」
「それが人属というものだ。 それに、間違いないようじゃな」
「爺様、それじゃあ!」
「うむ。 というわけじゃ、ダイチ様」
「ハァ、ハァ……。 は、はい……?」
「あなたにはこの村に滞在する条件として、そちらのヒューイを番いとしてめとっていただきますぞ」
「……は、はぁぁ!?」
 
だらしなく涎と舌が出ている俺を、同じくらい恍惚とした表情のヒューイが、愛しげにこちらを見つめている。
爺様は爺様で、やはりとばかりうんうんと頭を動かしているのはなぜだと、呼吸を整える俺はわけがわからなかった。
だがそれ以上に、この世界に来て一番の問題が起こるとは予想できるはずもない。
爺様がそっと手を向けた先、今まさに濃密すぎるキスを交わしたヒューイと番いになるのが、村にいるための条件だというのだ。
番い、つまりは結婚しろと言われているも同義であり、初めて会ったばかりの相手なのに何を言っているんだと、そう訴えようとする。
 
「ま、待ってください!? それは……」
「認めん!!!!!!!!!!!!!」
「あっ、父さん」
「……ゼンブル、入る時はノックをしろと何度言わせるつもりじゃ」

俺の主張など力づくで遮るように、後ろのドアをぶち破らんばかりに開かれた先には、筋肉ダルマなドーベルマンが立っていた。
突然のことに驚く俺、慣れたように父と呼ぶヒューイ、どこか呆れてものがいえない爺様が頭を抱えるように諭す。
ゼンブルという犬はズカズカと室内に入ってくると、鬼の形相を浮かべて見るからに激怒していた。
そっと隣にいるヒューイに視線を向けると、少しだけ表情が和らぐも、害虫を睨みつけるように、眼光鋭く光らせて俺の方へ首をものすごい勢いで向けてくる。
小さく悲鳴が漏れる俺だったが、この後何が起きようとしているのか、分かっていても逃げ出せるはずがなかった。
 
「こんな得体のしれん人属をヒューイの番いにと!? 爺様、正気ですか!」
「正気も何も、口づけをさせてみたが、全く問題がない。 正真正銘、この二人は結び契り合うべき番い同士じゃ」
巫山戯ふざけるな! それよりも貴様! ヒューイと口づけたのか!?」
「えっ、あの、その……ぐええっ!?」
「貴様! よくも私の可愛いヒューイを汚したな! この汚物め、腹を裂いて内臓をぶちまけてくれる!」
「と、父さん! やめてってば!」
「ヒューイ、黙ってなさい! おのれ、だから人属など信用ならんのだ! 言え! どんな手を使ってこの子をたぶらかして……!」
「お前が黙れ、お前が」
「がひゅ!?」
 
怒髪天という言葉が似合いすぎるほど、ドーベルマンが激怒している様に俺はタジタジになる。
爺様への反抗は分かるが、矛先はすぐこっちへ向かってきたので弁明しようとするも、言葉を口にする前に首を掴まれ締められてしまった。
手加減など一切ない本気に、酸欠になりかける俺の視界にどこか温かな日差しが降り注ぐ、そんな錯覚が見える。
このままでは本当に危ないとヒューイが止めに入ろうとしても止まらず、ゼンブルという犬は俺にとどめを刺そうとした。
それをまた別の声が止めるようにして、筋肉ダルマの犬を何かで殴りつける。
小さく鈍い悲鳴に直立のまま地面へ倒れ、同時に俺の体も地面に落下した。
お尻に衝撃を受け、咳き込んでいるとヒューイが心配そうに駆け寄ってきて、背中を摩ってくれる。
 
「ダイチ、大丈夫?」
「ゲホ、ゲホ……! な、なんとか……」
「はぁ、やれやれ。 やっぱりこうなったな……」
「ヒュペル、手綱はしっかり握っておけ」
「申し訳ございません、爺様。 ゼンブルには俺の方からきちんと言い含めておきますので」
 
苦しく呼吸を整えていると、ヒューイによく似た柴犬の男が申し訳なさげに頭を下げている一方で、倒れたドーベルマンの頭を踏みつけていた。
見れば右手に日本で言うところの金づちを握っているので、どうやら足元の犬はそれで殴られたようだが、あれ死んでないよね大丈夫?
そんな扱いでいいのかと様子を伺っていると、こちらへと顔を向ける男に、思わず強張ってしまう。
もしかしたら同じくらいに罵倒されるのではないかと身構えてしまうが、それは過ぎた心配だった。
 
「初めまして、ヒューイの父 ヒュペルだ。 こっちはゼンブル、俺の番いだ、よろしくな!」
「はっはい、か……、ダイチです。 よろしくお願いします」
「おうっ、ダイチか。 いい名前じゃないか」
 
人当たりの良い笑顔を浮かべ、手を差し伸べる犬の男性は好感が持てたので、俺はありがたくその手を取る。
差し出すに辺り、持っていたはずの金づちはまるで溶けるように空気となって消えたので、これも魔法なのかと少しだけ心が躍る。
引っ張られ立ち上がると、ヒューイが心配そうに見てきたので、問題ないと伝えると、嬉しそうに尻尾を振って笑顔になってくれた。
不覚にも可愛いと、胸の辺りが温かくなってしまったが、別に恋というわけではないだろう。
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