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第2話
幕間 - 凶兆 -
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「久しぶりだな、こうして三人でーー」
「ねぇ、ダイチに何をしたの?」
「ひゅ、ヒューイ? その、話をーー」
「ヒューイ! 村を出て、俺と婚姻しよう! この薬を使えば俺たちはやっと結ばれるんだ!」
「カイル!? 話が違うじゃない、ヒューイに謝りたいからって……!」
「五月蝿いな、そんなわけ無いだろう。 邪魔な大人たちがいない今なら、ヒューイを連れていける。 イレーヌも来いよ、どうせお前だってダイチとかいう奴が嫌いで仕方ないんだろう? ヒューイの子供が産みたいって、そう言えよ」
「わ、私はそんなつもりじゃ……」
恍惚としたカイルが昔を懐かしむように語ろうとするのを、様子が一変したヒューイに気づいてイレーヌは異常を察する。
それに気づかないゴールデンレトリバーの少年が口にした内容に、白猫の少女は聞かされていなかったのか、驚愕を露わにした。
懐から取り出した紫色の液体が詰められた小瓶を見せつけられ、叶うはずもない未来図を口にするカイルにヒューイは不快感を覚える。
静かに地面へ切っ先を突き刺していた傍らの石槍を抜く柴犬の行動に、言い争いをする二人は気づかなかった。
「嘘つけよ! 前に話したように三人で暮らせればいいって夢が叶うんだぞ? ヒューイが俺の子を産んで、お前がヒューイの子を産めるなんて最高じゃないか!」
「いつの話をしてるのよ!? それに無理だって言われたのに、できるわけ無いでしょ!? そもそもそんな薬を何処で手に入れたのよ?」
「五月蝿い! やっと願いが叶うんだ! さぁヒューイ、これーー」
話の通じないカイルにイレーヌの顔から後悔の色が浮かぶ、まさかこんなことになるとは思っていなかったのだろう。
出来もしない妄想をひた語るもう一人の幼馴染の狂気に少女は恐怖を覚え、もういいと犬の少年が振り切って見るからに怪しい薬瓶をヒューイに渡そうとした。
その時、一閃とばかり空気を斬る音が辺りに響くと、薬が入った容器の半分が軸からズレて地面へと落下する。
同時に入っていた液体も草むらから地面へと吸収されていき、ゴールデンレトリバーの足元を歪な色に染めた。
「……へっ? なんでーー、ぐっ!?」
「ひっ!?」
「ねぇ、二人で盛り上がってるところ悪いんだけど、そろそろ答えてくれない?」
「がっ……!? あっ……!! ひゅ、ヒュー、イ……、やめ……!?」
「ダイチは、どこ? カイル、君からもすごく匂うんだよ。 ねぇ、早く……!」
「あ……!? ヒューイ、なん、で……!? 俺は、ただずっと……!」
「うるさいよ、聞いたこと以外は答えないで。 ホントはこんなことしたくないけど、答えないなら答えるように……」
「やめろ、ヒューイ!」
何が起きたのか理解が追いつかないカイルが唖然とした次の瞬間、息をするのもできなくなるほどの圧縮を喉に感じる。
見れば一瞬で間合いを埋めたヒューイが空いた手で首を握り締め、どんどんと力を強めていき、次第に首締めされる少年の足元が浮かんだ。
見たことない幼馴染の様子に小さく悲鳴を漏らし、イレーヌは腰を抜かし体を震わせる。
この展開は予想していなかったのか、涙目でもがくカイルに苛立ちを覚えるヒューイだったが、内心では焦っていた。
昨晩の様子ではまともに動けなかったことを考えても、何か不吉な予感がしてならないと槍を構える。
体に問うまでとその切っ先を突き立てようとしたとき、聞き慣れた父の声にハッとした。
「……父さん」
「ヒューイ、それにイレーヌ? 何故ここ……、カイル、貴様……」
「イレーヌ!? お前、何でこんなところにいる!」
「お父、さん……」
「ややこしいことになってますね。 ヒューイくん、ひとまずそれを離してやりなさい」
「……はい、シグさん」
「ぅあっ……!? ゲホッゲホッ……!」
振り向いたヒューイが見たのは、慌てた様子の父ゼンブルが駆け寄ってくる。
異常が起きたと察したドーベルマンは無事息子を見つけて安堵するも、いるはずのない少女といてはならない少年を視認して顔つきが険しくなった。
その後ろから狩猟チームの面々が次々現れると、イレーヌとよく似た顔立ちで眠気から倒れそうだったヒューイを支えた白猫の男性が驚愕の声を出す。
父の登場に震える体で呼ぶイレーヌの様子に、草を踏み締め歩くゼンブルの隣に立ったシグは状況の把握に追われながら、まずはヒューイに指示した。
これ以上はダメだと悟っているのか、すっとくびり殺すつもりでいた首絞めを止めると、解放されたカイルが地面に落ちて咳き込む。
そこへ逃げられないよう、数人がかりで追放したはずの少年が抑え込まれたところで状況の整理が始まった。
「貴様、何故ここにいる? 昨日確かに森の外まで連行したはずだ。 どうやってここまで来れた?」
「……ふん」
「ちっーー。 イレーヌ、お前が手引きしたのか?」
「ち、違います!? 私はーー!」
「そんなことどうでもいいよ、父さん」
「どうでも良くない、これはーー!」
「どうだっていいんだよ! それよりダイチが危ない気がするんだ!」
「なに……?」
逃げられないよう拘束されたところで、ゼンブルの低い声が少年を襲うも、鼻を鳴らして悪態をつくカイルは答えるつもりなど毛頭ないのだろう。
話にならないとギロリと眼光鋭く、少女を睨みつけると萎縮しながらも否定するのをヒューイが遮った。
予想外の行動に驚く大人たちだが、ゼンブルの方が遥かに衝撃を受けているのを隠しきり、心を鬼にして叱ろうとする。
それすらも遮断した息子の態度からは、今すぐ行動しないといけないという焦りが見えたため、父は聞き返した。
「ダイチくん? なぜ彼のことが?」
「イレーヌ、何を知ってる?」
「そ、それは……」
「ーーふっ、くくくくくっ」
「……何が可笑しい?」
「もうどうやったって間に合わないよ……。 勝手に俺とヒューイの間に入ってきた、誰とも知らない人属風情がいい気味だ、今頃は陛下の慰み者にでもなっているさ!」
「……陛下?」
「まさか貴様、村を出てからの行き先は!?」
突然ヒューイの番いであるダイチが出てきたため、シグは疑問の声を上げる。
どういうことかと娘を問いただす白猫の父にイレーヌは戸惑っていると、不快に落とす笑いをするカイルの声が響いた。
態度に不愉快と言わんばかりの怒気を放つゼンブルに、顔を上げたゴールデンレトリバーの顔は醜く歪んでいる。
だがそれ以上に聞き逃せない、深刻な問題に陥っている事実を知らされた。
「馬鹿な……、なんで今頃あの国が我らに干渉してくる!?」
「まだ奪い足りないとでも言うのか! どこまで我らの誇りを踏みにじれば気が済む!」
「カイル、貴様……!」
「無理だよ、もう間に合わない。 あの人間に持たせた転移石ですでに運ばれてる。 あんたたちがいくら足掻こうとーー」
「ううん、ダイチはここにいる」
「……ヒューイ、感じるんだな?」
「うん、でも……。 スゴく遠いんだ、これもしかしたら、最奥くらいまであるんじゃ……」
「ーーなっ!?」
「最奥だと!? バカな、いやっ仮にそれが事実だとしたら、どうしてそんなところへ!?」
カイルの放った言葉に子供たちを置き去りに、この場にいた大人たちは戸惑いや怒り、苦しみや悲しみなど言い表せない感情に苛まれる。
可能性があったとはいえ、ここまでの蛮行を起こした少年にゼンブルが胸ぐらを掴むも、侮蔑するように吐き捨ててきた言葉に手を上げようとした。
それを制したのはヒューイの声で、その絶対的ともいえる自信に満ちた言葉は説得力を帯びていたが、告げられた可能性がさらに悪い状況にあることを告げる。
ここで言い争っていても解決することはできないと判断する者も出る中で、愛しいはずの彼がすでに自分を見ていない事実にカイルは心が引き裂かれる思いだった。
「何言ってるんだよ、ヒューイ。 あの人間はここには……、ぐっ!?」
「もう喋るな。 煩わしい、顎を折っておくか」
「ゼンブルさん、そのくらいで。 今は村へ戻りましょう、爺様とヒュペルさんの判断を仰がなければ」
「父さん、シグさん。 僕このまま最奥まで行ってくる」
「ダメだ、いくらヒューイの頼みといえど聞き入れられん」
「何で!? もし最奥にいるなら、中層とは瘴気の濃さが全然違うんだよ! 爺様が言ってた森の主にダイチが襲われてたら!」
「だからこそだ。 丸腰では飲まれるだけだ、分かってくれヒューイくん。 君の番いを助けるためにも最善を尽くすには準備が必要だ。 村の状況を考えてくれ」
「……っ、分かり、ました……」
ヒリつく空気に臆しながらもゼンブルへ長年抱いていた恨みとばかり喰ってかかるカイルだが、全てを語る前に頬へ重い拳が当たる。
呆れるくらいに怒りを覚えるドーベルマンの手が魔力の滾りで火花を散らしたところで、臨時補佐のシグが場を制した。
一先ず拠点へ戻るべき、その提言は正しいもので他の面々も頷いて準備に取り掛かる中でヒューイは単独先行しようとする。
それを責任者二人に止められ、父にも却下されるとは考えていなかったのか、息子が異議を唱えるも熊人が説き伏せた。
準備もなく向かえば助けられるものも助けられない、狩猟をする上で大事なことを教わり育ってきた柴犬の少年には耳に痛く、その通りだと納得せざるを得ない。
番いに命の危機が迫る、自らの半身を失ってしまうような畏れをこの場の大人たちは理解を示しているのか、表情が重い。
そんな中で一人、現実を受け止めきれずに愛しい彼の姿にあ然とするゴールデンレトリバーへ、ヒューイは顔を向けた。
「カイル……、もしダイチになにかあったら、僕は君を許さないからね。 イレーヌ、君もだよ」
それは絶縁ともいえる宣言だった、カイルだけでなくイレーヌもとんでもないことをしてしまったのだと、ここに来てようやく自覚する。
どうしてこうなってしまったのか、子供たちの思いを置き去りに一同は村へ帰還した。
「ねぇ、ダイチに何をしたの?」
「ひゅ、ヒューイ? その、話をーー」
「ヒューイ! 村を出て、俺と婚姻しよう! この薬を使えば俺たちはやっと結ばれるんだ!」
「カイル!? 話が違うじゃない、ヒューイに謝りたいからって……!」
「五月蝿いな、そんなわけ無いだろう。 邪魔な大人たちがいない今なら、ヒューイを連れていける。 イレーヌも来いよ、どうせお前だってダイチとかいう奴が嫌いで仕方ないんだろう? ヒューイの子供が産みたいって、そう言えよ」
「わ、私はそんなつもりじゃ……」
恍惚としたカイルが昔を懐かしむように語ろうとするのを、様子が一変したヒューイに気づいてイレーヌは異常を察する。
それに気づかないゴールデンレトリバーの少年が口にした内容に、白猫の少女は聞かされていなかったのか、驚愕を露わにした。
懐から取り出した紫色の液体が詰められた小瓶を見せつけられ、叶うはずもない未来図を口にするカイルにヒューイは不快感を覚える。
静かに地面へ切っ先を突き刺していた傍らの石槍を抜く柴犬の行動に、言い争いをする二人は気づかなかった。
「嘘つけよ! 前に話したように三人で暮らせればいいって夢が叶うんだぞ? ヒューイが俺の子を産んで、お前がヒューイの子を産めるなんて最高じゃないか!」
「いつの話をしてるのよ!? それに無理だって言われたのに、できるわけ無いでしょ!? そもそもそんな薬を何処で手に入れたのよ?」
「五月蝿い! やっと願いが叶うんだ! さぁヒューイ、これーー」
話の通じないカイルにイレーヌの顔から後悔の色が浮かぶ、まさかこんなことになるとは思っていなかったのだろう。
出来もしない妄想をひた語るもう一人の幼馴染の狂気に少女は恐怖を覚え、もういいと犬の少年が振り切って見るからに怪しい薬瓶をヒューイに渡そうとした。
その時、一閃とばかり空気を斬る音が辺りに響くと、薬が入った容器の半分が軸からズレて地面へと落下する。
同時に入っていた液体も草むらから地面へと吸収されていき、ゴールデンレトリバーの足元を歪な色に染めた。
「……へっ? なんでーー、ぐっ!?」
「ひっ!?」
「ねぇ、二人で盛り上がってるところ悪いんだけど、そろそろ答えてくれない?」
「がっ……!? あっ……!! ひゅ、ヒュー、イ……、やめ……!?」
「ダイチは、どこ? カイル、君からもすごく匂うんだよ。 ねぇ、早く……!」
「あ……!? ヒューイ、なん、で……!? 俺は、ただずっと……!」
「うるさいよ、聞いたこと以外は答えないで。 ホントはこんなことしたくないけど、答えないなら答えるように……」
「やめろ、ヒューイ!」
何が起きたのか理解が追いつかないカイルが唖然とした次の瞬間、息をするのもできなくなるほどの圧縮を喉に感じる。
見れば一瞬で間合いを埋めたヒューイが空いた手で首を握り締め、どんどんと力を強めていき、次第に首締めされる少年の足元が浮かんだ。
見たことない幼馴染の様子に小さく悲鳴を漏らし、イレーヌは腰を抜かし体を震わせる。
この展開は予想していなかったのか、涙目でもがくカイルに苛立ちを覚えるヒューイだったが、内心では焦っていた。
昨晩の様子ではまともに動けなかったことを考えても、何か不吉な予感がしてならないと槍を構える。
体に問うまでとその切っ先を突き立てようとしたとき、聞き慣れた父の声にハッとした。
「……父さん」
「ヒューイ、それにイレーヌ? 何故ここ……、カイル、貴様……」
「イレーヌ!? お前、何でこんなところにいる!」
「お父、さん……」
「ややこしいことになってますね。 ヒューイくん、ひとまずそれを離してやりなさい」
「……はい、シグさん」
「ぅあっ……!? ゲホッゲホッ……!」
振り向いたヒューイが見たのは、慌てた様子の父ゼンブルが駆け寄ってくる。
異常が起きたと察したドーベルマンは無事息子を見つけて安堵するも、いるはずのない少女といてはならない少年を視認して顔つきが険しくなった。
その後ろから狩猟チームの面々が次々現れると、イレーヌとよく似た顔立ちで眠気から倒れそうだったヒューイを支えた白猫の男性が驚愕の声を出す。
父の登場に震える体で呼ぶイレーヌの様子に、草を踏み締め歩くゼンブルの隣に立ったシグは状況の把握に追われながら、まずはヒューイに指示した。
これ以上はダメだと悟っているのか、すっとくびり殺すつもりでいた首絞めを止めると、解放されたカイルが地面に落ちて咳き込む。
そこへ逃げられないよう、数人がかりで追放したはずの少年が抑え込まれたところで状況の整理が始まった。
「貴様、何故ここにいる? 昨日確かに森の外まで連行したはずだ。 どうやってここまで来れた?」
「……ふん」
「ちっーー。 イレーヌ、お前が手引きしたのか?」
「ち、違います!? 私はーー!」
「そんなことどうでもいいよ、父さん」
「どうでも良くない、これはーー!」
「どうだっていいんだよ! それよりダイチが危ない気がするんだ!」
「なに……?」
逃げられないよう拘束されたところで、ゼンブルの低い声が少年を襲うも、鼻を鳴らして悪態をつくカイルは答えるつもりなど毛頭ないのだろう。
話にならないとギロリと眼光鋭く、少女を睨みつけると萎縮しながらも否定するのをヒューイが遮った。
予想外の行動に驚く大人たちだが、ゼンブルの方が遥かに衝撃を受けているのを隠しきり、心を鬼にして叱ろうとする。
それすらも遮断した息子の態度からは、今すぐ行動しないといけないという焦りが見えたため、父は聞き返した。
「ダイチくん? なぜ彼のことが?」
「イレーヌ、何を知ってる?」
「そ、それは……」
「ーーふっ、くくくくくっ」
「……何が可笑しい?」
「もうどうやったって間に合わないよ……。 勝手に俺とヒューイの間に入ってきた、誰とも知らない人属風情がいい気味だ、今頃は陛下の慰み者にでもなっているさ!」
「……陛下?」
「まさか貴様、村を出てからの行き先は!?」
突然ヒューイの番いであるダイチが出てきたため、シグは疑問の声を上げる。
どういうことかと娘を問いただす白猫の父にイレーヌは戸惑っていると、不快に落とす笑いをするカイルの声が響いた。
態度に不愉快と言わんばかりの怒気を放つゼンブルに、顔を上げたゴールデンレトリバーの顔は醜く歪んでいる。
だがそれ以上に聞き逃せない、深刻な問題に陥っている事実を知らされた。
「馬鹿な……、なんで今頃あの国が我らに干渉してくる!?」
「まだ奪い足りないとでも言うのか! どこまで我らの誇りを踏みにじれば気が済む!」
「カイル、貴様……!」
「無理だよ、もう間に合わない。 あの人間に持たせた転移石ですでに運ばれてる。 あんたたちがいくら足掻こうとーー」
「ううん、ダイチはここにいる」
「……ヒューイ、感じるんだな?」
「うん、でも……。 スゴく遠いんだ、これもしかしたら、最奥くらいまであるんじゃ……」
「ーーなっ!?」
「最奥だと!? バカな、いやっ仮にそれが事実だとしたら、どうしてそんなところへ!?」
カイルの放った言葉に子供たちを置き去りに、この場にいた大人たちは戸惑いや怒り、苦しみや悲しみなど言い表せない感情に苛まれる。
可能性があったとはいえ、ここまでの蛮行を起こした少年にゼンブルが胸ぐらを掴むも、侮蔑するように吐き捨ててきた言葉に手を上げようとした。
それを制したのはヒューイの声で、その絶対的ともいえる自信に満ちた言葉は説得力を帯びていたが、告げられた可能性がさらに悪い状況にあることを告げる。
ここで言い争っていても解決することはできないと判断する者も出る中で、愛しいはずの彼がすでに自分を見ていない事実にカイルは心が引き裂かれる思いだった。
「何言ってるんだよ、ヒューイ。 あの人間はここには……、ぐっ!?」
「もう喋るな。 煩わしい、顎を折っておくか」
「ゼンブルさん、そのくらいで。 今は村へ戻りましょう、爺様とヒュペルさんの判断を仰がなければ」
「父さん、シグさん。 僕このまま最奥まで行ってくる」
「ダメだ、いくらヒューイの頼みといえど聞き入れられん」
「何で!? もし最奥にいるなら、中層とは瘴気の濃さが全然違うんだよ! 爺様が言ってた森の主にダイチが襲われてたら!」
「だからこそだ。 丸腰では飲まれるだけだ、分かってくれヒューイくん。 君の番いを助けるためにも最善を尽くすには準備が必要だ。 村の状況を考えてくれ」
「……っ、分かり、ました……」
ヒリつく空気に臆しながらもゼンブルへ長年抱いていた恨みとばかり喰ってかかるカイルだが、全てを語る前に頬へ重い拳が当たる。
呆れるくらいに怒りを覚えるドーベルマンの手が魔力の滾りで火花を散らしたところで、臨時補佐のシグが場を制した。
一先ず拠点へ戻るべき、その提言は正しいもので他の面々も頷いて準備に取り掛かる中でヒューイは単独先行しようとする。
それを責任者二人に止められ、父にも却下されるとは考えていなかったのか、息子が異議を唱えるも熊人が説き伏せた。
準備もなく向かえば助けられるものも助けられない、狩猟をする上で大事なことを教わり育ってきた柴犬の少年には耳に痛く、その通りだと納得せざるを得ない。
番いに命の危機が迫る、自らの半身を失ってしまうような畏れをこの場の大人たちは理解を示しているのか、表情が重い。
そんな中で一人、現実を受け止めきれずに愛しい彼の姿にあ然とするゴールデンレトリバーへ、ヒューイは顔を向けた。
「カイル……、もしダイチになにかあったら、僕は君を許さないからね。 イレーヌ、君もだよ」
それは絶縁ともいえる宣言だった、カイルだけでなくイレーヌもとんでもないことをしてしまったのだと、ここに来てようやく自覚する。
どうしてこうなってしまったのか、子供たちの思いを置き去りに一同は村へ帰還した。
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