7 / 8
叶えてあげられない言葉
しおりを挟む
俺は車に押し込まれ、葬儀場に連れてこられた。
日が沈んだ葬儀場は照明で煌々と輝いて見えた。
喪服を着た奴らが神妙な顔で中に入っていく。
中には、俺たちぐらいの歳の奴もいて、中には泣きはらしている奴もいた。
そして、そんな人らの幾人かはこちらをチラチラと見ていく。
でも、俺はどうでも良かった。
もう、どうでも良かった。
「ほら!
中に入って、マサミにちゃんとお別れしなよ。
そうしないと絶対後悔するよ」
ハルナさんが涙で目を赤くしながらしゃがみ込み、座り込んでいる俺の腕を引っ張る。
ダサいことだと分かっていた。
迷惑だって事も分かっていた。
だけど、足に力が入らなかった。
へにゃりと崩れ、街路樹の根元に座り込んだまま、ただただ、ハルナさんを困らせた。
着の身着のままの俺とは違い、ハルナさんは喪服を着ていた。
いつも、クラブでエロいレゲエダンスをやっているくせに、ナチュラルメークに黒のツーピースなんて着て、束ねられた金色のウェーブパーマの髪以外は清楚なお姉さんみたいだった。
「俺の事はいいからハルナさんは行って」
と俺は呻くように言った。
ハルナさんは、「いいから行くよ」と俺の腕を繰り返し引っ張る。
俺は涙で視界がぼやけていたが、ハルナさんの涙が地面にポトポト落ちるのが見えた。
ユミがハルナさんの隣にしゃがみ、何か告げた。
ハルナさんが俺の腕に手を置いて、
「ちょっと先にマサミに挨拶してくるから。
……一緒に行く?」
と訊ねてきた。
俺が首を横に振るとハルナさんは悲しそうな顔をした。
二人が離れていくと、俺は葬儀場をぼんやり眺めた。
葬祭会館の入り口に「井川 真美」とマサミの本名がかけられている。
名字は聞いた事があったが、こんな漢字で書くんだと今更ながら思った。
俺はマサミの事を自分が思っていたほど知らなかった。
自分が知っているマサミが全てだと、そう思いこんでいたのかも知れない。
俺は死んでしまいたかった。
死んでマサミにゴメンなと謝りたかった。
そして、マサミの暖かさを感じながら隣に座り、同じものを見詰めていたかった。
『ねえ……。
自分が死んでも誰一人悲しんでくれないなんて悲観する人もいるけど、それって愛がないと思わない?
私はみんなに悲しんでもらいたくない。
私との思い出で笑って欲しいよ』
マサミの声が脳裏に聞こえる。
無理だよマサミ!
ゴメン無理だ……。
どうやっても、笑う事なんて出来ない。
俺は歯を食いしばりながら頭を抱え、涙を流す。
死にたい、死にたい、死にたい……。
バカみたいに頭の中を流れていく。
俺の目玉にある枯れる気配のない泉からボトボトと水が滴り落ちた。
日が沈んだ葬儀場は照明で煌々と輝いて見えた。
喪服を着た奴らが神妙な顔で中に入っていく。
中には、俺たちぐらいの歳の奴もいて、中には泣きはらしている奴もいた。
そして、そんな人らの幾人かはこちらをチラチラと見ていく。
でも、俺はどうでも良かった。
もう、どうでも良かった。
「ほら!
中に入って、マサミにちゃんとお別れしなよ。
そうしないと絶対後悔するよ」
ハルナさんが涙で目を赤くしながらしゃがみ込み、座り込んでいる俺の腕を引っ張る。
ダサいことだと分かっていた。
迷惑だって事も分かっていた。
だけど、足に力が入らなかった。
へにゃりと崩れ、街路樹の根元に座り込んだまま、ただただ、ハルナさんを困らせた。
着の身着のままの俺とは違い、ハルナさんは喪服を着ていた。
いつも、クラブでエロいレゲエダンスをやっているくせに、ナチュラルメークに黒のツーピースなんて着て、束ねられた金色のウェーブパーマの髪以外は清楚なお姉さんみたいだった。
「俺の事はいいからハルナさんは行って」
と俺は呻くように言った。
ハルナさんは、「いいから行くよ」と俺の腕を繰り返し引っ張る。
俺は涙で視界がぼやけていたが、ハルナさんの涙が地面にポトポト落ちるのが見えた。
ユミがハルナさんの隣にしゃがみ、何か告げた。
ハルナさんが俺の腕に手を置いて、
「ちょっと先にマサミに挨拶してくるから。
……一緒に行く?」
と訊ねてきた。
俺が首を横に振るとハルナさんは悲しそうな顔をした。
二人が離れていくと、俺は葬儀場をぼんやり眺めた。
葬祭会館の入り口に「井川 真美」とマサミの本名がかけられている。
名字は聞いた事があったが、こんな漢字で書くんだと今更ながら思った。
俺はマサミの事を自分が思っていたほど知らなかった。
自分が知っているマサミが全てだと、そう思いこんでいたのかも知れない。
俺は死んでしまいたかった。
死んでマサミにゴメンなと謝りたかった。
そして、マサミの暖かさを感じながら隣に座り、同じものを見詰めていたかった。
『ねえ……。
自分が死んでも誰一人悲しんでくれないなんて悲観する人もいるけど、それって愛がないと思わない?
私はみんなに悲しんでもらいたくない。
私との思い出で笑って欲しいよ』
マサミの声が脳裏に聞こえる。
無理だよマサミ!
ゴメン無理だ……。
どうやっても、笑う事なんて出来ない。
俺は歯を食いしばりながら頭を抱え、涙を流す。
死にたい、死にたい、死にたい……。
バカみたいに頭の中を流れていく。
俺の目玉にある枯れる気配のない泉からボトボトと水が滴り落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる