彼女が消えたら

白鳥みすず

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2章

歪み3

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周りを念のためぐるりと見渡し、彼の姿がないことを確認すると大学の門を出た。
やっと解放されたという安堵と共に深くため息をつく。
何故大学に行くだけで毎日こんなに疲労感に苛まれないといけないのか。
この一週間でストレスが山のように積み上がった気がする。
今週はあの変人にまとわりつかれて大変だった。蛇の人と何度も呼びかけられ、その度に無視を決め込んだ。
他の絵だって描くし、もっと呼び方があるだろう。僕の名前は一度呼んだきりでそればかりだ。
鋼の心でも持っているのかこっちが無反応でも、嫌な顔をしてもめげる気配が全くない。
1日に何回も接触される。嫌がらせなんじゃないかと思うぐらいだ。
こんなに人に構われたことは人生の中でおそらくない。
自分のペースを乱されるのもそろそろ限界だ。
救いなのは明日が休みなことだ。
少なくとも数日は顔を合わせないで済む。
そう思うと重かった足取りはやや軽くなった。好きなクラシック音楽をかけながら本を読もう。
そうだ、今日は古本屋にでも寄って明日読む本を探そう。
表情を緩め、古本屋に向かって歩き出す。
商店街の中にある古びた本屋で知り合いに会ったことは一度もない。
お客自体が少ないせいか静かで店員も少ない。
気軽に寄れて本探しに集中できる自分にとっては居心地の良い場所だった。
時折、掘り出し物のような本に出逢える。
本との出逢いは一期一会だ。
今日しか見つからないものもきっとある。
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