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日本と異世界とその周辺

真幸系列店舗拡大 その3

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ラッセルが手早く近くの家からロープを借りてきて男を簀巻きにする。

ミスティも同様に店内でくつろいでいた客に頼み衛兵を呼んでもらいに行ったらしい。
本人も商業ギルドの方へ走っていった。

大した手際だと思う。
………することがないのか出来る事がないのかぼんやり現場を眺めているデライトの姿さえ目に入らなければ……だが。

「デライト、説明を頼む」

「え?……ん、っと。その人……豪華な手紙を持ってきた……役人?で、店長……居ないと言ったら、怒った。で、待たせた詫びだって言って……お店のガラスコップを奪った。……出ていこうとしたら、頭が…爆発した」

「そっか。………エルモ(小声)」

少し離れて妖精たちのリーダーエルモを呼ぶ。

「はいはーい?ますたーどうしたのー?」

「爆発は………妖精たちあんたらの仕業か?」

「うん。すごいでしょー!ますたーのおべんきょうのとおりにしたの。わらってないからけつばっとじゃなくてあたまばくはつなの。ふんっ!」

何故か誇らしげに説明してくるエルモ。
もしかしたら悪戯好きの妖精たちにいけないものを見せてしまったのかもしれない。

まさか、カツラと火薬のギミックをリアルに再現してくるとは思ってもみなかった……。

…………まぁ、いいか。



2時間くらい経過しただろうか。
ドアが開きガルフコーストさんを先頭に、派手な服を着た男や甲冑の様な防具に身を包んだ男たちが次々と入ってくる。

「ハヤトさん、大変お待たせいたしました!」

待っている間にミスティ・デライトと共に部屋を片付け、ラッセルの手料理をのんびり食べ終えたばかり。
こちらからしてみれば見事なタイミングだ。

「地区の保安部長を務めますルーカスと申します。今回こちらのお店で騒ぎを起こした者達なのですが……」

派手な服の男が事情を説明する。

どうやら彼等は日本でいうところのいい年こいた不良集団チンピラの様なものだったらしい。
ただのチンピラと侮るなかれ、日本と比べると治安が悪く銃刀法の規制もないこの世界ではより危険なより凶悪な集団へと進化……いや、悪化する。

ここ数か月前からふらりと現れ、これまでも今回の様に――――――といういちゃもんをつけたり暴力を背景にしたりして恫喝・恐喝・窃盗等を繰り返していたらしい。
苦情や被害届は出るものの人的被害が出ていない現状、現行犯で捕まえない限り法に照らし合わせ処罰することができず防犯とアジトを探す程度しかできなかったとのこと。

今回たまたま彼らが所持していた恐喝用の武器が頭上で暴発し捕縛に至った。
しかし、被害の届け出と照らし合わせてみても彼らはそのチンピラ軍団の一部だと思われる、との事。

「……なので彼らの残党が報復に訪れる可能性があります。こちらとしても一網打尽にしたいのでなるだけこの周辺の警備を増強しようと思いますが、他の民家や商店もありますので常時この店を保護することはできません。
痛い出費になるでしょうが暫くギルドのほうで護衛依頼をお勧めします。まぁ、今回捕まえた彼等にも結構な額の報奨金がついておりましたので大部分は相殺できるかとは思われます」

テーブルに置かれる小さな革袋。

「それとは別に彼等が出した被害額を算出して頂けないでしょうか………できれば大げさに(ボソッ」

今回の捕縛では被害が小さかった事と、捕まったのが初犯で余罪の追及が難しいらしく今回の報奨金分+罰金+今回の損害額を支払えば執行猶予に近い形で拘留が解かれるらしい。

しかし警備側としてはそう簡単に逃がしたくない。
むしろ残りの連中も芋づる式に捕まえたい。
そこで今回規定の範囲上限まで報奨金と罰金を上げた。
加えて些細な分でも被害額に上乗せして拘留を解かれないようにしたい様だ。

とはいうものの、片付けた限り被害額は百均アイテム数点だけ。
売上も普段の8割方は上がっていたのでさほどではない。

ぶっちゃけ銀貨1枚換金すれば事足りる。
なので、必殺『困った時は丸投げ』だ。

「店舗自体の被害は銀貨単位です。壊された商品も正直にいうと通貨の違う国から持ち込んだ商品になり、大きく販売もしていないのでどれほどの価値があるのかいまいちつかめておりません。なので折角ガルフさん――商業ギルド長がいらっしゃいますのでそちらの方に物損額を算出していただけませんか?商店運営者がこれ見よがしに被害を申し立てるより専門家が精査した方が反論のしようもないでしょうし。……破損した物と同様または類似品はこちらです」

お金のやり取りはガルフコーストさん達に任せ、3人娘の方に。

「普通………普通…かぁ」

とぼやいているラッセルを励ましに向かう。

なんで落ち込んでいるのかって?
そりゃ、保安部長さんが話してくれたチンピラ共が自供した動機が

『店から出てきた商人たちのグチが聞こえたんだ。素晴らしい多種多様な飲み物に舶来物の調度品があるのに新しく始めた食べ物は味も見た目も普通のものなんだ?って。それで思ったんだよ。このネタを使えば慰謝料を分捕れるって』

だったのだから。

いや、実際食べたけど美味しかったよ、普通に。
………いや、まぁ。普通だったけど。
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