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第7話 名づけって大変だよね。1000人超えれてばそりゃ……
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「えっと、ご主人様の案内役を務めさせていただきます。1341と申します」
「1341?」
「私の名前です。主神様より『拾ってきた子、全員に名前を付けるのは諦めたよ。あぁ、この名前が不服だったらこの子達の名前は好きに変えちゃっていいよ』との事付けを承っております」
「あぁ、なーる。名前はまたあとで考えるよ」
この子が1341番目に拾われたとして……うん、そりゃ諦めるわな。
「拾ってきたって、捨て子?」
「はい……いいえ、捨て子といえば捨て子ですが、仕方なく……といった感じでしょうか。この世界にはご主人様の世界より貧富の差が大きく、食うに困る者も少なくありません。冬を越し、春になるころには家族の半分が死んでいるような、そんな家もちらほら見かけます。生まれたばかりのこの子がいなければ子供2人は生きられる、でも我が子を殺すのは忍びない。そんな家の幼子がよくダンジョンに置かれます。あっ、口減らしというわけじゃないんですよ。ダンジョンに置かれた子は大半が死ぬ運命にありますが、私みたいに生き残る可能性がありますから」
家に残しても生きられない赤ん坊はわずかな望みをかけてダンジョンに残される。
普通の人にとっては、ダンジョンに行くまででも命がけなんだとか。
ダンジョンに残された赤子の中で、優秀に育つ可能性があると認められた子は、主神様の世界―――『仮初の御魂の結界』のような空間―――に引き取られ、育てられるらしい。
その中で特に優秀な者達が、ダンジョンの管理人(俺のような存在)の案内役(ガイド)として役目を司るのだとか。
「ご主人様の案内役を務めるべく修行を重ねてまいりました。よろしくお願いします」
「ご主人は私が守る。1431。よろしく」
「―――(ビクッ」
背後からもう一人出てきた。
「彼女は1431。ご主人様の護衛となります。対人戦闘に優れ、スキル『影忍び』を所持しております。以後、万一に備え、ご主人様の影に控えさせます」
「………………それ、禁止で」
「「⁉」」
いやだって、怖いもん。
ちびるかと思った。
「では、私1341改めましてルーティアで」
「1431改めてカノン」
ガイド役の1341は神々の案内者(ルール・フロンティア)からルーティア。
護衛約の1431は影に隠れると書いてカノンに決めた。
「俺は真中智だ。気づいたらこの世界にいて、まぁその……」
「ダンジョンマスターです、ご主人様」
「うん。ダンジョンマスターね。そーいう立場になったらしい。あーあと、真中か智で呼んでくれ」
その肩書はちょっと照れる。
久しぶりにノートを開く。
受験勉強の再開……じゃなくて、ルーティアによるこの世界の常識について教えてもらう。
世界観としては差異が出るものの、中世ヨーロッパ。
ダンジョン跡より出土する、この世界にはない遺物があるので、文明は割と近代。
火薬なんかの発明もあるが、逃げる際に目くらましとして利用されることが多く大きく実戦に活用されるような発展は無し。
一般にステータス系の数値表記はなく、スキルと呼ばれる特別な技能を駆使して戦うのが一般的。
イメージ的にはRPGのMPを使わずHPを消費して発動する技みたいなもので大体あってるらしい。
通貨は世界共通。
小さい順に銅貨・大銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・金版・白金貨。
10枚で一つ大きな通貨となる。
大銅貨・大銀貨は雫のような形、金版は金の板に比重・重量を保証した王家の紋章が描かれている。
市場で使うのは銀貨までが暗黙の了解。
小さな店だとお釣りに困るので、大銀貨より大きな貨幣は、事前に組合で両替しておくのが一般的。
大商人や身代の大きな貴族なんかだと金貨以上の貨幣での取引が普通。
屋台で売られる飲食物が銅貨数枚、100SPで銅貨1枚。そう考えると銅貨1枚=100円くらいの感覚で問題なさそうだ。
「魔物を生み出すことができるので一般的にダンジョン=魔物と認識されています」
新世界の……この世界の神じゃなかったのか。
「魔物扱いなので討伐の対象にはなっていますが、悪い事ばかりではありません。人々の認識ではコア≠ダンジョンマスターなのでマスターが街中で道行く人とすれ違っても狙われることはないでしょう。それに、いざという時には」
「私がいる」
「……おおぅ」
「ダンジョンマスターの生活例として大きく3つに分けられます。1つ目がダンジョンの強化に力を注ぎ、外に出ないタイプ。強大なダンジョンは魔王城とも呼ばれたりしますね」
分からなくもない。
ダンジョンもとい自分の部屋は侵入者の危険性さえ取り除けば一番安全なスペースだ。
電機水道光熱費も多少のSPで賄える。
食料やその他必要な道具類も、SPの生産さえ軌道に乗ればいくらでも生み出せる。
「2つ目がダンジョン管理の傍ら、普通の人として生活するタイプ。商人や冒険者、開拓等何らかの功績を残す人も少なくありません。
魔法使いや階位(レベル)の高い人は長生きしやすいですし、高額ですが若返りできる魔法薬もありますから、多少長生きでも不思議に思われません」
これもわかる。
かくいう俺もゴブ農場を武器に安全を買うつもりだった。
それにせっかくのRPGの世界だ。
受験なんてやってる場合じゃねぇ。
「市井に生きるのであれば、あまり目立つような行動は控えるよう助言します。過去に勇者を名乗った方、小国を建国しハーレム王となった方、チートを駆使して文明を一気に加速させようとした方など、派手に振舞ったダンジョンマスターも少なくありません」
あー、やっぱりいるんだ。
俺TUEEE(笑)。
「しかし、派手に振舞えば派手に振舞うほど恨み妬みは増えていきます。現在、そのように振舞って生き残っているダンジョンマスターは皆無です。世界征服をたくらむような、危険なダンジョンもいましたが、神々(ダンジョン)が連絡を取る手段が確立されており、連絡を取り合い危険因子の共同討伐事例もあります。
私は自衛程度の戦闘力しかありませんし、カノンもB級冒険者と一対一でなんとか渡り合える程度。それ以上の使い手や闇討ちとなると守り切れない可能性が出てきます。単純に実力不足で命を失ったマスターやダンジョン管理をおろそかにして攻略され、亡くなったマスターもいます。恐らく、前世界の知識やダンジョンマスターとしての機能を十全に発揮することが一番謳歌できる生き方でしょうが、その分恨み妬みの対象になることは覚えておいてください」
「……気を付けます」
それで文化が発展する可能性(異世界人)がいても火薬や動力(エンジン)といった発展はないわけね。
「……鍛えなおす」
……ほどほどにね。
「最後に。………これは智様にも注意して頂きたいのですが、―――意図的にダンジョンコアの破壊を目的とするダンジョンマスターがございます」
ポケットから聞こえてくる甲高い音が鳴り響く。
つい癖でスマホを操作。
異世界に飛ばされ3ヶ月。
電波のない世界で届いた誰からかのメールだ。
「1341?」
「私の名前です。主神様より『拾ってきた子、全員に名前を付けるのは諦めたよ。あぁ、この名前が不服だったらこの子達の名前は好きに変えちゃっていいよ』との事付けを承っております」
「あぁ、なーる。名前はまたあとで考えるよ」
この子が1341番目に拾われたとして……うん、そりゃ諦めるわな。
「拾ってきたって、捨て子?」
「はい……いいえ、捨て子といえば捨て子ですが、仕方なく……といった感じでしょうか。この世界にはご主人様の世界より貧富の差が大きく、食うに困る者も少なくありません。冬を越し、春になるころには家族の半分が死んでいるような、そんな家もちらほら見かけます。生まれたばかりのこの子がいなければ子供2人は生きられる、でも我が子を殺すのは忍びない。そんな家の幼子がよくダンジョンに置かれます。あっ、口減らしというわけじゃないんですよ。ダンジョンに置かれた子は大半が死ぬ運命にありますが、私みたいに生き残る可能性がありますから」
家に残しても生きられない赤ん坊はわずかな望みをかけてダンジョンに残される。
普通の人にとっては、ダンジョンに行くまででも命がけなんだとか。
ダンジョンに残された赤子の中で、優秀に育つ可能性があると認められた子は、主神様の世界―――『仮初の御魂の結界』のような空間―――に引き取られ、育てられるらしい。
その中で特に優秀な者達が、ダンジョンの管理人(俺のような存在)の案内役(ガイド)として役目を司るのだとか。
「ご主人様の案内役を務めるべく修行を重ねてまいりました。よろしくお願いします」
「ご主人は私が守る。1431。よろしく」
「―――(ビクッ」
背後からもう一人出てきた。
「彼女は1431。ご主人様の護衛となります。対人戦闘に優れ、スキル『影忍び』を所持しております。以後、万一に備え、ご主人様の影に控えさせます」
「………………それ、禁止で」
「「⁉」」
いやだって、怖いもん。
ちびるかと思った。
「では、私1341改めましてルーティアで」
「1431改めてカノン」
ガイド役の1341は神々の案内者(ルール・フロンティア)からルーティア。
護衛約の1431は影に隠れると書いてカノンに決めた。
「俺は真中智だ。気づいたらこの世界にいて、まぁその……」
「ダンジョンマスターです、ご主人様」
「うん。ダンジョンマスターね。そーいう立場になったらしい。あーあと、真中か智で呼んでくれ」
その肩書はちょっと照れる。
久しぶりにノートを開く。
受験勉強の再開……じゃなくて、ルーティアによるこの世界の常識について教えてもらう。
世界観としては差異が出るものの、中世ヨーロッパ。
ダンジョン跡より出土する、この世界にはない遺物があるので、文明は割と近代。
火薬なんかの発明もあるが、逃げる際に目くらましとして利用されることが多く大きく実戦に活用されるような発展は無し。
一般にステータス系の数値表記はなく、スキルと呼ばれる特別な技能を駆使して戦うのが一般的。
イメージ的にはRPGのMPを使わずHPを消費して発動する技みたいなもので大体あってるらしい。
通貨は世界共通。
小さい順に銅貨・大銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・金版・白金貨。
10枚で一つ大きな通貨となる。
大銅貨・大銀貨は雫のような形、金版は金の板に比重・重量を保証した王家の紋章が描かれている。
市場で使うのは銀貨までが暗黙の了解。
小さな店だとお釣りに困るので、大銀貨より大きな貨幣は、事前に組合で両替しておくのが一般的。
大商人や身代の大きな貴族なんかだと金貨以上の貨幣での取引が普通。
屋台で売られる飲食物が銅貨数枚、100SPで銅貨1枚。そう考えると銅貨1枚=100円くらいの感覚で問題なさそうだ。
「魔物を生み出すことができるので一般的にダンジョン=魔物と認識されています」
新世界の……この世界の神じゃなかったのか。
「魔物扱いなので討伐の対象にはなっていますが、悪い事ばかりではありません。人々の認識ではコア≠ダンジョンマスターなのでマスターが街中で道行く人とすれ違っても狙われることはないでしょう。それに、いざという時には」
「私がいる」
「……おおぅ」
「ダンジョンマスターの生活例として大きく3つに分けられます。1つ目がダンジョンの強化に力を注ぎ、外に出ないタイプ。強大なダンジョンは魔王城とも呼ばれたりしますね」
分からなくもない。
ダンジョンもとい自分の部屋は侵入者の危険性さえ取り除けば一番安全なスペースだ。
電機水道光熱費も多少のSPで賄える。
食料やその他必要な道具類も、SPの生産さえ軌道に乗ればいくらでも生み出せる。
「2つ目がダンジョン管理の傍ら、普通の人として生活するタイプ。商人や冒険者、開拓等何らかの功績を残す人も少なくありません。
魔法使いや階位(レベル)の高い人は長生きしやすいですし、高額ですが若返りできる魔法薬もありますから、多少長生きでも不思議に思われません」
これもわかる。
かくいう俺もゴブ農場を武器に安全を買うつもりだった。
それにせっかくのRPGの世界だ。
受験なんてやってる場合じゃねぇ。
「市井に生きるのであれば、あまり目立つような行動は控えるよう助言します。過去に勇者を名乗った方、小国を建国しハーレム王となった方、チートを駆使して文明を一気に加速させようとした方など、派手に振舞ったダンジョンマスターも少なくありません」
あー、やっぱりいるんだ。
俺TUEEE(笑)。
「しかし、派手に振舞えば派手に振舞うほど恨み妬みは増えていきます。現在、そのように振舞って生き残っているダンジョンマスターは皆無です。世界征服をたくらむような、危険なダンジョンもいましたが、神々(ダンジョン)が連絡を取る手段が確立されており、連絡を取り合い危険因子の共同討伐事例もあります。
私は自衛程度の戦闘力しかありませんし、カノンもB級冒険者と一対一でなんとか渡り合える程度。それ以上の使い手や闇討ちとなると守り切れない可能性が出てきます。単純に実力不足で命を失ったマスターやダンジョン管理をおろそかにして攻略され、亡くなったマスターもいます。恐らく、前世界の知識やダンジョンマスターとしての機能を十全に発揮することが一番謳歌できる生き方でしょうが、その分恨み妬みの対象になることは覚えておいてください」
「……気を付けます」
それで文化が発展する可能性(異世界人)がいても火薬や動力(エンジン)といった発展はないわけね。
「……鍛えなおす」
……ほどほどにね。
「最後に。………これは智様にも注意して頂きたいのですが、―――意図的にダンジョンコアの破壊を目的とするダンジョンマスターがございます」
ポケットから聞こえてくる甲高い音が鳴り響く。
つい癖でスマホを操作。
異世界に飛ばされ3ヶ月。
電波のない世界で届いた誰からかのメールだ。
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