完結【R18】おいもではじまるシークレットベイビー

加賀美 ミロ

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それぞれの分岐点 その9

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リオネルは目の前をスキップして進んでいく自分と同じ皺のよった白衣をまとった黒髪に従いながら、事務本館の資料管理室に向かって上がっていく。

資料管理室に近づくと愛しいマリアンヌの香りがしてくる。

やはり師匠の勘は当たっていたようだ、とマリアンヌに会える喜びに先程まで底だった気分も少し持ち上がってきた。

この扉の向こうに彼女がいると思うと気持ちがはやる。

他にも人がいるようだが気持ちを抑えられずそっと扉を押す。

誰かの話す声がする。相手はどうも男のようだ。嫌な気持ちになる。

しかし、サシャの呟き『私のクマちゃんがいるぅ~』というセリフに少し安心した、その時だった。


「オルソーさんは素敵です、それに誰にでも優しいし素敵だし。私、オルソーさんのこと」

そこまで聞いて少しだけ押し開けていた扉に強く当たってしまった。

あ、っと言って振り返る愛しい女性。しかし今のセリフはいったい何なんだ。

彼女は俺のいないところでいったい別の男に何を言おうとしていたのだろうか。

そう考えるとふるふると震える拳を強く握りしめた。爪が食い込み痛むはずが痛みなど感じない。




「あれあれ、お迎えかな? あらあら、彼がもしかして?」

そう言って立ち上がるオルソーに顔を向け、再度入り口を見やるともう彼はいなくなっていた。


急いで彼を追いかけようと扉のところにいる2人の横をすり抜け、扉から外を覗くとフロアの隅の階段を降りようとする大きな影が見えた。

慌てて追いかけたが階段の下を覗くともうそこには誰もいなかった。

何か良くない誤解が生じている気がする、と思い巡らすもどうしていいかわからず。

マリアンヌはとりあえずオルソーに一言声をかけてからリオネルを追いかけ直そうと部屋の中に戻った。

「オルソーさん、先程の男性がお話した恋人なんです。生産研究所の職員さんで、リオネル・デリュースさんといいます」

「?デリュース? あぁ、デ・オリウス家のリオネル様。聞いたことあるある。優秀な方だよね、すごい人が恋人さんなんだねぇ。賢いマリーちゃんの恋人さんだけあるなぁ」

恋人を褒められて嬉しくなるマリアンヌ。微笑み返してオルソーに彼に会いにいって話をしてくると伝える。

「そうだね、いいよいいよ。行っておいで。今日はせっかくのお休みをとったのだしゆっくりすればいいよ。それに生産研究所の彼って明日から国外出張なんでしょう?」

オルソーさんは色々詳しいなぁ、と感心しながらそうだと頷く。

「明日からまた離れ離れになってしまうので今日は二人でゆっくりして、と思ってたのですけど何か色々行き違ってしまって。しっかり彼に聞きたいこと、私が伝えたいことをぶつけてスッキリしてから彼を明朝見送ってきます」

そう伝えマリアンヌはオルソーにお礼を言いリオネルのいるであろう研究室へと向かおうとする。

扉のところで、ネイトを見たマリアンヌは体調が悪そうに見える彼にきづき声をかけた。

隣にいたサシャには礼だけしてネイトに近寄る。

「ネイト、顔色悪いけどどうしたの?」

マリアンヌに声をかけられ、壁に持たれていた体をよろよろと起こすネイト。

「さっきのリオネルさんっていう人、ほんとうにマリーの恋人?」

半信半疑で尋ねるネイトに、少し頬を赤く染めながら頷くマリアンヌを見てあぁ事実なんだと納得するネイト青年。

ちょっと失恋した気分なのはなぜなのか。

「うん、そう。内緒にしているつもりはなかったのだけど」

「そっか、ならいいんだ。さっき庭師さんから預かった荷物を寮に届けにいった時、そのリオネルさんに会ったのだけど彼が荷物預かってくれたんだ。マリーに本当かどうか確認してからの方が良いと思ったけど彼に預けちゃった、ごめん」

本当は強引に奪われた荷物であったがそこは男の沽券に関わるので伏せておく。

「ううん、いいの。ありがとう、後で彼から受け取るね」

そう伝え、急ぐからとマリアンヌはネイトとそこで別れた。

サシャ・ルーポはしめしめと資料管理室へと滑り込み、ネイトを締め出し扉を閉めた。

資料管理室の扉の外で階段を降りて行こうとするマリアンヌの後ろ姿を見送りながらなぜだかため息が漏れるネイト。

「マリアンヌがいつからかすっごく可愛くなった時期があったけど、あの頃から恋人がいたのかな?」

数年前、急に可愛く見え出したマリアンヌにドキドキしたことを思い出しながら何だか残念な気持ちになりそしてちょっと寂しく感じた先輩ネイトだった。





「いるかな、、、」

生産研究所に再び戻りキョロキョロと周りを見回すマリアンヌ。そこに見知らぬ女性が声をかけてきた。

「あなた、いも、、、いえマリアンヌ・ファルマさんよね?」

「はい、あの何か?」

「ちょっとお尋ねしたいのだけど、あなたに長身のすごく素敵な恋人がいる?」

確かに素敵な恋人はいるが、なぜか嫌な感じを漂わせ見下すような態度をとってくる女性。どう答えようかと迷っていると

「あの彼があなたのような芋臭い女性の恋人なはずはないかと思ったけれど、彼の方はあなたを愛称で呼んで探していたし。まさかご兄妹、って見た目でもないし、、、」

なにかぶつぶつと失礼なことを言っている気がする。

「あの、私の恋人は長身の素敵な人です!私もその人がとても好きなので、、、お邪魔するなら受けて立ちますっ!!!」

何となくライバル視してしまい、以前乙女小説で読んだ主人公さながらライバルへ向けたセリフを真似たため突如宣戦布告してしまった形のマリアンヌ。

「な、そんな堂々と宣言しなくても、、、別にちょっと気になって事実確認のために聞いただけだからっ」

ふんっ、っと鼻息荒くその人はどこかにいってしまった。

その背中を見送りながら、いったい何なんだろうとマリアンヌもフーッっと息を吐く。視線を感じて周りを見ると何人もの人がこちらを見ている。

あれ?やだ、みんなの前で恥ずかしいと思ったけれど彼の恋人は私だ!と知らしめることができたような気がして少し誇らしい気もする。

でもなぜ彼と私のことを知ったのだろうか?

考えてみたが思い当たることがなかったマリアンヌ。まぁいいかと気を持ち直し目の前の課題に集中する。まずは彼ときちんと話をしよう。



ここ最近、伝えたい思いをおざなりにしていた気がするのだ。

どんなこともきちんと言葉と態度で伝えなければ今日のように誤解を生みこじれてしまうことも起こるのだ。

いつも私たちは、お互いの気持ちや考えを汲んで自分の気持ちを伝えあってきた。

だからちょっと誤解があってもすぐ話し合えば大丈夫なはずなのだ。

言うのを躊躇っていたこともあるがそれもきちんと伝えて確認をとって、その場で納得できるまで話し合えば良いのだ。

少し恥ずかしかったが、先程も他人の前で恋人宣言をしたことで気合がはいった。誤解を解いて彼が帰ってきたらプロポーズをできるように”仲直り”しておきたい。そうでなければ自分の計画が。

そう思い、彼の部屋へ向かおうとすると部屋の扉からこちらを伺う大きな半身が見えた。

(あ、見られてたかな?)

ふふふ、堂々恋人宣言しちゃったぞ。聞こえたかな?などと思いながらそちらの方へ足を進めるマリアンヌを凝視している影は側から見ると少々不気味である。

しかしマリアンヌから見ればそれは可愛い愛しい恋人の通常運転の姿。

ちなみに先程濡れ濡った湯上がりイケメンは諸々の心労ですっかり乾いたボロボロひょろひょろな印象のただの巨人に戻ってしまっていた。

故に、実は先ほどの女性の群れのそばを部屋に戻る途中通過していたが再度現れた巨人が同じサイズ感であるにもかかわらず生産研究所の誇る天才研究者が謎の美丈夫だということに部下以外の人間は誰も気づかなかったのだ。

人の見た目と印象の不思議である。人は濡れると魅力が増すのであろうか。

皆の中に残った疑問がここで一つ。

先ほどの美丈夫はいったい誰だったのか、芋女はなぜあんなイケメンと付き合っているのか、と正しくこの恋人たちの関係を捉えている人はまだこの時点では少数であった。

芋女ことマリアンヌ・ファルマにたいそうハンサムな恋人発覚の噂は後程研究所内を席巻することになった。
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