【R18】生真面目騎士様の不真面目な愛読書

綾瀬ありる

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魔術師団研究員リズベス嬢の愛すべき同僚

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「あら、リズベス。お早いお帰りで」
「邪魔してるぞ」
 居室へと戻ったリズベスを迎えたのは二人。同僚の魔術師アデリンと、魔術師団第二部隊隊長ロブだ。
「いい加減二人とも、私の部屋でくつろぐのやめてくださいよ」
「別に用もなく来てるわけじゃないんだ、茶くらいいいだろ」
 茶目っ気たっぷりにそう返事をしたロブは、カップを片手にウインクを決めてくる。そういう仕草が妙に似合う優男だが、魔術の腕は高い。三十歳で部隊長を務めるだけのことはある。子爵家の跡取り息子だったくせに、魔術師団で一から叩き上げの道を選んだ変わり者だ。
 伯爵令嬢であるリズベスだが、魔術師団内での居室は他の研究員と変わりはない。扉を開けてすぐに2人掛けのソファとローテーブル。壁際には一面に造りつけられた本棚。奥には大きな机がどん、と置かれている。寝室は続き部屋の方にあって、資料さえ片付ければ実務部隊員の部屋よりも広い。通いの侍女がいて、普段であれば世話をしてくれるが、今日は休みを取らせていた。
 ロブとアデリンは、どちらも実務部隊である第二部隊の所属だ。研究員であるリズベスが二人と知り合ったのは、リズベスの研究成果を通してのことである。成果を見るため第二部隊に帯同したリズベスを殊の外気に入ったロブとアデリンは、なんやかんやと理由をつけてリズベスを構った。一方リズベスも来たばかりで勝手の分からない中親切にしてくれた二人に懐き――今ではもう友人と呼んで差し支えない付き合いをしている。
 年齢や性別にとらわれない付き合いができることは、リズベスにとって嬉しいことだった。
「あら、今日はお茶を飲みに来たわけじゃないんですか?」
 用もなく来てるわけじゃない、と言ったロブの言葉に首をかしげる。確か昨日のうちに研究の途中経過について報告をしたはずだ。アーヴィンに「ひと段落ついた」と言ったのは、決して嘘ではないのだ。
「そりゃアレよ、リズベス」
 にまにまとアデリンが笑いながらリズベスの分のお茶を注いでくれる。机の後ろから椅子を引っ張ってくると、アデリンはそこに座るようロブに促して、リズベスをソファーへ引っ張ってきた。
「お前さん、今日は騎士団棟の方まで出かけて行ったんだろ?」
 この情報の早さときたら。リズベスは眩暈がした。いったいこの二人はどこからどこまでを知っているのだろう。
「……行きましたけど。知ってるでしょう?聖騎士団には兄がいるって」
「アーヴィンだろ、もちろん知ってるさ。そういや聞いたか?お前さんの兄貴、半年後には団長補佐に任命されるって噂だ」
「兄が優秀なのは知ってますが……早すぎません?」
「早くはないだろ。あれも第二小隊隊長を務めて三年か?討伐任務で功績をあげてるからな」
 聖騎士団の任務は幅が広い。王都内の警備から魔物の討伐までなんでもござれだ。場合によっては魔術師団と合同任務もあるためその殆どが顔見知りでもある。
「近衛隊に引き抜きたいって話も来てたらしいけどな」
 そっちも初耳である。しかし本当にロブの耳の早さには恐れ入る。王宮内のことでロブが知らないことなんかないんじゃないだろうか。
「アーヴィン様、超がつくほどの美男子ですものね……」
 うっとりと頬を染めるアデリンにリズベスは苦笑した。まぁ確かに顔はいい。三人の兄たちの中で誰が一番の美男子か、と問われればもちろん次兄のアーヴィンだ。長兄ルーファスも勿論整った容姿をしているが、アーヴィンと比べると少し華がない。三番目の兄ステファンは美男子と言うには愛嬌が勝ちすぎている。しかし――
「アーヴィン兄さまはやめておいた方がいいわよ、アデリン」
 リズベスは真面目な顔で忠告した。
「性格が悪いわ」
「んも~~リズベス、わかってないなあ」
 アデリンは一拍置いてこう続けた。
「アーヴィン様になら、いじめられてもいい……」
「……コメントに困るな」
「なんていうか……はい……」
 うっとりと言うアデリンに対し、困惑の視線を送るロブとリズベスであった。

「それで、用件の方なんだがな、リズベス」
「あっ本当に用事おありだったんですね」
 なんだかんだいいつつ駄弁りに来ただけかと思っていたリズベスは、居住まいをただした。直属でないにてもロブは一応上司だ。
「お前さんは俺のことを少し誤解して――まあいい、仕事の話だ」
「はい」
「これはまだ打診の段階だから、本当に実現するかはわからんのだが、近く聖騎士団との合同任務が予定されている」
「任務ですか?」
 また帯同だろうか。しかしそれなら決まってから通達が来るのが普通だ。
「まぁそうなんだが――おいアデリン、お前も聞けよ」
 未だにふわふわと妄想の世界に飛んでいっているアデリンに声をかけると、ロブは話を続ける。
「今回は極秘任務だ。向こうからは恐らく副団長のラトクリフが出る」
「他の人員は未定ですか?」
「アッカーソン団長が人選中だと言っていた。恐らく少数精鋭で向かうことになる」
 突然出てきたヒューバートの名に一瞬どきりとするが、リズベスはそれよりも任務の内容が気になった。
「任務の内容なんだが、お前たちに仮面舞踏会に参加してもらいたい」
「……はい?」
 ロブの重々しい口調で告げられた内容は、どうも自分の理解を超えていた。仮面舞踏会に出る任務、などというのをリズベスは初めて聞いた。アデリンも同様だ。
「舞踏会と言うからには踊れなきゃ話にならん。今から付け焼刃で練習させるより、元から踊れる奴がいいだろう――それに、お前さんたちなら実力も充分だ。身の安全は騎士サマ達に任せりゃいい」
 それだけ言うと、ロブはすっかり冷めてしまった紅茶の残りを一気に飲み干した。
「それでリズベス、お前さんが今回の任務では聖騎士団との橋渡し役だ」
 そこまで言うと、ロブはウインクをひとつ寄越した。
「ラトクリフ副団長殿によろしくな」
 ――本当に何でも知ってるんじゃないかしら。リズベスは背筋が寒くなった。



 ◇

「仮面舞踏会かあ」
 団長と打ち合わせがあるから、というロブを見送ったリズベスとアデリンは顔を見合わせた。
「舞踏会はいいけど、場所も日時もまだ不明なんでしょう?なんで仮面舞踏会だってことだけ確実なのかしら」
「まあ考えても仕方ないけど」
「うーん、まあそうですけどね」
 二人揃ってため息をつく。
「変な任務よねー、まあ美形ぞろいの聖騎士団の騎士さまにエスコートしてもらえるのは役得だけど」
「……」
「リズベスのエスコート役はおそらくラトクリフ副団長殿でしょうね~」
「……」
「ね~~~~リズベスちゃん」
 ぷるぷると震え出したリズベスを、アデリンがにまにまと見つめる。
「騎士団に通う名目が出来て良かったじゃない、身体強化系魔術の改良はリズベスがやってきた分野でしょ?不自然さゼロ!実戦データも取れるし万々歳!ついでにラトクリフ副団長殿と仲良くなれて万々歳!なにこれ都合のいい話ね?」
 リズベスが騎士団に出入りしても不自然がないよう、表向きの理由が実戦データの取得。これは前々からチーム内で要望が出ていたので、ありがたいといえばありがたい。今日のうちに聖騎士団に話を通しておくから、明日から始めてもいいなど願ってもないことである。ありがたい、本当にありがたいのだが。
 きゃっきゃと一人で盛り上がるアデリンに、リズベスはじっとりとした視線を向けた。
「アデリン、まさかあなた、ロブ隊長に何か言ったりしてないわよね?」
「言ってない言ってない、これは本当に言ってない」
 アデリンはリズベス気持ちを知る唯一の――いや、先程のロブの態度を見るとそれは怪しいが――人間である。恋愛小説談義に花が咲き、とっておきのワインまで持ち出して大いに盛り上がった結果、リズベスは見事なまでに自分の気持ちを暴露してしまったのだ。
「ロブ隊長はリズベスのことよーく見てるからね、わかっちゃうんだろうねえ……」
「最近はそこまで危なっかしいことはしてないはずなんだけどね……」
「あ、うん……」
「それに、ヒューバート様とは別にどうもなりようはないの、アデリンにだって散々話したじゃない」
 ヒューバートにとってリズベスは親友の妹の小さな女の子。それはきっと今でも変わらない。
「そうは言うけどねえ……」
 親友の妹ポジションなんて、恋愛小説では定番のカップルじゃないの?いつのまにか成長した姿を見てフォーリンラブする話、結構勧めたはずなんだけど。アデリンは内心ため息をついた。
(他のことは自信満々でできるくせに、ラトクリフ副団長との件にだけは妙に後ろ向きよねこの子)
 すっかり落ち込んでしまったリズベスの姿を、上から下までじっくり見つめる。
(だいたい、これだけ恵まれた容姿に成長しておいて、落とせない男がいるとは思えないんですけどね!思い込みって怖いわ…)
 気のいい同僚であるところのアデリンは、恋愛小説大好きっ子のアデリンは――今日もリズベスの恋をこっそり応援しているのだ。
(それに、十九で嫁き遅れなんて言われたら、私だって困るのよ)
 アデリン二十一歳、独身。名ばかりとは言え男爵家の出身である。一応貴族の端くれだ――つまり。
(今時21でもまだ若いお嬢さん扱いなんですからね!)
 まあ、ご同類なのである。
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