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相続人選定会
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判明しているこの三つの技術だけでも、それこそ世界が変わると断言できる価値がある。各国の為政者や起業家の目の色が変わったのは言うまでもない。
こういうことがあるからこそ、チェンジリングの囲い込みが国策として重要になってくるという顕著な例だろう。
そして国家が管理するべき重要機密が、一般人の手に渡ろうとしているのだ。その点でも注目された。
相続人候補は、行方不明となったジェラール・ヴェルヌの血を引く者全員。
国も企業も、誰がどの技術を相続するのかに目を光らせた。
国家の安全保障上、個人所有は許されない技術だ。仮に遺産を受け継いでも、なんだかんだで、結果的に手放すことにはなるだろう。
しかし最終的に国に譲り渡すことが事実上確定していても、引き換えに莫大な資産は約束される。
降って湧いたようなビッグチャンスに、目の色を変えた候補者が何人もいたのは、無理からぬことだ。
相続人が選ばれる場は、その名も「遺産相続人選定会」――遺言書には、本当にその名称が記されていた。
その選定会が開かれる条件は、相続人候補の全員参加。指定された会場は、キングの機動城。
ただそれだけ。あとはどうしろとも、誰がどのように選ぶとも、一切の指示がなかった。
資料に記載されている機動城は、長閑な郊外に建つ、落ち着いたアメリカ風の洋館だ。軍曹は時代的に半世紀前の人物のためか、外観こそレトロさが漂うが、海外の大富豪が所有しているレベルの大豪邸。
十五年前の指定の日時、門前に候補者全員が揃った時、候補者のみが機動城内部へと招き入れられた。
門は堅く閉ざされたまま――ただ一族の者だけが、忽然と姿を消したのだ。
この時点で、転送装置の存在も確定した。
門が開いたら候補者に紛れて一緒に送り込まれる予定だった政府が揃えたチームは、ただの一人も侵入できなかった。
外にいたはずが、瞬時に不気味な屋敷内に瞬間移動していたジェラールの血を引く十数人。
彼らが屋敷の外に再び戻れたのは、五日後のことだった。
開始時間からちょうど五日後の正午、門扉の前を取り囲む軍関係者や役人やマスコミ、野次馬の目の前に、転送で一斉に現れた。いきなり招かれた時と同様に、今度は無理やり追い出されるように。
当事者の証言によると、めいめいが屋敷の中ですごしていたはずなのに、予告もなく突然門外に飛ばされていたのだという。
中にはちょうどトイレの個室にいたという気の毒な人物までいたとか。
そして瞬間移動で現れた彼らの中には、意識不明のまま地面に横たわるマリオンもいた。
入館時より、戻った総数は四人減っていた。
その四人が、マリオンに殺害されたとされる被害者だ。
今も遺体は、機動城の中に取り残されているのだろうと言われているが、その門は再び固く閉ざされ、十五年間確認する術はなかった。
以降、毎年ジェイソンの命日前になると、候補者に手紙が届くようになった。
一任されていた弁護士事務所にどこからともなく人数分の古風な封書がまとめて届けられ、依頼料もジェイソンの凍結中の口座の一つから、毎年規定通りに振り込まれているのだという。
封書の中身は、相続人選定会への招待状だ。
不思議なことにそれは、血族の誰かに子供が生まれれば、その子供にも届く。
おそらく機動城の中には、すでに世界中で規制されているAIが、それも当時の水準から比較しても圧倒的に高次元の域のものが存在し、あらゆる管理やイベントの計画が引き続きジェイソンの遺志に従って粛々と進行されているのだろう。
誰もが喉から手が出るほど望む空前絶後の技術が、あるいはそれに繋がるヒントが、あの屋敷の中に隠されている。
しかしその機動城の門戸が開かれることは、以後一度もなかった。
いくら一族が、指定の日時に門前に集まっても、内部には決して招き入れられはしなかった。
何故なら、相続人選定会が開催されるための条件が満たされなかったからだ。
招待状が届くのは、ジェラール・ヴェルヌの血を引く生者全員。一人欠けても、鉄壁のバリアは侵入者を許さない。
そして昏睡状態のまま容疑者として収監されているマリオンだけは、そこに集まることができなかった。
実は超法規的措置で、マリオンを現場に運び込むという意見もあったらしい。
ただ、これは世界中が注目するビッグイベントだ。マスコミや世論の目もある。
何より他国からすれば、アルグランジュだけが隔絶した技術を入手する事態は、可能な限り妨害したい。
そういったいろいろな事情が絡んで、結局計画は実現できなかったようだ。
「――なるほど。そういうことか」
無意識に、不愉快な響きの独り言が漏れる。
犯行当時未成年だったマリオンが、あまりにも速やかに死刑執行された理由には、そういう裏があったようだ。
強引な捜査手法や、曖昧なままの証拠による不自然な結審も、これで合点がいった。
アルフォンス君個人がどんなに頑張っても手も足も出ない、強大な力が働いていたのだ。
国家権力という――。
マリオンが死ぬか自由の身にならない限り、機動城の堅く閉ざされた空間は、招待された相続人候補すら拒み続ける。
必然的に、世紀の技術という遺産にも手が届かないまま。
それゆえの、死刑執行だった。一人でも殺していれば、無罪にはできない。ならば下手に懲役刑にするよりも、手っ取り早く――。
胸に湧き上がってくる怒りを理性で鎮め、更に思考を進める。
――先程のアルフォンス君の言葉の意味が分かった。
ジェイソンの遺志に添って命令を遂行するAIから、今の僕はもはや死者と判断されるのか、それとも去年までと同じくマリオン宛の招待状が届くのか――それはまだ判然としない。
いずれにしろ確かなのは、今年こそは招待者全員が門の前に揃い、キングの機動城に、再び候補者が足を踏み入れるということだ。
つまりアルフォンス君の言う通り、十五年間止まっていた事態が動き出す。
どうやっても戻れなかったかつての惨劇の舞台へと、再び招かれる日がやってくる。
今度こそ、相続人を決定するために。
ジェイソンの命日まで、あと半年ほど。
もし、僕の下にも招待状が届いたなら――迷わず機動城へと乗り込むだろう。アルフォンス君とともに。
遺産ではなく、真実を手に入れるために。
こういうことがあるからこそ、チェンジリングの囲い込みが国策として重要になってくるという顕著な例だろう。
そして国家が管理するべき重要機密が、一般人の手に渡ろうとしているのだ。その点でも注目された。
相続人候補は、行方不明となったジェラール・ヴェルヌの血を引く者全員。
国も企業も、誰がどの技術を相続するのかに目を光らせた。
国家の安全保障上、個人所有は許されない技術だ。仮に遺産を受け継いでも、なんだかんだで、結果的に手放すことにはなるだろう。
しかし最終的に国に譲り渡すことが事実上確定していても、引き換えに莫大な資産は約束される。
降って湧いたようなビッグチャンスに、目の色を変えた候補者が何人もいたのは、無理からぬことだ。
相続人が選ばれる場は、その名も「遺産相続人選定会」――遺言書には、本当にその名称が記されていた。
その選定会が開かれる条件は、相続人候補の全員参加。指定された会場は、キングの機動城。
ただそれだけ。あとはどうしろとも、誰がどのように選ぶとも、一切の指示がなかった。
資料に記載されている機動城は、長閑な郊外に建つ、落ち着いたアメリカ風の洋館だ。軍曹は時代的に半世紀前の人物のためか、外観こそレトロさが漂うが、海外の大富豪が所有しているレベルの大豪邸。
十五年前の指定の日時、門前に候補者全員が揃った時、候補者のみが機動城内部へと招き入れられた。
門は堅く閉ざされたまま――ただ一族の者だけが、忽然と姿を消したのだ。
この時点で、転送装置の存在も確定した。
門が開いたら候補者に紛れて一緒に送り込まれる予定だった政府が揃えたチームは、ただの一人も侵入できなかった。
外にいたはずが、瞬時に不気味な屋敷内に瞬間移動していたジェラールの血を引く十数人。
彼らが屋敷の外に再び戻れたのは、五日後のことだった。
開始時間からちょうど五日後の正午、門扉の前を取り囲む軍関係者や役人やマスコミ、野次馬の目の前に、転送で一斉に現れた。いきなり招かれた時と同様に、今度は無理やり追い出されるように。
当事者の証言によると、めいめいが屋敷の中ですごしていたはずなのに、予告もなく突然門外に飛ばされていたのだという。
中にはちょうどトイレの個室にいたという気の毒な人物までいたとか。
そして瞬間移動で現れた彼らの中には、意識不明のまま地面に横たわるマリオンもいた。
入館時より、戻った総数は四人減っていた。
その四人が、マリオンに殺害されたとされる被害者だ。
今も遺体は、機動城の中に取り残されているのだろうと言われているが、その門は再び固く閉ざされ、十五年間確認する術はなかった。
以降、毎年ジェイソンの命日前になると、候補者に手紙が届くようになった。
一任されていた弁護士事務所にどこからともなく人数分の古風な封書がまとめて届けられ、依頼料もジェイソンの凍結中の口座の一つから、毎年規定通りに振り込まれているのだという。
封書の中身は、相続人選定会への招待状だ。
不思議なことにそれは、血族の誰かに子供が生まれれば、その子供にも届く。
おそらく機動城の中には、すでに世界中で規制されているAIが、それも当時の水準から比較しても圧倒的に高次元の域のものが存在し、あらゆる管理やイベントの計画が引き続きジェイソンの遺志に従って粛々と進行されているのだろう。
誰もが喉から手が出るほど望む空前絶後の技術が、あるいはそれに繋がるヒントが、あの屋敷の中に隠されている。
しかしその機動城の門戸が開かれることは、以後一度もなかった。
いくら一族が、指定の日時に門前に集まっても、内部には決して招き入れられはしなかった。
何故なら、相続人選定会が開催されるための条件が満たされなかったからだ。
招待状が届くのは、ジェラール・ヴェルヌの血を引く生者全員。一人欠けても、鉄壁のバリアは侵入者を許さない。
そして昏睡状態のまま容疑者として収監されているマリオンだけは、そこに集まることができなかった。
実は超法規的措置で、マリオンを現場に運び込むという意見もあったらしい。
ただ、これは世界中が注目するビッグイベントだ。マスコミや世論の目もある。
何より他国からすれば、アルグランジュだけが隔絶した技術を入手する事態は、可能な限り妨害したい。
そういったいろいろな事情が絡んで、結局計画は実現できなかったようだ。
「――なるほど。そういうことか」
無意識に、不愉快な響きの独り言が漏れる。
犯行当時未成年だったマリオンが、あまりにも速やかに死刑執行された理由には、そういう裏があったようだ。
強引な捜査手法や、曖昧なままの証拠による不自然な結審も、これで合点がいった。
アルフォンス君個人がどんなに頑張っても手も足も出ない、強大な力が働いていたのだ。
国家権力という――。
マリオンが死ぬか自由の身にならない限り、機動城の堅く閉ざされた空間は、招待された相続人候補すら拒み続ける。
必然的に、世紀の技術という遺産にも手が届かないまま。
それゆえの、死刑執行だった。一人でも殺していれば、無罪にはできない。ならば下手に懲役刑にするよりも、手っ取り早く――。
胸に湧き上がってくる怒りを理性で鎮め、更に思考を進める。
――先程のアルフォンス君の言葉の意味が分かった。
ジェイソンの遺志に添って命令を遂行するAIから、今の僕はもはや死者と判断されるのか、それとも去年までと同じくマリオン宛の招待状が届くのか――それはまだ判然としない。
いずれにしろ確かなのは、今年こそは招待者全員が門の前に揃い、キングの機動城に、再び候補者が足を踏み入れるということだ。
つまりアルフォンス君の言う通り、十五年間止まっていた事態が動き出す。
どうやっても戻れなかったかつての惨劇の舞台へと、再び招かれる日がやってくる。
今度こそ、相続人を決定するために。
ジェイソンの命日まで、あと半年ほど。
もし、僕の下にも招待状が届いたなら――迷わず機動城へと乗り込むだろう。アルフォンス君とともに。
遺産ではなく、真実を手に入れるために。
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