異世界転移殺人事件 ~推理しない探偵は初めから犯人を知っている

寿 利真

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天然

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「近々完成する予定の小説の方も、ぜひ感想を聞かせてください」
「ええ、楽しみにしてますよ」

 快諾してくれるアルフォンス君は、そこで感心する。

「それにしても音楽だけじゃなくて、小説も手掛けるなんてすごいですね。コーキさんは芸術や文学に造詣が深かったんですか?」
「いえいえ、とんでもない。興味のあるものばかりかじった、趣味程度ですよ。どちらかというと娯楽作寄りで、芸術や文学などはそれほどでは」

 特に僕のような即物的な人間には、リリカルなものを理解する能力が著しく欠如している。描写されない部分を読み込まねばならない詩や俳句のような文芸方面にいたっては、壊滅的と言っていい。
 俳句といえば、松尾芭蕉の名句とされる「松島や ああ松島や 松島や」。あれはいかがなものなのか。俳句に疎い者なら誰もが思うことだろう。「え、それはありなの?」と。少なくとも僕は真っ先に思った口だ。「ふざけてしまったんだろうか」と。しかも実際には別人の作ともいうから、ますます評価が分からなくなる。
 たとえば今どきの若者が「超ヤベえ ヤベえヤベえよ マジヤベえ」とうたったとして、それと何が違うのか、どうにも差がよく分からない。ニュアンス的には同じようなものなのではないだろうか?
 理系を言い訳にするつもりはないが、残念ながら僕には詩心というものがまるでない。万葉集やら古今和歌集やらも授業で学問として丸暗記はしたものの、正直鑑賞の仕方が分からず、退屈極まりないものだった。大切な人の死を深く悲しんでいるという短歌など、その割に細部までしっかり技巧を凝らしていて結構余裕があるじゃないかなどと余計なことを思ってしまう。僕流の読み解き方をすれば、嘆きどころか、「自分の歌のテクニックどうですか! 悲しみを表現するのに、ここの強調が一押しポイントなんです!」と、声を大にしてアピールする声が聞こえてくるようだ。
 ――やはり僕は少々ひねくれているだろうか?

 そういう人間だから、論理的に謎を解き明かしていく推理小説などの方が納得できるし楽しめるのだ。
 アルフォンス君も楽しんでくれればいいのだが。

 しかし考えてみたら、こうして感想を毎回聞かせてもらえるのは、朝晩毎食食事を共にしているからでもある。少々アルフォンス君に頼りすぎなのではないだろうか。

 これはお互いによくないなと反省し、老婆心ながら忠告してみる。

「僕のことよりも、アルフォンス君が仕事以外することがないのだろうかと心配になってきました。僕も仕事人間でしたからね。こんなに毎日のように僕と自宅で夕飯を食べていて大丈夫なんですか? もう一人で何でもできますので、必要以上に僕に気を使わなくとも大丈夫ですよ。若者らしく夜遊びなどしてきたらどうですか?」
「別に気を使ってるわけじゃありません。俺がそうしたいからいいんです。それと夜遊びは危険が伴うのでコーキさんはしないでくださいよ。どうしてもという時は俺が付き添います。あなたどうも少しズレてますから」

 せっかく年長者として心配してあげたのに、アルフォンス君から逆に僕の夜遊び禁止令を出された挙句、いささか失礼な発言をきっぱりと言い切られてしまった。
 しかしそれには異論を唱えたい。

「僕がズレているというなら、きっと異世界人だからです。僕個人のせいではありません」
「いえ、絶対向こうの世界でもコーキさんはズレてたはずです」
「そんなことはありません。ちょっと変わり者と言われていた程度です」
「やっぱりそうなんじゃないですか。あなたこちら基準でも相当天然ですからね? きちんと自覚してください」
「……」

 同居開始から一か月ともなると、なかなか発言内容に遠慮がなくなってきたが、これはよい傾向と受け止めてもいいものなのだろうか? 前の体では年配の男性だったとあれほど言っているのに、年長者に対する敬意というものが著しく欠けてきているのではないだろうか?
 いや、やはりこの姿が悪いのだ。傍から見たら、少年課のおまわりさんに説教と指導を受ける不貞腐れた少女のような構図になっているに違いない。

 僕のそんな遺憾の念をよそに、アルフォンス君は、そういえば、と少し考える顔つきをする。

「さっきの話ですけど、実はここ最近、久しぶりに会おうって奴がいてうるさかったんですよね。うちに押しかけられても困るんで、近いうち、外で飲んでこようと思います」
「それはいいですね。ご友人と楽しんできてください」
「そんな上等なもんじゃないんで。うちに来られたくないだけです。すごく図々しい奴なんで」

 憎まれ口を叩くが、彼にとって気の置けない人物であることはなんとなくうかがえた。
 この時期に、うるさいほど会おうと言ってくるというなら、きっとアルフォンス君の事情を知っていて心配してくれているからだろう。今はすっかり落ち着いてむしろふてぶてしいくらいだが、僕との同居がなかったら、彼の精神は今より不安定なままだったはずだ。

 きちんとそういう存在がいるのなら、ひとまず安心だ。

「夜に一人できちんと留守番できますか? 誰か来ても、不用意に中に入れたらだめですよ? 何かあったらすぐ連絡してくださいよ?」

 保護者気分で見守っていた僕に、またもやアルフォンス君の余計な訓戒が続く。

「…………」

 まったく、一体僕をいくつだと思っているのだ、君は。
 僕は君が思っているほどの天然ではないと、認識の訂正を強く求めたい。
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