異世界転移殺人事件 ~推理しない探偵は初めから犯人を知っている

寿 利真

文字の大きさ
46 / 81

訪問者

しおりを挟む
「いやあ、まさか、十五年も続くとは思っていませんでしたよ。仕事としてはありがたいですが、一族の皆様としては今度こそ無事にすべてが終わってほしいところでしょうね。私もそろそろ満期終了としたいところです」

 三日後に訪問した弁護士のペロワさんが、我が家の応接間でしみじみと共感するように言った。初老の誠実そうな人物だ。
 向かい合った席から僕も相槌を打つ。

「まったくです。私はチェンジリングでして内面的には他人なもので面識がないのですが、他の一族の方達もそんな感じでしたか?」
「そうですね。やはり、積極的か消極的のどちらか両極端といった様子ですかねえ」
「ああ、分かります。確かに遺産は魅力的でしょうが、私としては身に過ぎた財産よりは、とにかく何事もなく家に帰れるのが一番だと思いますしね」
「おっしゃる通りです」

 さっきから、僕とペロワさんの二人の間で話に花が咲く。

 ペロワさんが招待状を携えて、形式上の説明をするというやり取りは、アルフォンス君にとっては、子供の頃からすでに十六回目となる。そのためだろうか。根掘り葉掘り尋ねる僕の隣で、閉口気味に見守るだけだ。

 せっかく開始当時からの関係者とこうして直接会えたのだから、やはり気になる情報はどんどん訊いておくべきだ。

 おかげで興味深い話を、いくつか仕入れることができた。

「それにしても、ジェイソン・ヒギンズ氏は遺言書作成の時点で、こんな風に長引くことを予測していたんでしょうか」
「どうでしょうか。結果だけ見ればまさにそのための契約のようにすら見えますがね。さすがにチェンジリングの王といったところですか。凡人には計り知れない慧眼です」

 真面目で人当たりのいいペロワさんは、僕の世間話に逐一付き合って、問題のない範囲での情報を答えてくれた。

 大きな収穫の一つは、遺産相続の依頼がいまだにペロワ弁護士事務所で続行されていた件についてだ。
 どうして依頼人の死後も、契約者不在のまま仕事を続けていけるのかと疑問に思っていたのだが、その謎もあっさり解けた。

 なんでも「既定の日時に前払いで甲名義の依頼と支払いが続く限り、以下の内容の契約を必ず実行する」という契約を生前のジェイソンはきちんと結んでいたのだという。
 それは法的にまったく穴のないもので、毎年支払いがあり、実際に同じ内容の依頼書と一族への招待状が送り付けられている以上、今もなお有効なのだそうだ。
 そもそも遺言書とは死後初めて効力を発揮するものであるだろうに、まるで死後の更にその後にまで備えているかのようだ。

 毎年この時期になると、事務所の机に必要書類一式が忽然と現れるのだというから、ある意味怪奇現象だ。どうやらそれも、ジェイソンの遺産の物質転送技術の一端らしい。
 二年目からは、国の研究機関が毎年事務所に張り込むのが、季節の風物詩となっているのだとか。事務所としてはいい迷惑だろうに。

 最初は意気込んでいた研究者ご一行も、結局いまだに大した成果を上げられないまま。ただ「転送される書類一式」の映像だけを持って引き揚げていくまでが、恒例行事なのだという。

「ヒギンズ氏はどんな人物だったんですか?」

 これは、僕が出会った関係者には必ず投げかけている問いだ。

 二十八歳で引きこもって以降の軍曹と面識のある人物は、驚くほどに見つからない。親戚のはずのアルフォンス君も、その家族ですらも面識はない。
 もしいるとすれば、失踪した夫の兄、ジェラールくらいではないだろうか。

 軍曹の自殺の前日に、数十年ぶりに自宅に呼び付けられて、訪ねたところまでの足取りは間違いなく確認されている。そしてそのまま姿を消した。
 その痕跡のあまりの掴めなさから、転移技術が使われたことはほぼ断定されているが、一体軍曹の死とはどう関わっているのか。

 軍曹を殺してしまったために、自殺に見せかける工作を行ってから、そこで見つけた軍曹の転移技術を利用して外国にでも逃亡したのか。あるいは逆に軍曹に殺されて遺体が隠され、その後軍曹も自殺したのか――それすらも依然として不明のままだ。
 いずれにしろ存命なら九十歳は越えているだけに、現時点での生存は微妙なところだ。

「ご本人とのやり取りはすべて通話だけでして、しかもモニターは落とした状態だったものですから、なんとも……。会話からの印象は、論理的で冷静な感じの方でしたが」

 ペロワさんの返答も、やはり予想通りのものだった。
 軍曹と関わった人物は大体こんな感じだ。直接会ってはいないし、受けた印象も似たり寄ったり。よく言えば落ち着きがある。悪く言えば冷淡。そしてビジュアルは不明。まあ、いくらでも変えられるから、参考にはならないが。

 チェンジリングに課される定期的な会議参加などの義務も、彼は莫大な税金の支払いによってかなり若いうちから免除されていた。
 何らかの手続きや、身の回りの世話等も、通話やロボットの駆使で事足りるため、本当に数十年単位で、会った人物は皆無のようなのだ。

 誰よりも彼を知っているだろう僕でも、ここまで人を徹底排除して孤独を選ぶ心理には理解が及ばなかった。

 ペロワさんからの招待状の受け渡しと諸々の説明は、終始和やかな雰囲気で進み、情報収集も交えた会話も弾んだ。

 彼の業務とは関係ない貴重な話も随分聞かせてもらい、なかなか有意義な時間が過ごせた。
 引退前にはこの依頼の円満な成就を見届けたいとも漏らしていて、我々候補者には随分同情的な様子だった。
 最終的には、頑張ってくださいと個人的に謎の激励をされるまでの間柄になった。

 玄関から送り出した後で、ほとんど口を挟まなかったアルフォンス君が冷ややか視線を向けてきた。

「同世代同士で盛り上がるのやめてほしいんですけど。話長すぎです」

 普段は世間知らず扱いなのに、こんな時だけ年寄り扱いとは。どうやら会話に混ざれなかったことでへそを曲げていたようだ。確かに意気投合する年寄り同士の会話に若者が加わるのは至難の業だろう。

「何を言ってるんですか。おかげで有益な情報収集ができたじゃないですか」

 十五年前の候補者達は、何の情報も与えられないまま、ただ期待と好奇心だけを持って、テーマパーク気分で機動城へと赴いた。
 そこに悲劇が待っているなど、思いもせずに。

 本来なら次は心して臨むところだが、犯人とされたマリオンが死刑になったことで、彼らの警戒心はまたリセットされてしまったのではないだろうか。殺人犯はもういないのだからと。

「みんな、十五年前の事件は、遺産の相続争いにまつわるものだと思ってますよね。遺産狙いのマリオンさんが暴走したと。それは、アルフォンス君。犯人が別にいると考えているだけで、君ですら例外ではない」

 ジェラールの関与も完全に排除するわけではないが、やはり先程聞いた軍曹の事前の準備の良さは、たまたまですまされるものではく、その後の展開を見据えてのこととしか思えない。

「僕はジェイソンの契約続行の話を聞いて、疑念を深めました。十五年前の事件――ジェイソンはただ、事前の情報から何かが起こることを予想していただけなのか。それとも彼女が何らかの仕掛けを意図的に残して仕組んだために、あの結果が引き起こされたのか」

 僕の想像に、アルフォンス君は息を呑み、険しい表情を浮かべた。

「――もし後者なら、俺たちはジェイソンの死後なお、奴の掌で踊らされてるってことじゃないですか」
「少なくともこの世界では、本当にそれがありうるのが恐ろしいところです。世界から高性能のAIが消えても、キングの機動城だけは、当時のまま――いえ、おそらくは当時の水準を遥かに超えた技術を維持していることは想像に難くない。つまりいまだ屋敷内においては、制作者であるジェイソンの意志を受けて事態が動く可能性が高いということです。仮にそうだとしたら、この遺産相続の話自体が、巨大な餌のようにすら思えますね」

 まるで壮大な舞台と課題だけを残して、自らはさっさと舞台から降りてしまったかのような――。

 軍曹については特に入念に資料を読み、考察を重ねてきたつもりだが、引きこもるようになってからの彼は、まったく掴みどころがない。
 いったい何を思い、あのような遺言と、あまりにも仕掛けの過ぎる機動城という相続の場を用意したのか。
 
「まさにあの屋敷は、彼女のテリトリーといえるでしょう」
「――やはり今度もまた、あんな事件が起こると……?」

 抑えても溢れ出す怒りとともに、唸るように呟くアルフォンス君。僕はなだめるように答える。

「ジェイソンの残した仕掛けなのか、それとも単純に一族の誰かの仕業なのか――いずれにしろ僕達は、犯人が他にいることを確信しています。覚悟も心構えも最大にして、そのつもりで事に臨みましょう。真相の究明も重要ですが、僕達が被害者となっては意味がありません」

 しばらく黙り込んで難しい顔をしたアルフォンス君は、不意に僕に向き直って、何かを決意したように申し入れてきた。

「コーキさん。急ですいませんが明後日、ちょっと俺に付き合ってもらえませんか? 少し遠出になりますが」
「いいですよ。初めからスケジュールは空けています」

 あっさりと即答した僕に、アルフォンス君は逆に面食らった様子だ。

「理由を、聞く必要もないということですか……」
「いつ誘ってくれるのかなと、待っていたんですよ。今現在、マリオンさんの情報を世界で最も把握しているのは、きっと僕でしょう」

 この半年、身の回りや事件に関わる情報は、可能な限り徹底的に調べ尽くしてきた。そんな僕の姿勢は、傍で見ていた彼が一番知っている。

「俺以上にですか?」
「もちろんです。――今は自分のことですからね」

 冗談めかして答えた僕に、アルフォンス君は苦笑を返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...