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本編
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夏が長くなった。
9月も後半に差し掛かろうというのに、夏本番の暑さをそのまま維持し続け秋に突入する勢いのこの季節に、未神佑はどっと不満を募らせた。
「秋、結構好きなのになぁ……」
すでに21時を過ぎた街中の人気はまだらだった。
残業でこんな時間になってしまって少しでも早く家路に着きたい佑は、会社から最寄り駅までの最短距離を取るために、普段はあまり通らない公園を突っ切ることにした。
木々の揺れる音、ぼんやりと光る街灯の灯り、微かに聞こえる虫たちの声。不意にヒヤッと背筋に汗が滴った。自分の汗なのに、この驚きよう。
霊感などはないが、その手の話に苦手意識をもつ佑は、足早にここを切り抜けようと公園の石畳を進む。
やがて公園の中央、少し拓けた広場に差し掛かると、かすかに男女の話声が聞こえてきた。控えめな音量だが、夜の公園ではヒソヒソ話もかなり響く。所々話している単語の節々が聞こえる。
彼らから少しでも距離を取ろうと、反対側の通路を横切ろうとしたその時、パンッっという弾ける音と共に、カツカツカツとパンプスのヒールを叩く音が夜の公園内に響き渡った。
佑は条件反射的に男女がいると思しき辺りに目を向ける。
案の定そこには、ベンチに項垂れるように座る男が一人取り残されていた。先ほどの会話と音から推測するに、別れ話から男は頬を叩かれ、女がここから去ったということだろう。
なんとも昭和な場面に、男女の恋などいつまで経っても変わらないものなのだろうかと、佑はひとりで納得する。
あまりジロジロと見てこっちに絡まれても困る。そそくさとここは退散しようとしたが、街灯によって微かに光った男の胸元をみてハッとする。
少しばかり目を凝らし、男の胸元をよくよくと見る。
「あの社章……っ!」
項垂れてる男の胸元と同じく、佑の胸元にも同じ社章が付いていた。
赤の他人であれば、それでよかった。
同じ会社のやつだとわかった途端、佑の目の色が変わってしまった。あの項垂れている男は俺の知ってるやつなんじゃないかと、佑はもう確認せずにいられない。
そう、佑は超が付くほどの世話焼き体質なのだ!
その世話焼き体質が功を奏しているのかはわからないが、大手おもちゃメーカーに勤める佑は営業部のお客様相談室に所属し、33歳で主任という立場にある。
親身になって聞くスタイルはお客様のみならず、社員に対しても同じで、何かにつけて仕事、恋愛、家族、あらゆる相談に乗ってあげているのが現状である。かく言う今日も、残業で人がまばらになったタイミングで後輩に声をかけられ、ひと相談乗ったとこだった。
佑自身、これを特に苦に思わないタイプで、自分が話を聞くことで前に進む力になれるのであれば本望だと思っている。
そんな佑は、自社の社員だとわかった男を確認するべく彼のもとへ近づいた。
座っていてもわかるくらいに高い上背……、暗くても映えるくらい明るい茶髪……、横に置かれた鞄……。
「屋、島……か……」
同じ営業部であるが課が違うため、一緒に仕事をすることはほとんどないがその男は佑が知る顔であった。
ともなれば、佑の心は揺れに揺れるのである。
誰かの手を借りたいと思っていないか。悲しんではいないか。苦しんではいないか。悩んではいないか。慰めて欲しいのではないか。ありとあらゆる慈悲の気持ちがポンポンと頭の中に生まれてくる。
いてもたってもいられない佑は屋島に声をかけることにした。
優しくそっと、囁くように。
「屋島……、大丈夫か?」
ゆっくりとした動きで顔を上げた屋島広輝は、佑の顔を見た瞬間に堪えていたであろう涙がボロボロと溢れてきた。
さすがの佑も動揺し、ポケットからハンカチを取り出し屋島に差し出す。
屋島は渡されたハンカチを広げくしゃくしゃと丸め、目元に押し付けながらしゃくりあげた。
佑は屋島の横に腰を下ろし、屋島が落ち着くまでしばらくの間じっと待った。
屋島が泣き止んだら第一声、なんと声をかけてあげたら良いのか。考えても良い答えなど見つからないまま、屋島の鼻を啜る音が一段と大きく響き渡った。
しばらくしてポツンと屋島がつぶやく。
「未神、先輩……ありがとう、ございます……」
やっと話せるようになったようだ。
「私でよければ、話を聞くが……」
相談事の中だと、恋愛相談が佑にとっては一番ハードルが高いものなのだが、泣いている後輩を目の前にして何もしないわけにはいかなかった。
聞いてあげるだけならば、自分にだってできる。
「本当に……、仏様っているんですね。あぁ……仏様は未神様ですね」
「えぇ? ……お前、大丈夫か」
急に訳のわからないことを言い出した後輩に、いつもは投げかけないような口調で返答してしまった。
「大丈夫です。先輩の顔見たら色々吹っ飛びました。あぁ……、みっともない姿見せちゃいましたね」
佑に話しかける屋島の顔は少しはにかんでいて、最後に「すみません」と言葉を添えて頭を下げた。
不覚にも、はにかむ屋島の顔に少しだけ見惚れてしまった佑は、なんて声をかけたらいいのか一瞬わからなくなってしまった。
「別に、気にすることはない。……ちょっと、待ってろ」
そこから先の言葉がどうしても見つからなくて、佑は近くにあった自販機までコーヒーを買いに行った。
「ほら、こんなもんで悪いが飲め」
「とんでもないです。ありがとうございます」
コーヒーを買っている間に完全に泣き止んでいた屋島は、ケロッとした顔をしていた。その表情も相まって、佑も冷静さを取り戻していく。
「さっきも言ったが、何かあればいつでも相談に乗るから。気兼ねなく声かけろよ」
「はい。ありがとうございます」
そう云って、佑はその場を後にした。
9月も後半に差し掛かろうというのに、夏本番の暑さをそのまま維持し続け秋に突入する勢いのこの季節に、未神佑はどっと不満を募らせた。
「秋、結構好きなのになぁ……」
すでに21時を過ぎた街中の人気はまだらだった。
残業でこんな時間になってしまって少しでも早く家路に着きたい佑は、会社から最寄り駅までの最短距離を取るために、普段はあまり通らない公園を突っ切ることにした。
木々の揺れる音、ぼんやりと光る街灯の灯り、微かに聞こえる虫たちの声。不意にヒヤッと背筋に汗が滴った。自分の汗なのに、この驚きよう。
霊感などはないが、その手の話に苦手意識をもつ佑は、足早にここを切り抜けようと公園の石畳を進む。
やがて公園の中央、少し拓けた広場に差し掛かると、かすかに男女の話声が聞こえてきた。控えめな音量だが、夜の公園ではヒソヒソ話もかなり響く。所々話している単語の節々が聞こえる。
彼らから少しでも距離を取ろうと、反対側の通路を横切ろうとしたその時、パンッっという弾ける音と共に、カツカツカツとパンプスのヒールを叩く音が夜の公園内に響き渡った。
佑は条件反射的に男女がいると思しき辺りに目を向ける。
案の定そこには、ベンチに項垂れるように座る男が一人取り残されていた。先ほどの会話と音から推測するに、別れ話から男は頬を叩かれ、女がここから去ったということだろう。
なんとも昭和な場面に、男女の恋などいつまで経っても変わらないものなのだろうかと、佑はひとりで納得する。
あまりジロジロと見てこっちに絡まれても困る。そそくさとここは退散しようとしたが、街灯によって微かに光った男の胸元をみてハッとする。
少しばかり目を凝らし、男の胸元をよくよくと見る。
「あの社章……っ!」
項垂れてる男の胸元と同じく、佑の胸元にも同じ社章が付いていた。
赤の他人であれば、それでよかった。
同じ会社のやつだとわかった途端、佑の目の色が変わってしまった。あの項垂れている男は俺の知ってるやつなんじゃないかと、佑はもう確認せずにいられない。
そう、佑は超が付くほどの世話焼き体質なのだ!
その世話焼き体質が功を奏しているのかはわからないが、大手おもちゃメーカーに勤める佑は営業部のお客様相談室に所属し、33歳で主任という立場にある。
親身になって聞くスタイルはお客様のみならず、社員に対しても同じで、何かにつけて仕事、恋愛、家族、あらゆる相談に乗ってあげているのが現状である。かく言う今日も、残業で人がまばらになったタイミングで後輩に声をかけられ、ひと相談乗ったとこだった。
佑自身、これを特に苦に思わないタイプで、自分が話を聞くことで前に進む力になれるのであれば本望だと思っている。
そんな佑は、自社の社員だとわかった男を確認するべく彼のもとへ近づいた。
座っていてもわかるくらいに高い上背……、暗くても映えるくらい明るい茶髪……、横に置かれた鞄……。
「屋、島……か……」
同じ営業部であるが課が違うため、一緒に仕事をすることはほとんどないがその男は佑が知る顔であった。
ともなれば、佑の心は揺れに揺れるのである。
誰かの手を借りたいと思っていないか。悲しんではいないか。苦しんではいないか。悩んではいないか。慰めて欲しいのではないか。ありとあらゆる慈悲の気持ちがポンポンと頭の中に生まれてくる。
いてもたってもいられない佑は屋島に声をかけることにした。
優しくそっと、囁くように。
「屋島……、大丈夫か?」
ゆっくりとした動きで顔を上げた屋島広輝は、佑の顔を見た瞬間に堪えていたであろう涙がボロボロと溢れてきた。
さすがの佑も動揺し、ポケットからハンカチを取り出し屋島に差し出す。
屋島は渡されたハンカチを広げくしゃくしゃと丸め、目元に押し付けながらしゃくりあげた。
佑は屋島の横に腰を下ろし、屋島が落ち着くまでしばらくの間じっと待った。
屋島が泣き止んだら第一声、なんと声をかけてあげたら良いのか。考えても良い答えなど見つからないまま、屋島の鼻を啜る音が一段と大きく響き渡った。
しばらくしてポツンと屋島がつぶやく。
「未神、先輩……ありがとう、ございます……」
やっと話せるようになったようだ。
「私でよければ、話を聞くが……」
相談事の中だと、恋愛相談が佑にとっては一番ハードルが高いものなのだが、泣いている後輩を目の前にして何もしないわけにはいかなかった。
聞いてあげるだけならば、自分にだってできる。
「本当に……、仏様っているんですね。あぁ……仏様は未神様ですね」
「えぇ? ……お前、大丈夫か」
急に訳のわからないことを言い出した後輩に、いつもは投げかけないような口調で返答してしまった。
「大丈夫です。先輩の顔見たら色々吹っ飛びました。あぁ……、みっともない姿見せちゃいましたね」
佑に話しかける屋島の顔は少しはにかんでいて、最後に「すみません」と言葉を添えて頭を下げた。
不覚にも、はにかむ屋島の顔に少しだけ見惚れてしまった佑は、なんて声をかけたらいいのか一瞬わからなくなってしまった。
「別に、気にすることはない。……ちょっと、待ってろ」
そこから先の言葉がどうしても見つからなくて、佑は近くにあった自販機までコーヒーを買いに行った。
「ほら、こんなもんで悪いが飲め」
「とんでもないです。ありがとうございます」
コーヒーを買っている間に完全に泣き止んでいた屋島は、ケロッとした顔をしていた。その表情も相まって、佑も冷静さを取り戻していく。
「さっきも言ったが、何かあればいつでも相談に乗るから。気兼ねなく声かけろよ」
「はい。ありがとうございます」
そう云って、佑はその場を後にした。
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