おまけのチートが知りたくて…

ゆーく

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おまけのチート

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ベンチに座ったはずの体が、唐突に浮遊感に包まれた。

次の瞬間、頬を撫でる風が変わっていた。
柔らかな春風のような温もりから、草いきれと土の匂いを含んだ、どこか懐かしい風へと。
瞼を開けると、そこは──見渡す限りの草原だった。

青空が高く、雲がゆっくりと流れている。
足元には見たこともない丈の長い草がびっしりと生え、そよぐたびに波のように揺れた。
遠くには巨大な岩山のような影が見え、その麓には小さな森らしきものが点在している。

「……は?」

声が漏れる。
自分の声だ。
だが、周囲を見回しても、公園のベンチも、オフィス街のビル群も、行き交う人々の姿もない。
あるのは、広大すぎる自然だけ。

「嘘だろ……夢? いや、感触がリアルすぎる」

手のひらを見つめる。確かに自分の手だ。スーツも着ている。昼食のコンビニ袋までしっかりと提げている。
しかし、背後にあるはずの公園の入口も、歩道橋も、何もかもが消えていた。
まるで、この草原だけが、突然別の次元に切り取られたかのようだ。

呆然と立ち尽くしていた時、頭の中に直接響くような、不思議な声がした。

『……目覚めたか。我が子よ』

その声は女性のようでもあり、男性のようでもあった。温かみのある光のような響き。

「誰だ!? ここはどこだ! 俺は会社の昼休みだったはずだ!」

『説明は不要であろう。汝の魂は、新たな世界に導かれた。ここは汝が生きた世界とは異なる理を持つ場所。しかし、恐れることはない』

声は淡々と告げる。困惑する貴一を置き去りにして。

『汝に……それなりのチートスキルを授けた。赴くままに、存分に生きるがよい』


「それなりの……チートスキル?」

聞き慣れない言葉に眉をひそめる。

「どういうことだ? どんなスキルだ? 俺はなぜここに……」

矢継ぎ早に質問をぶつけるが、声はもう聞こえない。
代わりに、胸の奥で、何かがじんわりと熱を持った気がした。

「……チートスキル、ね」

言葉は聞いたことがある。ゲームやラノベでよく見る設定だ。
異世界に転生したり召喚されたりした人間が、現実ではあり得ないほどの強力な力や特殊能力を得る話。

(だとしたら、俺は異世界転移ってやつか……?)

非現実的すぎて理解が追いつかない。

だが、足元に広がる無限の草原と、遠くに見える異様な形の山々は、現実であることを強烈に主張している。

「とりあえず……情報が少なすぎる。まずは水だ。それと、食べられるものか……」

思考が現実に戻ってくる。
異世界ファンタジーの知識は、現代日本の生存術ほどではないにしても、いくつか頭に入っている。
水の確保、食料探し、安全な寝床探しだ。

(あの声は『それなりのチートスキル』と言っていた。どんな力があるのか分からないけど、頼りにするしかない)

まずは行動だ。
貴一は決意を固めると、遠くに見える森の方角へ向かって歩き始めた。
これから始まる異世界での生活に、不安と、ほんの少しの好奇心が入り混じる。

草原は穏やかに、しかし確実に、彼の新たな旅路を静かに見守っていた。
これが、「それなりのチート」
という謎めいたギフトと共に幕を開ける、伊藤貴一の異世界生活の第一歩だった。
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