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第一章
九
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叔父信光と謀を企て、まんまと清須城を乗っ取った信長は、腰を据えて国内の動向を見定めようとしていた。まず手始めに空となった森山城には、もう一人の叔父信次を城主と入れた。
しかし、二ヶ月後の六月二十六日、夏の盛りのこの日、誰もが予想だにしなかった異変が生じた。川狩りに出掛けていた信次主従の前を、一人の若武者が馬に乗ったまま横切ったのだ。
「無礼千万っ!」
これに腹を立てた信次の家来洲賀才蔵なる人物が、威嚇のため矢を射掛けた。
ところが洲賀が放った矢は、その若武者に当たってしまったのだ。矢を受けた侍は、馬上から崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。
「ちぇっ当たったか……」
捨て台詞を吐くと洲賀は、落命したその若武者の顏を確かめるべく近寄った。若武者の顏が見えるところまで近寄ると、突然震え出し、その場で腰を抜かしてしまった。
「と、と、殿……!?」
ガクガクと震える洲賀は、振り返り主君信次を見やってから、息絶えたその若武者を指差した。
「如何致した才蔵……」
半笑いを浮かべながら信次が洲賀の許へ近寄って来た。
「あ、あ、あれを……」
「うん?」
信次は洲賀から彼が指差す先で、上向け横たわり、口元から血を流し落命したその若武者を凝視した。
「うん……!? き、き、き、喜六郎ではないかぁぁぁぁ……!?」
声を震わせ蒼褪める主君信次に、洲賀は無言で頷く。
彼が矢を射掛け、殺害した若武者は、信長の同母弟織田秀孝だった。
「殺される……儂は三郎殿に殺される……」
「と、と、殿……!?」
馬の腹を蹴り、その場から逃げ去る主君信次の後ろ姿を須賀は茫然と見送る。ハッと我に返り、すぐさま主君を追い掛けるようにその場を離れた。
信次の家臣に誤射され秀孝が落命したという噂は、那古屋城の信光も知るところになった。
「森山の城下は火の海となっておりまする」
近習よりの報告を、信光は眉間に皺を寄せた顰め面で聞いていた。
「火を掛けたのは、清須勢ではなく末森方の柴田権六で間違いないのだな」
「はい。旗指物は柴田殿のもので間違いござらん」
「で、孫十郎(信次)は如何致した」
「庄内川の松川の渡しで、喜六郎殿の亡骸を見届けたあと、その場から逐電なさったとのこと」
「逐電……? 逃げたじゃと?」
「はい」
「三郎信長が恐ろしくて孫十郎の奴め、城を捨て何処ぞに姿を晦ましたか」
甥信長の性格をよく知る信光は、うんうんと何度も頷きながら言った。
「して、孫十郎の後釜は」
「喜蔵信時殿が入られました」
主が逐電し、城主不在となった森山城は、信長の異母兄織田安房守信時を新たな城主として迎え入れた。
しかし、二ヶ月後の六月二十六日、夏の盛りのこの日、誰もが予想だにしなかった異変が生じた。川狩りに出掛けていた信次主従の前を、一人の若武者が馬に乗ったまま横切ったのだ。
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「と、と、殿……!?」
ガクガクと震える洲賀は、振り返り主君信次を見やってから、息絶えたその若武者を指差した。
「如何致した才蔵……」
半笑いを浮かべながら信次が洲賀の許へ近寄って来た。
「あ、あ、あれを……」
「うん?」
信次は洲賀から彼が指差す先で、上向け横たわり、口元から血を流し落命したその若武者を凝視した。
「うん……!? き、き、き、喜六郎ではないかぁぁぁぁ……!?」
声を震わせ蒼褪める主君信次に、洲賀は無言で頷く。
彼が矢を射掛け、殺害した若武者は、信長の同母弟織田秀孝だった。
「殺される……儂は三郎殿に殺される……」
「と、と、殿……!?」
馬の腹を蹴り、その場から逃げ去る主君信次の後ろ姿を須賀は茫然と見送る。ハッと我に返り、すぐさま主君を追い掛けるようにその場を離れた。
信次の家臣に誤射され秀孝が落命したという噂は、那古屋城の信光も知るところになった。
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