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第二話
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ガラガラガラ。
『語りや』と書かれた暖簾の間を通って和食屋に入る。
「あら花恋ちゃん!いらっしゃい!さば味噌出来てるよ!唯子の分もあるから一緒に食べな!」
カウンターの中で麗子さんが手招きしてくれる。
「麗子さん。こんにちは」
長い髪を一つに結んでエプロンを付けた麗子さんはとても40代とは思えない程美人だ。
「相変わらず美人ですね」
「やだぁ!もうっ花恋ちゃんったら!」
私はさば味噌のあるカウンター席に座る。
「うーん、いい匂い。いただきまーす」
「どうぞー」
さばの身を取って口に入れる。
「はぁー…やっぱり麗子さんのさば味噌は宇宙一です」
「ありがとう!ほんと、花恋ちゃんは美味しそうに食べてくれるから作りがいあるわ!」
「でもさ、毎日さば味噌って栄養バランス的にはどうなの」
「分かってないなぁ。さばにはビタミンB12がいっぱい含まれてて肩こりにいいんだよ。それに、脳卒中とか高血圧とかの生活習慣病からも身体を守ってくれるし」
「今調べたんでしょ」
「調べてませーん」
「スマホ隠しても見えてるから」
「さばの画像見てたんですー」
「はいはい」
唯子は呆れた顔で私を見る。
「はははっ、相変わらず花恋ちゃん面白いねー」
「麗子さんまで…」
思わず顔が熱くなる。
「そう言えば花恋ちゃん、今日は泊まってく?」
「すみません。今日は観たいテレビ予約してるので」
「そっか。遠慮しないでいつでも泊まりに来ていいからね」
「ありがとうございます」
「あ、今日花恋の家泊まるからちょっと準備してくるー」
「はいよー」
中学の頃、事故で両親を亡くしてから大学にあがるまでは、両親と仲の良かった麗子さんが私を引き取って育ててくれた。大学生になってこれ以上お世話になるわけにはいかないと思い、一人暮らしを始めた私の事を唯子と麗子さんはずっと気にしてくれて、時々泊まりに来てくれたり、泊まりに行ったりしている。
唯子が2階に行くと、麗子さんが唯子のいた隣の席に座る。
「花恋ちゃん、最近大学はどう?」
「あんまり変わらないですよ。いつも通りです」
「そっか」
「でも、毎日唯子が一緒にいてくれるのでとても楽しいです」
「そう…」
麗子さんは何だか心配そうだ。
「麗子さん、今日恭介さんは遅いんですか?」
「ああ、今日は早く帰って来れるって言ってたよ」
「そうなんですね」
恭介さんは麗子さんの旦那さんで唯子のお父さん。イケメンでとても穏やかな人だ。
「どうかしたのかい?」
「いえ、久しぶりに会いたいなと思って」
「そういえば、最近はずっと入れ違いだったね」
「はい」
「恭介も会いたがってたよ。花恋ちゃんはもう私らの娘だからねー」
「嬉しいです。私にとっても麗子さんと恭介さんはお父さんとお母さんみたいなものですから」
「そこはお父さんとお母さんでいいじゃない」
「ははっ、そうですね」
「花恋ちゃんは1人じゃないんだよ。私らがいるの、絶対忘れちゃだめだからね」
「はい…」
「もうっ可愛い!花恋ちゃん!」
麗子さんがぎゅっと私を抱きしめると、ふんわり花のいい香りがした。
「麗子さん…」
「ちょっとぉー、私という存在がありながら浮気とはどういう事だー?」
「唯子。浮気って何よ」
「もう、早く花恋の家行くよー。このままじゃ花恋が母さんに取られちゃうからねー」
「意味分かんないって」
「ほらほら」
ぐいぐいと私の手を引っ張って出口に向かう唯子。
「ち、ちょっと待って。麗子さんご馳走様でした!とても美味しかったです!」
「はーい。また来てね」
笑顔で手を振ってくれる麗子さん。
この温かい場所が私の唯一の救いだ。
『語りや』と書かれた暖簾の間を通って和食屋に入る。
「あら花恋ちゃん!いらっしゃい!さば味噌出来てるよ!唯子の分もあるから一緒に食べな!」
カウンターの中で麗子さんが手招きしてくれる。
「麗子さん。こんにちは」
長い髪を一つに結んでエプロンを付けた麗子さんはとても40代とは思えない程美人だ。
「相変わらず美人ですね」
「やだぁ!もうっ花恋ちゃんったら!」
私はさば味噌のあるカウンター席に座る。
「うーん、いい匂い。いただきまーす」
「どうぞー」
さばの身を取って口に入れる。
「はぁー…やっぱり麗子さんのさば味噌は宇宙一です」
「ありがとう!ほんと、花恋ちゃんは美味しそうに食べてくれるから作りがいあるわ!」
「でもさ、毎日さば味噌って栄養バランス的にはどうなの」
「分かってないなぁ。さばにはビタミンB12がいっぱい含まれてて肩こりにいいんだよ。それに、脳卒中とか高血圧とかの生活習慣病からも身体を守ってくれるし」
「今調べたんでしょ」
「調べてませーん」
「スマホ隠しても見えてるから」
「さばの画像見てたんですー」
「はいはい」
唯子は呆れた顔で私を見る。
「はははっ、相変わらず花恋ちゃん面白いねー」
「麗子さんまで…」
思わず顔が熱くなる。
「そう言えば花恋ちゃん、今日は泊まってく?」
「すみません。今日は観たいテレビ予約してるので」
「そっか。遠慮しないでいつでも泊まりに来ていいからね」
「ありがとうございます」
「あ、今日花恋の家泊まるからちょっと準備してくるー」
「はいよー」
中学の頃、事故で両親を亡くしてから大学にあがるまでは、両親と仲の良かった麗子さんが私を引き取って育ててくれた。大学生になってこれ以上お世話になるわけにはいかないと思い、一人暮らしを始めた私の事を唯子と麗子さんはずっと気にしてくれて、時々泊まりに来てくれたり、泊まりに行ったりしている。
唯子が2階に行くと、麗子さんが唯子のいた隣の席に座る。
「花恋ちゃん、最近大学はどう?」
「あんまり変わらないですよ。いつも通りです」
「そっか」
「でも、毎日唯子が一緒にいてくれるのでとても楽しいです」
「そう…」
麗子さんは何だか心配そうだ。
「麗子さん、今日恭介さんは遅いんですか?」
「ああ、今日は早く帰って来れるって言ってたよ」
「そうなんですね」
恭介さんは麗子さんの旦那さんで唯子のお父さん。イケメンでとても穏やかな人だ。
「どうかしたのかい?」
「いえ、久しぶりに会いたいなと思って」
「そういえば、最近はずっと入れ違いだったね」
「はい」
「恭介も会いたがってたよ。花恋ちゃんはもう私らの娘だからねー」
「嬉しいです。私にとっても麗子さんと恭介さんはお父さんとお母さんみたいなものですから」
「そこはお父さんとお母さんでいいじゃない」
「ははっ、そうですね」
「花恋ちゃんは1人じゃないんだよ。私らがいるの、絶対忘れちゃだめだからね」
「はい…」
「もうっ可愛い!花恋ちゃん!」
麗子さんがぎゅっと私を抱きしめると、ふんわり花のいい香りがした。
「麗子さん…」
「ちょっとぉー、私という存在がありながら浮気とはどういう事だー?」
「唯子。浮気って何よ」
「もう、早く花恋の家行くよー。このままじゃ花恋が母さんに取られちゃうからねー」
「意味分かんないって」
「ほらほら」
ぐいぐいと私の手を引っ張って出口に向かう唯子。
「ち、ちょっと待って。麗子さんご馳走様でした!とても美味しかったです!」
「はーい。また来てね」
笑顔で手を振ってくれる麗子さん。
この温かい場所が私の唯一の救いだ。
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