少女は世界で花になる

翠華

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ごうごうと強い風が吹くたび、足元が揺れて落ちそうになる。


(今日は風が強いな)


マンション屋上の手すりに手を置いたまま、瞑想して何か思いとどまるものがないか探してみる。


(うーん…ないな)


この世に未練はないみたいだ。


「さよなら」


手すりから手を離し、両手を広げて風に体を預ける。


(これで本当に、終わりだ)


体が宙に浮いて足が地面から離れる。


(不思議な感じ…これもある意味空を飛んでるよね)


それからすぐ違和感を感じる。


高いマンションではあったが、なかなか地面に辿り着く気配がない。


(あれ?おかしいな)


下には落ちているが、飛び降りた時とは違う、少しふわっとした感じだ。


何かに手を捕まれ目を開ける。


(ん?!)


目の前には白い羽の生えた人間がいた。


「…天使?」


「何か見た事ないのが来たな」


(どういう事?やっぱ死んだ?でも痛みは一瞬もなかった気がするけど)


「俺のとこに来るか?」


他に行く所もないし、ここが天国かも分からない。拾って貰えるなら有難く受け入れよう。

私は頷く。


すると、羽の生えた人間は私の手を引いて空を泳ぐように飛んでいく。


周りには同じように羽の生えた人間が沢山飛んでおり、みんな私を物珍しそうに見ている。


よく見ると見た事のないお城?みたいな色とりどりの建物がいくつも空に浮いている。


周りの景色に見とれているうちにいつの間にか着いたようだ。


(おお…)


そこには白いお城があった。


「ここだ」


「綺麗なとこだね」


「そうか?」


「うん」


羽の生えた人間は中に招き入れてくれる。


中は西洋風で家具は少なくシンプルだった。


「今日から自由に使ってくれ。3階に部屋があるから好きな部屋を使っていい」


「あの」


「何だ?」


「どうして私を拾ってくれたの?」


「1人はつまらないからな」


「え?」


「俺はずっと1人だったから誰かと一緒に住んでみたかった」


「いや、でも私知らない人だよ?」


「お前は人というのか。どうりで見た事ないはずだ」


「ここに人はいないの?」


「いないな」


「じゃあ何がいるの?」


「俺は"アスパル"という鳥族だ」


「アスパル…聞いた事ない」


「多分お前は知らない世界から落ちて来たんだろ」


「そういう事よくあるの?」


「ないな」


「じゃあどうして?」


「ここは"世界に無い世界"だ。有り得ない事はない。当たり前のない世界だ」


よく分からない。


あまり理解出来なかったが、つまりは非日常が日常という事だろう。


「それ、めっちゃ楽しそう」


「楽しい…かは分からないが、退屈はしない」


「そっか。貴方名前はなんて言うの?」


「スーだ」


「スーだね。私は雨宮 樹(あまみや さつき)。今日からお世話になります。宜しくね」


スーと握手をする。


今、私は生まれて初めて胸が高鳴っている。


こうしてアスパル、スーとの生活が始まった。
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