スーパーヤンキー!!

翠華

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始まり

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   雨に濡れながら母の手を握る。でも私の手にはいつも以上に力が入らない。冷たい。目から雨か涙か分からないものがたくさん頬を伝う。


   なんでかな…どうして…こんなことになっちゃったのかな…あー、母さんの綺麗な髪がびしょびしょだ…私が何とかしてあげないと…


   でももう私の手は震えて動かない。情けないとしか思えなかった。その時私は、今までにないくらい泣いたと思う。誰にも見せたことのない涙を…


   ああ…目が痛いなぁ…誰か、目を覚まさせてくれないかなぁ…誰か………母、さん……


   だめだなぁ…本当にもうだめだなぁ…こんな感情は初めてだよ。よくもこんな醜い感情を私に気づかせたな……


………必ず殺す。


   その瞬間、俺の中の何かが切れる音がした。もう誰にも止めることのできない、何かが。


   俺はこの時-----を捨てた。家族に気づかれないように-----を捨てた。それはものすごく大切なものだったのかもしれない。でも俺は、誰にも気づかれないように捨てた。家族を守るため。今度こそは必ず守るために。


   自分の中の何かが壊れる。でもその時はまだ気づいていなかった。気づけるはずもなかったのだ。自分自身に何が起きてしまったのか。


タイムリミットまで………………




あと10年。


「…か…おじょ…ま……」
「………ん……?」
「龍花(りゅうか)お嬢様!大丈夫ですか!?」
「…なんだ、桜さんじゃないか。どうしたんだ?こんな朝から」
「目を覚まされたのですね!よかった…」
「何言ってんだ?死人じゃあるまいし、目覚めるに決まってんじゃねぇか」
「そうですね…ですが、とてもうなされていましたので心配しました…大丈夫ですか?」


   目を開けると、悲しそうに俺の顔を覗き込んでいる桜さんがいた。綺麗な黒髪をお団子にして誰もが振り返る程の美貌を持つ女性。


   またか…これで何度目だ?こんなに桜さんを心配させるのは俺くらいじゃないか?もっとしっかりしないといけねぇな。


「わりぃ。ちょっと悪夢を見ちまっただけだ。心配いらねぇよ。俺は大丈夫だ。だからそんな顔すんな。な?」


   俺がにっこり笑うと、桜さんはまだ心配そうな顔をしていたけど笑い返してくれる。


「ったく、そんな綺麗な顔で見られちまったら惚れるだろうが。俺は桜さんの家族なんだから変な気起こさせないでくれよ」


   冗談混じりに言って見せると、桜さんは今度こそ満面の笑みで言葉を返す。


「何を仰ってるんですか。龍花お嬢様こそ可愛い女の子です。私は龍花お嬢様ほど綺麗な方はいらっしゃらないと思います」
「ははっ、言ってくれるじゃねぇか。俺の負けだな。ああ、そうだ。今日から白蘭高校に通うことになったんだ。すまねぇが、この長い髪を男らしくバッサリ切ってくれ」
「……かしこまりました。では少々お待ちください」
「おうよ。すまねぇな」


   桜さんは悲しそうな顔をしながらも頷いてくれる。扉を閉めて遠のく足音を聞きながら頭をがしがしと掻く。


「はぁ……」


   自然と溜息が漏れてしまう。


   またかよ…クソ野郎が。いつまで引きずってやがる。いい加減立ち直らねぇと迷惑がかかってんじゃねぇか。しっかりしやがれこのアホ!


   自分に喝を入れながら気を取り直す。


   俺には時間がねぇ。さっさと前に進まねぇと一生後悔することになる。それだけはもう勘弁だ。家族を傷つけられるのは自分が傷つくよりも痛い。もうその痛みは知ってる。あとは俺が家族を守るだけだ。まだ決着の日は遠い。


   コンコンというノックの後に、


「失礼致します」


   と言って、ハサミを持った桜さんが入ってくる。


「普通に入ってきていいんだぞ?桜さんは律儀だな」
「これが私です。龍花お嬢様の前ではしっかりとしたメイドでありたいのです」
「だから何度も言ってるだろ。桜さんはメイドじゃなくて家族だって」
「龍花お嬢様のお気持ちとても嬉しいです。私はそのお言葉だけで生きていけます」
「何言ってやがる。当たり前のことだろ。桜さんはもっとわがままになって、もっと幸せにならなきゃ許さねぇぞ」
「…ありがとうございます」


   髪をジョキジョキと切りながら嬉しそうに笑っている。鏡越しで見る桜さんはほんとに綺麗だ。


「こんな感じでいかがでしょうか?」
「いいな。ありがとう」


   俺が満足気に笑うと、桜さんも満足した顔で頭を下げて部屋を出て行った。切って貰った髪を鏡で見ながら深呼吸をする。


バシッ!


   自分の頬を叩いて気合を入れる。


「いっちょ気張ってきますか。…あ、やべ。朝食に遅れちまう。急がねぇと」


   真新しい制服の袖に自分の手を通し、昔母さんに頼んで貰った、母さんの写真に一礼をして部屋を出る。
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