猫かぶりのライオン

翠華

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道場

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ピンポーン。


「合言葉を言え!」


大きな門の横にあるインターホンを押すと、聞き慣れた低い声が聞こえる。


「罪を憎んで人を憎まず」


「よし、入れ」


ゆっくりと開く門の中に入ると、そこは広い庭になっており、大きくて立派な桜の木が一本だけ立っている。


ここは道場だが、ここら辺では一番大きな屋敷で、とても広い。池には小さいが橋もあり、鯉が沢山泳いでいる。


玄関の扉を開けると、そこには腰の曲がった男が立っていた。


「ただいま。じぃ」


「おかえり」


「それより、この合言葉恥ずかしいんだけど」


「良いじゃないか。愛の言葉じゃよ。愛。合言葉だけに」


「寒いんですけど。てか、じぃがこの合言葉を承諾してくれるまで畳と一体化するって言うから仕方なく言ってるのに」


「冷たいのぉ」


「冗談だよ。愛だもんねー」


「今の言葉に愛は無かったぞい。ま、ええわい。今日の夕飯はシチューじゃよ」


「お、やった。シチュー大好き!」


「制服はしっかりハンガーにかけておくんじゃよ。シワが増えるからの」


「分かってるよー。じぃみたいにシワっシワになったら困るもんね」


「やかましいわい!」


「はははっ、冗談だよ」


じぃは俺のたった一人の家族で小さい頃から愛情を注いで育ててくれた。


若い頃は"紅い鬼"と呼ばれており、喧嘩で敵う人は誰もおらず、残虐で非道だったらしい。それからばぁに会って心を入れ替え、道場を開いて弟子も沢山いたそうだ。今じゃ引退して盆栽や鯉にハマっている。


「今日学校はどうじゃった?」


じぃがシチューを食べながら言う。


「普通だよ」


「あまり目立つ事はするなよ」


「分かってるよ。あ、でも何か特待生とか言われて、今度親善試合に出なきゃいけないんだった」


「それ目立っとるじゃろ」


「うーん。そうだね」


「ったく、本当にお前は昔から能天気じゃのぉ」


「まぁ、あまり考え過ぎも良くないからね」


「お前はもう少し考えて行動せんといかんぞ。あの学校は本来お前が入学出来るとこじゃないんじゃ。バレたら退学じゃぞ」


「うん。分かってるよ」


「お前の分かっとるは信用出来んからのぅ。まぁ何か起こる前にちゃんと報告するんじゃぞ」


「分かったよ」


「じゃあわしはそろそろ寝るかの」


「うん。おやすみ」


シチューを食べ終わると、じぃは部屋に戻って行った。


俺も風呂に入って自室のベッドに横たわる。


天井を眺めていると、生徒会室での事を思い出す。


"青鳥地区"という言葉を聞いた時の副会長の表情がどうしても忘れられない。あれは確実に何かある。


「はぁ…」


一度気になりだしたら解決するまで他の事に集中出来ない。


こういうとこは早めに直さないと。また面倒な事になる。
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