66 / 80
悲しい言葉
しおりを挟む
「ど、どうしてここに……」
「嫌な予感がしたので」
「嫌な予感がするような所には行っちゃだめだって言ったでしょ…」
「私ではなく、花子お嬢様に嫌な予感がしたので」
「だからって…来ちゃ、だめでしょ……」
ガクンっ
足の力が抜け、尻もちをつく。
「花子お嬢様!」
「花子!」
「花子ちゃん!」
皆がウチの名前を呼ぶ。
「帰って!」
「どうしてですか!一緒に帰りましょう!」
「い、やだ……」
体が震える。
「花子お嬢様、大丈夫ですか?」
「…ごめん……」
「え?」
「ごめん…ごめん!鈴音さん!もうこんなもの見せないって約束したのに……」
「いいんです!私が自分で来たんです!花子お嬢様が心配で来てしまったんです!」
だめだだめだだめだ。この男はここで殺らないといけないのに鈴音さんの前で暴力なんか出来ない。ましてや殺しなんて……まさか、父さんが呼んだの?
ウチは父さんを見る。
「父さん…まさか、父さんが…」
「違います!本当に、私が自分の意思で来たんです」
「じゃあ…どうして、場所が分かったの?」
「あちこち探し回りました」
「………」
分からない。頭が回らない。
男と鈴音さんを交互に見る。何度見て考えても優先順位は当たり前に鈴音さんが上だ。
「あ…ああ……」
次第に呼吸が苦しくなる。
「…っ、はぁっはぁ……」
「まずい!蓮!」
「はい!」
蓮が走って演壇に上がろうとする。
「来ないで…っ」
銃を自分の頭に突きつける。
「花子お嬢様!」
ああ、やっぱりだめだ。鈴音さんの前じゃ脅しもきかない。引き金なんか引けないって父さん達は分かってる。
この場から逃げなきゃ。もう、こんな姿のまま鈴音さんとは一緒にいられない。
「私はどんな姿の花子お嬢様も大好きです。お願いです。私の元に帰ってきて下さい」
心を読んだかのように鈴音さんは言う。
「やめて……」
「大丈夫です。私は今の花子お嬢様を怖いとは思いません。ずっと変わらず可愛い妹です」
「妹……」
「はい」
やっと呼んでくれた妹という言葉と一遍の曇りもない笑顔に、ズキズキと胸が痛む。
「もう…手遅れだよ…」
「そんな事ありません」
「ウチはもう…ただの女の子じゃない」
「それでも、私にとって大切な人である事に変わりはありません」
揺らがない瞳。
ああ、綺麗だ。綺麗過ぎる。今の私には直視出来ない。
「ねぇ鈴音さん、やっぱり、ウチの事……」
大好きな人に自分を否定させるのは勇気がいる。息が上手く出来ない。言葉が出ない。それでも…
ふぅ……
聞こえないように少し呼吸を整える。
「……妹と思わないで。今までみたいに少し距離がある方がいい」
そう言うと、鈴音さんの表情が思ってた以上に辛く、悲しいものに変わった。今にも泣き出してしまいそうな、後悔しているような、そんな表情だ。
ズキンズキンっ
胸に手を当て、服を強く握りしめる。
痛い。苦しい。悲しい。辛い。
怒りよりもそんな感情ばかりが溢れてくる。
こうするしかない。こうしなきゃ鈴音さんはずっとウチの事を待ってしまう。ウチが鈴音さんに姉妹のようになりたいと言ってしまった。妹だと思って欲しいと願ってしまった。
「ごめんね、鈴音さん。早く、帰って…これ以上は、待たなくていいよ…」
「………」
黙り込んでしまった鈴音さん。それでも目を逸らさず、ウチを見ててくれる。
だからこそウチは鈴音さんの顔を見られなくなり、目を逸らす。
とても優しい人だ。顔を見なくても、今どんな表情をしているのか分かってしまう。
さっきの言葉はウチにとっても、多分鈴音さんにとっても、胸が締め付けられる程に悲しい言葉だ。
「嫌な予感がしたので」
「嫌な予感がするような所には行っちゃだめだって言ったでしょ…」
「私ではなく、花子お嬢様に嫌な予感がしたので」
「だからって…来ちゃ、だめでしょ……」
ガクンっ
足の力が抜け、尻もちをつく。
「花子お嬢様!」
「花子!」
「花子ちゃん!」
皆がウチの名前を呼ぶ。
「帰って!」
「どうしてですか!一緒に帰りましょう!」
「い、やだ……」
体が震える。
「花子お嬢様、大丈夫ですか?」
「…ごめん……」
「え?」
「ごめん…ごめん!鈴音さん!もうこんなもの見せないって約束したのに……」
「いいんです!私が自分で来たんです!花子お嬢様が心配で来てしまったんです!」
だめだだめだだめだ。この男はここで殺らないといけないのに鈴音さんの前で暴力なんか出来ない。ましてや殺しなんて……まさか、父さんが呼んだの?
ウチは父さんを見る。
「父さん…まさか、父さんが…」
「違います!本当に、私が自分の意思で来たんです」
「じゃあ…どうして、場所が分かったの?」
「あちこち探し回りました」
「………」
分からない。頭が回らない。
男と鈴音さんを交互に見る。何度見て考えても優先順位は当たり前に鈴音さんが上だ。
「あ…ああ……」
次第に呼吸が苦しくなる。
「…っ、はぁっはぁ……」
「まずい!蓮!」
「はい!」
蓮が走って演壇に上がろうとする。
「来ないで…っ」
銃を自分の頭に突きつける。
「花子お嬢様!」
ああ、やっぱりだめだ。鈴音さんの前じゃ脅しもきかない。引き金なんか引けないって父さん達は分かってる。
この場から逃げなきゃ。もう、こんな姿のまま鈴音さんとは一緒にいられない。
「私はどんな姿の花子お嬢様も大好きです。お願いです。私の元に帰ってきて下さい」
心を読んだかのように鈴音さんは言う。
「やめて……」
「大丈夫です。私は今の花子お嬢様を怖いとは思いません。ずっと変わらず可愛い妹です」
「妹……」
「はい」
やっと呼んでくれた妹という言葉と一遍の曇りもない笑顔に、ズキズキと胸が痛む。
「もう…手遅れだよ…」
「そんな事ありません」
「ウチはもう…ただの女の子じゃない」
「それでも、私にとって大切な人である事に変わりはありません」
揺らがない瞳。
ああ、綺麗だ。綺麗過ぎる。今の私には直視出来ない。
「ねぇ鈴音さん、やっぱり、ウチの事……」
大好きな人に自分を否定させるのは勇気がいる。息が上手く出来ない。言葉が出ない。それでも…
ふぅ……
聞こえないように少し呼吸を整える。
「……妹と思わないで。今までみたいに少し距離がある方がいい」
そう言うと、鈴音さんの表情が思ってた以上に辛く、悲しいものに変わった。今にも泣き出してしまいそうな、後悔しているような、そんな表情だ。
ズキンズキンっ
胸に手を当て、服を強く握りしめる。
痛い。苦しい。悲しい。辛い。
怒りよりもそんな感情ばかりが溢れてくる。
こうするしかない。こうしなきゃ鈴音さんはずっとウチの事を待ってしまう。ウチが鈴音さんに姉妹のようになりたいと言ってしまった。妹だと思って欲しいと願ってしまった。
「ごめんね、鈴音さん。早く、帰って…これ以上は、待たなくていいよ…」
「………」
黙り込んでしまった鈴音さん。それでも目を逸らさず、ウチを見ててくれる。
だからこそウチは鈴音さんの顔を見られなくなり、目を逸らす。
とても優しい人だ。顔を見なくても、今どんな表情をしているのか分かってしまう。
さっきの言葉はウチにとっても、多分鈴音さんにとっても、胸が締め付けられる程に悲しい言葉だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる