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壊れる心
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少しして遠ざかっていく足音が聞こえる。
チラッと目を向けると、運悪く鈴音さんが振り返る。
その綺麗な瞳からはポロポロと涙が溢れている。気づかれないように、声を押し殺すのに必死でそれを拭う余裕がない様子だ。
その瞬間、自分の中で何かが壊れた気がした。
体育館を出て行く鈴音さんを確認して、それからしばらく体が動かなかった。
頭が回らない。今自分が何を考えているのか分からない。何かを考えているのかも分からない。何も分からない。
ただ、自分の瞳から溢れてくるものを抑えられない。抑える方法が分からない。
今、大切な人を自分から突き放して、手放してしまった。もう、二度と戻る事はないだろう。
大きな喪失感の中、それでも男を殺そうという意思は残っている。
ああ、ウチは心底明るい世界では生きられない。いつの間にか後戻り出来ない所まで来ていたんだ。
改めてそう実感した。
「もう…これしか残ってない……」
無心で銃を男に向ける。
「ひっ」
急に向けられた殺意の無い銃に、男は恐怖を覚えたのだろう。今までで一番情けない顔で情けない声を出す。
バンっ
引き金を引く。
しかし、弾は男の横を通って後ろの壁に当たった。
「邪魔しないで」
自分の手から銃を奪おうとする相手をただ見つめる。
「もういい」
「何が」
「もう、殺しはするな」
「だから、手遅れだって、言ってるでしょ」
「まだ間に合う」
「何言ってるの」
ウチの溢れる涙を手で拭う蓮。
「離して」
手を振り解こうとするが、力では勝てない。
「離さない」
銃を奪われ、頭が空っぽになった。
「俺を見ろ」
「見てるよ」
「ちゃんと見ろ。心を殺すな」
「訳の分からない事を言わないで」
蓮から距離をとろうとしても、それを許しては貰えなかった。
「離して」
「花子」
「もう花子じゃない。ウチは世と一緒に一人になる。自分の為に自分の敵を排除するの」
「やめろ」
「うるさい」
ガンっ
頭を強く地面に叩きつける。
「いいから、離して。もう貴方達とは家族じゃない。もう誰の事も好きじゃない」
「花子」
「………」
「目を覚ませ」
「何言ってるの」
「目を覚ましてくれ…っ」
蓮が初めて見る顔をしている。必死になって何かを取り戻そうとしている。
「何をして欲しいの」
ついに蓮が俯いてしまった。
「やめてくれ」
悲痛な声だ。
「何かして欲しい事があるんでしょ」
「違う」
「じゃあもういい?」
「……っ」
手を振り払って立ち上がる。
涙はずっと止まらないままだ。
蓮に背を向け、男の方を向く。
歩き出そうとした瞬間、手首を掴まれる。今度は力のない手だ。
「…すまない」
「何を…」
「俺も、逃げてた」
「………」
「あいつから逃げてた」
「何の話をしてるの」
「…あいつは悲しみや苦しみの中で花子の事だけが光だった」
「………」
「俺は何もしてやれなかった。ずっとあいつの事を避けて、逃げてたんだ」
「…だから何」
「…あいつが声を殺して泣いている時は自分が悪いと思ってる時だ。だから、花子の事を嫌いになってない。あいつは花子を必要としてる。見捨てないでくれ……っ」
心の中に自分が戻ってきてしまう。
「…うるさい」
「花子、俺もあいつと向き合う。もう逃げない。花子が俺達"兄妹"にしてくれた事は間違いじゃない。俺達はずっと感謝してる。俺達はずっと花子の為に出来る事を探し続けてる」
後悔と決意の目。一度だけ見た事がある。初めて会った日。その時運命だと思った。神様が一人の自分にくれた大切な宝物。真っ直ぐでツンデレな強くてかっこいい兄と純粋で素直な気遣いも料理も出来る可愛い姉。もちろんウチとは血は繋がっていない。でも、会ったその日から兄姉と思わなかった事はない。
その両方を今、自分から手放そうとしている。
考えていなかった事を考え出してしまった。何も考えていない方がどれだけ楽だっただろう。
失いたくない。考えれば考える程、その気持ちが大きくなる。
でも、目的はずっとずっと前から望んできた事だ。その為に今まで周りを巻き込んで数えきれない程手を汚してきた。そして今、その目的に確実に近づいている。
家族と目的。天秤にかけてもウチにとってはどちらも大切なものだ。でも今、そのどちらもはとれない。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
ガンっガンっガンっガンっ
頭を地面に何度も何度も叩きつける。
額から生暖かいものが流れてくる。それでも、自分じゃ止められなかった。
チラッと目を向けると、運悪く鈴音さんが振り返る。
その綺麗な瞳からはポロポロと涙が溢れている。気づかれないように、声を押し殺すのに必死でそれを拭う余裕がない様子だ。
その瞬間、自分の中で何かが壊れた気がした。
体育館を出て行く鈴音さんを確認して、それからしばらく体が動かなかった。
頭が回らない。今自分が何を考えているのか分からない。何かを考えているのかも分からない。何も分からない。
ただ、自分の瞳から溢れてくるものを抑えられない。抑える方法が分からない。
今、大切な人を自分から突き放して、手放してしまった。もう、二度と戻る事はないだろう。
大きな喪失感の中、それでも男を殺そうという意思は残っている。
ああ、ウチは心底明るい世界では生きられない。いつの間にか後戻り出来ない所まで来ていたんだ。
改めてそう実感した。
「もう…これしか残ってない……」
無心で銃を男に向ける。
「ひっ」
急に向けられた殺意の無い銃に、男は恐怖を覚えたのだろう。今までで一番情けない顔で情けない声を出す。
バンっ
引き金を引く。
しかし、弾は男の横を通って後ろの壁に当たった。
「邪魔しないで」
自分の手から銃を奪おうとする相手をただ見つめる。
「もういい」
「何が」
「もう、殺しはするな」
「だから、手遅れだって、言ってるでしょ」
「まだ間に合う」
「何言ってるの」
ウチの溢れる涙を手で拭う蓮。
「離して」
手を振り解こうとするが、力では勝てない。
「離さない」
銃を奪われ、頭が空っぽになった。
「俺を見ろ」
「見てるよ」
「ちゃんと見ろ。心を殺すな」
「訳の分からない事を言わないで」
蓮から距離をとろうとしても、それを許しては貰えなかった。
「離して」
「花子」
「もう花子じゃない。ウチは世と一緒に一人になる。自分の為に自分の敵を排除するの」
「やめろ」
「うるさい」
ガンっ
頭を強く地面に叩きつける。
「いいから、離して。もう貴方達とは家族じゃない。もう誰の事も好きじゃない」
「花子」
「………」
「目を覚ませ」
「何言ってるの」
「目を覚ましてくれ…っ」
蓮が初めて見る顔をしている。必死になって何かを取り戻そうとしている。
「何をして欲しいの」
ついに蓮が俯いてしまった。
「やめてくれ」
悲痛な声だ。
「何かして欲しい事があるんでしょ」
「違う」
「じゃあもういい?」
「……っ」
手を振り払って立ち上がる。
涙はずっと止まらないままだ。
蓮に背を向け、男の方を向く。
歩き出そうとした瞬間、手首を掴まれる。今度は力のない手だ。
「…すまない」
「何を…」
「俺も、逃げてた」
「………」
「あいつから逃げてた」
「何の話をしてるの」
「…あいつは悲しみや苦しみの中で花子の事だけが光だった」
「………」
「俺は何もしてやれなかった。ずっとあいつの事を避けて、逃げてたんだ」
「…だから何」
「…あいつが声を殺して泣いている時は自分が悪いと思ってる時だ。だから、花子の事を嫌いになってない。あいつは花子を必要としてる。見捨てないでくれ……っ」
心の中に自分が戻ってきてしまう。
「…うるさい」
「花子、俺もあいつと向き合う。もう逃げない。花子が俺達"兄妹"にしてくれた事は間違いじゃない。俺達はずっと感謝してる。俺達はずっと花子の為に出来る事を探し続けてる」
後悔と決意の目。一度だけ見た事がある。初めて会った日。その時運命だと思った。神様が一人の自分にくれた大切な宝物。真っ直ぐでツンデレな強くてかっこいい兄と純粋で素直な気遣いも料理も出来る可愛い姉。もちろんウチとは血は繋がっていない。でも、会ったその日から兄姉と思わなかった事はない。
その両方を今、自分から手放そうとしている。
考えていなかった事を考え出してしまった。何も考えていない方がどれだけ楽だっただろう。
失いたくない。考えれば考える程、その気持ちが大きくなる。
でも、目的はずっとずっと前から望んできた事だ。その為に今まで周りを巻き込んで数えきれない程手を汚してきた。そして今、その目的に確実に近づいている。
家族と目的。天秤にかけてもウチにとってはどちらも大切なものだ。でも今、そのどちらもはとれない。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
ガンっガンっガンっガンっ
頭を地面に何度も何度も叩きつける。
額から生暖かいものが流れてくる。それでも、自分じゃ止められなかった。
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