ヤクザ娘の生き方

翠華

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もう一人の心(世視点)

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『決められないなら変わってやるよ』


響いてきた声に、その言葉に甘えてしまった。逃げてしまった。


ありがとう、世…ごめん。ごめん。いつもこんな事ばかりで。嫌な事ばかり……


そして、意識を手放す。


「何をしてる」


急に変わった態度と口調で世だと気づいた七代目と翠が演壇に来る。


「大事な花子に怪我をさせるな」


そう言って額から流れ出る血を拭き取る。


いつの間にか涙は枯れていた。


「世か」


「ああ。久しぶり、七代目」


「………」


「ああ、七代目は俺が嫌いだったな」


「………」


「いや、別にいい。俺は花子しか必要としていない」


「花子を利用するな」


「何を言ってる。花子も同じ事を望んでる。そして望んでるからこそ、選べなかった」


七代目は分かっているのだろう。何も言えないのがその証拠だ。


「それが分かってるのに、自分の都合で"記憶を消す"なんてな」


「お前には関係ない」


「違うな。俺がいなきゃ今頃花子は死んでる。何度俺が助けたと思ってる」


「お前も花子がいなきゃ存在すらしていないだろ」


「そう。だからお互い様だ」


「違う。お前のしている事は花子が一番嫌ってる事だ。強盗や黒薔薇組の奴が持ってた銃が腔発するよう細工をしたのもお前だな」


「ああ。どうだった?寄せ集めの不良共や黒薔薇組の奴らが自分の銃で死んでいく様は」


七代目はその時を思い出しているのか、俺を睨みつける。


「ふざけるな」


「何を怒ってる」


「お前のやり方はいつも俺の気分を害す」


「だが、全部俺が解決してやった。敵が死んで人質は無事だったろ?」


「必要ない」


「本当にそうかな?七代目がそうでも花子は違う。確かに花子は殺しを嫌ってるが、それを目的としてる。その為に必要だと判断すればやる。それに関係ない人間は助けてる」


「殺しが目的だと?」


「そうだ。"あの日"花子の中に俺が生まれたのは何故だと思う?」


「………」


「黒根が飲ませた未完成の薬のせいか?もちろんそれもあるが、それは花子にとって都合の良いものだった。花子は"あの日"自分がした事を受け入れられず、黒根の薬の作用を利用して俺を生み出し、自分が傷つかないようにした」


「………」


「そして俺は生まれた。だが記憶は残ったままだった。自分がした事も分かっていた。黒根が原因だと言う事もな。だから花子は俺を頼った。一人では抱えきれなかった」


「いい加減にしろ」


七代目の殺気が痛いほど伝わってくる。今まで殺ってきた小物とは格が違う。


「俺もお前らに腹が立ってる。七代目が飲ませた記憶を消す薬のせいで"あの日"の事、俺、俺との約束。その殆どを忘れた上に、一度に二つの薬を飲んだせいで花子の記憶は錯乱し、何とか残った記憶さえ捻じ曲げた。訳も分からず俺を探し、本来の目的が全く見えていなかった。だから俺は体が思うように動かせるようになった4年前から影で情報を集め、黒根の標的になりそうな子供を見張り、助けてきた。花子が記憶を取り戻した時、すぐ目的が果たせるように。俺はずっと花子の裏の顔として"花子の"役に立っている」


「………」


「なのにお前らは見て見ぬふりをして花子を苦しめている。知っていたことを忘れ、自分だけ何事もなかったかのように過ごすのがどれだけ辛いか分かるか?混乱した頭で目的と違うものを探すのにどれだけの時間を使っていたと思う?」


七代目も翠も蓮も分かっている。それでも、苦しそうな顔をしながら俺を睨みつける。


「お前らは花子が心から望み、やろうとした事を全て無かった事にした。そんなお前らに花子はどう映ってる?」


その問いに答えられる者はいないだろう。苦渋の選択だったのだ。それを知っててあえて聞いている。


「自分で決め、俺に頼ってきた癖に自分は忘れてそれから逃げている。馬鹿馬鹿しいとしか思えない」


「黙れ」


「七代目、過去を無かったことにしても結局は忘れてるだけで何も変わってない。なぜそれが分かってるのに逃げ続ける?逃げる事でより悪い方にいってるのがなぜ分からない?」


「………」


「お前らが逃げ、花子が逃げる事で問題は広がっている。それを解決し、助けているのは夜叉だ。そして夜叉はその被害者達が望んで俺の元に集まり、出来たもの。お前らと俺、どちらが正しい事をしてると思う?」


七代目は黙ったままだ。


そうするしかなかったとでも言いたそうな顔に見えて腹が立つ。今までもずっとそうやって問題を先送りにしてきた。"あの日"からずっとそうだ。失う事を恐れ、その場に立ったまま、前に進もうとしない。


「…そうか。本当に逃げていたのはお前らだけか」


その瞬間、グイッと胸倉を掴まれる。


無感情に蓮を見上げる。


「七代目を侮辱するな」


「本当の事だ。お前らの都合で花子を巻き込むな。花子はずっと前に進みたがってる。だからこそ記憶が錯乱していても忘れず、探し続けていた」


今にも殴りかかりそうな蓮。


「蓮、やめなさい」


それを翠が宥める。


「正直私も限界ですが、七代目が何も言わない以上、私達は口出し出来ません」


「ちっ…」


蓮は嫌そうにしながら腕を離す。


「七代目、これからどうする?」


服を直しながら七代目を見る。


「………」


「少し厄介な事になったが、花子はやっと前に進み出した。記憶を消す薬も副作用のせいで同じ人間に二度は使えないだろ」


「………」


「もう時間はない。花子はお前らが逃げ道を作り、本来進むべき道を無くした事で自分は逃げてばかりだと責めている。記憶が戻ってもそれは変わらない。だからこそ、最後の逃げ道として…いや、それはいい。お前らのこれからの行動で本当に大事なものを守れるかどうかが決まる。それを忘れるな」


真剣に話を聞く七代目を見て、初めて心が温かくなった。そんな状況ではないのに、俺の夜叉への想いと重なってしまう。


本当に嫌な事を言われている時程聞きたくないはずだ。特に嫌いな人間に言われている時は。それでも、感情的になってもちゃんと話を最後まで聞いている。


桜組が何故ここまで大きく、強くなり、頼りにされるのか理解出来なかったが、やっと少し分かった気がする。


だからこそ、最後の逃げ道…それを口にする事は出来なかった。
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