ヤクザ娘の生き方

翠華

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秘密

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しばらく姉さんにくっついていたが、やっと少し落ち着いて七代目の前に座る。


まだ皆に聞いて欲しい事がある。


「父さん、ウチまだ話したい事がある」


「ああ」


「でもその前に叶真達にもここで一緒に話を聞いて欲しいんだ。家族だから。隠し事は出来ない」


「もちろんだ。叶真、咲也、泰明、優、真白、入ってこい」


「はい」


襖の向こうから声がして叶真達が入ってくる。


ウチは翠の横に移動して叶真達が座るのを確認する。


「父さん、家族内で隠し事は裏切りと同じ事だよね。それは死と直結する。でも、だからってわけじゃない。ウチはもう家族に不安な思いとか辛い思いをして欲しくない。皆で幸せになりたい。だから、ウチがずっと言わないように隠してきた事を皆に伝えたいんだ」


「そうか…」


父さんは少し複雑な表情だ。


きっと世の事とか今までウチに言えなかった事を思い出してるんだろうな。


「大丈夫だよ、父さん。今までのはウチの為にしてくれた事だから。ノーカンだよ。ウチは隠し事されたなんて少しも思ってない。本当に」


「…ああ。ありがとう」


「うん」


ウチは無邪気に笑ってみせる。


「それでね、だからこそこれからも家族でどんな事でも話し合えるように、ウチにちゃんと罰を与えて欲しい。ウチは家族を騙し続けてきたから」


「…分かった。でも先に隠してきた話というのを聞かせてくれ」


父さんはまだ少し迷っているようだ。


「分かった。ふぅ…」


一度深呼吸して早くなる鼓動を落ち着かせる。


ウチだけじゃない。皆緊張しているのが分かる。


「実はウチ…………あと少ししか、生きられないんだ」


「…………は?何言ってんだよ」


静まり返る部屋の中、最初に口を開いたのは意外にもさっちだった。


思わず出てしまったのだろう。少し焦った顔をしている。


「ウチ、あと少ししか、生きられないんだよ」


部屋の雰囲気が一気に暗くなるのが分かる。ウチ自身、とても複雑だ。


「どういう事だ。今までの健康診断では何の異常もなかったはずだ」


父さんの声も、分かりづらいが戸惑っているようだ。


桜組の組員は必ず月に1回、体調管理を徹底する為に健康診断を受けなくてはいけない。健康診断は毎月屋敷の中でかかりつけの医師によって内密に行われる。


健康診断の日は列が長すぎて廊下に出られないんだよなぁ。よく考えたらなかなか見れるもんじゃないし、イカつい男達がどきどきした顔で診断書持って待ってて面白いんだよなぁ。


「ははっ」


「何笑ってる」


父さんは真剣だ。


でも、ウチは何だか嬉しくて、想像するだけで楽しくて笑ってしまう。きっと自分の間違いに気づいて、ちゃんと前に進もうとしてる。だからこそ、組員達の事を考えてても笑えて、それも幸せの一部だったんだと思える。


「ごめんね、父さん。真剣に考えてくれて嬉しいんだ。父さん達にとってそれが当たり前の事なんだなって思えるのも嬉しい。毎月健康診断に長い列を作って待ってるイカつい組員達を思い出してそれが面白くて、何か嬉しい。ウチ、父さん達と組員の皆、桜組の事を考えるだけで幸せになれる。ははっ、ウチってこんなに幸せ者だったんだって」 


父さんは驚いた表情をしていたが、すぐに顔を伏せてしまった。


「父さんのそんな顔初めて見た。ウチ一生忘れないよ」


ウチ、表情筋が緩みまくりだ。真面目な話してるのに笑顔が消せない。


「花子…」


全員がウチを見て複雑な顔をする。


「父さん、ごめんなさい。実は暮爺(くれじい)にお願いして診断結果を偽造してもらってた」


暮爺は桜組かかりつけの医師で本名は木暮 雅晴(こぐれ まさはる)。父さんが小さい時からかかりつけの医師として桜組の体調管理や健康維持に貢献してくれている。暮爺の厳しい指導のおかげで父さん達も組員達も昔と変わらず常に健康体だ。


タバコ吸おうもんならぶん殴られるし、お酒も週1しか駄目だし、甘い物食べ過ぎると本気で腹パンされるし、皆怖がって言う事聞いてる。


「木暮に?」


「うん。ウチの体がもう"持たない"事、暮爺だけが知ってる。暮爺は父さんにだけ言うつもりだったみたいだけど、口止めした。言ったら絶対父さん睡眠時間削ってでもそれをどうにかしようとするでしょ?ウチにとって父さんの体は自分の体より大切だから。そんな事して欲しくなかったんだ。でもその代わりに暮爺が方法を探してくれてる。まだあんまり進展してないけど。でも頑張ってくれてるよ」


桜組が好きだからこそ真剣に考えてくれてる。そんな厳しい暮爺だからこそウチの頼みを聞いてくれたんだと思う。


「原因は何だ?」


「暮爺が言うには、黒根の未完成の薬に体の成長を抑える作用のある薬草が大量に使われていて、それが脳にかなり負担を与えてるみたい。まだ体には殆ど影響はないけど、少しずつ脳が正常に働かなくなって、体も少しずつ動かせなくなって、それから少しずつ呼吸も出来なくなって死んでくんだって。そう言ってた」


「……あと…どのくらいだ……?」


「そうだね…本当はあと10年は生きられるって暮爺が言ってたんだけど思ったより進行が早くて、あと2年くらいだろうって。だから暮爺も毎日必死に試行錯誤してくれてる」


「………」


全員の表情が絶望で暗く染まる。


「大丈夫だよ。きっと暮爺が治す方法見つけてくれるから。そう約束してくれたから」


「………」


「まだ時間はあるし、大丈夫だよ。皆にはそんな顔して欲しくない。笑ってよ。きっと治す方法見つかるって。あの暮爺だよ。本気出したらきっと一瞬で治せちゃうよ…わっ」


急に抱きしめられ、思わず声が出てしまった。


「父さん…」


ウチは安心して欲しくて、いつもより少しだけ強く抱きしめる。
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