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しおりを挟む夢を見ていた
辺り一面は火に焼かれ、木々は炎に包まれていた
ここはどこかの山だろうか?
山火事になったように、獣達が我先にと逃げていく中で
傷だらけの幼い少女が泣いていた
あれはいったい誰?
「 ぱぱ……どこ…… 」
大粒の涙を流してる少女は、時より咳き込みながらパパと呼ぶ、父親を探していた
親と逸れたらしい少女は、焼けていく木々の熱で足元が覚束無くなり、その場に膝を付いた
「 ゴホッ…ゴホッ……パパ……どこ…… 」
少女にとってきっと大切な父親、一緒に探してあげたいと思って近付こうとしても
足元は鉛のように重くて動けなかった
私は傍観者でしか、無いんだ
少女は頬に流れる涙を小さな両手で拭いていれば、倒れた木々の枝を踏む、大きな足音が聞こえてきた事に気付いた
何か重い物を引き摺ってるような音は、徐々に近付き少女の表情に恐怖が浮かび上がる
獣の様な唸り声、血のように赤く光る鋭い蛇の様な眼光は少女を写し、僅かに身を乗り出した
牙から垂れる血は地面を点々と赤く染め上げ、鰐や蜥蜴に思える鋭い牙が並ぶ口を開いた瞬間、少女は悲鳴を上げた
「 っ……! 」
目の前が真っ暗になった感覚と共に、身体を揺すぶられてる事に気付き、薄っすらと意識を浮上させた
「 ルナ!おい、ルナしっかりしろ!! 」
「 な、に……リク? 」
ぼんやりと見える視界の中で、目の前に焦りを見せるリクの顔があった
人型になり、私の肩を揺らして片手は頬に当ててるのに気付けば、いったい何度叩いたのか考えたくないほど、頬がヒリヒリする
「 やっと起きたか。すまない、俺は勘違いをしていた 」
「 勘違い? 」
嫌な夢を見たいたせいで寝起きが悪い
頭痛がするし、胸焼けのような吐き気すら感じられて彼が何に謝ってるのか分からなくて、眉間のシワは色濃くなる
「 嗚呼、あれはカーバンクルでは無かったんだ 」
「 えっ…違うの? 」
「 カーバンクルは群れで行動はしない、だが…カーバンクルモドキは群れで行動して、人に近付いては眠らせ、喰らう猛獣だ。今、コウが追い払ってるが… 」
カーバンクルモドキ・希少種のカーバンクルと瓜ふたつの姿をしてるが、やることは悪どく人の夢を見させたまま喰う魔族の一種らしい
カーバンクルモドキを手に入れた者は一生、不幸になると言われ、奴隷商人すらぱっと見た目では判断し辛いらしい
そして、カーバンクルと同じく善の心を持つ人間に近付くと言われるから、どちらも出会う確率は少ない為に素人じゃ見分けが付かないんだ
リクの言うように、群れで行動して騙してるカーバンクルモドキか、単独行動をしてるかで見分け無ければ、
私のように可愛いからと気を許してたら喰われるってことになる…
コウが、気付いて払い退けてくれなければ喰われてたって…森って怖すぎる
「 なるほど…起こしてくれてありがとう…あ、リースちゃんは? 」
「 嫌な予感がして戻って来た。迎えに行ってはない 」
行く最中でUターンしちゃったわけね
流石、感のいいグリフォンだと思う
状況が状況だから、こっちの事に気を取られて夢の事は一旦置いといて、コウを見付けに行くことにする
「 そっか…コウはどこにいるんだろう?流石に離れるのはまずいよね? 」
「 精霊召喚させれば一発で戻ってくるだろうが…キレてたからな…放置してていいんじゃないか? 」
「 そんな事でいいのだろうか……って… 」
話をしてる最中に、背後から聞こえた爆発音は響き、まるで地震のように足元は揺れ
空へと小鳥達だ飛んでいった
「 もしかして……コウ? 」
「 だろうな、殺すとか言ってたぞ 」
「 あれ…善人じゃ…… 」
「 善と悪は紙一重だからな。彼奴が善と思えばそれが正義だ 」
いや、あんなカーバンクルモドキ?を殺す!とか意気込んで森で暴れてるような奴が善人?と言うか…光属性の精霊なの?
こんな、傍迷惑な事をしてるなら止める必要はあると思った
「 そんな呑気に言ってないで止めるよ!ほら、空から御願い 」
「 ったく……必要無さそうだが…分かった 」
渋々、グリフォンの姿に変わった彼の背中へと乗れば空から捜索をする事にした
「 わー……派手… 」
「 光属性の攻撃は派手だな 」
空から見れば一目瞭然のように、どこで騒いでるかモロに分かった
空まで光る閃光はまるで壊れたメカが、ビームしてるようにあちこちに向けて光を放っていた
寧ろ近付いたら危なそうな雰囲気、リクは向かおうとしない
確かに大丈夫そうって理由が分かり、一旦コウを放置して夢の話を聞いてみた
「 ねぇ、リク…さっき夢を見てたんだけど 」
「 嗚呼…それがどうした? 」
目線を森に向けたまま、耳を傾けた彼に内容を告げる
「 夢の中で、森が燃えててね…その中に少女がパパって言いながら父親を探してたの… 」
「 ……! 」
僅かに一瞬だけ、リクの身体がピクリと反応した
瞳は開くも、私の方を見ることは無かった
「 でも、現れたのは…血を垂らした大きな獣だった。獣かは分からないけど…トカゲとかワニとかそんな感じの口元だった。あれがドラゴンとするなら……ドラゴンって…人を食うの? 」
ラードーンの雰囲気からして、そんな様子は見えなかった
けれど、もし夢で見たドラゴンみたいな獣が人を襲うのならば…
私が向こうの世界に行く前に、襲われたかも知れないと思ったんだ
その時の少女には、まだ傷は無いように見えたけど夢が、過去の記憶なら…
私は…ドラゴンに喰われそうになったかもしれない
「 此ればかりは種による。喰わなくとも襲って噛むだけのドラゴンや猛獣は存在する。どんな奴か、特定するのは難しいぞ 」
「 赤い目しか分からないな……。影で余り見えなかった 」
見えないというか記憶に消されてるから、真っ黒な外見に見えた…と言った方が正しい
けれど、ドラゴンが人を襲うなら私に怪我をさせたのはきっと…狼でも無く、ドラゴンなのだろう
「 まぁいいや…。夢だし 」
「 そうだな……。嗚呼、光がおさまったみたいだ…見に行くか 」
リクはドラゴンに付いてなのか知ってるのだろうか
誤魔化すように羽を羽ばたかせた彼は、私の方を見ることは無かった
ドラゴンの魔石を持ってるし、竜騎士なのも…何か意味があるんじゃないかと思った
「 コウ!森で暴れ回ったら駄目だよ 」
「 んだよ、俺は様こいつ等を捕まえてやったんだぜ?礼の1つは欲しいぜ 」
「「 うわ…… 」」
自慢気に告げたコウが見せてきた、捕えられたカーバンクルモドキを見るとボロボロになって目を回していた
ブタの丸焼きのように其々、手足を縛られて纏められてるのはちょっと可哀相だが…
コウにとって、悪さしてからには、このぐらい必要なんだろうね
私とリクは完全に引いていた
「 そんな顔をするなよな!ルナだって、喰われそうになったんだぜ!? 」
「 だからって…なんか、可哀想だし 」
「 モドキに慈悲なんていらねぇよ! 」
いや、そこは天使では無いけど…天使っぽく慈悲を向けてあげてもいいんじゃないかな
「 まぁ、あれだ…確かモドキは宝石を奪えば静かになるらしい。あの宝石は高価だし取っていてもいいだろう 」
「 取るって…どうやって? 」
「「 もちろん 」」
二人揃って何処からか取り出したか分からない、小ナイフを手に持ってる為に嫌な予感がする
そりゃ額にあるのを取ろうって言うんだから、少なからずポロッと取れるようなものでは無いよね……
心痛むが、他の人間が惑わされて喰われないように大人しくさせる必要はある、と納得しよう
「 そんな顔しなくても、カーバンクルやモドキを含めてまた好きな宝石を埋めるって 」
「 モドキはカーバンクルから奪うが、カーバンクルは自分達で発掘して見つけるからな。取ってもまた埋め込む 」
「 どんな仕組みなの…… 」
額に埋め込められた宝石ってそんなの取り外し可能なの!?って驚いていれば、リクはナイフの先端を宝石の角に当て
まるで、岩から貝を引き剥がすようにポロッと外した
「 えっ…… 」
血は出てないし、埋め込まれていた…というより着けていた程度に思える宝石は簡単に外せるものだった
そして取られたモドキ達は耳を下げて残念そうな顔をする
その程度なの!?
「 よし、こんなもんか。金にはなりそうだな 」
「 俺様は取られたカーバンクルに返してぇところだが…カーバンクルがいねぇしな。仕方ねぇか 」
あれか、コウは仕方無いって言葉で納得すれば何でも有りに思えちゃう精霊なのか
流石、善と悪が紙一重だけあると思う
「 宝石を取ったなら逃してあげよう?もう、こんな事をしたら駄目だからね 」
コウの手元からナイフを抜き取り、モドキ達の元へと近付きしゃがみこんでから縄を切り、外していく
ボロボロだけど元気そうなのを見てちょっと安心する
最後の子が外れれば、其々に私を見上げて凄い勢いで森の中へと逃げていった
「 結局、逃がすのかよ…また宝石取れば悪戯するぜ?誰か喰われるかも 」
「 私も喰われそうになったし、彼等も食事は肉なのならそれでいいと思う… 」
「 無意味な優しさだな。予言してやる。ルナのそれ、いつか身を滅ぼすぜ 」
助ける必要が無いと言われても、目の前で殺してしまうのは何となく嫌だった
可哀相…とかではなく私をより先に何かを死ぬのを見たくないだけ
宝石を向けてきたコウから、受け取り口角を上げる
「 予言するなら、死ぬ日でも予言してよ。その方が死ぬ為に頑張れるし 」
「 なっ、俺様は死相は見えねぇよ! 」
「 そっ、残念だよ。さて…カーバンクルを探そう 」
何日後に死ぬ、なんて言われた方が人は其れまで頑張ろうっていう気になれるもの
先の見えない生きる理由に、もう少しだけ生きなきゃいけなくなった
それが少しだけ、残念と思うぐらいには私はまだ死にたがりなんだろうね
「 ……おやおや、キツネさん。どうしたの? 」
探しに行こうと決めて歩き出せば、木の影に隠れて此方を伺ってる薄い黄色の体毛をして、青い瞳をした獣は驚いて木の裏へと隠れた
「 大丈夫、何もしないからでておいで。あ、そうだ…メープルパン食べる?美味しいよ 」
お腹でも空いてるのかな?と思い、ポーチに入れていたパンを取り出して
メープルが付いた部分を一口に切ってから差し出せば、キツネはもう一度顔を見せた
背後に立つ二人を警戒するように此方と後ろわ交互に見るも、背に腹は替えられなかったらしくゆっくりと近付いてきた
「 どうぞ、森で騒いでごめんね? 」
結構、長い雲のような尻尾をしてるんだーと手からパンを取って食べるキツネを見下げて、軽く頭から背中をなぞる
嬉しそうに耳を下げて見上げてきたキツネに、もう少しパンを与えた
「 うん、いいよ。沢山食べて 」
「 いた、だきます! 」
「 うんうん…へ? 」
気付いたときには両手でパンをガシっと掴まれ
目の前には蜂蜜カラーのしたウルフヘアーの幼い女の子が居た
理解が出来ず硬直していれば、背後の彼等は溜息を吐く
「 …カーバンクル。それもSランク 」
「 君って、凄いよね…ある意味 」
えぇ、本当に!?モドキじゃなくて?って背後を振り向いてから前を見れば食べ終わって、まだ欲しそうにする少女の頭へと手を当て笑みを向けた
「 ねぇ、その美味しいパンが沢山食べれるから…ちょっと私に着いてこない?いっぱい、あげるよ? 」
「 ふぇ? 」
「「 ( Sランクを餌付けしてる…… )」」
ニコニコと笑って頭を撫でていれば、少女は獣の耳を下げたまま大きく頷いた
「 いく!まだ、たべたい! 」
「 よし、ではパン屋に行こう 」
「「( カーバンクル…ちょろい )」」
真名を言うより、ずっと本人の意思で来てもらうほうが良かった
カーバンクルの姿に戻った獣を肩に乗せて、リクの背中に乗ればリースの元へと戻る
「 そういえば君、宝石がないね?さっき奪ったのでよければいる? 」
「 いいのー? 」
「 いいよ、好きなの選んで 」
多分、と言うかあのモドキ達に奪われたからコソコソ様子を見てたのだと思った
リクの背中の上で、小さな袋を広げれば中に顔を突っ込んだカーバンクルは迷う事なく1つ見つけた
金色をした宝石を咥えたカーバンクルから、一旦受け取り、それを額へと当てれば僅かに光り輝き付いた
「 わー、ありがとう! 」
「 ふふっ、いいよ。元に戻ってよかったね 」
「 ん!! 」
長い尻尾を揺らすカーバンクルは嬉しそうに片手で額を擦り、宝石を実感していた
こうやって喜んてるのを見ると、彼等が奪って良かったと思う
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