淡い瑠璃唐草の如く

獅月 クロ

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女のように瑠璃に犯される日々。
俺が、客と寝る前に瑠璃が直々に教えてるのは直ぐに噂になったが、先輩が後輩の新造に教え込むのはよくあるらしく、誰も口を挟むことはなかった。

只、別の事で告げる人は現れ始めた。

「( 腰痛い…… )」

大浴場で湯をかけて身体を洗いながら、痛む腰を気遣っていれば、湯船に浸かる年端も近い少年は口を開く。

「 遅咲きの新造を使い物にする為に、瑠璃太夫直々に手を貸すとは、よっぽど使えないんだな 」

「 ははっ、どうせ。君一人が達して瑠璃太夫は不発にさせてしまってるのでしょうな 」 

「 っ…… 」

俺への辺りが強い事は直ぐに分かっていたけれど、事実を言われると胸に突き刺さる。

行為を始めて五日目になるけど、瑠璃が達したような雰囲気はなく、俺だけが一人で良がっていたんだ。
 
「 だったら…… 」

「「 ん? 」」

「 どうしたら、瑠璃太夫を…満足してあげれるの?俺は、こういうの…経験ないから…… 」

僅かに目線を逸らして告げれば、彼等は一瞬目を見開いた後、其々に口角を上げ湯船から上がった。

「 な、なに!? 」

「 そんなに知りたいなら教えてやるよ 」

「 えぇ、一人の男より複数の方が早く経験出来るでしょう 」

俺の前後に立ち、腕を掴んだ背後の男に驚けば、手の前の男は髪を掴み、反対の手で萎えた陰茎を向けてきた。

まだ瑠璃にもしたこと無い事に目を見開き、否定しようと顔を背ける。

「 い、やだ…… 」

「 客相手にだってしゃぶるんだよ。さっさとヤれ 」

「 ほら、こっちも触れてくださいな 」

「 っ……! 」

全て瑠璃から教えて欲しかったから、こんなタイミングでヤりたくはない。
首に擦られた他の男の陰茎に鳥肌が立ち吐き気がする。

じんわりと溜まる涙を堪えて必死に顔を背けていれば、風呂場の扉は開いた。

「 蘭はいるか? 」

「「 瑠璃太夫!!? 」」

「 っ………! 」

聞こえてきた声にこんな状況を見られたく無かったのに、辺りへと視線を流してから俺を見た瑠璃は顔色一つ変えることなく告げた。

「 さっさと上がって着替えろ。俺の客が待っている 」

「 っ、はい…… 」

瑠璃が呼んだことで彼等は手を離して顔を背けた。
俺は早々に身体を湯で流してから、瑠璃が立ち去った方へと向かい、着物を着て髪を整えれば、待っていた禿は座敷へと案内した。

「 瑠璃太夫の幼馴染みが来ております。蘭さんは、その芸子を披露して欲しいと…… 」

「 え、俺…… 」

芸子のように、踊りも三味線も出来ないと思い内心焦っていれば、広い座敷の前で正座し、行為以外に教えられていた基礎である挨拶を行う。

「 失礼します。蘭でございます 」

「 入れ 」

若い男性の声だと思い、襖を開けて入れば乱した着物を着た顔立ちの整った男は、横に瑠璃を座らせていた。

「 ははっ、これはまた枯れ葉のような新造だな 」

「 確かに、歳は枯れ葉ですが……育て甲斐のある若葉でありんすよ 」
   
クツリと笑った瑠璃に男は、酒を向けた。

「 そうか、なら。瑠璃の代わりに酌をしろ 」

「 はい…… 」

何故俺が、呼ばれたのかは直ぐにわかった。
瑠璃が琴を弾いてる間に、この人の酒を注ぐ役割を与えられたからだ。

瑠璃が弾く琴を始めて聞いたけれど、胸に響く心地のいい音色だと思った。

「 蘭と言ったな?御前もこのぐらい弾けるようにならなきゃ、他の事することになるぞ 」

「 精進いたします 」

瑠璃の幼馴染みである
井上屋 拓郎いのうえや たくろう
吉原に着物や簪を売る、着物屋の若頭らしく、瑠璃とは永く共にいるらしい。

そういった事もしてるのだろうか?と疑問になるほど、お互いが喋る雰囲気は柔らかいものがある。

「 あーあ、瑠璃。俺の与えた着物、全然着てくれねぇから詰まらん 」

「 丈を結い直すのが面倒なんだ。大体、着物じゃなくて一枚布じゃないか 」

そしてなにより、~ありんす。を使わなくていい相手なんだろうけど……
ごく普通に横になって、瑠璃の膝へと頭を乗せたことに胸に靄ができる。
瑠璃はそれを、嫌がりもせず頭に触れるほどだ。

「 その方が何でも使えるだろ? 」
 
「 着物なら、着物でよこしてくれた方がいい  」

「 そっかぁ~。なら着物にしとくか。それを着て、そろそろ帯を解かせてくれりゃいいが  」

「( え? )」

「 気が向いたらな 」

「 いつも、そう言って誤魔化すよなー。そのツンケンしてる部分も魅力的だがな 」

気にもせず笑う井上屋の言葉に驚いた。
こんな親しい雰囲気があるのに、帯を解いたことが無いってどういうこと?
瑠璃は…色を売ってたのじゃないのか?と疑問になっていれば、彼は起き上がった。

「 んじゃ、そろそろ帰るわ。今日は琴を聞きたかったし 」

「 そんな程度でよく金が出せるな。その内、破産するぞ 」 

「 ははっ、その時はその時さ。江戸っ子なら意地張ってでも、パッと金を出さなきゃつまんねぇだろ 」

「 それをいうか……。また、御前との話は楽しいから、構わないが 」

「 そっか?んじゃ、また来るわ 」

帯を解かなくともいい金づるだと言ってるような瑠璃に気にもせず、笑って立ち上がる井上屋に、瑠璃は手を叩き、禿を呼び部屋から連れ去った。

他の者によって片付けが始まれば、瑠璃は息を吐き、脚を解いた。

「 はぁー……少しは学べたか? 」

「 えっと、琴? 」
 
「 御前は一体何を見てたんだ。もういい、下れ 」

「 だって、よく分からないってのが正直な感想なんだ 」

問われても、井上屋の言動と瑠璃が帯を解いてない事に疑問になる。

枕をしない男相手に、そんな多額の金を払ってまで遊びに来るなんて、分からないからだ。
花魁ならまだしも、相手は同性の男だ。

どういう心境なのか、理解し難い。
 
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