6 / 276
一章 聖獣への道のり編
04
しおりを挟むもう寒くはない、暖かいほどに心地がいい
それだけで心が落ち着くのに
鼻に付く様々な匂いは春先に香る草花に似ていて
他にも幾つも匂いがする
『 ん…… 』
こんなにも色んな匂いが掻き分けられて、色んな匂いが気になるものなのか、
自分の嗅覚に不思議に思い重い瞼をうっすらと開けば目の前には緑が見える
『 草……? 』
案外、視力はよくぼやけてなくハッキリと見える
長く寝て起きた後のように頭は少しだけぼんやりとしているが
暗闇やら真っ白な場所ではなく、此所が草の上だと分かる
海の中だったはずだが、あの青年に出逢ってから場所が変わったなんて言えば納得する
納得しなきゃ、此所が死後の世界にでも思えるだろう
いや、もしかしたらそうじゃないかって思うほどに心地がいい
『 草の匂い…土の匂い…風の匂い 』
冷たい冬ではなく春先の気温
身体に感じる風に身を委ね
様々に香る匂いに肺一杯に深呼吸していれば
ふっと有ることを思い出した
『 そう言えば俺ってどんな姿なんだろうか……起き上がれるか?よしっ……! 』
きっと人ではないことは予測できた
だからこそあの青年に言われた事を思い出し
自分がどんな生き物なのか知るべく、起きやがろうとすれば上手く身体は起きない
『 ぐっ、これ……人の時みたいな使い方じゃないな…… 』
四足歩行なのは身体を動かして分かった
前足で身体を支えても、二足歩行にすることが出来ず後ろ足が思考に付いてこない
脳と身体の動きに上手く出来ず、左右に転がったり尻だけ浮かして振ったりしていれば
視線の端に揺れる物に気付く
『 なんだこれ……はっ、尻尾か!? 』
地面に顎をつけたまま顔を後ろに向け
尻を見れば、人の姿では無かったものが尻を振るのと合わせて揺れ動く
触りたくなる衝動にかられて尻尾へと顔を向ける
『 このっ、上手く掴めないな。掴む……噛むのか? 』
手は動かない、なら噛むのかと口の動きを確認してから尻尾へと狙いを定める
『 うー、ガウッ!! 』
うわっ、スゲー変な声がどっかから出たなって位の声が耳に届き、少し驚いた事で身体は横へと転がり腹は空へと向けられた
『 ……この身体、丸っこい?メタボ? 』
黒々としたGが死んだ時のように腹も手足も空の方を向いたことで、自分の体型に気付く
腹辺りが自棄に重いし手足は短い
明らかに丸い寸胴体型に青ざめる
『 身体だけはジムに通って引き締めてたのに、丸っこい体型?ウソだろ……そんなの嘘って言ってくれ!! 』
こんな身体は嫌だと、背中を草に擦り付けるように動かしジタバタとしていれば、子供の笑い声は響いた
「 あはははっ!!ノワール、なにしてるの 」
『 ノワール? 』
誰?いや、きっと俺を呼んでることは理解できた
あの青年が真名以外の名前で呼ばれると言ってたから、俺はどうやらノワールと言う名前で呼ばれてるのだろ
声のする方に目線を向ければ腹を抱え、片手は目元にやり涙を溜めてまで笑っていた少年の姿がある
五歳前後の黒髪の少年は、ケラケラと笑った後に此方へとやって来て
俺の身体を軽々と両手で持ち上げた
『( えっ…… )』
「 ノワール、おまえってほんと。かわいいなっ 」
可愛いげない容姿だと思ってたはずなんだが可愛い?
それに大人の俺を持ち上げるとはこの少年、どれだけ力持ちなんだ
それにでかく見える……いや、これは俺が小さくなってるだけなのか?
『 ガウッ( 意味が分からない )』
少年へと告げた言葉は、獣の様な鳴き声で掻き消された
人間じゃ無くなってるし
小さな獣扱いをされてる
丸々したボディーに短い手足
尻尾は戌とかにそれに見えたのだが
他の身体はまだ分からない
じっと少年を見詰めていれば、彼は俺を抱っこしたまま歩き始めた
「 さて、かえらなきゃ、おかあさんにおこられるよ 」
『 グウッ!( 離せ、自分で歩ける! )』
「 わっ、ノワール? 」
どんなに人の姿では無くなったにしろ、
子供に抱っこされて運ばれるなんて嫌だからこそ
暴れて腕から地面へと落ちた
結構な高さだったが、この丸々としたボディーのおかげか
其とも元々痛みに強い身体なのかは知らないが、ころっと横に転がって終わった
「 じぶんであるくの?ついてこられる? 」
『 ガウッ!( 余裕だ、御前の手は借りなくとも歩ける )』
さっきは尻尾を追い掛けたせいで起き上がれなくなったんだ、と思い
不器用に手足を動かし地面を歩く
あの青年が大地を蹴り、速く走れるなんて言ってたがそんなの嘘じゃないか
『 ハァー、ハァー……( 今、何歩歩いた? )』
「 ノワール、おれの一歩が五歩ぐらいだね 」
『 クゥン……( 抱っこを許す )』
「 うん!だっこする!! 」
言葉は通じなくとも、立ち止まった事で察してくれたのか
少年は俺の身体を抱っこして歩き出す
しっかりと尻と背中を支えられて抱かれるために、少年の肩から背景を見ていた
大きな木がある丘だった為に、少年は坂道を下っていく
こんなにも辺りが開けた場所が日本にもあるんだな
「 ただいまー! 」
「「 おかえり 」」
『( うん、日本じゃないな )』
日本だと言うことは、ものの数分で
彼の帰った民家と町の風景を見て諦めが付いた
此所は、日本でもなくどっかの外国でもないらしい
異世界ってやつなのか?
35
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる