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二章 宝物捜索 編

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月は何処か心を落ち着かせてくれる
心地好くて、安心感がある
けれどグツグツと煮えるような興奮も感じるから、俺は夜が好きなのだろう

兄弟が眠りに付き、よく足を向けるバルコニーへと出れば、小望月こもちづきは夜空にあり
僅かに流れる雲すら見ていて、みたらし団子でも食べたくなる
味覚がないから、今団子を食べてもきっと美味しくは無いだろうから、気持ちだけ楽しむ事になるだろうな

日本に居れば見ること無かった月、こうして異世界に来て獣の姿へとなれば見上げることも多くなったと思う

「 風邪引くぞ 」

『 暖かい毛皮持ってるから、平気さ 』

足音を立てず、態々影から出てきたソレイユは俺の肩に毛布を掛けて、横へと並ぶ
軽く毛布に触れれば笑みは自然と浮かぶ
俺には極寒の地でも平気な毛皮があるのにな

聖獣は病に掛からないのに、出逢ったときも" 風邪引くぞ "なんて言ってたことを思い出す
過保護なのは今も変わらないか

「 気持ち的には違うだろ?どうした。月に浸って何か考えていたみたいだが 」

聞きたい内容は後者だろう
話をするタイミングや理由の為に持ってきた程度に見える毛布から手を離し、肩に掛かったまま手摺から外へと腕を伸ばす

『 考え事ってだけじゃないけど……。なんか、この世界に来て月が好きになったなーって 』

ソレイユは俺が異世界人であり、人間からの成り上がりだと知ってる唯一の人
だからこそ、隠すことも無く思った事を答えれば彼は月へと視線を上げる

「 それは御前が、闇属性を持ってるからだ。太陽の照らす昼より、月が支配する夜の方が力を発揮出来るからな 」

『 えっ、それって変わるのか? 』

「 嗚呼、聖獣にも得意な環境が有るように、太陽と月じゃ、天と地の差がある 」

凭れていた体を起こし、月から少年の姿を保っているソレイユへと視線をやれば、彼はふふっと小さく笑った

『 じゃ、俺は昼間は本領発揮出来てないって事? 』

「 そう言うことになる 」

『 あ、でも……ちょっと分かるかな 』

昼間は走り回ったり、散歩をするのは根本的に好きだからやるんだが、戦闘になると夜の方が血が煮えるように興奮してる
楽しくて仕方無いから、夜の方が向いてるのは分かる

『 ソレイユは、太陽の方がいいってこと? 』

「 嗚呼、眩しいと思うほど好きではないが。戦闘をするなら昼がいい 」

得意な属性と共に、戦うフィールドすら好みがあったなんて知らなかったな
魔法を練習する程度ならどこでもいいんだろうが、いざ戦うなら選ぶのか

『 それじゃ……いざって時に昼間なら俺は弱いのだろうか 』

「 上級クラスの聖獣なら、時間帯を気にせず戦える。魔力なんて、人間が最大まで引き出せることはほぼ無いと言えるからな 」

ソレイユの遠回しに俺がまだ弱いから、太陽やら月に拘ってるんだ
みたいな言い方に、少しだけ不服に思うが実際に経験も魔法を使える数も少ない
フィールドって拘らないと勝てないなら意味がない

前に、ファルクが錬金術師のジョセフによって殺された時も昼間だった、なんて言い訳が出来ない程に反応すら鈍い
昼も夜も変わらないじゃないか、あの時が夜だったらと思っても結論は変わらない
過ぎた過去より今は前を見るべく、視線を町へと向けた

『 俺は、環境に囚われず戦えるようになろ…… 』

「 嗚呼、御前なら出来るさ 」

『 相変わらずの断言。というか、気になってたんだけど闇属性なら、俺って" 闇 "の部分とか持ってたりするのか? 』

恰も平然と断言したソレイユへと顔を向けてから、気になったことに疑問を持ちその場で顎に指を置き考える素振りを見せれば、彼は告げる

「 なわけあるか。陰と陽に分かれてるだけで性格を含めて関係無い。陽でも魔獣へと成り下がる。そいつ次第だ 」

『 そうなんだ?じゃ、俺は正しい道を進んでいこ 』

闇堕ちなんてしたくはない
正しい方へと突き進み、主を見ていきたいと願った俺に、少しだけ笑っていたソレイユの表情筋は無くなり、真剣な表情で告げた

「 もし、御前が…… 」

『 ん? 』

「 道が逸れることがあっても。光属性を持つ俺が導いてやるから安心しろ 」

きっと顔が良くなければとてもくさい台詞だろう
一瞬、何を言ってるんだとツッコミたくなったが、余りにも真面目に言うもんだから笑ってしまう

『 ふはっ、じゃ。その時は頼むな…。俺は案外、他人に流れやすいから 』

「 知ってる、御前は直ぐ流される 」

此方へと顔を向け、笑っていた俺の頬へと触れたソレイユの表情が近くにあり
目を見開いた時には唇は重なっていた

柔らかく触れる程度の口付けだと気付いた時には、白手袋を着けた左手は頬の輪郭を撫でる

「 誰にでもいい顔をする。無自覚だからこそ、闇に入っていても気付いてなさそうだ 」

『 ……っ、態とじゃない 』

「 尚更、質が悪い 」

分かってるさ、主の為に、ライフなら、とか相手が親しい程流されてしまう
それは俺が、余り意思無く生きてきた結果だろう

図星を言われ、不機嫌になる俺を知ってか
ソレイユの手は片手を腰へと触れそのまま後ろへと回し、グッと引き寄せれば髪へと触れ、
後頭部が支えられれば、互いの額はコツンと小さな音を立て当たる

「 御前は俺だけ見ていればいい…… 」

『 っ、本当、太陽みたいな 』

真っ直ぐ誰かを照らす太陽と、雲に隠れたり薄くなる月とでは違うと分かる
俺には勿体無いほどにカッコいいと息が詰まれば唇へと舐められ、彼は悪戯っ気に笑った

「 ふっ……抱いていいよな? 」

『 最初からそのつもりだろうが! 』

「 そりゃ、やられっぱなしは気に入らねぇからなぁ 」

察していたと睨めば、満足気に笑った彼は深く口付けを交わす
抵抗無く、この首後ろへと腕を回したときには

陰と陽が混じり合うほどに、甘い雰囲気と感覚が込み上げていた

「( 月が出てるときの御前は、普段に増して発情した目を向ける…… )」

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