俺のお嬢様はおとめげーむ?の『悪役令嬢』らしいです

杏音-an-

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第一章 俺とお嬢様

12 星の夜祭 ⑦

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「…………」

(あれ……俺……なにしてたんだっけか?てか、体いてぇ……)

「い……お……」

 ボカッ

 チンピラ2人は頭を殴られて目を覚ますと、体を縄で縛られていた。

「やあ、おはよう」

 俺がそう言うとチンピラ2人は「ヒッ」と情けない声を上げた。

「あ、あれ……さっき俺ら雷に撃たれてなかったスか?」

「あぁ……正直死んだかと思った……まあ、全身痛いけど」

「魔法で雷を落として死にそうになってたところを、目を覚ます程度に治癒魔法を使って治してやりました。お嬢様に言われたんで」

 俺が少し不服そうにそう答えると、俺の後ろからレイラ様が顔を出した。

「当たり前でしょ!ノア!」

 レイラ様はそう言って俺を叱りつけた。そんなやり取りを見ていたしりもち男はひきつった表情を浮かべながら口を開いた。

「あ、あの……お嬢様ってのは……」

「あぁ、この御方はグロブナー公爵家のご令嬢、レイラ様であります。そして、私はレイラ様の専属従者をしています」

「「こ、公爵家のご令嬢!?」」

 チンピラ2人は声を揃えて驚いた。しかし、その表情はみるみると青ざめていった。

「それはそうと、私を守ろうとしてくれたのは分かるけど、あそこまでやったらやり過ぎよ!」

「手加減はしましたよ?」

「……嘘がバレバレよ」

「あ、やっぱりバレました?」

 まあ正直、あのままさっさとくたばればいいとは思ってましたよ。はい。
 俺がそんな事を思っていると、レイラ様は俺の両手をぎゅっと握り締めた。

「お嬢様?」

「……お願いだから、この手でもう2度と誰かを殺すような真似しないで」

 レイラ様は俺の手をぎゅーと握り締めたまま、その両手をじっと見つめた。その時俺はレイラ様の両手が微かにカタカタと震えていることに気がついた。そして気づいた瞬間、あ、しまったと俺は思った。
 俺は俯くレイラ様のおでこに自分のおでこをコツンと合わせ口を開いた。

「申し訳ありません、お嬢様。約束致します」

 俺がそう言うとレイラ様は俺と目線を合わせ、数秒だけお互いの瞳をじっと見つめ合わせた。いつの間にかレイラ様の震えが止まっていた。その事に気づくと同時にレイラ様の生暖かい息が俺の口元にかかり、ドクドクと心臓が速まっていくのを感じた。

「あ、あの……」

 俺とレイラ様はビクッと身体を弾ませ、パッとお互いから離れた。

「な、なんか俺ら忘れられてないッスカ?」

 縄で縛られている腰巾着が「へへっ」と苦笑いを浮かべながらそう言った。くそ、腰巾着め。空気読めよ、そこは。分かるだろ?
 俺がそんな事を思いながら腰巾着を睨んでいるとしりもち男は呆れた表情を浮かべ、ハァとため息をついた。

「すいやせん。こいつ、空気読めねぇんですわぁ」

 しりもち男がそう答えると俺も深いため息を漏らした。

「……で?これでまさか終わりだなんて思っていませんよね?」

 俺は笑顔で2人を見下ろしながらそう訊ねた。するとチンピラ2人は再び強張った表情を浮かべた。が、突然しりもち男が自分のおでこを地面へと思いっきり打ち付けた。ゴツンと鈍い音が鳴ると、隣で縛られていた腰巾着は「ア、アニキ……?」と呟いた。

「お、お二方!!無礼な態度を取ってほんとぉーに申し訳ありやせんでした!!な、何でもします!何でもしますから、せめてこいつだけでも見逃してやってくれやせんか!!」

 しりもち男は頭を地面へとつけたまま訴えかけた。そんな姿を見て腰巾着は少し驚いていたが、すぐにしりもち男と同様に自分のおでこを地面へとつけ頭を下げた。

「……すんませんでした。俺も何でもします。しますからアニキの命だけは……」

「お、おい!それじゃ、意味ねぇだろうが!」

「で、でもアニキ」

 目の前のチンピラ共は身体を縛られたままお互いにお互いを庇い始めた。……まるで茶番劇だな。反吐が出そうだ。

「ノ、ノア」
   
 俺が冷たい視線を2人へ向けていると、レイラ様は不安そうに俺の裾を引っ張った。おっと、いけないいけない。俺はレイラ様ににこっと微笑み、再びチンピラ2人へと視線を移した。

「おい」

「「は、はひぃ!」」

 2人はピシッと背筋を伸ばした。

「私はついさっきお嬢様と約束をしたんです。『誰かをこの手で殺すような真似は2度としない』と。だから貴方方を殺しはしません。まあ、グロブナー公爵家のご令嬢に乱暴を働いたんです。国の警備隊へ引き渡し、それ相応に罰を与えてもらうのが妥当ではありますが……」

 俺がそう言ってしゃがみこむと、チンピラ2人は先程より更に顔を強ばらせた。

「貴方方には私の部下になってもらおうかと思っています」

「ぶ、部下!?」

「ええ。貴方方が眠っている間に話していたんですよ。私の部下としてお嬢様の護衛や雑用など……公爵家の使用人として働いて頂こうかと」

「俺らでも知ってるあの名家のグロブナー家で……いゃ、けど俺達にとっちゃあ、ありがてぇ話ですがぁ……その、なんせ俺ら……こんなナリしてますもんで……その」

「あぁ、見たところ……スラムの出身ですか?」

「はい……なんで、その、公爵家にお仕えするなんてとても……」

「そんな事は心配いりません。なんせノアもスラム出身です」

「「え!?」」

 レイラ様がそう答えると、チンピラ2人は口を揃えて驚いた。

「貴方方は、恐らく私達のように力の無い子供を捕らえて金持ちに売り飛ばそうとしていたのでしょう?」

「そ、それは……」

「貴方方がしようとした事は許される事ではありません。警備隊へ引き渡してもいいけど……どうせなら貴方方が売り飛ばそうとしていた子供のように、一生死ぬまで、グロブナー家に尽くすといいわ」

 レイラ様は冷淡な態度でそう言い放った。

って言ってましたもんね?」

 俺が立ち上がりながらそう言うと、2人は顔を強ばらせたまま生唾をゴクッと飲み込んだ。そんな様子を見てレイラ様は少し悲しげな表情を浮かべた。

「許される事ではないけれど……そんな事をしなければ生きてはいけない環境で育ったのでしょう」

(ここでは前世の時では考えられないくらいのスラムみたいな過酷な環境で過ごしている人達が沢山いる。今よりも幼い頃のノアみたいに……)

 レイラ様は一瞬だけ俺の方に視線を移し、再びチンピラ2人へと視線を戻した。

「グロブナー家に仕えれば、衣食住の保証は必ず致します。……これも何かの縁です。貴方方が本当に心から反省しているというのであれば、私についてきてくれませんか」

 レイラ様はそう言いながら優しく微笑み掛けた。まったく……うちのレイラ様お嬢様はとんだお人好しだ。
 俺はそんな事を思いながらチンピラ2人へ再び視線を移すと、2人とも涙ぐみながらレイラ様を見上げていた。

「っ……ぅ……はい……一生、お嬢についていきやす……」

「ううぅ……お、俺もっス……っ!!」

 そんな2人を見てレイラ様は優しく微笑み掛けたまま「これからよろしくね、2人とも」と言った。そんな感動的な光景を見ながら俺も2人の前へとしゃがみこみ、にこっと微笑み掛けポンっと2人の肩に手を乗せた。

「じゅ、従者の御方ぁ……」

「2人ともおめでとう。これからは一生だからな?」

 俺は耳元でボソッとそう伝えると、チンピラ2人は「へ?」と聞き返した。俺は顔を離し立ち上がって冷たい笑みを浮かべながら口を開いた。

「これからよろしく。下僕共2人とも

 俺が笑顔でそう言うとチンピラ2人は一気に顔を青ざめさせた。 


 こうして俺は下僕①、下僕②を手に入れた。





    
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