俺のお嬢様はおとめげーむ?の『悪役令嬢』らしいです

杏音-an-

文字の大きさ
12 / 41
第一章 俺とお嬢様

11 星の夜祭 ⑥

しおりを挟む



 『ひろいん』が逃げ去った方向へとなんとか走って追いかけたが、この人混みで俺達は『ひろいん』を見失ってしまった。

「はぁ、はぁ……っ見失いましたね……」

「っ……そう、みたいね。はぁ、あの子、逃げ足早すぎじゃない?」

「まあ、この人混みですしね。というか、やはりあの子は『転生者』なんですかね?」

「……分からないわ。でもこの世界で『まぢか』なんて言葉を使うなんて『転生者』の可能性が高いわよね」

「ですよね」

 それにしても何故あの子はあんな風に逃げ出したのだろう。

「とにかく聞き込みをしましょう」

 そうして俺とレイラ様は聞き込みを始めた。


 何人かに聞いていくとやっと『ひろいん』の姿を見たという人物に出会った。それはわたあめの屋台をかまえているおじさんだった。

「あぁ、さっき広場の音楽隊のとこで踊ってた女の子だよな?一際目立ってた子」

「そうです!ピンクブロンドの女の子です!」

「あぁ!そうそう!ピンクだったな、肩ぐらいの長さで。あっちの路地裏の方に走っていったぞ?ちょうどすれ違ってなぁ。あっち路地裏の方はまあ、なんだ……あんまし治安が良くねぇから女の子1人で行こうとしてたんで止めたんだけどよぉ。聞かなくてなぁ……お前ら、友達か?」

「ええ、そうです!友達です!」

 俺は何食わぬ顔で答えた。

「そうかそうか、なら見つかったら友達叱っといてくれや。あぶねぇから。本当なら俺もついていってやりてぇんだが、何しろ今、屋台を空ける訳には行かねえからなぁ……お前らも探しに行くなら警備隊の人連れてあっちに行くんだぞ?」

 そう言って屋台のおじさんは、わたあめを作りながらウィンクした。

「はーい、おじさん教えてくれてありがとう」

 俺は笑顔で答えてその場を離れた。



「ノア、どうする?警備隊についてきてもらう?」

「うーん、そうですね……」

 レイラ様は何の迷いもなくスタスタと路地裏の方へと向かう俺に訊ねた。迷いどころでもあるが……そうなるともし『ひろいん』が見つかったとき、すぐに前世の話について聞けずにまた逃げられる可能性も高くなる。
 俺は少しだけ不安そうな表情を浮かべているレイラ様に対し、優しく微笑み掛けレイラ様の左手をぎゅっと握った。

「大丈夫ですよ、私を誰だと思ってるんですか?」

 俺がそう言うとレイラ様はふふっと笑い、俺の右手を握り返した。

「そうよね!なんたって最年少の最高位魔道師だものね!レッツゴーよ!」

「かしこまりました」

 そうして俺達はそのまま薄暗い路地裏の方へと向かった。



 *******************


 路地裏へと入ると『星の夜祭』の日のせいか、いつもより余計に薄暗く感じた。先ほどまで笑っていたレイラ様も顔を強張らせ、俺の手を握る指にぎゅっと力が入る。

 この路地裏はまだ危険というわけではないが、この先のもっと奥へと進むと『スラム街』に入る。先ほど大丈夫だと余裕たっぷりに見栄を張ったはいいが、レイラ様を危険な目に合わすわけにはいかない。
 ある程度歩いて『ひろいん』が見つからなければ、今日はひとまず引き返し、後日俺1人で探しに来た方がいいだろう。まあ、スラム街あそこは俺の故郷みたいなものだしな。
 それにしても『ひろいん』は何故こんなところに入っていったんだろうか。

「『ひろいん』はスラム街出身みたいな設定でしたか?」

「え?ううん。確か……街から少し離れた一軒家に住んでる……みたいな設定だったような?」

「曖昧なんですね?記憶が」

「うっ……ご、ごめんなさい」

 レイラ様は明らかにシュンとした表情を浮かべた。かわいい……まずい。末期だな、これは。
 俺は一度咳払いをして口を開いた。

「コホン。まあ、しょうがないですね。それにしても……けっこう進んできましたけど、『ひろいん』はいなさそうですね。今日はひとまず引き返して後日私がまた調べに来ます」

「え!で、でもノア1人じゃ……」

 そう言い掛けたところで、レイラ様は口をつぐんだ。何故なら俺があえて何も言わずに不敵な笑みを浮かべたからだった。

(私がいたところでノアにとって私は……ただの足手まといなのね……)

 レイラ様は心の中でそう思い再び口を開いた。

「……そうね。じゃあ、お願いするわ。ノア」

「かしこまりました。では戻りましょう」

 そう言って引き返そうと後ろを振り返ると、何処かで見たようなチンピラ2人が後ろに立っていた。

「よぉ、さっきぶりだなぁ?」

「へっへっへ、まさか帰る途中で会えるなんて……ラッキーじゃねぇか、なあ?」

 あぁ、何処かで見たことあるようなと思ったら……

「しりもち男と腰巾着か」

「「なっ!なにぃ!?」」

 あ、しまった。心の声がつい出てしまった。

「はっ、まあいい。さっきの借りを返さねえとなぁ?」

 そう言ってしりもち男と腰巾着はその辺に転がっていた鉄の棒を持ってジリジリと近寄ってきた。

「ノアっ……」

「……目を瞑って、少し下がってて下さい」

 そう言って俺はまたレイラ様に不敵な笑みを浮かべ、手を離した。

「すぐに終わります」

 そう言うと俺の右手はバチバチバチッと雷が纏まりついているかのように、音を鳴らしながら電流を走らせていた。正直借りを返したいのはこちらの方だ。お前らがレイラ様にしたこと、そしてあのとき俺が止めなければレイラ様にしようとしていたこと、あんなもんでは許さない。

「あ、あいつ!また妙な事を……」

「あのガキ……もしかして魔道師なのか!」

 しりもち男がそう言うと俺は鼻で笑い、バチバチと電流を走らせている右手を上にあげた。
 
「やっと気づいたんだ?でも遅かったね、さようなら」

 俺はそう言って「foudreフードル」と呟いて自分の右手をチンピラ2人に向かって振り下ろした。その瞬間バリバリバリバリバリィと音を鳴らしてチンピラ2人に向かって大きな雷が落ちてきた。

「「ぎやぁぁぁああああああ!!!」」

 チンピラ2人は悲痛な叫び声を上げながら落雷に打たれた。



 *******************


「ん?おお、どっかで雷が落ちたみたいだなぁ」

 そう言ってわたあめの屋台のおじさんは落雷の音がした方へと視線を移した。

「これから雨でも降るのかねぇ」

「さぁな……あの子ら、大丈夫だったかな」

「ん?あの子らって?」

「あぁ、いやなに……こっちの話だよ。ほぉら、わたあめ、いっちょあがりぃ!」

 そう言ってわたあめのおじさんはお客さんにわたあめを渡した。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...