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第一章 俺とお嬢様
11 星の夜祭 ⑥
しおりを挟む『ひろいん』が逃げ去った方向へとなんとか走って追いかけたが、この人混みで俺達は『ひろいん』を見失ってしまった。
「はぁ、はぁ……っ見失いましたね……」
「っ……そう、みたいね。はぁ、あの子、逃げ足早すぎじゃない?」
「まあ、この人混みですしね。というか、やはりあの子は『転生者』なんですかね?」
「……分からないわ。でもこの世界で『まぢか』なんて言葉を使うなんて『転生者』の可能性が高いわよね」
「ですよね」
それにしても何故あの子はあんな風に逃げ出したのだろう。
「とにかく聞き込みをしましょう」
そうして俺とレイラ様は聞き込みを始めた。
何人かに聞いていくとやっと『ひろいん』の姿を見たという人物に出会った。それはわたあめの屋台をかまえているおじさんだった。
「あぁ、さっき広場の音楽隊のとこで踊ってた女の子だよな?一際目立ってた子」
「そうです!ピンクブロンドの女の子です!」
「あぁ!そうそう!ピンクだったな、肩ぐらいの長さで。あっちの路地裏の方に走っていったぞ?ちょうどすれ違ってなぁ。あっち路地裏の方はまあ、なんだ……あんまし治安が良くねぇから女の子1人で行こうとしてたんで止めたんだけどよぉ。聞かなくてなぁ……お前ら、友達か?」
「ええ、そうです!友達です!」
俺は何食わぬ顔で答えた。
「そうかそうか、なら見つかったら友達叱っといてくれや。あぶねぇから。本当なら俺もついていってやりてぇんだが、何しろ今、屋台を空ける訳には行かねえからなぁ……お前らも探しに行くなら警備隊の人連れてあっちに行くんだぞ?」
そう言って屋台のおじさんは、わたあめを作りながらウィンクした。
「はーい、おじさん教えてくれてありがとう」
俺は笑顔で答えてその場を離れた。
「ノア、どうする?警備隊についてきてもらう?」
「うーん、そうですね……」
レイラ様は何の迷いもなくスタスタと路地裏の方へと向かう俺に訊ねた。迷いどころでもあるが……そうなるともし『ひろいん』が見つかったとき、すぐに前世の話について聞けずにまた逃げられる可能性も高くなる。
俺は少しだけ不安そうな表情を浮かべているレイラ様に対し、優しく微笑み掛けレイラ様の左手をぎゅっと握った。
「大丈夫ですよ、私を誰だと思ってるんですか?」
俺がそう言うとレイラ様はふふっと笑い、俺の右手を握り返した。
「そうよね!なんたって最年少の最高位魔道師だものね!レッツゴーよ!」
「かしこまりました」
そうして俺達はそのまま薄暗い路地裏の方へと向かった。
*******************
路地裏へと入ると『星の夜祭』の日のせいか、いつもより余計に薄暗く感じた。先ほどまで笑っていたレイラ様も顔を強張らせ、俺の手を握る指にぎゅっと力が入る。
この路地裏はまだ危険というわけではないが、この先のもっと奥へと進むと『スラム街』に入る。先ほど大丈夫だと余裕たっぷりに見栄を張ったはいいが、レイラ様を危険な目に合わすわけにはいかない。
ある程度歩いて『ひろいん』が見つからなければ、今日はひとまず引き返し、後日俺1人で探しに来た方がいいだろう。まあ、スラム街は俺の故郷みたいなものだしな。
それにしても『ひろいん』は何故こんなところに入っていったんだろうか。
「『ひろいん』はスラム街出身みたいな設定でしたか?」
「え?ううん。確か……街から少し離れた一軒家に住んでる……みたいな設定だったような?」
「曖昧なんですね?記憶が」
「うっ……ご、ごめんなさい」
レイラ様は明らかにシュンとした表情を浮かべた。かわいい……まずい。末期だな、これは。
俺は一度咳払いをして口を開いた。
「コホン。まあ、しょうがないですね。それにしても……けっこう進んできましたけど、『ひろいん』はいなさそうですね。今日はひとまず引き返して後日私がまた調べに来ます」
「え!で、でもノア1人じゃ……」
そう言い掛けたところで、レイラ様は口をつぐんだ。何故なら俺があえて何も言わずに不敵な笑みを浮かべたからだった。
(私がいたところでノアにとって私は……ただの足手まといなのね……)
レイラ様は心の中でそう思い再び口を開いた。
「……そうね。じゃあ、お願いするわ。ノア」
「かしこまりました。では戻りましょう」
そう言って引き返そうと後ろを振り返ると、何処かで見たようなチンピラ2人が後ろに立っていた。
「よぉ、さっきぶりだなぁ?」
「へっへっへ、まさか帰る途中で会えるなんて……ラッキーじゃねぇか、なあ?」
あぁ、何処かで見たことあるようなと思ったら……
「しりもち男と腰巾着か」
「「なっ!なにぃ!?」」
あ、しまった。心の声がつい出てしまった。
「はっ、まあいい。さっきの借りを返さねえとなぁ?」
そう言ってしりもち男と腰巾着はその辺に転がっていた鉄の棒を持ってジリジリと近寄ってきた。
「ノアっ……」
「……目を瞑って、少し下がってて下さい」
そう言って俺はまたレイラ様に不敵な笑みを浮かべ、手を離した。
「すぐに終わります」
そう言うと俺の右手はバチバチバチッと雷が纏まりついているかのように、音を鳴らしながら電流を走らせていた。正直借りを返したいのはこちらの方だ。お前らがレイラ様にしたこと、そしてあのとき俺が止めなければレイラ様にしようとしていたこと、あんなもんでは許さない。
「あ、あいつ!また妙な事を……」
「あのガキ……もしかして魔道師なのか!」
しりもち男がそう言うと俺は鼻で笑い、バチバチと電流を走らせている右手を上にあげた。
「やっと気づいたんだ?でも遅かったね、さようなら」
俺はそう言って「foudre」と呟いて自分の右手をチンピラ2人に向かって振り下ろした。その瞬間バリバリバリバリバリィと音を鳴らしてチンピラ2人に向かって大きな雷が落ちてきた。
「「ぎやぁぁぁああああああ!!!」」
チンピラ2人は悲痛な叫び声を上げながら落雷に打たれた。
*******************
「ん?おお、どっかで雷が落ちたみたいだなぁ」
そう言ってわたあめの屋台のおじさんは落雷の音がした方へと視線を移した。
「これから雨でも降るのかねぇ」
「さぁな……あの子ら、大丈夫だったかな」
「ん?あの子らって?」
「あぁ、いやなに……こっちの話だよ。ほぉら、わたあめ、いっちょあがりぃ!」
そう言ってわたあめのおじさんはお客さんにわたあめを渡した。
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