俺のお嬢様はおとめげーむ?の『悪役令嬢』らしいです

杏音-an-

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第一章 俺とお嬢様

14 ララの日常 ~ララside story~②

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 私がお屋敷にきてメイドの仕事をし始めたのは9歳、お嬢様は4歳だった。


 お嬢様は出会った頃から、とても4歳とは思えないような大人びた女の子だった。かと思えば、天然なのかたまに抜けているところもあったり、子供らしく可愛らしい一面を見せる女の子でもあった。

 私は旦那様や奥様にそうお伝えすると、ついこの間までは普通の4歳ぐらいの普通の子供だったそうだが、何故か最近になって文字の読み書きもスラスラできるようになったり、言動も急に大人びたのだそうだ。

 私は不思議に感じてはいたが、特には気にしていなかった。何故ならお嬢様はまだ環境にも慣れず満足に仕事もこなせない私に対し、いつも気を遣って優しく接して下さってくれる御方だったからだ。私はそんなお優しいお嬢様にだんだんと惹かれていった。


 そんなある日、お嬢様は旦那様、奥様と一緒に何人かの護衛と従者を連れて街へ買い物に出掛けた。勿論、私も一緒にお供させて頂いた。

 そうして色々なお店を見て回っていると、突然お嬢様は旦那様と奥様の目を盗み何処かへ向かって走りだした。

「っ!?お、お嬢様!?どうされたのですか」

 私と護衛の数人が慌てて追い掛けお嬢様の元へ辿り着くと、路地裏に入る道の前で子供が倒れていた。よく見ると服はボロボロの雑巾のような服で頭もボサボサ、スラムの子供のような身なりだった。うっ……なんだか少し臭う。きっと何日も水浴びも身体を拭くことさえもできていないのだろう。

「恐らくスラムの子でしょう。この路地裏の向こうには確かスラム街があるので……腹を空かせて倒れているのかもしれません」

 護衛の1人がそう言うとお嬢様は男の子の前にしゃがみこみ、身体をゆさゆさと揺らした。

「ねぇ、貴方大丈夫?」

「お、お嬢様!お召し物が汚れてしまいます!」

「大丈夫よ、これくらい」

 お嬢様がそう答えると男の子は「うぅ……」と微かにうめき声を上げて目を覚ました。しかし、私は男の子が顔を上げた瞬間驚いた。何故なら彼の瞳はとても深く漆黒の瞳をしていたからだ。

「……っ……だ、れ?」

 男の子は少しだけ顔を上げてか細い声でそう訊ねた。お嬢様はそんな男の子の顔をじっと見つめ「貴方、もしかして……」と呟いた。

「私はレイラよ。お腹が空いているの?これ、さっき買った焼きたてのパンよ。食べる?」

 お嬢様はそう言って先ほど人気と噂のパン屋で買ったパンの紙袋を出してみせた。

「っ!?お嬢様!」

 私は慌ててお嬢様の腕を掴んだ。私がこんなにも取り乱しているのは、この男の子の瞳にまつわる言い伝えのせいだった。
 この国の言い伝えに『漆黒の瞳を持って生まれた子は非常に強い魔力を持っているが、神に嫌われて呪われた子の証。その強い魔力でその子の周りを不幸に陥れるだろう』そんな言い伝えがあった。まだ子供だった私はそんな信憑性のない言い伝えを信じていた。それによく見たら髪も真っ黒だ。黒髪というのも周りではあまり見ない髪色のため私はより不気味に感じていた。

 お嬢様はそんな私に対し「大丈夫よ」と言って微笑んだ。そして鞄に入っていたご自身のお水も出して「あ、あとね私の持ってきたお水もつけるわ」と男の子に差し出した。

 男の子は少し警戒しながらも、よほど空腹だったのだろう。お嬢様からパンの紙袋とお水を奪い取るようにとってガツガツと食べ始めた。そんな姿をお嬢様はニコニコしながら見つめていた。

「……ねぇ、貴方公爵邸うちに来ない?」

「お、お嬢様!?な、何を!!?」

「だってこの子の漆黒の瞳、とても強い魔力を持っている証なのよ?この間、本で見たの。そんなに強い魔力を持っている子なら私の従者にしちゃおうかな!って思って」

 お嬢様がそう言うと、男の子はお嬢様を睨み付けた。

「……気持ち悪く、ないの?」

「え?」

「……気持ち悪いって……かぁちゃも……ほかの人も……」

「ん?かぁちゃ?お母様の事かしら。ううん、そんな事ないわ」

 お嬢様はグッと男の子の顔に自分の顔を近づけてじっと瞳を見つめながら口を開いた。

「貴方の瞳は綺麗よ。その黒髪もね。私、黒髪イケメンが好きなの」

「くろか、み……いけ?」

「あ~えっと、貴方の瞳と髪が好きって事よ」

 お嬢様はにこっと微笑みながらそう言った。すると、男の子は目をまんまるくさせながら驚いた。そして、その黒い瞳からポロポロと涙が溢れてきた。

「っ……う……うぅ……っく…………う」

「え、えぇ!?ど、どうしたの?何処か痛いの?お腹?え、パンのせい?」

 お嬢様はそう言いながらあたふたと慌て始めた。私は思わずため息混じりの笑いを漏らし、口を開いた。

「お嬢様、多分違うと思います。彼は恐らくですけど、嬉しかったんだと思いますよ」

「へ」

 お嬢様は一瞬きょとんとしていたが、とりあえずポロポロと涙を流す男の子が落ち着くまで心配そうに背中を擦り続けた。しばらくすると男の子は落ち着いてきたようだった。

「大丈夫?」

 お嬢様がそう訊ねると男の子は、こくんと頷いた。そして顔を上げてゆっくりと口を開いた。

「きみは、おひめさま?」

「え?えっと……公爵令嬢よ。貴族のお嬢様」

「おじょうさま……ぼくをつれててってくれませんか」

 男の子がそう言うとお嬢様は笑って「勿論よ」と答えた。


 それからお嬢様は旦那様に掛け合って、保護をされることとなった。彼は漆黒の瞳を持つ強力な魔力保持者の可能性が高い子供だ。その為この国の魔道師が集い、魔法界を統治する機関『スルス館』で一時的に保護してもらい魔力があるかどうか調べてもらった。
 その結果やはり、男の子は膨大な魔力を持っている事が判明。すると館の長を勤める『オリバー・シモン』侯爵が是非この子をうちの養子にと提案があった。が、男の子はそれを断った。

は……おじょうさまのになりたい、です」

 とのことだった。シモン侯爵と旦那様は仕方なくなるべく男の子の意思を尊重し、スルス館で魔力を上手く操れるように学びながら、グロブナー家で執事見習い兼お嬢様の従者として雇う事となった。


「ノ、ノアです。これからよろしくお願いします」



 ****************


「……さん……ララさん?」

 私は突然名前を呼ばれて思わずビクッと身体を弾ませ後ろを振り向いた。後ろを振り向くと成長したノアが不思議そうな顔をしてこちらの顔を覗き込んでいた。

「……ノアが大きくなった」

「ん?ララさん?大丈夫ですか?あ、これ新しい茶葉が入ったので淹れてみたんです。ララさん疲れてるんですよ、きっと。これでも飲んで元気出してください」

「あ、ありがと」

 私は、そう言って紅茶の入ったカップを受け取った。淹れたてでまだ温かかった。

「……美味しい」

「お、そうでしょう?俺も紅茶淹れるの上手くなりましたよね」

 ノアはそう言って私にニコッと笑顔を向けた。ノアはお嬢様や旦那様達の前では自分の事を「私」、それ以外では「俺」と言うようになった。字の読み書きさえも出来なかった男の子が公爵家で働いていく為に必至に読み書きや仕事を覚え、公爵家のお嬢様の隣に立てるように必至に努力して高位魔道師の地位に登り詰めたことも私はこれまでずっと見てきた。

「ほんとに……頑張ったわね」

 私がそう言うとノアは少し驚いた表情を浮かべてから照れくさそうに笑った。

「ははっ、なんかララさんが誉めてくれるなんて珍しいですね。じゃあ、俺はお嬢様のところに向かいますね」

 ノアはそう言って私に背を向け、歩き出した。

 ノアの想いが少しでも報われますように、私にとって大切な2がどうか幸せになりますように。
 そう思いながら私はその後ろ姿を見送った。






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