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第一章 俺とお嬢様
15 時が経って
しおりを挟む「ん~~今日も快晴だな」
俺は洗濯物を干しながら空を見上げそう呟いた。すると、遠くの方から下僕達の声が聞こえてきた。
「「だ~んな~!ノッア~のだ~んな~!」」
俺はハァとため息を漏らして後ろを振り返った。
「お前ら……この公爵邸の旦那様はジェームス様だぞ」
「それは公爵の旦那ですわ、ノアの旦那」
下僕①がそう言うと下僕②は「そうっスよ。ノアのアニキだとアニキと被りますしね」と言いながらウンウンと頷いた。
俺は再びハァと深いため息を漏らして口を開いた。
「もういいや、それで……あ、そんな事より例の件の情報はどうなっているんだ?」
「あぁ、いや……それが全く情報がねぇんですわぁ。この2年近くずっと探ってるってぇのに。面目ねぇ」
そう言って下僕①は申し訳なさそうに頭を下げた。例の件というのは勿論『ひろいん』についてだ。
あの『ひろいん』との出会いから年月が経ち、俺は今14歳で、もうすぐ15歳となる。あの日から2年近く、俺は下僕達を使って彼女について調査を入れていた。しかし、何故か彼女が今どこに住んでいるのか、何をしているのか。彼女についての手掛かりが全く掴めない。
下僕達がただ単に使えないのか、それとも何か見えない力が働いているのか……
「……そうか。まあ、もう例の件については気にしなくてもいい」
「え?そうなんですかい」
「あぁ」
そう。何故なら俺達はもうすぐレイラ様の前世でやっていた『おとめげーむ』の舞台、『リベルテ学園』に入学するからだ。
そして、『ひろいん』も勿論、この学園に同級生として入学を果たす。
『リベルテ学園』は数代前の国王が特別に設立した国が運営する学園だ。この学園では貴族のご子息やご令嬢方が多く通われているが、特例で膨大な魔力を有する子供は平民であっても身分に関わらず推薦を受け入学を許される。そして特待生枠として、学内の特別な施設で魔法の知識を学び、自身の能力を高めることができるのだ。
その為、平民で従者である俺もこの学園にレイラ様と一緒に通う予定となっている。そしてレイラ様の前世の記憶によると、『ひろいん』も同じだ。『ひろいん』は平民のただの女の子だったが、彼女には俺と同じく膨大な魔力を持っていることがこの先判明するらしい。
その為、『ひろいん』は学園に入学することになり、平民ながらも高い魔力の能力を称えられ、あの愛くるしい見た目から皆に愛されドキドキな学園生活を送ることとなるのだ。
……レイラ様の前世での『おとめげーむ』というやつは、つくづく『ひろいん』にとって都合がいい話のようだ。というか、漆黒の瞳を持っていて歳少年の最高位魔道師である俺よりも何故『ひろいん』の方が称えられるのか。俺がそう訊ねると、
「まあ、ゲームでの悪役令嬢のレイラだったら、自分の従者が自分よりも称えられていたら絶対許さないと思うわよ?」
「なるほど、確かに。本当に性格悪かったんですね。おとめげーむでのお嬢様は」
「私は違うわよ!?まあ、でも乙女ゲーム定番のご都合主義ってやつだったのかもね」
とレイラ様は笑顔で答えていた。
「じゃあ、俺はやることがあるから。下僕①と下僕②は庭園の手入れを頼む」
「へい!……というか、その、ノアの旦那。そろそろ俺達の事、名前で呼んでくれやせんか?以前のしりもち男よりはマシですけど……」
「そうッスよ~。俺なんて腰巾着だったんスから~!俺はトム。アニキはラウルッスよ!」
「……うるさい。①と②」
「「うぅ……イェス、ボスゥ」」
下僕の2人はしょぼんと肩を落としながら、そう返事を返した。俺はそんな2人の事などは気にせず、その場を後にした。
今日はこの国の建国記念の日だ。その為、王城では建国記念を祝うパーティーが行われる。レイラ様はそのパーティーに出席すべく、早くから準備に取り掛かっている。メイド達もお嬢様専属のメイド、ララさんの指示に従って大忙しだ。炭酸のお風呂に浸かり、念入りにオイルマッサージと呼ばれるものをして身体のお肉を絞り、ドレスルームでドレスに着替え、髪のセットと化粧を施す。
炭酸のお風呂とオイルマッサージはレイラ様が発案者だ。炭酸のお風呂は俺が朝早くに魔法でお湯を沸かして、シュワシュワっとした気泡をお湯の中で発生させる。どうやらこの気泡が美容にはうってつけらしい。
また、オイルマッサージのオイルもそうだ。昔、レイラ様と俺が『スルス館』の研究室で色々な薬草を試しながら開発した。そのオイル、実は発明した当時『スルス館』の魔道師から貴族へと広がり話題となっていた。
当時、レイラ様は「私が使いたくて、ノアにちょっと作ってもらっただけよ。それに悪役令嬢のレイラって確か事業とかいっぱい立ち上げては失敗ばかりで散々だったはずだし、ブツブツブツ……」と言って事業には興味がなさそうだった。そのせいか、そんな様子を見ていた何人かの魔道師達がオイルの製法特許を狙って、上手いこと言って俺達から奪い、自分達のものにして利益を得ようとしていた。そこで俺は旦那様に相談をして、製法特許を取得し、グロブナー公爵家が運営をする『ラムール』というブランドを立ち上げた。この『ラムール』ではオイルだけではなく、レイラ様からヒントを頂き『化粧水』や『乳液』、また髪をサラサラにする『シャンプー』や『リンス』なども開発して販売を始めた。すると、たちまち美容に気を遣う貴族の女性の間で話題沸騰となり、売上は今もお、右肩上がりである。
そして、売上分からは旦那様が発案者のレイラ様にお小遣いだと言って大金を毎月渡しているそうだ。レイラ様は「ぜ、前世で、悪役令嬢のレイラにこ、こんな事起きなかったのに……」と驚いていた。勿論、開発者兼起業者の俺も旦那様からおこぼれを頂いて、ガッツリ?臨時収入を得ている。
俺はそんな事を考えながら、レイラ様がドレスルームで準備をしている間に部屋の掃除をしていた。
「ふ~……これで掃除は終わりだな」
レイラ様の準備もそろそろ整うはずだ。それに、ジェイコブ皇太子殿下もそろそろ婚約者として迎えに来るだろう。俺も従者としてレイラ様について行く為、身だしなみを整えないと。
そう思い、俺は急いで自分の準備を済ませレイラ様の元へと向かった。
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